【特別企画】SUPER GTタイヤメーカー シーズンオフインタビュー【横浜ゴム編】
「多数の供給チームを支えながら、8戦7勝でGT300のチャンピオン獲得」


 2011年シーズンのSUPER GTはGT500も、GT300も印象的なレースが繰り広げられたが、なかでも特筆すべき点は、GT300で初音ミク グッドスマイル BMWがチャンピオンを獲得したことではないだろうか。初音ミク グッドスマイル BMWは、FIA-GT3車両の特徴の1つであるストレートスピードというアドバンテージを活かし、谷口信輝選手/番場琢選手にGT300の初タイトルをもたらした。

 横浜ゴムのタイヤを装着する初音ミク グッドスマイル BMWは、ダンロップタイヤを装着するJIMGAINER DIXCEL DUNLOP 458と激しくチャンピオンを争い、最終戦を前に1度逆転を許したものの、最終戦の優勝で逆転でチャンピオンを決めた。横浜ゴムは、この初音ミク グッドスマイル BMW以外にも、GT300の大多数のチームにタイヤを供給しており、初音ミク グッドスマイル BMWの2勝をはじめ、8戦して7勝という圧倒的な結果を残した。

 そうした横浜ゴムのモータースポーツ活動を統括しているMST開発部 技術開発1グループ リーダー 荒川淳氏に、2011年のSUPER GT活動における総括などについてうかがった。

MST開発部 技術開発1グループ リーダー 荒川淳氏GT300クラスでチャンピオンを獲得した初音ミク グッドスマイル BMW2011年シーズンから横浜ゴムユーザーとなったWedsSport ADVAN SC430

1チームだけでなく、多数の供給チームで実現したGT300での8戦7勝
──最終戦に逆転でチャンピオンを獲得することができました。横浜ゴムは多数のユーザーチームを抱え、その中でほかのタイヤメーカーと競争していくのは大変だと思いますが?
荒川氏:2011年シーズンのGT300に関しては開発がきちんとできましたし、それに加えて我々のユーザーチーム様が各レースを順調にこなしてくれたことが大きかったと考えています。我々のGT300に参戦するコンセプトは、すべてのユーザー様を平等に、基本的には同じモノを供給させていただくことになります。

 その中で、車両なり、チーム力なりが高いチームが優勝する、結果を残すということを実現していきたいと考えています。実際、2011年シーズンはそうした結果になったと思います。開幕戦こそ落としてしまいましたが、そのほかのレースでは我々のユーザー様が優勝することができましたので、非常によい形で終えられたのはよかったです。さらに、特定のチームが勝ちまくるというのではなく、いろいろなチームに勝っていたく事ができました。つまり我々のタイヤをシーズンを通じて底上げすることができたのではないかと感じています。開発陣としてはそこを重要視していますので。

──2012年シーズンを振り返って、100点満点中何点をつけますか?
荒川氏:GT300に関しては、開発も順調にいき、ウエットもドライも開発が進みました。その結果としてチャンピオンを獲得し、さらに開幕戦以外は表彰台の中央を獲得することができたので、90~95点をつけていいだろうと。GT500に関しては、タイヤの開発をそのものはしっかりと進み、2010年のタイヤに比べてポテンシャルを上げることはできたと自己評価しています。しかし、それがレース結果とかみ合わない部分があり、その結果を鑑みて50点ぐらいだろうと考えています。

──GT500に関しては、2010年までのADVAN KONDO GT-Rに加えて、2011年シーズンからWedsSport ADVAN SC430が陣営に加わりました。その影響は?
荒川氏:台数が増えて難しかった部分と、データ量が従来よりも増えたという意味で収穫があった部分の両面があります。WedsSport ADVAN SC430に関して言えば、2011年シーズンにGT500へとステップアップしてきたばかりだったのに、年初に震災があり、その影響でテストする機会がほとんどなく、シーズン終盤になるまで結果に結びつかないレースが続いてしました。我々の方でも、シーズンの後半になるにつれSC430という車両への理解が進み、車両側でも我々のタイヤに合わせた形での開発を進めていただける形をようやく作れてきました。その結果が最終戦なり、JAF GPでのパフォーマンスにつながったと思っています。

──2011年のハイライトは第何戦になりますか?
荒川氏:我々が想定したパフォーマンスを発揮できていたレースは、GT500の菅生のレースですね。また、結果には残らなかったものの、パフォーマンスを見せつけられたレースという意味では、開幕戦になった第2戦富士のレースも印象的でした。GT300に関してですが、開幕戦からライバルのJIMGAINER DIXCEL DUNLOP 458に3戦連続2位を獲得され、これを逆転するのは大変で死にものぐるいでやらないといけないと感じたことが印象に残っています。我々のユーザーチームという意味では、すでに述べたとおり8戦して7勝し、かつ多くのユーザーチームに勝っていただくことができたので、どのレースがハイライトということはないです。

これからもレースで培った技術は積極的に市販用タイヤへフィードバック
──2011年は雨も多く難しいシーズンでした。そうしたウエットやドライなどを含めてタイヤの進化した部分を教えてください。
荒川氏:2011年シーズンは、毎戦毎戦、どこかのセッションで雨が絡むという、過去に経験がないほどのシーズンでした。それに合わせてウエットタイヤの開発も進み、テストすることができる機会が多かったので、ウエットタイヤのポテンシャルはかなり上がりました。

 また、GT500に関しては、コーナンリング時の性能持続性が昨年より進化しています。言うまでもなくグリップを上げると、それに比例して耐久性が落ちるのですが、そのバランスを2010年のタイヤに比べて改善することができていると思っています。ただ、GT500に関しては相手がある話しですので、結果に残らなかったのは残念でしたが……。

──GT500のタイヤ競争は、より激しくなりそうですが、そのあたりはどう考えていらっしゃいますか? また、2012年のGT500の体制はどうなりますか?

荒川氏:GT500に関しては、ブリヂストンも黙ってないでしょうね。2012年は巻き返しを図って来ると思っています。我々とダンロップ、ミシュランを含めたタイヤメーカー4社の競争は当然激しくなっていくだろうと思っています。2012年も、そうした激化する競争の中でチャンピオンに争いに加われるタイヤ開発をしていかなければなりません。2012年も2011年のように続けていきますが、我々のタイヤを使いたいというチーム様があれば、非常にありがたい話ではあると思っています。

──GT300に関してはいかがでしょうか? 多くのチームに供給していくというコンセプトは2012年も不変でしょうか?
荒川氏:はい、我々のGT300活動のその部分は不変です。ただ、GT300のレギュレーションがどうなるかは、流動的な部分がありますので、そうした中でもほかのタイヤメーカーとの競争に勝てるように、性能の底上げをしつつ、すべてのチームに公平になるように供給していきたいです。

──最終戦でGT300のチャンピオンを獲得した初音ミク グッドスマイル BMWの谷口信輝選手が、横浜ゴムのタイヤについて感謝を繰り返して述べていましたが、最終戦に特別なタイヤを供給したのでしょうか?
荒川氏:グッドスマイルレーシング様にだけ特別なタイヤを渡したということはありません。最終戦のツインリンクもてぎ戦に関しては、レース前に開発テストなどで、ある程度の確認ができていました。そこで開発したタイヤを最終戦に投入しました。そのタイヤはもちろん全チームにお渡ししています。ただ、GT300の規定ではテストに参加できるのは各チーム2回までと決まっており、最終のもてぎ戦前のテストに全チームが参加できた訳ではありません。そのテストに参加されなかったチームでは、以前のタイヤですでにセットアップができあがっているので従来モデルを選択するということもありました。具体的にどこを変えたのかと言えば、言ってみればシーズンを通じてやってきたことの集大成です。シーズンを通じてコンストラクションも変えてきましたし、コンパウンドに関しても後半開発してきた新しいモノを投入しました。

──横浜ゴムは、オレンジオイルなどレースで培った技術を市販タイヤにも採用する例が多いですが、2011年シーズンで使われた技術も市販タイヤへフィードバックされるのでしょうか?

荒川氏:
タイヤメーカーとしては、レースで鍛えた技術を市販タイヤにフィードバックしていくことは重要だと認識しています。ただ、時間的な都合もありますので、2011年シーズンで得たモノがすぐに市販タイヤにということは難しいですが、材料開発などの技術は今後市販タイヤの方に展開していくことになるでしょう。

(笠原一輝)
2012年 1月 20日