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工学院大学、「ブリヂストン ワールドソーラーチャレンジ 2013」参戦報告会
次回大会でのリベンジを宣言するも参戦クラスなど再検討
(2013/10/31 15:44)
ソーラーカーレース「ブリヂストン ワールドソーラーチャレンジ 2013」(以下、WSC2013)に参加した工学院大学ソーラーカープロジェクトチームは、10月28日に東京・新宿校舎内において参戦報告会を開催した。
ワールドソーラーチャレンジは、2年ごとに開催される世界最大級のソーラーカーレースで、オーストラリア大陸を舞台に、約3000kmのコースによって争われる。WSC2013は10月6日~13日に開催され、チャレンジャークラス、クルーザークラス、アドベンチャークラスの3つのクラスを設定。工学院大学チームは、総合タイムを競う、最も争いの激しいチャレンジャークラスに参戦した。
結果は3022kmのコースを完走できず、トレーラに乗せた状態での運用を途中から行い、総走行距離は2450km。ベスト10に入ることはできなかった。日本からはほかのチームも参加しており、前回大会、前々回大会を連覇した東海大学チームは2位。チャレンジャークラスの優勝は、オランダのNuon Solar Car Teamとなった。Nuon Solar Car Teamは、33時間3分でコースを走破し、平均速度は90.71km/hを記録した。
工学院大学 学長 水野明哲氏は、工学院大学ソーラーカープロジェクトチームをさまざまな形で支援した企業にお礼を述べるとともに、「元気にオーストラリアから帰ってきた監督、学生諸君を称えたい」と、WSC2013参戦報告会の挨拶を行った。
参戦状況の詳細については、ソーラーカープロジェクト監督 工学部機械システム工学科 准教授 濱根洋人氏が説明。濱根准教授は、スピード重視のチャレンジャークラスにおいて、パワーロスが大きく速度が出ない参戦車の改良に終始したという。
WSC2013のチャレンジャークラスは、4輪での参加が義務づけられている。優勝したNuon Solar Car Team、2位となった東海大学チームともに、前方から見た際に車輪の部分だけがカバーされ、中央下部にはなにもない状態。右コクピット、左コクピットの違いはあるものの、小文字のhのような形状をしている。一方、工学院大学のPractice号は、センターコクピットのフルカバード車。一般的に車両の空気抵抗は、前面投影面積とCd値(空気抵抗係数)の乗算によって基礎的な値が求められ、速度の2乗によって抵抗値(力)が増えていく。パワー(馬力、エネルギー)=力×速さのため、車体の空気抵抗は速度の3乗で影響していることになる。
工学院大学のPractice号は、トップチームのクルマと比較して、前面投影面積が大きく、とくに90~100km/hの高速域でパワーロスが飛躍的に増大したとのこと。国内レースの領域である60~70km/hでは顕在化しなかった要素が、WSC2013の速度域では問題となった形だ。
さらに、Practice号のデザインは、トップチームに比べて大きなダウンフォースが発生。ダウンフォースの発生は、走行抵抗の増大となり、やはり最高速が低くなるという問題につながった。工学院大学チームは初日からこの問題に直面し、ダウンフォースを減らすために、フロントのノーズ高さを上げ、進行方向に対する車体の傾斜角を変更。フロントノーズに穴を開け、車体内の圧力を外に逃がすなどの現地改良も行った。
これらにより、4日目には1日575kmを走行、巡航速度80km/hも計算上は可能である車体になったという。しかしながら工学院大学がスライド掲示した走行データを見てみると、平均速度で約70km/h、巡航時でも75km/h程度であり、最後まで空気抵抗の大きな車体に悩まされたものと見える。
工学院大学の参戦時に大きなトピックとなったのが、ブリヂストンのソーラーカー用低転がり抵抗タイヤ「エコピア オロジック」を採用したこと。ブリヂストンは工学院大学チームへのタイヤ供給を発表後、WSCの冠スポンサーになった。
このエコピア オロジックに関しては、「ノーパンク、ノートラブル」で、超低損失かつ優れたコーナリング性能を発揮したという。工学院大学チームはダウンフォースの強さによる優れた車体の安定性、低損失ながらコーナリングに優れるタイヤなどにより予選で2位を獲得。しかしながら、巡航速度100km/h以上で走り、約3000kmを平均速度90km/hで走り抜けるトップチームにまったく歯が立たなかった形だ。濱根准教授は、「WSCはスピードを求める大会」であると述べ、次回大会となるWSC2015では「空力を強化する」などの改善点を示した。
来賓としては、工学院大学チームにタイヤを供給したブリヂストンから消費財先行タイヤ設計部 石川清二氏、カーボンボディー製作を学生とともに行ったジー エイチ クラフト 代表取締役 木村學氏が挨拶。ブリヂストンの石川氏は、「実際にオーストラリアに行き、一晩で改良作業を行うなど学生の成長が見られたことはうれしかった」と述べたものの、実際に帰国してからは社内で「(この成績は)どうなっているんだ」と言われたとのこと。
ジー エイチ クラフト 木村社長は、「率直に言ってこの成績はこのチームの実力ではないか」と切り出し、濱根准教授は前面投影面積について語っていたが、「単純にそれだけのことではなく、行く前から分かっていたのに車高を調整するものを持って行かなかった」など、チームの姿勢に厳しいコメントを述べた。また、工学院大学のクルマは高い速度域での巡航性よりも安定性を狙って作ったものであり、「そもそも参加するクラスが違うのでないか?」との疑問も呈し、「日本は負けることについて優しい。プロの立場からすると、負けることについての厳しさが足りなかった」と、会社の浮沈が双肩にかかる社長ならではの厳しい意見に終始した。
世界のトップチームが集まるブリヂストン ワールドソーラーチャレンジは、レベルの高い戦いであり、国内レースを優勝したという実績は、なかなか通用しなかったようだ。参加クラスの変更を含め、工学院大学チームのソーラーカー作りは大きな変革を求められそうだ。