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氷上ブレーキ性能20%アップの新スタッドレスタイヤ「アイスガード エボリューション iG01」を体感
横浜ゴムが贈る、195/65 R15サイズの氷上スペシャリスト
(2013/11/1 16:16)
横浜ゴムが2012-2013年シーズンに投入した乗用車向けスタッドレスタイヤ「iceGUARD 5(アイスガード ファイブ)」(製品名:アイスガードiG50)。旧来製品となった「アイスガード トリプルプラス」の「氷に効く」「永く効く」「燃費に効く」の3コンセプトを踏襲しつつ、氷雪上性能を引き上げ、環境志向の高まりにより転がり抵抗を低減、同社の低燃費タイヤである「ブルーアース」のテクノロジーも採り入れていた。
その横浜ゴムが“断トツの氷上性能”を目指して2013-2014年シーズンに新投入するスタッドレスタイヤが「iceGUARD Evolution iG01(アイスガード エボリューション アイジーゼロイチ)」(以下、エボiG01)だ。エボiG01は、総合タイプのスタッドレスタイヤであるアイスガード 5をベースに、氷上性能を極端に引き上げたモデル。氷上ブレーキ性能20%アップ、氷上旋回タイム12%アップを実現している。サイズは195/65 R15の1サイズで、北海道限定販売。販売本数は800本(200台分)と少なく、道内の「タイヤガーデン」で購入することができる(売り切れてなければ)。ブリヂストンが昨シーズンから北海道限定で投入している氷上特化型スタッドレスタイヤ「ブリザック SI-12」にガチンコでぶつけてきた製品となる。
今回、そのエボiG01のスケートリンク試乗会が、長野県軽井沢の風越公園アイスアリーナで開催された。本記事ではその試乗会の模様をお届けする。
ターゲットは“北海道”
このエボiG01の企画背景については横浜ゴム タイヤ消費財開発本部 消費財製品企画部 部長 野呂正樹氏から、投入した技術についてはタイヤ第一設計部 部長 清水倫生氏から説明が行われた。
野呂氏によると、エボiG01のターゲットは「北海道」。世界で雪の降る地方は数多くあれど、北海道だけに投入するスタッドレスタイヤになるという。北海道の特徴としては、降雪量が多く、昼と夜の温度差が激しいこと。そのため、雪が昼に溶け、夜に固まり氷となりやすい。さらに、降雪量が多い地域のなかでも、人口が多く、スタッドタイヤが規制されている日本では、クルマが路面をピカピカに磨いてくれる。結果、世界有数のアイスバーンやミラーバーンと呼ばれる路面が約190万人都市の札幌をはじめとして各所に出現することになる。
横浜ゴムの調査によると、北海道のユーザーは全国と比較すると、とくに凍結路面の性能を重視してスタッドレスタイヤを購入しており、ウェット路面の性能はそれほど重視していない。そのため、氷上ブレーキ性能20%アップという大幅な性能向上を図ったエボiG01を投入することになった。サイズは、いわゆるプリウスサイズの195/65 R15の1サイズのみで、多くのエコカーに採用されているサイズのため、タイヤ販売でも最重要視されているサイズだ。
発売は10月25日から。限定800本(200台分)の販売としたのはテストマーケティング的な意味合いがあるため。購入したユーザーの意図を次のタイヤ開発に活かしていくという。プレミアムタイヤとなるため、価格は同サイズのアイスガード5より若干高くなるのではないだろうか。
エボiG01に投入された技術はアイスガード5の進化版になる。アイスガード5では、氷上の水膜を除去するために新マイクロ吸水バルーンと吸水ホワイトゲルを採用し、この両方の技術が投入されたゴムを「スーパー吸水ゴム」と名付けていた。
エボiG01では、吸水ホワイトゲルの大きさが新マイクロ吸水バルーンに比べて小さいことに着目。特殊な製法によって吸水ホワイトゲルを大型化し、最大30倍の大きさとした「エボ吸水ホワイトゲル」を採用した。また、新マイクロ吸水バルーンの数も1.5倍として、ゴムそのものの吸水力を引き上げた。この2つの技術が投入された新しい吸水ゴムに名前は付けられておらず、“進化した「スーパー吸水ゴム」”と表現されている。
エボiG01のトレッドパターンは、非対称パターンのアイスガード5から、回転方向指定のパターンへと変更。細かくサイプの刻まれた中央部のベルトブロックとシームレスブロックにより、水膜除去性能を向上。さらにベルトブロックとシームレスブロックの周方向はジグザグ形状となっており、エッジを多数形成。タイヤ1本当たりのサイプ数は約4200本、エッジ数は約620個となり、水膜を除去し、氷結路面を引っかく性能を極力向上させようとしている。
それらによる性能向上は、氷上ブレーキ性能20%向上、氷上旋回タイム12%短縮となって現れている。
圧倒的な氷上性能を体感できるエボiG01
座学終了後は、いよいよ風越公園アイスアリーナのスケートリンクでの試乗。まずは、横浜ゴムテストスタッフによる、氷上ブレーキの比較デモ映像をご覧いただきたい。ブレーキ時の初速は20km/h、上がアイスガード5、下がエボiG01だ。一見して分かるように、アイスガード5装着車は壁面の青いラインを大幅に越えてしまっているのに対し、エボiG01装着車はノーズがギリギリ越えていく状態。いずれも撮影のため何度か走ってもらったが、無風かつ温度変化のない(室温4度)屋内のスケートリンクのため安定して、約0.8車身差でエボiG01が短いとう結果だった。壁の青いラインは横浜ゴムのスタッフが引いたものだが、安定した性能差を分かりやすく示すためのものと思われる。
いよいよ記者の試乗。最初はベンチマークとなるアイスガード5装着車から。コースは、スタート直後にパイロンスラロームがあり、コーナー2つ回ってからブレーキテストへ。コーナー2つ回って、スタート地点へ戻るというものだ。
アクセルを踏み込むとアイスガード5を装着したプリウスはするする加速する。つるつるの氷路面でするする加速するスタッドレスタイヤは、一昔前を考えると驚異の性能。スラロームも10km/h以下なら、なんとか姿勢を崩さずこなすことができる。難しかったのは20km/hからの単制動。コーナーを回ってからパイロンまでに20km/hの速度に達しなければいけないのだが、そもそもそこまで加速することが難しい。1回目は速度不足で失敗。2回目は助走を付ける形で21km/hまで持って行き、パイロンで20km/hになるよう惰性走行後、しっかりブレーキを踏み切った。デジタルメーターのプリウスはこのようなテストのときに便利で、ブレーキもしっかり踏み切れば、しっかりABSが働く。再現性の高い走りができるのがうれしいところだ。
アイスガード5装着車では、やはり青い線を超えずに止まるのは厳しく、するする超えて行ってしまう。とはいえ空走感はなく、がんばって止まりつつも、やはり止まりきれないという感触だ。
次にエボiG01装着車に乗り換え。新マイクロ吸水バルーン数1.5倍、最大30倍のエボ吸水ホワイトゲルということで、コンパウンドも柔らかくなっているそうだ。そのため、グニャグニャ感があるのかなと思いつつアクセルをONにしたのだが、1転がりで分かるほどしっかりした手応えのタイヤになっている。
アクセル操作に“グッ”と応えるように加速し、パイロンスラロームも10km/h以上で可能(氷の上でだ!!)だ。加速時やステアリング操作時のタイヤからの手応えが硬く、カチカチの氷の上を走っている感触がある。約20km/hからの単制動だが、実は1回目は大失敗。アイスガード5では加速不足で失敗したが、エボiG01では加速しすぎて失敗した。2度、3度と20km/hからのブレーキテストをしてみたが、アイスガード5に比べ1車身ほど短く止まることを確認できた。
エボiG01の氷の上での性能差は明らかで、「圧倒的じゃないか、我がタイヤは」と言いたくなるほど。ただ、個人的に納得しがたかったのは、なぜ給水用の穴が多く開いたエボiG01のほうが、硬く感じるかという点だ。これに関して、横浜ゴムのスタッフに確認したところ「確かにコンパウンドそのものは柔らかくなっていますが、接地面積はアイスガード5の14%増になっています。溝面積もアイスガードから5ポイント下がっており(これはスリックタイヤを100とした場合の、それぞれの比較値とのこと)、おそらくそれが影響しているのでしょう」とのことだ。同じ195/65 R15のサイズでも、エボiG01では極力接地幅が広くなるようデザインされており、2つのタイヤを見比べるとその差は歴然だった。
エボiG01に関しては、プリウスとゴルフでドライ路面の試乗も実施。ドライ路面を走った感覚は、しっかりした接地感がありつつも、どこかソフトな印象というタイヤで、氷上特化型といえども、一般的なドライ走行性能は持っている。回転方向指定のパターンを持つためか、とくに加速や減速は、しっとりした高級タイヤのような印象もある。逆に横方向は、やや弱く、高速道路での高速コーナリングには気を使う必要があるだろう。北海道在住で冬に高速でドライ路面を走る機会が多い人は、アイスガード5を選べばよいだけなのだが。
試乗での疑問点を再確認
スケートリンクとドライ路面での試乗後、細かな疑問点について、横浜ゴムのスタッフに確認してみた。応対していただいたのは、エボiG01の企画を担当した消費財製品企画部 製品企画2グループ リーダーの三浦聡司氏と、設計を担当したタイヤ第一設計部 設計第2グループ リーダーの橋本佳昌氏。
氷結路面で感じるしっかり感のもととなる接地面積の増加だが、これはグリップする面積を多くするという意図もあるが、接地圧を低くしたいというのが背景にあるとのこと。雪上などは接地圧を高くすると、より強い雪柱ができるため、雪中剪断力が大きくなり、グリップ力の増加につながる。しかし氷上の場合は、接地圧を高くすると水が湧きやすくなり、摩擦係数が下がってしまう。そのため、できるだけ接地面積を増やして接地圧を低くすることで、水を湧きにくくし、水をゴムで吸水しやすくしている。
アイスガード5では非対称パターンを採用していたが、エボiG01では回転方向指定のパターンを採用している。これについては、アイスガード5は氷上・雪上と両性能の向上を狙っているためで、イン側が主に氷上性能、アウト側が主に雪上性能を担っているとのこと。エボiG01では、とにかく氷上性能をということで、単一路面での性能向上を狙った対称・回転方向指定のパターンとなった。「アイスガード5では点対称のパターンでしたが、エボiG01では線対称のパターンを採用しています。線対称ではタイヤのローテーション時にたすき掛け交換ができないなどの問題がありますが、エボiG01を購入される方はおそらくタイヤに関する意識の高い方なので大丈夫かと思います」(橋本氏)とのこと。橋本氏の点対称、線対称という発言はクルマに対するタイヤの装着個所を示しており、回転方向指定ではホイールとタイヤの組み替えなしには前後のローテーションしかできないことを指している。
また、雪上性能やライフ性能についてだが、やはりアイスガード5に比べて劣るとのこと。「北海道に住むお客様を対象にしたタイヤとして企画しました」(三浦氏)と言い、自分の用途を見極めて買う必要ありそうだ。ドライ路面で、ストップ&ゴーの性能が高かったことに関しては回転方向指定のパターンが効いていそうだが、ベースとなったアイスガード5の性能もあるとする。転がり抵抗に関しては「アイスガード5より劣ります。とはいっても2%程度で、ほぼ遜色のないものです。また、ライフ性能に関しても、氷った路面を主に走ることを考えると、(さまざまな路面を走る)アイスガード5に比べ極端に悪化することはないでしょう」(橋本氏)とのことだ。
195/65 R15サイズの氷上スペシャルタイヤと言えば、ブリヂストンのブリザック SI-12が1シーズン先行して市場投入されているが、アイスガード エボリューション iG01が加わったことで、一つのジャンルとして確立しそうだ。ほかのサイズへの展開は「今シーズンの販売状況や評判を確認してから」(三浦氏)とのことなので、195/65 R15サイズのクルマを持っているユーザーなら(かつ北海道に住んでいるなら)一足先に最新のテクノロジーを手に入れられるチャンスを活かしてほしい。
SI-12との性能差が気になるところだが、後から登場するタイヤだけに、いろいろ研究されているのだろう。タイヤ公正取引協議会(http://www.tftc.gr.jp/)では、カタログに表記するタイヤの試験結果を公表しており、SI-12とエボiG01の試験データを見るだけで、強烈なライバル意識がうかがえるものとなっていた。
【お詫びと訂正】記事初出時、札幌市を100万人都市としていましたが、正確には約190万人都市(2013年10月1日現在、193万6189人)となります。お詫びして訂正します。