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ソフトバンクモバイル、係留気球による無線中継を実証実験
宮城県南三陸町の志津川港に車載係留システムなどを設置
(2014/11/14 17:29)
- 2014年11月6日公開
ソフトバンクモバイルは、災害などで通信障害が発生している携帯電話サービスエリアを迅速に復旧させる目的で、係留気球を利用する無線中継システムの開発を行っている。11月6日に、実証実験が行われている宮城県の南三陸町でこれらのシステムが報道関係者に公開された。
災害などに対応できる臨時の無線中継回線に関する取り組みは、東日本大震災を教訓にスタートした。ソフトバンクモバイルは、その取り組みの1つとして「気球基地局」の検討を続けている。2013年4月には全国の10拠点にW-CDMA(3G)のシステムを配置した。今回の実証実験はLTE世代を対象に行われる。電波免許期間は2014年10月17日~2015年10月30日までの約1年間にわたり、宮城県南三陸町近辺で実証実験が行われる。
実験目的は、LTE対応係留気球無線中継システムの性能評価、ソーラーパネルによる電源供給システムの性能評価、遠隔制御および監視システムの評価、船上設置構成の評価、車載係留システムの評価となる。宮城県気仙沼地方振興事務所の協力を得て、志津川港とその海上に実験施設が設置されている。陸上部分には陸上係留地と車載係留地、海上には船上係留地があり、それぞれから係留気球を浮揚させることができる。
利用されている気球はスクープ付きの扁平気球で30m3サイズ。現在配置されているW-CDMA向けの42m3より小型化した。遠隔制御および監視システムを使って、強風時などの自動着陸も行うとしている。ペイロードは約7kgだが、実験を行っている無線中継システムは約3.5kgまで軽量化されている。気球の上昇・下降は専用のウインチを使って行い、通常時は最大100mを10分で上昇・下降する。なお緊急降下は気球内のヘリウムを放出することで対応する。
東日本大震災では基地局自体の損壊をともない、復旧には長期間を要した苦い経験がある。そのため、たとえ臨時の無線基地局でも「長期係留」も可能とする実験を行っている。具体的にはソーラーパネルと蓄電池を使った自律的な電源の供給と、人手を最小限にする自動昇降制御、遠隔監視システムの確立などが挙げられた。同社によると1カ月以上の連続使用(最長1年)を基準としている。
また、迅速性という視点から、車両に係留気球を搭載したシステムも性能評価を行っている。こちらは20m3とさらに小さい気球を利用する。ウインチなどを地上設置する必要がないため、到着後30分~1時間という短時間で展開が可能だ。時間短縮のために2t車に格納可能なレベルまで気球にヘリウムを入れて輸送して、到着後に満充填して係留する。格納箱自体が充填中の風除けにもなる仕組みだ。
陸上係留と比べると、高度がとれないため接続可能エリアは限定されるものの、長期係留が必要なエリアと使い分けていく工夫がなされる。ちなみに陸上係留型の場合は設営に約4時間程度、設営に必要な人員として5人程度が想定されているが、車載型の場合はそれぞれ1時間、3人程度と迅速かつコンパクトな運用が期待されている。
2014年8月に東京ビッグサイトで開催されたコミックマーケットでも、こうした車載の無線中継気球が活用された。この際は5.6GHz帯空間分割マルチチャネルWi-Fiシステムを使った無線LANのアクセスポイントとして利用されている。今回の実証実験で使われているものは、いわゆるWi-Fi型だったこの係留システムをモバイル通信の無線中継器として改造したものだ。係留される気球の高度は約20~30m程度。陸上係留型よりは狭いカバーエリアとなる。
また港内では、台船上に陸上係留型のシステムをそのまま設置した実験も行われている。こうした船上運用を行う理由として、ソフトバンクでは沿岸部への対策を挙げるほか、海上には遮蔽物がないぶん大きなカバーエリアを確保する狙いがある。
ソフトバンクモバイルでは、気球型のメリットとしてカバーエリアの面積を広く取れる点を挙げている。ビルなどの遮蔽物が少ない郊外地では係留気球を100mの高度まで上げることで、セルの半径を3km~5kmぐらいまでとることができる。常設型の鉄塔(40m)を基準値とした場合の約1.8倍をカバーするとしている。いわゆる一般的な移動基地局である車載型の基地局の場合は、アンテナを直上に10m伸ばした状態で基準値の約半分のカバーエリアが確保される。もちろん、都市型の災害地では係留気球を展開することは難しいため、状況に応じた対策が必要なことは間違いない。
一方で、気球型の明らかなデメリットはやはり天候に左右される点だ。スクープ付きの気球を採用することで向上させてはいるものの、運用可能な風速は約10m程度。いうまでもなく雷には弱い。雷センサーを気球に搭載することで、早期に収容の判断を行う対策もとられている。多少の雨は大丈夫だが、豪雨や雪では十分な浮力が得られない。太平洋側とはいえ、宮城県南三陸町近辺では雪も珍しくないので、これらをすべて含めての実証実験というわけだ。気球に搭載される無線中継器の子機は防塵対策を施してあるが、完全防水というわけではない。これらは子機の重量にも直結するので、気球のペイロードとのトレードオフの関係にある。
また、船上ではいわゆる獣鳥害の影響も出たとのこと。夜間に海鳥とおぼしき鳥の爪痕が複数残って、充填したヘリウムが抜けてしまう事故もあったという。
これらの気球は無線中継器の子機として機能する。陸上部分には親機があり、親機は既存の基地局あるいは車載される移動基地局のネットワークをバックボーンとして無線通信を行う。親機と気球に搭載される子機の最大通信可能距離は約5km。既存のW-CDMAシステムでは、5MHz幅×2レーンで最大2つの周波数帯域を選択していたが、今回の実証実験されているLTEとW-CDMAの両対応機では、LTEで20MHz幅すべてを使ったり、LTEで15MHz幅とW-CDMAで5MHz幅、LTEで10MHz幅とW-CDMAで5MHz幅×2といった組み合わせも可能で、3GからLTEへの移行にともなう柔軟な運用が可能になるとしている。