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準天頂衛星初号機「みちびき」の測位精度を種子島で実感してきた
ソフトバンクテレコムとSPACが実施したロボティクス・ノーツのデジタルスタンプラリー
(2013/11/13 00:00)
準天頂衛星システム(QZSS:Quasi Zenith Satellite System)は、日本における衛星測位の精度向上を目指して、JAXA(宇宙航空研究開発機構)が開発を進めているシステムだ。現在、初号機「みちびき」の運用を開始しており、将来的には3機の準天頂衛星+1機の静止衛星を運用し、米国のGPS衛星と組み合わせて使うことで、GPS以上の測位精度を実現する。パナソニックやユピテルのカーナビでは準天頂衛星「みちびき」対応のものが登場しているため、読者の中にもすでにみちびきを活用している人がいるかと思う。
準天頂衛星システムについては、JAXAの講演会についての関連記事「準天頂衛星「みちびき」の高精度測位でクルマを自動運転」を参照していただきたい。本記事ではこの講演会とともに開催された「準天頂衛星『みちびき』種子島ランドマーク実証実験」についてお届けする。
準天頂衛星「みちびき」種子島ランドマーク実証実験は、ソフトバンクテレコムとSPAC(衛星測位利用促進センター)が共催したイベントで、みちびきの測位精度を大勢のイベント参加者によって確認しようというもの。その舞台として鹿児島県の種子島が選ばれ、みちびきが天頂にある10月下旬と、11月上旬の3回にわたって開催された。
大勢のイベント参加者による測位精度の検証をするために選ばれた方法がデジタルスタンプラリーになる。一般にスタンプラリーというと、あらかじめ決められた個所をハンコを押しながら巡るものだが、デジタルスタンプラリーではスタンプ台紙にスマートフォンアプリ「ふらっと案内」を用い、あらかじめ決められた場所であるとスマートフォンが位置認識したらチェックイン(つまりスタンプを押す)できるようになっていた。
また、多くの参加者に集まってもらうために、種子島を舞台に展開されたゲーム「ROBOTICS;NOTES(ロボティクス・ノーツ)」とコラボレーション。あらかじめ用意されたコースで種子島を巡るとロボティクス・ノーツ関連の特別なプレゼントがもらえるほか、特定の場所で、特定の方向をスマートアプリを通して見るとロボティクス・ノーツのキャラクターがAR(拡張現実: Augmented Reality)によって現れ、一緒に記念写真を撮れるというイベントも用意されていた。記者もこの実証実験に参加し、準天頂衛星「みちびき」の精度を確認してみることにした。
ソニー製の受信ユニット「QZPOD」をスマートフォンと接続
参加にあたって配布されるものは、みちびきの信号を受信可能なソニー製の受信ユニット「QZPOD」、QZPODが濡れないようにするビニールケース、ロボティクス・ノーツのイラスト入りファイル、参加証を兼ねたロボティクス・ノーツのイラスト入りカードなど。ロボティクス・ノーツのイラスト入りカードは4種用意されているらしく、「どれがもらえるかはお楽しみ」とのこと。なお、QZPODの価格は「現在は軽自動車1台分」のため、イベント期間中の貸し出しのみとなっていた。
そのほかデジタルスタンプラリーを行うにあたって必要なものは、自己所有のスマートフォンと、アプリ「ふらっと案内」。筆者はiPhone 4Sを使っていたため、iOS用のふらっと案内をインストールし、iOS用のQZPODが貸し出された。QZPODとiPhoneの接続は、Bluetooth経由で行う。QZPODのバッテリーマネジメントの関係から、常時接続されているのではなく、ふらっと案内を起動したときだけQZPODと接続され、みちびき精度での測位が可能となる。GPS測位からみちびき測位に切り替わったことは、ふらっと案内の画面から分かるようになっていた。
種子島は、長さ約48km、幅約12kmの細長い島で、この島の各所を巡るにはクルマが必要になる。用意したのは日産「マーチ」で、小回りも効くし、燃費もよいと思ったからだ(一番の要因はレンタカー代が安かった)。報道陣向けの説明会は、種子島の北に位置する西之表にある種子島開発総合センター「種子島鉄砲館」で行われたため、まずはこの鉄砲館をチェックインしてみる。
ふらっと案内を起動すると、無事にQZPODがiPhoneと接続され、精度表示が「GPS±30m」から、「QZSS±1.0m」に切り替わる。準天頂衛星の位置は別アプリ「QZ-finder」で見ることができるのだが、ほぼ天頂にあるためか、みちびきの電波の取得状況は抜群。精度も1.0m以下になるときもあるほどだ。
QZPODでは、準天頂衛星はもちろん、IMESと呼ばれる屋内測位施設の電波も取得できる。このIMESが鉄砲館の各所に置いてあり、IMESの電波を受信することで、GPS衛星や準天頂衛星の電波が届かない屋内での位置も特定できるようになっている。ふらっと案内では、その受信状態を知ることができ、固有のIDが振られたIMESの電波を受信すると、ID番号182のIMESの場合「IMES:182」と画面に表示される。このIMESの受信精度や感度も、実証実験の項目に入っており、衛星電波の受信できない個所でのナビゲーションの可能性を探っている。
ガチ精度の求められるAR記念撮影
みちびき精度でのチェックインを無事クリアして、次に挑んだのはAR記念撮影。宇宙科学技術館などいくつかのチェックポイントでは、決められたポイントで、決められた方向にスマートフォンを向けると、ARキャラが登場し記念撮影が行えるようになっている。
鉄砲館の近辺にある、わかさ公園で最初のAR撮影にチャレンジ。AR撮影用にはヒント画像が用意されており、その画像が写せる場所に立つと、キャラが降臨するという。黄色い機関車がヒント画像として用意されていたので、その近辺を徘徊してみたが、何度歩き回ってもARキャラが登場しない。イベントを実施しているソフトバンクテレコムのスタッフに確認すると「立っている位置、それから方向も見ており、さらにカメラで捉えた画像の一致度も見ています」とのこと。気を取り直して、さらに15分以上歩き回って、なんとかARキャラが登場する場所を見つけた。
その場所は、機関車を正面に見る、「○×」ゲームのボードの手前にあり、3歩移動するとARキャラが登場しないという精度。およそ数十cmの精度で場所が決められており、逆に言うと数十cmの精度をみちびきであれば実現できることになる。この精度に関しては、各ポイントごとに異なっているとのことで、どのくらいの精度なら、どのくらいの人がARキャラに会えたかも実験データとして収集されているとのことだった。
このARキャラに会えるチェックポイントでうれしかったのは、旧種子島空港の一部がチェックポイントとして開放されていたこと。これは、旧種子島空港がロボティクス・ノーツで重要な個所として登場するためで、普段は立ち入り禁止の旧種子島空港の滑走路に立つことができた。
早速ここでもARキャラの撮影にチャレンジ。しかしながら、ここでは何度やってもみちびき精度でのARキャラ出しには失敗した。ふらっと案内には、みちびき精度でうまく行かなかったときに、GPS精度でキャラが出る仕組みが用意されている。数分間うまくいかなかったら、GPS精度でARキャラが登場する。その場合、ピンポイントで登場はせず、GPS精度での登場となるため、自分が立っている場所から10m以内の“どこか”に登場する。
スマートフォンをかざし、ぐるっと360度見渡せば、“どこか”にキャラが立っているため、そこに自分が近づいていって記念撮影を行った。つまり、みちびき精度と、GPS精度での違いが実感できたことになる。
こうしてデジタルスタンプラリーを行って感じるのは、準天頂衛星「みちびき」がもたらす驚異的な測位精度だ。現在、初号機しか打ち上げられていないため、日本の上空に準天頂衛星がとどまるのは約8時間程度。この8時間にうまくはまれば、GPS以上の精度を得られていることになる。
準天頂衛星の2号機以降には、この大規模実験データが活用され、なんらかの精度向上があるのかもしれない。ただ、正直な感想を書いてしまうと、1人で行うデジタルスタンプラリーは修行に近いものがある。ARキャラを出しても誰か喜んでくれるわけでもなく、iPhone 4Sの中のキャラの微笑にかすかな癒やしを感じるだけ。このようなフィールドタイプのデジタルスタンプラリーは、仲間とワイワイ言いながら楽しむのがお勧めだ。
ソフトバンクテレコムによると、今回の大規模実験の参加者は、3回の合計で407名。内、島外からの参加者が271名、島内からの参加者が136名だったとのこと。11月14日~16日まで日本科学未来館(東京・お台場)で開催される「G空間EXPO2013」では、この準天頂衛星大規模実証実験に関連するシンポジウム(11月14日13時30分から)が行われるほか、メインステージでの講演(15日12時55分から)が予定されている。