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初号機「みちびき」に加え、2018年に4機での本格運用が開始される準天頂衛星とは?

「準天頂衛星シンポジウム」リポート

準天頂衛星システムのロゴ
2014年2月12日開催

 準天頂衛星システムサービスは2月12日、都内で「準天頂衛星シンポジウム」を開催した。準天頂衛星システムの利用を促進するために開催されたシンポジウムで、本格的な運用が開始される2018年に向けての現状や、実証実験の様子、利用サービス案などが提案された。また、準天頂衛星システムの利用方法などを共有するコミュニティ「QSUS」の設立についてもアナウンスされた。

 シンポジウム開催にあたり、準天頂衛星システムサービス 代表取締役社長 伊藤康弘氏が挨拶し、同社の事業内容について説明した。準天頂衛星の事業は内閣府のPFI事業である「準天頂衛星システムの運用等事業」と、国が直轄する「準天頂衛星システムの衛星開発事業」の2つに分けられる。準天頂衛星システムサービス株式会社(QSS)は前者の運営事業者として2013年3月に設立された会社だ。

 運用事業には総合システムの設計や検証業務、地上システムの整備や維持、管理そしてこれらの運用のほか、準天頂衛星システムの利用促進もタスクに含まれ、衛星の実運用全般を行う。

準天頂衛星システムサービス 代表取締役社長 伊藤康弘氏
来賓として挨拶した内閣府 宇宙戦略室 参事官 野村栄悟氏

 準天頂衛星システムとは、米国が運用しているGPSと相互補完を行うことで、GPS単独では受信が難しかった地域での利用や、GPS信号を補正することでより高精度な座標情報を利用できるようにするもの。GPSは常に4機以上から信号を受信できるのが理想だが、日本では山間部や都市部では障害物の影になり3機以下の受信となって精度が下がるケースが多い。準天頂衛星システムでは常に1つの衛星が日本の上空に位置する軌道をとるため、それをGPS衛星の1つとして利用可能で、日本上空にGPSが1機追加されたのと同じ状態になる。これによってこれまで障害物でGPSが受信不能になるようなケースでもGPS信号が受信可能になる。

 また、準天頂衛星システムは、電離層や大気の影響によるGPS信号の誤差を補正する信号を送信することで、GPS単独よりも高精度な位置情報を利用できるようになるのもメリットの1つになる。これによって従来GPS単体では10m前後の誤差が発生していた場合でも誤差を数cmレベルまで絞ることも可能だ。

 準天頂衛星は現在、2010年にJAXAが打ち上げた準天頂衛星の初号機「みちびき」のみが軌道に乗っており、本格運用に向けたさまざまな実証実験が行われている。2018年までに残りの3機を打ち上げ4機体制となる見込み。内訳は準天頂軌道となる「みちびき」+2機と、静止軌道衛星となる1機の合計4機。3機の準天頂衛星はそれぞれ上下が非対称な8の字を描く軌道をとり、日本の上空には1機あたり8時間滞空する。これにより24時間にわたって日本上空をカバーすることができるようになる予定だ。

準天頂衛星の軌道
準天頂衛星の優位性
衛星の配備計画
GPSと準天頂衛星を組み合わせて使用する
周波数の異なる信号が電離層を通過すると通過速度が異なることを利用して誤差を修正する

 提供サービスとしては測位に関するものとメッセージ配信に関するものの2つに分けられる。測位関連のサービスとしてはGPSと互換性のある「衛星測位サービス」、誤差が2~3mの「サブメータ級測位補強サービス」と、誤差が数cmの「センチメータ級測位補強サービス」の3つ。

 利用イメージとしては、自動車のナビゲーションシステムの高度化などが挙げられた。たとえば車線変更などもナビへ反映したり、事故発生時にはリアルタイムで正確な位置を通報できる。また、自動運転では障害物の確認や車間距離の測位などに活用できるという。そのほか、物流・旅客分野ではバスの走行速度や位置、道の混雑具合の確認や到着時間の高精度化、トラック運用の効率化なども紹介された。測量や情報化施工、自動化した農機を24時間運用するようなIT農業などでの利用も想定されている。

 メッセージ関連サービスは、防災・救難分野向けの「災害・危機管理通報サービス」と衛星を使った安否確認サービスである「衛星安否確認サービス」の2つがある。特に安否確認サービスを利用すれば、大災害発生時にあらかじめ登録しておいた近親者に対してケータイやスマホなどから位置情報を付加したメールを自動送信することで捜索の手がかりになるほか、登山者などがハンディGPSを携帯していれば、山での遭難時でも正確な位置情報を救助隊に教えることができるため救助される確率はぐっと高くなる。

サブメータ級測位補強サービスについて
サブメータ級測位補強サービスの精度
センチメータ級測位補強サービスについて
センチメータ級測位補強サービスの精度
JAXAによるGPS補間技術の実験。新宿周辺でGPS+みちびきを使った受信テスト
ITS世界会議2013でJAXAらが公開した自動走行デモ

 衛星測位利用推進センター(SPAC)では、「みちびき」を使った民間利用実証実験への参加を募集している。SPACは民間企業からの要望を受け、準天頂衛星の受信機を貸し出し、その結果を広く共有することで準天頂衛星の利用促進を図るのが目的の団体。現在利用できる準天頂衛星は前述のとおり「みちびき」1機のみ。このため、日中に日本を通過できるのは秋から春頃にかけての数カ月のみ。参加者はこのタイミングに合わせて夏頃から計画し、秋から集中的に実証実験を行っているという。

 実証実験の例として、コアが行った鎌倉道路走行実験の様子なども公開された。この実験はGPSのみでの走行と準天頂衛星からの補正情報を得ながら走行した場合の位置情報の誤差を記録したもので、GPSのみでは直線などは比較的安定しているが、カーブなどではほとんど道路からはみ出してしまう。準天頂衛星による補正情報を得た状態ではほぼ車両の位置が正確にトレースされ、車線変更した様子もしっかりと航跡として記録されていた。

日中に実証実験が可能な期間について
コアが行った鎌倉道路走行実験の様子
農作業のロボット化実証実験
車両の無人走行実験

 また、今回のシンポジウムでは準天頂衛星システムサービスが「準天頂衛星システム利用者会(QSUS)」を設立すると発表した。これは準天頂衛星システムを利用しサービスを提供する企業や、その利用者だけでなく、これから利用したいと考えてる人も含め誰でも参加が可能な情報交換の場となるもの。年会費などはなく、準天頂衛星についてさまざまな意見をつのり、それを共有することで準天頂衛星の利用を促進することが狙い。

 入会すると、会員用サイトから準天頂衛星の情報を閲覧できるほか、会員向けの先行技術説明会など、イベントに参加することが可能になる。また同社が今後募集する実証実験にも応募可能になる。入会申し込みは個人単位で可能で同社Webサイト(http://www.qzs.jp/)から申し込むことができる。

QSUSは準天頂衛星に興味があれば誰でも入会が可能
申し込みはWebサイトから

(清宮信志)