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準天頂衛星「みちびき」の高精度測位でクルマを自動運転

JAXA 準天頂衛星初号機「みちびき」種子島講演会

種子島 西之表市民会館で開催されたJAXA 準天頂衛星初号機「みちびき」種子島講演会
2013年10月26日開催

 JAXA(宇宙航空研究開発機構)は10月26日、西之表市民会館で準天頂衛星初号機「みちびき」に関する特別講演会を開催した。本講演会は、ソフトバンクテレコムが衛星測位利用推進センターと共同で種子島で開催したみちびきの測位精度実証実験に関連して開催されたもので、みちびき実証実験参加者および、南種子町宇宙留学制度を利用して滞在していた小学生を対象としている。そのため、スライドの文章は平易ながら、内容は高度なものとなっていた。なお、みちびき実証実験に関しては関連記事「準天頂衛星初号機「みちびき」の測位精度を種子島で実感してきた」を参照のこと。

見上げれば宇宙から照らす道しるべ~準天頂衛星初号機「みちびき」
みちびき/H-IIA18号機打ち上げクイックレビュー/MICHIBIKI/H-IIA F18 Quick Review
JAXA 第一衛星利用ミッション本部 衛星測位システム技術室 吉川和宏氏

 JAXAを代表して準天頂衛星初号機「みちびき」に関する特別講演を行ったのは、JAXA 第一衛星利用ミッション本部 衛星測位システム技術室の吉川和宏氏。吉川氏は、将来JAXAの担い手になるかもしれない小学生を意識し、「子供のころ宇宙飛行士になりたかった」というエピソードを交えつつ自分のプロフィールを紹介した。

 吉川氏は、JAXAの概略から説明。JAXAの事業範囲は、国際宇宙ステーション、宇宙飛行士、宇宙輸送など宇宙に関するものを担当している。日本国内・国外にJAXAの施設はあるが、主な施設としてロケットの打ち上げなどを担う「種子島宇宙センター」と人工衛星やロケットの開発を行う「筑波宇宙センター」を紹介。これまでに打ち上げてきた地球観測衛星「だいち」「いぶき」「しずく」、宇宙観測衛星「かぐや」(月の観測)、「はやぶさ」(小惑星探査)、「ひので」(太陽の観測)を次々に紹介していった。 準天頂衛星初号機「みちびき」は、超高速インターネット衛星「きずな」の次に「安心・便利な暮らしを実現する衛星」として紹介。最初に挙げたメリットは、天頂に位置するためビル街でも測位可能なことだった。

JAXAの事業範囲
事業所・施設
筑波宇宙センター
種子島宇宙センター

 測位衛星は、現在各国が競って打ち上げている。よく知られている「GPS(Global Positioning System)」はアメリカの衛星で、6軌道面×各4機の24機でシステム構成されている。ヨーロッパの「Galileo」は、3軌道面×各10機の30機、そのほかロシア(30機構成)、中国(35機構成)、インド(7機構成)が衛星を打ち上げ中だ。

 JAXAのみちびきは、準天頂衛星システム(QZSS:Quasi Zenith Satellite System)の初号機として打ち上げられ、将来的には静止衛星1基、3軌道面×各1機で構成される。構成機数が少ないのは、GPS衛星との併用を前提にしているためで、GPSと同時に電波を受信しやすいようになっている。想定されている用途は、ナビゲーションはもちろん、石油採掘や精密農業などが含まれる。

 みちびきの特徴は、準天頂軌道を通っていることで、これは日本上空に長くとどまれるようにするため。現在はみちびきしか衛星が打ち上げられていないが、将来的には準天頂軌道に2機、静止軌道に1機を打ち上げる。これにより、3機準天頂軌道に存在することになり、24時間いつでも衛星を日本上空で捕捉できるようになるわけだ(つまり、現在は8時間程度の捕捉となる)。

地球観測衛星
宇宙観測衛星
安心・便利な暮らしのために役立つ衛星
衛星の軌道について。準天頂衛星は低軌道を通る
衛星の軌道を横から
各国の測位衛星
衛星測位利用

 この準天頂衛星システム「QZSS」に期待されているのは、GPSの補助衛星としての働き。GPSは、4機の衛星を捕捉することで「緯度」「経度」「高度」「時刻」が求められる。日本の都市や山間部では視界が遮られることがあり、その場合、正確な測位ができなくなってしまう。準天頂衛星システムの衛星は、準天頂、つまり頭上に存在する衛星のため、視界が遮られる可能性が少なくなり、より広範囲な地域と時間で、より正確な測位が可能になるのだ。さらにみちびきでは、GPSの補助信号となる補強信号「L1-SAF」を送信。この信号をGPSと同時に受信することで、高速移動体で1m以下の測位精度を実現できる実験結果もあるという。

吉川氏は講演の途中にクイズ形式で出題。これは4つの未知数を求める問題のため、4つが正解とのこと
みちびきの仕様
みちびきの構成
みちびきはJAXAの各施設とつながっている
みちびきの軌道について
準天頂衛星軌道
衛星軌道の紹介映像。これは静止衛星
準天頂衛星の軌跡の説明に移る
なぜ8の字になるかの説明
その後クイズへ
みちびきのカバーエリア
GPS補完効果
多くの個所でより多数の衛星が捉えられるようになるという
都市においては、2倍程度の測位率改善
ビル街での改善
L1-SAFの説明
衛星測位の概略
歩いた軌跡を高精度で記録
衛星測位の利用用途
測位が精密になると用途も拡がる
新たなサービスも始まる
自動車や交通における利用
みちびきの2大効果
みちびきで可能になること

 さらに電子基準点があれば、電子基準点と併用することで測位誤差数cmを実現。これだけの誤差レベルになると、農業機械を自動制御して田植えなどを行えたり、鉱山などでは自動ダンプ運行などが可能になるという。先日東京で開かれた世界ITS会議では、みちびきの電波を使った、自動車の自動運転をデンソー、NECと共同で実施。スケジュールどおりにクルマが自動駐車し、その後充電スペースへ自動で移動。朝にはクルマが自動で出迎えるデモを行った。

 一般道での自動運転は道路交通法の根本的な法改正が必要と思われるが、水田、畑、鉱山など閉鎖されたエリアであれば、クルマの自動運転の法的なハードルは低いだろう。準天頂衛星が整備されることで、より正確な位置が分かるようになり、より精密な誘導が可能になる。吉川氏によるJAX特別講演は、そのような未来を描き出して終わった。

みちびきの利用実験例
世界ITS会議でのデモンストレーション
自動走行デモのコンセプト
自動で車庫に入り、自動で充電チャージエリアに移動する

(編集部:谷川 潔)