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最新鋭エアバス A350 XWB の“成功”に必要だったものとは?

「3DEXPERIENCE FORUM Japan 2015」講演

2015年6月3日~4日開催

A350 XWBは日本を含む全世界から780機の受注に成功した最新鋭中型旅客機

 仏エアバスは6月3日、製造業向けのソフトウェア「3Dエクスペリエンス・プラットフォーム」を提供するダッソー・システムズの年次イベント「3DEXPERIENCE FORUM Japan 2015」の中で講演し、同社の最新鋭中型旅客機「A350 XWB」の開発におけるポイントと、その中でダッソー・システムズのソフトウェアが果たした役割などを解説した。

ツールの進化とともにA350 XWBの開発も進化

 エアバス A350 XWBは、中・長距離飛行に適した中型のワイドボディーで、広い客室空間、高い気密性などを達成した最新鋭旅客機として2015年に商用飛行を開始したばかりの最新鋭機。もともと「A350」の開発自体は早くからスタートしていたものの、紆余曲折を経て開発が仕切り直され、「A350 XWB」として改めて再スタートしたのが2007年。そこから7年以上もの歳月をかけて設計・製造・試験飛行を完了し、現在のところJAL(日本航空)を含む40のクライアントから780機を受注している。

仏エアバス エンジニアリング・チェンジ・プログラム担当バイス・プレジデント アントワン・スコット・ダポロニア氏

 もともと同社は仏ダッソー・システムズのソフトウェアを1990年頃から採用していたが、当時は現在のような「3Dエクスペリエンス・プラットフォーム」は存在せず、一部の小さなコンポーネントについてダッソーの設計用3D CADおよびPDM(製品データ管理システム)を利用するのに止まっていた。

 2000年、その3D CAD/PDMはいよいよ同社にとって「生産の重要手段」となるツールとして、多くのコンポーネント開発に採用が進んでいく。実際にコンポーネントを製造する前に、机上でそのモデルを3Dグラフィックで構築する、いわゆる「デジタルモックアップ(DMU)」の製作に用いられることになった。しかし、それでもグラフィックスはリアルタイム3Dではなく、また、他社ソフトウェアも混在使用する状況だった。

 2007年、A350 XWBの開発がスタートした当時、ダッソーのPLM(プロダクト・ライフサイクル・マネージメント)ソリューション「ENOVIA」を用いた管理・開発が進められることになり、2010年には一部のコンポーネントにおいてリアルタイムフル3Dによる設計が可能となる。

 2015年現在は、ダッソーの生産工程管理・最適化ツール「DELMIA」の採用とともに、ほとんどすべての場面に適用されることになったフル3Dによる設計も実現し、量産段階にあるA350 XWBの効率的な生産拡大に役立てられているという。

1990年から始まったダッソーとのパートナーシップ

“成功”に必要な4つの要素を支えたCATiAとENOVIA

 A350 XWBでは、昨今のトレンドに沿って機体にはカーボンファイバーなどの複合材料が用いられており、その割合は機体全体の53%を占める。この新しい複合材技術の開発にダッソーの3Dエクスペリエンス・プラットフォームに含まれるモデリングツール「CATiA」が採用されている他、プロダクトの製造・進行・品質管理などに用いられるコラボレーションツール「ENOVIA」により、「開発の初期段階から正しい設計を実現」し、「開発リードタイムを大幅に削減した」と、仏エアバスのエンジニアリング・チェンジ・プログラム担当バイス・プレジデント アントワン・スコット・ダポロニア氏は語る。

現在、エアバスでは多くの場面でダッソーのソフトウェアが用いられている

 A350 XWBに使われる400万もの基本的なパーツに対して、毎日4000人ものユニークユーザーがそれらのデータにアクセスし、管理や設計を行うという大規模なプロジェクトを、ダッソーの「CATiA」と「ENOVIA」が支えているとのこと。これらの統一的なインターフェースにより「以前使っていたプログラムに比べ、ミスは10分の1にまで減った」と劇的な効果をアピールした。

 2015年現在、A350 XWBは世界各地で多数の受注を獲得し、“成功”と言える状況に至ったが、この“成功”には4つの点が重要だったと同氏は述べた。

 1つ目は、「きちんとしたソリューション」が必要であること。2つ目は、それまでにない新しいツールを用いるなど、業務を“変革”するには「強いリーダーシップ」が必要であること。3つ目は、製造業では膨大なデータや人員が関わってくることから、「コミュニケーション」が必要であること。最後の4つ目は「展開の仕方」、つまり大きなプロジェクトに対してはきちんとマネジメントするための「戦術」が必要であること。

 仏エアバスにおいてこれらを支援したのが、CATiAとENOVIAをはじめとするダッソーのソフトウェアだった。今後は3Dエクスペリエンス・プラットフォームを活用して、さらなるDMUの3D化を推し進め、柔軟性のある製造工程の作成を模索していく考え。「リードタイムは30%、コストは50%下げたい」と同氏は宣言し、カスタマーサービスにもフォーカスして顧客満足度の向上も図っていくとした。

講演では航空機のパーツの1つについて、ENOVIA上で設計・検証・生産管理を行う様子をデモした

(日沼諭史)