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タイヤを自動製造する、ブリヂストンの“小ロット・多サイズ”生産システム「BIRD」を報道公開

高性能プレミアムタイヤ「REGNO」などを生産する彦根工場

2015年12月8日公開

ブリヂストンのタイヤ生産システム「BIRD」

 ブリヂストンは、より効率的かつ精度高くタイヤを製造する独自の生産システム「BIRD(バード:Bridgestone Innovative Rational Development)」を、同社彦根工場において報道陣に公開した。10年以上も前から新たな製造手法を研究・開発し、生産現場へ導入してきた成果の集大成と言えるもので、実際に生産ラインでタイヤを自動製造する様子も披露した。

彦根工場内部に整然と並ぶBIRD

 同社が「革新的な次世代タイヤ生産システム」と銘打つBIRDを初めて公にしたのは、2002年のこと。その後2年余りをかけてプロトタイプ機の開発から彦根工場での本稼働に至った。2005年1月よりタイヤ生産を開始して以来、累計2120万本ものタイヤを同工場のBIRDで製造し、世に送り出しているという。2007年にはメキシコとハンガリーにもBIRD導入を拡大しており、同社がグローバルにおける基本方針として掲げるタイヤの“地産地消”の推進にも貢献している。

“クルマ離れ”が叫ばれて久しいが、日本自動車工業会の調べによれば、約990万台を記録した2007年をピークに、国内の乗用車生産台数は下降もしくは横ばい。販売台数も1995年からおおむね450万台前後で伸び悩んでおり、2015年の需要見通しも前年と同等か下回るとみられていて、データ上も“クルマ離れ”を裏付ける格好となっている。

 自動車の生産や需要の減少によって直接的な影響を受けやすい業界の1つが、タイヤだ。日本自動車タイヤ協会の調査によると、タイヤの生産量は自動車の生産台数に比例して増減し、2009年のリーマンショックから回復した2011年以降、タイヤの国内生産量は対前年比で微減が続いている。2009年を除いて、直近2014年の生産量は2007年のピーク以降で最低を記録した。BIRDの導入は、こうした厳しい市場環境に対応して、「REGNO(レグノ)」を始めとする付加価値の高い製品を精度を高く効率的に生産することでブランドの競争力を高める狙いがある。

 BIRDの特徴やメリットは以下のようなものだ。今回はこれらの内容に沿って詳しく説明したい。

・設備の設置面積がコンパクトで、最小限の人手で済む
・小ロット・多サイズのタイヤ生産に最適
・高いユニフォミティ(丸さ、均一性)を実現

設備の設置面積がコンパクトで、最小限の人手で済む

 BIRDの最も特徴的な点は、生産に用いる設備の設置面積がおよそ30×15mほどと、従来製法の生産レーン(全長100mにも及ぶ)に比べ圧倒的に小さく済むことだ。タイヤの素材となるゴム、ベルト、ワイヤー類を製造する前工程は従来と大きくは変わらないが、それらの素材を中間部材として生成する「部材工程」、部材を組み合わせて生タイヤにする「成型工程」、最終的に金型を使って市販タイヤの形状に仕上げる「加硫工程」を、「モジュール」と呼ばれる1セットのBIRD内で完結する。

 従来製法では各工程が別ラインのようになっており、それぞれに作業を補助する技能員が配置される。しかも部材工程ではパーツごとの作業工程に分割され、成型・加硫の工程でも複数のラインに分かれる形で機材が構成されていた。従来製法は、大がかりな設備を用いて、特定の種類のタイヤを連続的に大量生産するのに適したものであり、その流れに合わない種類のタイヤを混在させて生産するのには向かないものだった。

 対してBIRDは、30×15mの1つのモジュール内に楕円状の生産ラインが形作られており、そのラインの途中に工程ごとの作業を受け持つ「ステーション」が最大で8つ設けられている。一見すると納豆を保存する藁のような形をした複数のドラムが楕円に沿って一斉に移動し、各ステーションで停止してドラムに素材を巻き付け、1つの作業工程が終われば次の工程へと、流れ作業的にローテーションして1本の生タイヤを成型していく。つまり、1~8番目のステーションを一通り流れると、1本のタイヤの成型が完了するというわけだ。

BIRDのモジュール1つがこの規模に収まっている

 具体的には、最初にビードワイヤーとインナーライナー、プライと呼ばれる部材がドラムに通され、エアーで膨張させて基礎が形作られる。そこにベルトの貼り付け、トレッドの巻き付け、ショルダーとサイドウォールの形成などが施される。全てのステーションで成型作業を終えた生タイヤは、この時点ではまだなんとなくタイヤ風の形状をしたゴムの塊にしか見えないが、加硫工程において金型でプレスされると市販タイヤそのものの形に仕上がる。その後、最終の検査工程へと進み、合格したものは出荷されることになる。

 この間、人手が介在することはほとんどない。機材にエラーが生じた場合や検査で不合格と判定されたタイヤの再チェックを行う際は技能員が対応することになるが、それを除けば全自動で製造が進む。ただ、全自動とはいえ技能員がタイヤ製造のほぼ全体を見通して管理することから、1人が1つの作業工程のみを担当していた従来製法と比べ“物作り”の実感が得られるという意味でも大きな違いがあると言えるだろう。

部材の生成
トレッド面を巻き付ける工程

 工場全体をCPUに例えてみると、大規模生産ラインを使用した従来製法がシングルコアの巨大なCPUだとすれば、BIRDはマルチコアCPUと言える。しかもそのコア内部ではオブジェクト化されたプログラムが動作していて、必要に応じて処理内容を変えたり、パズルを組み立てるように全く異なる処理を追加・省略・入れ替えできる仕組みとなっている。すなわち、タイヤのサイズ等の仕様に合わせて各ステーションの作業内容を変化させることができ、作業手順が必要・不要になった場合もステーションを追加・省略するだけで対応できるというわけだ。

小ロット・多サイズのタイヤ生産に最適

 BIRDは現在のところ、主に「REGNO」を始めとする乗用車用高性能プレミアムタイヤの生産に用いられている。これは、BIRDの設計コンセプトが「少ロット・多サイズ」の生産に向いた製法であるためだ。冒頭で述べたようにタイヤ需要は頭打ち状態にあるものの、タイヤ1ブランドがカバーするインチサイズ、トレッド幅などは車種の多様化に合わせて拡大している。そのような状況に対して、BIRDであれば1つのモジュール内で異なる仕様、異なるサイズのタイヤを混在させながら生産することが可能で、従来製法に対してはそこが最大のメリットになる。

 ただし当然ながら、仕組み上一斉にローテーションさせることが前提となるため、タイヤサイズやステーションごとの作業内容が異なれば、各ステーションの作業時間にも差異が発生する。短時間で作業が完了するステーションでは、長い待ち時間ができてしまう可能性もあるだろう。また、加硫工程で1本当たり15分前後の時間がかかることも考慮すると、その前の成型工程との間に生タイヤを仮置きするバッファを設けたり、成型工程との同期も行う必要があるものと考えられる。

 したがって、BIRDはこのようなコンパクトな製造設備であるハードウェア部分だけでなく、それをさまざまな面で効率良く稼働させるためのソフトウェア技術も含めたシステム全体を指すテクノロジーなのだ。製造設備においては、すでに説明した部材工程から加硫工程までを自動化して一貫生産する技術「ATMSS」と、タイヤ検査の自動化を実現する技術「AIMS」が用いられ、その背景に生産現場の状況をリアルタイムに把握するネットワーク技術「FOA」が採用されている。また、大量のデータから高度な判断・計算をクラウド側で処理する「BIO」、センサーから得られたデータを基に制御の仕方を機械側で処理する「BID」というAI関連技術も含まれる。

BIRDには145個ものセンサーが設置されている

 FOAは、現在のIoTの先がけとなる技術と言えるかもしれない。1モジュール内に設置された145個ものセンサーを駆使し、そこから得られた情報を基にエラー検出や処理の自動補正を行って、常に一定の精度を保ちながらタイヤの生産を行う。例えば巻き付けた部材の位置や長さにわずかな誤差があるとセンサーで判定された場合は、その誤差を埋めるよう直前の作業工程で修正するよう指示を出し、最適化していく。結果的に精度が高く、安定した品質のタイヤを量産できることになる。

高いユニフォミティ(丸さ、均一性)を実現

 精度の高いタイヤというのは、真横から見て真円に近く(接地面の面積・形状がタイヤ円周上のどの部分でも同じ)、性質的にも均一であることを表す「ユニフォミティ」の高いものであることを意味する。同社によると、BIRDで生産したタイヤのユニフォミティは従来製法と比べ20%向上しているとのこと。主な生産品目が高性能プレミアムタイヤであることからも、ユニフォミティの向上が重要な要素であることは間違いない。

 BIRDを公開した当日は、BIRDで開発したREGNOと従来製法で開発した乗用車用スタンダードタイヤ「NEXTRY」を2台の同一車種のミニバンにそれぞれ装備し、工場敷地内を比較試乗することができた。が、ユニフォミティを実感することはできないまでも、REGNOとNEXTRYの違いははっきりと分かる。特に後部座席に座った時の違いは顕著で、軽いパイロンスラロームでは、比較するまでもなく明らかにNEXTRYのネガが際立つ。タイヤが車両の重さに耐えられず、ねじれて横滑りしているかのような違和感を覚える。長時間走行していれば、おそらく乗り物酔いにつながってしまうであろう挙動だ。

 REGNOを装備した車両では、そのような違和感は全くなく、クイックなハンドルの動きにもしっかりと4輪が追従する。ハンドリングは軽く、コーナリング時にNEXTRYで発生していた「サーッ」というタイヤノイズもほとんど聞こえない。凹凸路面通過時の衝撃も緩和され、1段か2段上の乗り心地に変わる。

小平は研究・開発に集中。彦根工場は乗用車タイヤの最大生産工場として進化を続ける

 実際に見学した彦根工場の内部には、BIRDのモジュールが16個、1つの工場建屋に整然と並んでいた。彦根工場には従来製法の生産ラインもあるが、それらも合わせると1日最大5万3000本の生産能力をもち、実に乗用車用タイヤ(PSR)の国内生産全体の40%を占める。

 折しも同社は10月に、東京小平にある東京工場におけるPSRの生産を、2016年6月末までに彦根を含む全国の工場に移管することを発表したばかり。小平は航空機用タイヤの生産は続けるものの、主に基礎研究、先端生産技術開発および試験・評価のための拠点として運用し、一方の彦根工場はPSRにおける国内最大の工場として、自動車メーカーの近地であるという物流上のメリットなども活かし、PSR生産に特化することで「ダントツの競争力をもたせる」考えだ。

 高齢化による熟練の技術をもった技能員の減少をカバーし、ニーズの変化にも柔軟に対応しつつ、性能向上も図ることが可能なBIRDだが、今後実現するとみられる自動運転時代に最適なタイヤがどうあるべきかなど、自動車用タイヤを取り巻く環境変化への対応が常に求められている。同社は「BIRDで培われたハード・ソフト技術の展開とさらなる進化」により「BIRDの先」の姿も見据えながら、「モノづくりの総合力を変える」という目標に向けた活動を継続していくとしている。

(日沼諭史)