ニュース

ハーレーダビッドソン「ロードスター」南仏試乗会

全身を使って“スポーツ”でき、幅広い乗り方も許容する1台

2016年4月29日~5月1日 開催

ハーレーダビッドソン「ロードスター」の“スポーツ”性能とは?

 4月29日~5月1日の3日間に渡って、ハーレーダビッドソン「ロードスター」の試乗会が仏プロバンス地方を舞台に開催された。1日目はマルセイユを起点に、高速~低速ワインディングを含む山岳地帯を抜けて高級リゾート地のサントロペまでを走行。中日を挟んだ後の3日目は、サントロペから再びマルセイユに向けて海岸側の市街地やワインディング、高速道路のような広い直線などを通って戻る内容となった。

 実質的には2日間で350km程度の走行距離ではあったが、日本の道路事情に近い狭い道やトラフィックの多い場所の他、ヨーロッパらしいハイペースで走れるワインディングももちろんあり、多彩なシチュエーションでじっくりロードスターを試す機会を得られた。また、「ローライダーS」と交互に乗り比べることもできたため、それぞれの違いから分かるロードスターの性格もはっきりと把握できた。

ロードスター走行車載動画(マルセイユ~サントロペ間)
スタート地点は南仏プロバンス地方のマルセイユ
マルセイユで最も有名な建物と言えばノートルダム・ド・ラ・ガルド寺院だろう
カフェブレイクなどをはさみながら、2日でおよそ350kmほど走行した
こちらは同時に試乗できたローライダーS。極めて安定したコーナリングと1800ccらしいあふれ出るトルクが印象的。残念ながら日本国内への出荷割り当て分は完売しており、次に入手できるのは2017年モデルになるとのこと
試乗会のルート

前傾すぎず違和感の少ないライディングポジション

 カフェレーサースタイルを意図して開発され、ハンドルも低く、たれ気味になっているロードスターではあるが、実際にまたがってみると思ったほど前のめりにはならず、国産ネイキッドやツアラーなどに乗り慣れている人にとっても違和感なく受け入れられるであろうポジションとなっている。ピーナッツタンクは細長く、ハンドルバーが幅広で、ハンドルまでの距離が遠いと見られてしまいそうなデザインながら、身長177cmの筆者は自然な姿勢で収まりよく乗ることができた。

足つきとポジションのチェック。ちなみに筆者の身長は177cm
いわゆるスタンダードなアメリカンと比べれば“攻撃的”だけれど、余裕のあるポジションだ

 高さ785mmという座面は、もちろんハーレーのほとんどのアメリカンバイクよりは圧倒的に高い位置にあるものの、シートが細身のためか両足はかかとまでべったり。そのため視点は意外にも低く、走り出してみると前下がりのディメンションのはずなのに、ライディングポジションの傾向はアメリカンなハーレーを強く感じるところもある。決してスパルタンなカフェレーサーではない。

段付きシートは前後のポジションの自由度は少ないが踏ん張りやすい

 段付きシートは前後のシッティングポジションが制限され、自由度が少ないと感じてしまう。ところがミッドコントロールのステップ位置との相性は抜群で、足を踏ん張ってシートの角に尻をぐっと押しつければ、リアタイヤの挙動を十分に感じ取りながら加速していける。

 ただ、車体のかなり外側にステップが飛び出しており、正しくステップラバーに足を乗せてペダル操作するには、内股気味にするか、場合によっては踏み替えが必要になってしまう。それらの位置関係から、停車時に足をステップから降ろす際、どうしてもステップにスネにぶつけがちなところも気になる。ステップのポジションや構造はバンク角の少なさにもつながっているため、真っ先にカスタムしたいと感じる部分かもしれない。

ミッドコントロールのステップは違和感はないものの、停車時にスネをぶつけやすいことに注意

乗りこなすならエンジンの性格や正しいギヤ選択を把握できるかがカギ

 振動の大きいエンジンの鼓動感は、まさしくハーレーそのものだ。最大トルクの発生回転数が4250rpmと高めに設定されてはいても、低回転から十分に力強く、1~3速のローギヤではアクセル開度とパワーの出方がシンクロしているかのように自在にコントロールできる。

1~3速はアクセルレスポンスもよく、コントローラブル

 急激にアクセルを開けるようなラフな扱い方をしても、穏やかに、しかしパワフルに、リアタイヤを確実にグリップさせながら前へ進んでいく感触が心地よい。ほこりっぽく、ところどころに表面が磨かれたような石畳もあるヨーロッパの少し滑りやすい路面でも、怖さを一切感じることなく終始安心して走り通すことができたのは驚きだった。交差点はラウンドアバウトになっていることが多く、直進するにしろ右左折するにしろバンクさせて通行することになるが、そんな場面でも不安は感じず、バンク中から大胆に加速していけるほど。

 その一方で、正直に言えば、様々な地形を走行した今回の試乗コースにおいては、車両をスムーズに走らせる難しさに頭を悩ませることもあった。とりわけギヤについては全体的にロングなセッティングになっているのか、走行中に何速を選ぶべきか迷いがちだ。

 アイドリングから2000rpmまでの低回転では、1速だとすぐにその範囲を超えるため無視できるものの、2速以降になるとノッキングのような振動が目立ち、コーナリングでの安定感が損なわれる。気持ちよく走れるのはその振動が収まる2000rpmからレッドゾーンの始まりとなる6000rpm未満までとなるが、吹け上がりも速いことから上まで引っ張る気持ちがなくてもすぐにレッドゾーンに達してしまい、常用に適したパワーバンドは思ったより狭い。

レッドゾーンは6000rpmから。2000rpm以下は振動が大きく、常用に適した範囲は意外に狭い

 また、4速と5速は加速にかなり重たさが出るため、特に市街地での走行には適さない。完全に高速巡航用のギヤと思っておいた方がいいだろう。したがって、多くのシチュエーションは3速までで事足りることになる。日本の都心部であれば、もしかすると2速まででほとんどカバーできてしまうかもしれない。ただ、これはロードスターの用途や走行に適した場面が限定されている、ということは全く意味していない。むしろその逆と言えるだろう。

高速道路のような広く長い直線であれば4速や5速も使えるが、それ以外では3速までで事足りる

 例えば低速コーナーが続くタイトなワインディングなら、1速のみでクイックに加減速を繰り返して走り込むのもいいし、1速と2速、ところどころスピードの乗る直線があれば3速まで入れて変速を楽しみつつ、リズムよく走るのも面白い。もっとのんびり景色を見たり、エンジンの鼓動を感じたりしながら走りたい時は、3速のみでトコトコ流す使い方もできる。

 高速ワインディングであれば、2速と3速がメインとなり、4速には入れることがあるかどうか、といったところ。100km/h付近の高速道路などでの巡航は、主に4速か5速を使うことになるだろう。シチュエーションに合わせてギヤを変えるのは他のオートバイでも当然の話ではあるが、ロードスターでは以上のような使い分けから外れたギヤを選択してしまうと、とたんに気難しさが顔を出す。エンジンの挙動に戸惑ってしまい、余裕のない走りに見えてしまう。

適切なギヤ選択ができれば気持ちよく走れるだろう

積極的に姿勢を作って曲げる、スポーツライディングの楽しさを味わえる

 ギヤ選択の難しさと合わせて、コーナリングにおけるバンクのコントロールにも難しさがある。ゆっくり流すだけなら国産ネイキッドのようにイージーに乗りこなすことはできるけれど、重量259kgとなる車両は、ペースを上げていくともはやハンドル操作では思ったように曲げていくことができず、容易にはらんでしまう。かといって単純にバンクさせて曲げようと思っても、低く、左右に飛び出ているステップのバンクセンサーがすぐに接地してしまい、やはり走行ラインが大回りになる。

ワインディングはもちろんのこと、ラウンドアバウトの交差点でもステップは接地しやすい

 カフェレーサー風のスタイルに合わせてワインディングを元気に攻めたいなら、成り行きのままに傾けて走らせるのではなく、積極的にステップワークや自身の姿勢変化で操る必要がある。シートは段付きで前後方向にはほぼ固定されてしまうが、ほどよく滑る表皮で左右方向へはフレキシブルに動けて姿勢を作りやすい。リーンインで走り込むとしっかり向き変えしてくれるし、タイトコーナーもきれいなラインで走り抜けることができる。

 それと同時に、先述の通り適切なギヤ選択も組み合わせて考えなければならず、身体と脳をフルに駆使して乗りこなすことが求められる。しかし、それがぴったりはまった時には、格別な爽快感と操って走れる喜びが得られる。「スポーツとはこういうことだ」というハーレーダビッドソンからのメッセージが、走り込むにつれ伝わってくるかのようだ。

ペースよく走りたいなら、ステップワークを工夫したり、リーンイン気味にするなど積極的に姿勢を作って操りたい

 日本でのツーリングシーンを想像すると、都心から高速道路を使って疲労せずに郊外の峠まで出かけ、低速から高速のワインディングをスポーティに走行して帰ってくるという一連の流れを、ロードスターは全てまかなえるだろう。

 また、バイクに乗り慣れた人がワインディングでいいペースで走らせようと思うと、車両のクセを把握するとともに自身のライディングを車両に合わせる必要があるが、高速走行では突出した直進安定性で大型クルーザーに近いレベルの巡航性能もあり、低速でゆっくり走っても楽しめる点では、誰もが扱えるとっつきやすいオートバイであるとも思う。

 最新スーパースポーツのような操りにくい暴力的なパワーではなく、十分に自分がコントロールできる範囲でのパワフルさがあり、自分のスキルやシチュエーションに合わせて乗り方を変えることで、そのポテンシャルをいかようにも引き出せるロードスターは、“スポーツ”していて、それでいてしっかり“ハーレー”もしていると感じた。日本での登場が待ち遠しいモデルだ。

(日沼諭史)