インプレッション
トヨタ「オーリス ハイブリッド」
2016年6月17日 00:00
“お尻のTV-CM”やシャア専用カスタムの発売など、たびたび大きな話題にはなるものの、販売では今ひとつ苦戦中のトヨタ自動車「オーリス」。便利さだけではない、ひと味ちがったコンパクトカーを求める人には“ハマる”モデルだが、少し高めに感じる価格設定のため、輸入コンパクトカーがライバルになってしまうのも販売台数が約8000台/年(2015年)に止まる要因かもしれない。
ところが、話しを欧州に移せば事情は大きく変わってくる。販売台数は2015年の1年間で約14万2000台にものぼり、その半数以上の約7万9000台をハイブリッドが占めているという。欧州では初代オーリスからハイブリッドモデルが用意されており、2代目から一気に人気を集めて、今では「プリウス」を差し置いて、「オーリス ハイブリッド」が欧州で最もポピュラーなハイブリッドモデルだ。
日本ではスポーツハッチバックというキャラクターを前面に出したかったことや、「アクア」と食い合ってしまうことに対する懸念など、さまざまな事情からこれまでハイブリッド仕様の導入は控えていたという。しかし、ここ数年で日本におけるハイブリッドカーのイメージもエコだけに止まらなくなり、幅広いユーザーにアピールできる地盤ができたと判断。満を持して、今回のオーリス ハイブリッド登場となった。
欧州で売れているモデルだけあって、そのメカニズムは決して付け焼刃的なものではない。実は半年ほど前に発売されたばかりの4代目プリウスよりも早く、リアシートの座面下に駆動用バッテリーを搭載したり、リアサスペンションにダブルウィッシュボーンを採用しているなど、意欲的に開発されたことが分かる。パワートレーンは先代プリウスと同様の1.8リッターエンジンの「THS II(リダクション機構付き)」+CVTを搭載しているが、その走りは徹底して欧州仕込み。
というのも、欧州ではエンジン回転数がアクセル操作よりも先にガバッと上がるようなCVT特有の加速フィールは嫌われる。そのため、開発時にはアクセル操作・車速・エンジン回転数がリニアにリンクするフィーリングを突き詰めた。また、低速域からペダルを踏み込んで加速に移ったときの車速の乗り方も、切れ目のないなめらかさを実現しているという。さらに、足まわりのチューニングも欧州仕様のオーリス ハイブリッドとまったく変わらないと聞いて、人気者の実力を試すのが楽しみになった。
ドアを開けて乗り込むと、車内は日本専用に設定したというホワイトを大胆にあしらったインパネや、真っ白な本革×ウルトラスエードのシートがモダンで、どこかオシャレなホテルのインテリアみたいだ。オーリスのガソリンモデルはスポーティな印象が強いが、こちらは先進的で上質感もたっぷりある。
スタートボタンを押し、ハイブリッドカーならではの静かなシステム起動を待ったあと、アクセルを踏み込んで走り出す。少し重厚感を伴いながら、加速フィールはモリモリと力強い。洗練されたスポーツカーのような感覚だ。ステアリングの手応えは適度に剛性感があり、そこにエコカーというイメージはない。
スポーティさはそのままに、優しさまでも手にいれた
低速から息継ぎせず、本当になめらかに加速していくのが気持ちいい。コーナリングでは一発でピタリと姿勢がキマる。ガソリンモデルではカーブのいちばんキツいところでヒョコヒョコとした振動を感じる場面もあったが、ハイブリッドモデルではそれが消えていた。ヤンチャな感じはぜんぜんなく、ていねいにコーナーを駆け抜けていけることに感心した。
さらに、試乗会場には石畳風のゴツゴツとした路面もあったが、そこを通過したときの柔軟ないなし方は、ほかの国産コンパクトカーでは味わったことのない上手さ。後席にも座ってみると、その乗り心地はしっとりと静かで、上級セダンに匹敵するほどだ。
これは、駆動用バッテリーの搭載によってリアの重心が5~6mm下がったことや、重くなった分だけリアサスペンションのチューニングをガソリンモデルとは変えていることなどがもたらした効果らしい。しかも、新型プリウスと同じくノイズ対策を徹底的にやっていることも、快適な居住性に効いているのだと思う。
オーリス ハイブリッドは、もともとオーリスが持っている目の肥えた大人に向けたスポーティさはそのままに、上質感や後席乗員への優しさまでも手にいれていると感じた。アクアより大人っぽく、プリウスより若々しい。そんな新しいハイブリッドカーの選択肢が生まれたようだ。