インプレッション

BMW「340i M Sport」(2015年9月マイチェンモデル)

直列6気筒ガソリンエンジン搭載の「340i」追加

 2012年1月から導入が開始され、日本でも安定した人気を誇るBMWの“F3#系”3シリーズの大がかりなマイナーチェンジが、ちょうど3シリーズの誕生40周年となる2015年夏に実施された。新世代デザインのLEDヘッドライトや、新たにLEDを採用したリアコンビランプなどによる視覚面でのリフレッシュに加えて、「衝突回避・被害軽減ブレーキ」「アクティブ・クルーズ・コントロール(ACC)」「BMW SOS コール」など先進安全装備の充実も図っている。

 走りについてもガソリンエンジンを新世代に刷新。なかでも新開発の3.0リッター直列6気筒ターボを搭載した「340i」の導入が大いに気になるところだ。また、サスペンションシステムとハンドリング特性についても見直して、ドライビングダイナミクスを向上させている。それでいて、価格については上記の仕様向上を図ったにもかかわらず、中核モデルでは従来から車両価格を据え置き、さらには「328i」の後継となる「330i」については最大24万円もの値下げを実施したというのも聞き捨てならない。

 そんなで今回、やはり気になっている人が少なくないであろう、340i(セダン)を借り出した。BMWは、2世代前のE46までの3シリーズは2.0リッターでも6気筒を用意していたものだが、今や3シリーズだけでなく5シリーズまでも4気筒が主体のラインアップになって久しい。

試乗車のBMW「340i M Sport」。ボディカラーは「メルボルン・レッド」でボディサイズは4645×1800×1430mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2810mm、車両重量は1660kg

 そしてご存知のとおり、現行3シリーズの前期型では、6気筒エンジンを搭載した「アクティブ ハイブリッド3」こそあったものの、純粋なガソリン6気筒モデルは日本に導入されなかった。その理由は、アクティブ ハイブリッド3が6気筒エンジンを搭載した従来型の「335i」と比べてわずか13万円高という価格を実現できたから。ゆえにBMWとしては、335iの需要はアクティブ ハイブリッド3で十分にカバーできると考えていた。

 ところが、件のマイナーチェンジでアクティブ ハイブリッド3はラインアップから外れ、2016年1月から4気筒エンジンを搭載したプラグインハイブリッドモデルの「330e」が導入されるはこびとなった。そこで6気筒モデルの需要をカバーするため、この340iをラインアップに加えるという戦略が執られたわけだ。

 なお、マイナーチェンジ前の3シリーズセダンの販売における内訳は、概ねガソリンとディーゼル(いずれも4気筒)が45%ずつで、残る約10%がアクティブ ハイブリッド3(6気筒)だった。

6気筒ターボエンジンのこれまでの流れ

 BMWはエンジン更新のスパンが短いと常々感じているが、ここで最近3シリーズに搭載された6気筒ターボエンジンについて少し振り返ってみよう。

 3.0リッター直列6気筒エンジンがターボ化されたのは、2005年に登場したE9#系から。このときラインアップされた「335i」に搭載されたのは、ツインターボ仕様の「N54B30A」型で、最高出力225kW(306PS)/5800rpm、最大トルク400Nm(40.8kgm)/1300-5000rpmを発生した。

 その後、2010年の改良のタイミングで、シングルターボでツインスクロール仕様の「N55B30A」型に換装。最高出力と最大トルクの数値は不変ながら、最大トルクの発生回転数が100rpm低い1200rpmになった。ところが、ドライブフィールとしては径を拡大したシングルターボを採用するN55型よりも小径ツインターボのN54型のほうがレスポンスや低~中速トルク特性に優れる印象だったせいもあるのか、中古車市場ではN54型搭載車を指名買いする人が少なからず見受けられたという。いずれのエンジンも、BMWの表記としては、「ツインパワー・ターボ・エンジン」となっているので混同しそうだが、実はこのような違いがあったのだ。

インテリアはセンターコンソールがわずかにドライバー側に傾いたデザイン
ステアリングホイールはパドルシフトを備えるMモデル専用の「マルチファンクション M スポーツ・レザー・ステアリング・ホイール」
大型2眼タイプのメーターパネル中央上部に「アクティブ・クルーズ・コントロール(ACC)」の車間距離設定を表示。タコメーターのレッドゾーンは7000rpmから
マニュアル変速はシフトセレクターでも可能。iDriveコントローラーは全車標準装備
アクセルペダルはオルガン式

 そして今回の340iに搭載されたのは、まったく新しい、一連の「気筒あたり500cc」という新世代モジュール設計による「B58D30A」型だ。最高出力は、335i比で20PS増の240kW(326PS)/5500rpm、最大トルクは50Nm増の450Nm(45.9kgm)/1380-5000rpmというスペックとなる。なお、車検証の記載によると、車両重量は1660kg、前軸重850kg、後軸重810kgと、やや重いエンジンながら50:50に近い前後重量配分を実現している。

直列6気筒DOHC 3.0リッターのツインパワー・ターボガソリンエンジンは240kW(326PS)/5500-6500rpm、450Nm(45.9kgm)/1380-5000rpmを発生。トランスミッションは8速ATで、JC08モード燃費は13.5km/L

6気筒エンジンならではの味わい

 ドライブすると、それはもう期待どおりである。やはり6気筒のサウンドとエンジンフィールは格別だ。やや音量が大きめな“シルキーシックス”の奥ゆかしい響きとスムーズな吹け上がりは、いくらBMWが4気筒エンジンでもいい音を聞かせてくれるとはいえ、6気筒ならではの世界がある。音はクルマを楽しむ上で重要な要素。そこにこだわる人にとっては、4気筒との差額を払う価値があると思わずにいられない。

 動力性能もさすがと言えるもの。前身の335iと比べても大幅にスペックが向上しているとおりだし、現行の2.0リッターターボである「320i」(184PS/270Nm)でもまったく不満はなく、その高性能版の330i(252PS/350Nm)でもすでに十分すぎるほどだが、340iはさらに力強く、その差は小さくない。低速域から力強く加速し、トップエンドまで伸びやかに吹け上がる。

試乗車はオプション装備の19インチ M・ライト・アロイホイール・ダブルスポーク・スタイリング442Mを装着。タイヤサイズはフロント225/40 R19、リア255/35 R19。ブレーキは4輪ベンチレーテッドディスク

 サスペンションのダンパー特性とトップマウント構造を見直し、ハンドリングの向上を図ったという足まわりは、ほどよく引き締まっていてスポーツセダンらしい趣を味わわせてくれる。330iもドライブしたことはあるが、340iのほうが全体的にスポーティな印象を受ける。

 価格は330iに対して154万円高くなるとはいえ、そのぶん与えてくれる満足感も大きなものになる。あるいはいささか行き過ぎた感のある「M3」に対しても、340iぐらいがちょうどいいと感じる人も少なくないことと思う。また、M3を除いて他モデルでは設定のない左ハンドルが選べることも340iの特徴だ。

 また、340iには782万円というまったく同価格で、試乗した「M Sport」のほかに「Luxury」というグレードが選択肢としてある。主な違いは、内外装の仕様や装備品が名前のとおりになっているのは言うまでもないとして、走りに関する部分では、まずトランスミッションが「8速AT(Luxury)」か、スポーティな走りに適した「8速スポーツAT(M Sport)」かという点が異なる。この8速スポーツATはギヤ比がクロスレシオになり、変速時間の最短化なども行なわれている。

 さらには足まわりも標準装備のタイヤサイズが異なるほか、M Sportには硬めにセッティングされた「M スポーツ・サスペンション」が与えられる。どちらにもそれぞれのよさがあるが、より340iのキャラクターに似合うのは、積極的に走りを愉しめるM Sportのような気はする。

 プレミアムスポーツセダンのベンチマークたる3シリーズの現行F30型もモデルライフの後半に突入している。群雄割拠の同セグメントでも、“BMWの6気筒”への期待に応える340iは、積極的に選びたくなるとても魅力的な存在であった。

シートはブルーステッチをハイライトとして使うヘキサゴン・クロス/アルカンタラ・コンビネーション
リアシートはセンターアームレストを備え、3分割可倒でのトランクスルーが可能

岡本幸一郎

1968年 富山県生まれ。学習院大学を卒業後、自動車情報ビデオマガジンの制作、自動車専門誌の記者を経てフリーランスのモータージャーナリストとして独立。国籍も大小もカテゴリーを問わず幅広く市販車の最新事情を網羅するとともに、これまでプライベートでもさまざまなタイプの25台の愛車を乗り継いできた。それらの経験とノウハウを活かし、またユーザー目線に立った視点を大切に、できるだけ読者の方々にとって参考になる有益な情報を提供することを身上としている。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:安田 剛