インプレッション
ネイキッドからアドベンチャーツアラーまで、輸入バイクをイッキ乗り。JAIA輸入2輪車試乗会
2016年9月21日 23:19
2015年度に新規登録された輸入バイクは2万2234台(文中の台数はすべて日本自動車輸入組合の発表値)を数えた。2014年度の2万809台から見て6.8%増えたことになる。輸入バイクは東日本大震災直後こそ販売台数を減らしていたものの、2011年度からは2万台以上をコンスタントに販売している。
国産バイクと比較すると価格が高く、販売店の数も少ないが、輸入バイクを取り扱うインポーターにしてみれば平均して2万台の数が稼げる日本市場は大切な存在だ。そうしたことから、ここ5年は輸入バイクの種類が格段に増え、普通自動二輪免許で乗れるリーズナブルなモデルもドカティやBMW(2016年中に発売)から登場している。
300km/hを超えるような最高速を誇る輸入バイクがある一方で、実際に販売台数を伸ばしているのは次の2つのカテゴリーだ。
まずは「ネイキッドバイク」と呼ばれるもので、カウル(ボディパネル)がなくエンジンやフレームがむきだしになっているモデルを総称してこう呼んでいる。人気の秘密は乗りやすさにある。シート高は低めに設定されているから平均的な日本人でも両足がしっかりと地面に着くし、ハンドル位置も高めだから前方視界も広い。そしてボディも国産バイクのミドルクラス(600cc)と同じ200kg前後のものが多いため扱いやすい。
つぎに人気が高いのが「アドベンチャーツアラー」だ。荒れた路面でもグイグイ走るオフロードバイクと、長距離ツーリングを得意とするツアラーバイクを掛け合わせたような特性で、排気量も800~1200ccと大きい。車体後部には荷物を積み込むトランクである「パニアケース」の装着も可能だ。
今回は、ネイキッドバイクから直列2気筒900ccエンジンを搭載するトライアンフ「BONNEVILLE Street Twin」と、水平対向2気筒1169ccエンジンを搭載するBMW「R NINE T」の2台。そして、アドベンチャーツアラーではテスタストレッタDVT・L型2気筒1198ccエンジンを搭載するドカティ「Multistrada 1200 S」と、直列3気筒1215ccエンジンを搭載するトライアンフ「Tiger Explorer XRx low」の2台を中心に紹介していこう。
価格100万円以下のネイキッド「Street Twin」
トライアンフのBONNEVILLE Street Twinは、日本の道路環境にぴったりの大型自動二輪だ。サイズや車両重量はもとより価格にしても新車で100万円以下と国産同クラスと同等で手が届きやすい。レトロチックなスタイルだが、ウインカーやテールレンズなどにもLEDを配し小型ながらも十分な光量を発するので安心。見た目に薄いシートもクッション性は十分でステップ位置もお尻の真下にくるイメージだ。脚を無造作におろしてもステップなどに引っかかることがない。
ハンドル位置もしかり。とても自然な位置にありスッと腕を前に伸ばすとそこにグリップ位置が重なる、そんなイメージだ。筆者は日本の成人男性の平均身長よりもちょっと背が低い(170cm)が、2輪乗車時にはかならず胸骨から腹部、そして頸椎を守るがっちりとした厚みのある樹脂製のプロテクターを着込んでいる。そのため写真のように相当ずんぐりむっくりとした立派な体躯に見えるだろう。また、それが影響してハンドル位置が低く上半身を前に屈めなければならない前傾姿勢を強いる2輪の場合には若干、圧迫感がある。
その点、BONNEVILLE Street Twinはまったく前傾姿勢にならないため気負うことなく乗りこなすことができる。2輪を生活の足にしている人にはうってつけの1台だ。もっとも、プロテクターには種類があり前傾姿勢用のモデルに適した薄型タイプも市販されているので、安全性を高めるために短距離であっても是非、装着してほしい。
さて、日本の道路環境にぴったりと述べたが、その理由はエンジンパワーとギヤ比の関係に見て取れる。ややハイギヤードな1速をゆっくりとクラッチミートさせていくとスルスルと50~60km/hまで速度を上げていく。その間、バーチカルツインならではのちょっと強めの鼓動を感じるものの、エンジンそのものはスッ~とさらに上まで回ろうとする。BONNEVILLE Street Twinはタコメーターを装備しないため回転数は不明だが、感覚的には1速で5000rpmも回さずとも巡航速度に乗せることができ、その後はポンポンとトップギヤまで入れてしまうルーズな運転もなんなく受け入れてくれる。故にとてもフレンドリーだ。
水平対向2気筒のネイキッド「R NINE T」
BMWのR NINE Tは、同じ2気筒でもBONNEVILLE Street Twinとは真逆の性格をもった1台。とはいえ、決して扱いにくいのではなく、スロットルレスポンスが鋭く下から上まで力強いので、そういって意味では玄人向けのスポーツネイキッドだ。水平対向エンジンはボクサーとも称されるが、スバルのEJ20ユーザーだった身としては親近感もある。しかし、スバルのそれとは違い、BMWのボクサーはじつに荒々しい。
およそ600ccのピストンが2つ、左右に大きく、そして素早く動くたびに躍動感を身体全身で感じることができるのだ。一方で、高いギヤを使いながら2000rpm前後で走らせていると、まるでプロペラエンジンの飛行機のようにブ~~ンという一定周期の音色を響かせながら力強く進む。マルチシリンダーとも、バーチカルツインとも違う独特の世界がそこにある。
ところで、今でこそ筆者はホンダ「VFR1200X CrossTourer」に乗っているが、自身の28年に及ぶ2輪歴のなかではBMW「K100RS 2V」と「K100RS 4V ABS」との付き合いがもっとも長く、2台で17年に及ぶ。K100RSのエンジンは2輪ではめずらしく直列4気筒を縦置きに搭載しており、水平対向2気筒エンジンのR NINE Tとは構成からしてまるで違う。しかし、BMWが送り出すバイクはいずれも芯がしっかりと通っていて、たとえばハンドルの両側にあるスイッチ類も配置からその操作方法に至るまで独特の哲学が貫かれており、慣れるまでは正直かなりまごつくものの、慣れてしまうと「よく造り込まれているなぁ」と感心してしまう。6年前にホンダの2輪におけるHMIで大きな変更(例:ウインカーとホーンの位置関係の入れ替えなど)が行なわれたが、そこには開発現場曰く「BMWから学んだものもある」という。
ライディングポジションはほんの少しの前傾姿勢に幅の広いハンドルの組み合わせ。足つき性はよいのだが若干ながらステップに足がひっかかる点が惜しい。パワフルな走りを支えるブレーキ性能も秀逸だ。ラジアルマウント化されたフロントキャリパーが生み出す制動力は頼もしく、今となっては2輪のADASとして当たり前になったABSも制御が細かく前後の連動具合も滑らかだ。ちなみにBMWは世界で初めて2輪用のABSを市販モデルに搭載しているメーカーだ。筆者の愛車であった「K100RS 4V ABS」にはその初代ABSが装着されていたのだが、当時の制御技術レベルは未だ低く1秒間に最大で5回(!)ほどであり、マナーがよいとは決して言えなかった。
ただ、1度だけこのABSのおかげで命拾いをしたことがある。雨が降りしきる高速道路の下り坂、走行車線を走る筆者の前に追い越し車線を走っていたトラックがスピンしてきたのだ。咄嗟に前ブレーキレバーを力任せに握りしめ、右足で後ブレーキレバーを蹴落とした。結果、車輪をロックさせずに車速を落とすことができトラックをやり過ごすことができたのだが、秋深い夕方だったので気温も低く路面温度に至ってはかなり低かったはず。ABSがなければ車輪ロックから転倒していた可能性はかなり高かった。以来、愛車選びの際はABSがあることが第1条件になった。
水冷L型2気筒のアドベンチャーツアラー「Multistrada 1200 S」
続いてはアドベンチャーツアラーだ。ドカティのMultistrada 1200 Sは、L型ツインエンジンを搭載する。同じ2気筒でもBMWのアドベンチャーツアラーモデル「R1200GS」とは一線を画し、すこぶるパワフル。エンジンに組み込まれたDVTシステムは、吸排気のバルブ開閉タイミングをシームレスに変更する技術で、4輪では搭載車種が多いが2輪ではまだ少数派。2輪用はコストがかかり、製造には高い精度が求められるからだ。
しかしその効果は絶大。URBAN/TOURING/SPORT/ENDUROと4つの走行モードが任意で選べる「Riding Mode」のうち、大人しい仕様のURBANを選んだとしても5000rpmから上のパワーは強力。それがSPORTとなるとさらに力が上乗せされレッドゾーン付近ではフロントタイヤがリフトする気配を見せる……。が、そんな状況でも心配は無用。前後のタイヤ回転センサーによって回転差異が発生しそうになると緩やかに、そして丁寧に電制スロットルを絞る「Ducati Traction Controlシステム」が作動して何事もなかったようにその後も加速を継続するのだ。
見た目こそアドベンチャーツアラーだが走りはドカティのスポーツ路線そのもの。少し気になったのはハンドル位置が少し遠いこと。足つき性は問題ないのだが、腕の長い欧米人を想定しているだけあってフルロック時のターンでは腰を少しずらすなどの対処が必要だった。
並列3気筒のアドベンチャーツアラー「Tiger Explorer XRx low」
ドゥカティ対するトライアンフのTiger Explorer XRx lowは、アドベンチャーツアラーの王道ともいえる特性だ。その演出は独特のパワーフィールをもつ並列3気筒エンジンによるところが大きい。低回転域でグッと盛り上がりをみせつつ、その後の中回転域では1度そこに谷間をつくりながら、その後は一直線にパワーが盛り上がるのだ。言葉で表現するとなんだか使いづらそうだが、低回転域ではどっしりとした安定した走りと、高速域ではパワフルな走りが楽しめる2面性は1度味わうと病みつきになるし、パワーが2段階で盛り上がるから乗っていて楽しい。
車名にlowとつくようにシート高が低く設定されており、シートに跨れば沈み込み量が大きいこともあって足つき性は非常によい。並列3気筒エンジンながら車体の幅はそれほど広くないため、小柄なライダーであっても停車位置さえ考慮すれば取り回しに苦労することはない。ハンドル位置は広いが高過ぎることはなく、逆に低めのシート高との関係で筆者には最適な位置に感じられた。現愛車が同じアドベンチャーツアラーであるから余計にそう感じられるのかもしれないが……。
装備は非常に充実している。なかでも便利なのがフロントスクリーンの高さをボタン1つで変えられる電動調節式スクリーンだ。写真は最下段と最上段だが、見た目以上に風防効果には違いがありユーザーからは評価の高いアイテムだ。じつはアドベンチャーツアラーには三美神と言われるものがある。それが、後輪の空転とフロントタイヤのリフトを抑制する「トラクションコントロールシステム」、荷物をたくさん積載するための「パニアケース」、そして高さの変更ができる「ロングスクリーン」だ。Tiger Explorer XRx lowはその3つを兼ね備えながら、スクリーンは電動調整式、しかも、ロード/レイン/オフロード/と3段階からエンジン出力特性が選べる「ライダーモード」まで装備する。正直、ライダーモードの違いはMultistrada 1200 Sほど区別はされていなかったが、所有欲を満たしてくれる装備には違いない。
直列2気筒647ccのビッグスクーター「C650GT」
こうして見てきた4台のほかにも、排気量の大きなビッグスクーターとして直列2気筒647ccを搭載したスクーターBMW「C650GT」と、市販モデルである「C650SPORT」をベースに、エンジンからモーターへとパワーユニットを換装した電動スクーターBMW 「C evolution」にも試乗した。
C650GTには2017年モデルとして2輪車としては世界初となるADAS「Side View Assist (SVA)」が装備される予定。これは車体後部の左右に内蔵されたミリ波レーダーによって、自車の両側方から接近する車両を知らせる先進安全技術だ。