インプレッション

メルセデス・ベンツ「E 200 アバンギャルド スポーツ」(岡本幸一郎)

カーナビも新しく

 Sクラス、Cクラスときて、いよいよEクラスがフルモデルチェンジを迎えた。Sクラスで世界をあっと驚かせた先進技術の多くをCクラスにも盛り込んでいたが、今回のEクラスにも自動運転のトップランナーたるメルセデスらしく、「未来型Eクラス」を標榜するとおり部分的にはSクラスよりもさらに新しいものを採用している。そこには多くの人が高い関心を持っていることに違いない。

 丸目になったW210から3世代のEクラスが、CクラスやSクラスとは異なる路線の、デザイン面でチャレンジングなアプローチをしていたのからすると、新型Eクラスは見た目には“相似”となったのは見てのとおり。

「アバンギャルド」がメインの設定となっており、今回試乗したのは売れ筋になるであろう「E 200 アバンギャルド スポーツ」だ。同モデルの価格は727万円。エントリーの「E 200 アバンギャルド」が675万円なので、プラス50万円ほどで今ではこうした付加価値の高い仕様が選べるようになったのもありがたい。

有償のスペシャルメタリックペイント(ヒヤシンスレッド)を採用した撮影車は、7月に発売となった「E 200 アバンギャルド スポーツ」。ボディサイズは4950×1850×1455mm(全長×全幅×全高)、ホイールベース2940mm。価格は727万円
E 200 アバンギャルド スポーツのエクステリアではAMGスタイリングパッケージ(フロントスポイラー、サイド&リアスカート)、19インチAMG5ツインスポークアルミホイール、Mercedes-Benzロゴ付ブレーキキャリパー&ドリルドベンチレーテッドディスク(フロント)などを標準装備するほか、片側84個のLEDを個別に制御して前走車のドライバーを眩惑することなく照射するマルチビームLEDヘッドライトといった先進装備が与えられる

 シートに収まってまず感じるのは、SクラスとCクラスの中間というよりも、Sクラス寄りのインテリアのクオリティの高さ。ユニークなステッチラインを持つシートのデザインも、視覚的に興味深いもの。ただ、Cクラスでも気になった右ハンドル車の左足下の狭さはEクラスでもあまり変わらないようだ。

 一方で、カーナビが新しくなっていることにもすぐに気がつく。ここ最近のメルセデスのカーナビは、操作して反応するまでにタイムラグがあったり、ルート案内がいま1つだったりしたのが一気に改善されている。刷新されたインターフェイスも使いやすくて好印象だ。

インテリアでは本革シート(ナッパレザー)、Burmesterサラウンドサウンドシステム、エアバランスパッケージ(空気清浄機能、パフュームアトマイザー付)、ヒートシーター(後席)、自動開閉トランクリッド、パノラミックスライディングルーフ、ヘッドアップディスプレイなどをセットにした「レザーエクスクルーシブパッケージ」(76万4000円)を装着。そのほか12.3インチの高精細ワイドディスプレイ2個を1枚のガラスカバーで融合させたコックピットディスプレイ、世界初のタッチコントロールボタンをレイアウトしたステアリングが目を引く
運転席前のディスプレイ表示例
エンジン、トランスミッション、ステアリングアシストのパラメーターが変化する「ダイナミックセレクト」では、一般的な設定の「Comfort」、燃費向上を意識した「ECO」、スポーティなセッティングの「Sport」、よりダイナミックになる「Sport+」とともに、個別に設定可能な「Individual」の5パターンを設定

あくまでドライバーズカー

 ドライブフィールはいたって軽快そのもの。出足から軽やかに滑り出し、ステアリングの操舵力も軽く、応答遅れがなく俊敏にノーズが向きを変えるので、車両重量が1740kgあるクルマという感じがしない。ややクイックな味付けのステアリングは、Cクラスでは早すぎるように感じたものだが、Eクラスではちょうどよくチューニングされている。

 Eクラスのほぼ全車に標準装備される「アジリティコントロールサスペンション」による乗り心地は素晴らしく、ランフラットタイヤを上手く履きこなしている。Cクラスに対しても明らかに車格が上であることを感じさせる仕上がりだ。路面の凹凸を巧みに吸収するとともに、コーナリングなどで急激な入力があったときには瞬時に減衰力を高めてフラットな姿勢を保ってくれる。後席にも乗ってみたところ、Cクラスではやや気になった跳ねや突き上げも感じさせない。

 一方、ステアリングを切ったときの反応がゆったりとしているSクラスに対して、Eクラスは後席でも横方向のGの立ち上がり方がやや早め。そこはあくまでドライバーズカーであるという主張の表れなのだろう。

 なお、発売時点で最上級グレードとなる「E 400 4MATIC エクスクルーシブ」には、「エアボディ コントロール サスペンション」というメルセデスとして初めてのものが与えられる。これについてもいずれ機会あればお伝えしたいと思う。

Eクラスでも2.0リッター4気筒がメイン

E 200 アバンギャルド スポーツが搭載する直列4気筒DOHC 2.0リッター直噴ターボエンジンは最高出力135kW(184PS)/5500rpm、最大トルク300Nm(30.6kgm)/1200-4000rpmを発生。JC08モード燃費は14.7km/L

 動力性能について、Eクラスながら2.0リッターの4気筒がメインのパワーユニットというのも時代を感じるわけだが、最高出力135kW(184PS)を5500rpmで発生し、300Nmの最大トルクを1200rpm-4000rpmという幅広い回転域で発生するというスペックのとおり、下から実用域にかけて十分なトルク感がある。

 とはいえやはり2.0リッター、市街地では十分ながら、高速道路で再加速するときなどにはやや線の細さを感じる状況もなくはない。操縦感覚が軽快なため車両重量を忘れてしまうのだが、そこで初めて実は1.7tを超えていることを意識させられる、といった感じだ。

 直噴特有の音についても、アイドリング状態で車外にいるとやや耳についたものの、車内でドアを閉じてしまえばほぼ気にならない。9速AT「9G-TRONIC」は、Dレンジで100km/hでは基本的に9速に入らない設定で、8速までのギヤ比が細分化されており、つながりは極めてなめらかだ。

 一方、少し遅れて日本に導入される予定となっているクリーンディーゼルについて、新型には6気筒の設定はなく、2.0リッター4気筒のみとなるようだが、日本市場の特性を考えるとそうなるのも不思議ではない。

「ドライブパイロット」ほか数々の安全運転支援については、また一歩、完全自動運転に近づいたことがうかがえた。今回は試せることも限られていたが、高速道路でのレーンチェンジは、乗員にとってできるだけGを感じさせないよう比較的ゆっくり行なうことが印象的だった。また、斜め後方の車両の認識性能が高く、車線変更するかしないかの判断が賢いように感じられた。渋滞についても、今回は試せなかったが、これまでよりも負荷が減ってストレスを感じることなく使えるというので、いずれきちんと試してみたいと思う。

 まだいろいろ試してみたいことはたくさんあったのだが、とにかく10代目となる新しいEクラスは、メルセデスの中核モデルとしての期待に応える完成度の高さに加えて、まさしく「未来型Eクラス」よろしく、たしかにもっとも先進的なクルマとしての片鱗をうかがわせた。

 これまでもEクラスはグレードによってだいぶ性格が異なったので、今後導入される予定の他のモデルについても、できるだけレポートしていきたいと思う。

岡本幸一郎

1968年 富山県生まれ。学習院大学を卒業後、自動車情報ビデオマガジンの制作、自動車専門誌の記者を経てフリーランスのモータージャーナリストとして独立。国籍も大小もカテゴリーを問わず幅広く市販車の最新事情を網羅するとともに、これまでプライベートでもさまざまなタイプの25台の愛車を乗り継いできた。それらの経験とノウハウを活かし、またユーザー目線に立った視点を大切に、できるだけ読者の方々にとって参考になる有益な情報を提供することを身上としている。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:堤晋一