インプレッション
ダイハツ「ムーヴ キャンバス」
2016年10月21日 11:00
試乗を始めてわずか数分、なんだか無性に行きたくてたまらなくなったのが、「ピクニック」だった。にっこりとハッピーなフロントマスクといい、青空に雲が浮かぶようなブルー×ホワイトの2トーンカラーといい、後席の下に隠された驚きの収納スペース「置きラクボックス」といい、これはもうクルマに乗っているというより、大きなピクニックバスケットを抱えて走り出した気分だ。
そんなふうに、「ムーヴ キャンバス」が私をピクニック気分にしたのは、見た目だけでなくダイハツの入念な市場リサーチに基づく造り込みがダイレクトに響いてきたからかもしれない。
というのも、企画・開発段階でダイハツが着目したのは、「近年の女性の行動特性」。“プチ贅沢”や“プチご褒美”なんて言葉が流行っているように、海外旅行に出かけたり高価なブランド品を買うといった大袈裟なことはしない代わりに、金曜日の仕事終わりに美味しいワインを買って帰ったり、休日に近場の日帰り温泉に行くといった“ちょっとした変化”を自分にプレゼントするのが最近の女性たちの行動パターンだ。等身大で無理をせず、ナチュラルに自分のライフスタイルを楽しむ。ムーヴ キャンバスはそんな女性たちをターゲットにしているという。
それに加えて、近年は親との同居世帯が増加傾向にあり、「親と子のカーシェア」が拡大していることにも注目。これはとくに軽自動車ユーザーに多いそうで、オシャレなクルマに乗りたい娘と、使い勝手のいいクルマが欲しい母親が、どちらも納得して共有できるクルマが求められているとのこと。
そんな背景から生まれたムーヴ キャンバスだから、全高はムーヴの1630mmより少しだけ高い1655mmに抑えながら、便利な両側スライドドアを採用するというパッケージを採用。タントのようにピラー内蔵式のスライドドアにしなかったのは、人の乗り降りよりも荷物を積みやすくするのが主な目的だったからだろう。
通常のヒンジドアだと、運転席に乗り込むときに荷物をサッと車内に置きたいと思っても、リアドアの内側に回り込まないといけない。最低でも運転席から3歩ぐらいは横移動する必要がある。でも、スライドドアならわずか1歩。しかも、ムーヴ キャンバスのスライドドアは開口幅が595mmもあるから、大きな荷物でも1歩ですんでしまう。小さな差かもしれないけど、街でちょい乗りをすることが多い女性にとっては、毎回のことだけに大きな差になりそうだ。
そしてスライドドアを開けた後席には、あらゆる荷物をラクに積むための工夫が盛りだくさん。買い物した食品やボトル、洋服などをシートに置くと、走行中に落ちたり倒れたりしないか心配だけど、かといってフロアに置いてしまうのは気が引ける。また、助手席に人を乗せてバッグを後席に置くときも、運転席に座ったまま手を伸ばして届く距離がいい。そんな悩みを解決するためにムーヴ キャンバスに備わるのが、シートの座面下をまるまる引き出しにする置きラクボックスだ。
通常の「ケースモード」では317×272×30mm(長さ×幅×高さ)の引き出しを左右のシートに1つずつ設定。また、引き出しの内側には、パタンと引き起こすだけでバスケットになるユーティリティボックスが付属していて、それを使った「バスケットモード」にすると高さが130mmに拡大される。2Lのペットボトルやホールケーキの箱、花束やお風呂セットまで収まっちゃう。引き出したまま運転席から振り返ると、ちょうど手が届くところにバッグが置けることにも感心した。これがあればラゲッジスペースを使う頻度が減るのではないかと思うほどよくできている。
その一方で、そこはムーヴファミリーでラゲッジスペースもしっかり造られている。後席のスライドは左右分割で240mmとしっかりできるし、後席を最前端にセットすると最大で580mmになる荷室長はタント(560mm)より上。シートバックの前倒しもワンアクションで、フロアにはわずかに段差が残るものの、スーツケースやベビーカーといった大きな荷物もしっかり収まるようになっている。
後席に座ってみると、室内高は1285mmでムーヴ(1280mm)と5mmしか変わらないが、室内長や室内幅はひとまわりゆったりとしており、とてもリラックスできる空間。小学校低学年ぐらいの子供なら立つ余裕はあるし、これだけの収納スペースがあるのだから子育て世代が使っても便利なはずだ。
また、愛着をもってほしいと願ってデザインしたというムーヴ キャンバスの内外装やカラーバリエーションは、若い世代には新鮮に映る一方で、シニア世代にはどこか懐かしさを感じさせるもの。ナチュラル感を活かした通常グレードのほか、メッキ装飾やリアコンビネーションランプのクリスタル化などを施した「メイクアップ」グレードもある。
上級グレードには軽自動車初となるステアリング連動ヘッドライト(AFS)の機能を持つ「Bi-Angle LEDヘッドランプ」が採用されており、ライトの灯体は指輪をイメージして、外周のリングに“3粒”のクリアランスランプがあしらわれ、ジュエリーのような光り方を研究してとても美しく発光するのが自慢とのこと。試乗当日は快晴だったので試せなかったのが残念だが、こういうこだわりが、ただの安っぽい“カワイイ“では終わらない満足感をもたらすポイントでもある。
それに、シンプルに見えるボディのフォルムも、ボディ剛性の確保や空力性能の向上などさまざまな要素を満たすために、デザイナーはかなり苦労したようだ。室内の天井がデコボコしているのはなぜかと聞くと、やはりルーフの補強との折り合いをつけるための工夫で、その形状を活かしたデザインになっていて、よく見ると楕円の模様がついているなど凝った造り。こうしたこだわりが、ほどよい丸みと安定感が絶妙にバランスしたフォルムを実現しているのだろう。
ボディカラーはダイハツが「ストライプスカラー」と呼ぶ2トーンが8色、モノトーンカラーが9色の計17色。パステルカラーだけでなくシックな色味も豊富で、実は男性ユーザーも意識しているとのことだった。
“らしい”雰囲気でゆったりとドライブを楽しめる
さて、気になる走りのほうは、全車で直列3気筒DOHC 0.66リッターの自然吸気エンジンを搭載していることもあり、ムーヴほどの俊敏さやカッチリ感のある乗り味ではない。燃費向上のためか、発進してから30~40km/hあたりで少しモッサリとした加速感になるが、そこからはスルスルとなめらかに加速してくれる。でも、そんな俊敏すぎずガチガチではないところが、ムーヴ キャンバスの雰囲気には合っているなと思う。
ステアリングの操舵感は適度な重さがあって落ち着いているし、コーナーでの挙動もしっとりしていて、ギュンギュン飛ばす気を起こさせない感じ。実際、足まわりにはフリクションコントロールダンパーを採用してバルブ応答性を改善し、安定した乗り心地を重視。フロントのスタビライザーもタントより1サイズ細いものが装着されており、少し速度を上げてもまったく剛性不足を感じることなく、ゆったりとドライブを楽しむことができた。
ただ、後席に座ってシートスライドを最後端にすると、路面のゴツゴツが少々大きめに伝わってくる。そこで中間位置にスライドを動かしてみると、ウソのように乗り心地がよくなった。置きラクボックスに荷物を載せるときは最後端、人を乗せるときは中間ぐらいのシート位置がオススメだ。
そのほかの装備としては、近い将来に装着の義務化が決定したオートライト(これはON/OFFできるけれど)が、ベースグレードのL、L“SA II”以外に標準装備。自車を上空から見たように表示する「パノラマモニター」がダイハツ車で初めて採用されたが、これはパノラマモニター対応ナビのオプション装着が必要となるのが惜しいところ。
また、女性からの要望が多かったというのが、全車にオプション設定されている「簡単脱着&洗えるシートクロス」。確かにクルマの車内で最初に汚れが目立ってくるのがシートだから、丸洗いできればいいのにと感じる女性が多いのかもしれない。とはいえ、脱着が面倒だと結局は付けっぱなしになってしまうのでは? と思っていたら、簡単脱着&洗えるシートクロスを付けた展示車両があって、脱着を試すことができた。
前席と後席のどちらも市販のシートカバーとは違うよく考えられたもので、ほとんど2~3ステップで脱着完了。これなら月に1回ぐらいなら外して洗濯するのも苦じゃないかもしれない。クロスの柄がいろいろあって、取り付けると車内の印象がガラリと変わるから、1台のクルマでいろいろと雰囲気を変えて楽しめそうなのも嬉しい。
食器やカトラリー、テーブルクロスを詰め込み、サンドイッチやフルーツも形が痛まないように収める。最近のピクニックバスケットは、見た目の可愛さと収納の機能がしっかり揃っているものが多い。ムーヴ キャンバスを見て、乗って、使ってみて、私ならなにを載せて出かけようかなと妄想していると、自然とウキウキしていることに気づいた。やっぱりムーヴ キャンバスは、これまでにない新感覚スタイルワゴンというコンセプトどおり、毎日をちょっと楽しくしてくれる、大きな大きなピクニックバスケットだ。