インプレッション
プジョー「308」(クリーンディーゼルBLUE HDi)
2016年10月20日 00:00
本国でポピュラーなディーゼル・モデルをいよいよ日本に導入
日本でのフランス車は、これまでその魅力の半分しかアピールすることができていなかった! いささか衝撃的ではあるものの、しかしこれは必ずしも誇張とばかりは言い切れないフレーズだ。
ヨーロッパの乗用車マーケットでは、そのおよそ半分がディーゼル車。特にフランスはディーゼル車の比率が高い国という話題は、恐らくどこかで耳にした経験があるはず。実際、例えばパリの街角に立って耳を澄ますと、「何だ、ほとんど全部ディーゼルじゃん!」と、そんな事になったりもするほどだ。
こうして、本国ではガソリン車以上にポピュラーなディーゼル・モデルが、しかしこれまで日本には正式導入されていなかった。そう、そんな状況を端的に表したのが、冒頭のフレーズというわけなのだ。
品質や信頼性の点では世界的にも評価の高い、自前のメーカーを多数抱える日本という国。そんな市場の中で、わざわざ何千kmもの彼方から運ばれて来たモデルを選んで貰うためには、もちろんそれ相応の理由が必要というもの。だが、特にフランス車の場合、本国では人気のディーゼル・モデルが選択できないというのは、大いに残念なポイントだった。
そんな理不尽だった状況が、ここに来て大きく改善されることに。日本で販売されるプジョー・シトロエン・グループのラインアップに、多くの最新ディーゼル・モデルが一挙導入されることとなったからである。いよいよ日本に導入されることになったのは、いずれも「ブルーHDi」と呼ばれる最新のディーゼル・エンジンを搭載したモデル。その特徴は、「有害物質を3段階で除去」と説明される、高度な排ガス浄化テクノロジーを採用することだ。
最高2000barの圧力でシリンダー内に燃料が直接噴射されるコモンレール式ディーゼル・エンジンから排出されたガスは、まずは酸化触媒、次いで尿素水溶液を用いた選択還元触媒(SCR)、そしてディーゼル微粒子フィルター(DPF)を通じてその大部分が無害化される。実はこうして「世界屈指の厳しさ」と言われる日本の排ガス基準を、大幅なコストアップなしにクリアできるようになったことこそが、今回の日本導入に繋がったわけなのだ。
スタート直後からトルク感に溢れ、グングン加速!
早速テストドライブを行なったのは、5ドア・ハッチバックとプジョーでは「SW」の名称が与えられるステーションワゴンという2ボディが用意される308。そんな308の「ブルーHDi」モデルには、それぞれターボ付き直列4気筒の1.6リッターと2.0リッター・エンジンが用意される。今回は5ドア・ハッチバックをGT(2.0リッター)で、SWをアリュール(1.6リッター)でチェックした。
全幅は1.8m超と、昨今の“世界標準”を反映するものの、全長は4.2m台と「コンパクト」と表現することが可能な308ハッチバック。ただし、新たにディーゼル・エンジンを搭載したとはいえ、外観から”それ”を認識することはほとんど不可能だ。そのルックスは、フロントにフォグランプが採用されないこと以外は、わずかに1.2リッターながらすでにそのハイパフォーマンスぶりが定評の3気筒エンジン搭載のガソリン・モデル「GTライン」に準じたもの。18インチの大径シューズや左右出しのテールパイプが、スポーティな雰囲気をアピールする。
インテリアでも、シート地が異なるのを除いて装備内容はやはり「GTライン」に準じている。赤いステッチ入りの革巻きステアリングホイールやアルミペダルが、スポーツムードを引き立てる。
1470kgの車両重量は、軽量さが売り物のガソリン・モデル比では180kgもの上乗せ。しかし、そこは2000rpmにして400Nmもの最大トルクを発する心臓を搭載するゆえ、「スタート直後からトルク感に溢れ、グングン加速する」というのが実感だ。組み合わされるステップATは6速仕様ながら、DCTにもヒケをとらないタイトな駆動力の伝達感が小気味よい。同時に、この心臓で特筆すべきは「回転上昇につれてのパワーの落ち込み感が少ない」こと。
ディーゼル・エンジンの場合、「“下”は力強くても“上”が回らない」という印象を放つものが往々にして見当たるが、このモデルの場合は例外的。そんな点からも「GT」というグレード名称に相応しいという印象が強く味わえることになる。
一方、主にフロント部を中心に重量が増したことから心配されたハンドリングは、端的に言って「ガソリン・モデルに対して、ほとんどヒケを感じない」という印象だ。タイトなコーナーを多少追い込んだ程度では、フロントタイヤがだらしなく悲鳴を上げるような状況に陥ることはない。路面凹凸への当たりはややきついものの、総じてフンワリとしたフットワークの感覚も「『GT』の名に負けていないナ」という印象が得られるものだった。
そんなハッチバック・モデルから、前述1.6リッター・エンジン搭載のSWに乗り換える。ホイールベースも全長も増すゆえに、SWの車両重量は同じパワーパック搭載のハッチバックよりも60kg増となる。一方、2.0リッター・ユニットと比較をすると、最高出力で60PS、最大トルク値では100Nmのマイナスとなるのが、こちら普及版である1.6リッター・ユニットの出力スペックだ。
ところが、いざスタートをすると即座に驚かされることに。高出力を発する心臓を搭載したハッチバック「GT」に対し、勝るとも劣らない蹴り出し力の強さを味わわせてくれたのが、こちらのモデルであったからだ。
そんな好印象に気をよくしてさらに深くアクセルペダルを踏み込むと、さすがにそうしたシーンでのパワーの盛り上がり感は大きく差を付けられた。加えれば、スポーツモード選択時に耳に届く、明らかに“電気的な補正”が加えられたまるでV8エンジンのようなサウンドも、「『GT』ではそれなりに似合っていたけれど、こちらではさすがにやり過ぎ」という印象を受けることにもなった。
一方、アイドリング・ストップ状態からの再始動時に、“プルン”と滑らかにエンジンが目を覚ます感覚は、2.0リッターも1.6リッターも同様の好印象。ただし、16インチとより身の丈感にあったと思えるサイズのシューズを履きつつも、路面によってはむしろ「GT」よりも強いボディのバタ付き感を覚えたのは、今回テストした2台がハッチバックとSWというボディ形態が異なった点も関係があるかも知れない。
いずれにしても、「これは長らく待たされた甲斐があったナ!」と、乗れば誰もがそう直感するはずなのが、これらブルーHDiエンジンを搭載したモデル。本場フランスの心臓を手に入れたことになるディーゼル・エンジン搭載のプジョー/シトロエン車は、今後日本でも販売の過半を占めることになっていくかも知れない。