インプレッション

ハーレーダビッドソンのトライク「FREEWHEELER」北海道試乗

2輪とも4輪とも違う、ほかでは得がたい魅力あふれる“3輪のハーレー”

357万2000円~366万4000円

ハーレーダビッドソンのトライク「FREEWHEELER」

 ハーレーダビッドソン ジャパンが9月に北海道で発表した新世代エンジンのミルウォーキーエイト。その搭載車両には、同社の2輪のTOURINGファミリーと、3輪の「FREEWHEELER」が含まれる。後者のFREEWHEELERは、前1輪、後ろ2輪のいわゆる“トライク”と呼ばれるものだ。

 トライクはヘルメット装着の義務がないうえに、普通自動車免許(FREEWHEELERの場合はMT免許。スクーター等オートマチック車両がベースの場合はAT免許)さえあれば運転可能で、所有にあたっては車庫証明の必要もない。2輪のようで2輪でなく、4輪に近いようで全く異なるユニークな乗り物となっている。北海道で開催されたプレス向け試乗会にて、このFREEWHEELERに試乗することができたのでインプレッションをお届けしよう。

最初は戸惑うトライク独特の挙動

 FREEWHEELERが搭載するのは107ci(キュービックインチ、1745cc)のミルウォーキーエイトエンジンだ。派手さはないが穏やかな低音を奏で、粘り強い低速トルクとパワフルな加速を味わえる点は、別記事で紹介している「ULTRA LIMITED」「ULTRA LIMITED LOW」を含むTOURINGファミリーと同様だ。車重は500kgを超えるものの、少し大きめにアクセルをひねれば、重さを感じさせない機敏な走りを自在に引き出せる。

「FREEWHEELER ブラッククォーツ」車体左からの外観
車体右斜め前から
エンジンは新しいミルウォーキーエイト

 前1輪、後ろ2輪のトライクということで、当然ながらオートバイのように足を地面について支えることなく自立する。操作系統は2輪とほぼ同じで、右手でアクセルとフロントブレーキを、左手でクラッチレバーを、右足でリアブレーキ(前後ブレーキ連動)を、左足でシフトアップ・ダウンをそれぞれ操作する。ただし、2輪においてある意味パーキングブレーキの役割を果たしているスタンドが存在しないため、駐車時は左ステップの後ろに設けられた専用のパーキングブレーキを踏み込んで動き出さないようにする必要がある。

後輪タイヤは4輪用。205/65 R15のダンロップ SIGNATURE
ハンドル回りは2輪のそれと全く同じ
左ステップの後ろに設けられたパーキングブレーキ。踏み込んでブレーキをかけ、もう1度踏み込んで戻すことでブレーキ解除となる

 リバースギヤも用意されている。ギヤをニュートラルに入れ、ハンドル左のスイッチボックスにあるボタンを押し続けることで後退することが可能だ。操作・機能面で2輪のオートバイと異なる主な点は以上で、あとは実際に操縦した時の乗り味がどうか、というところだが、これが想像以上に2輪とも4輪とも異なっている。

 まず、乗り味において2輪と最も違うところは、振動が単純な上下動に加え、回転方向(ヨーとロール)にもあるということだ。2輪の場合、例えば直線走行時は前後輪が同一軸上に存在するため、路面の凹凸によって前後輪で別々の動きをすることはあっても、基本的には上下動として感じるだけ。しかし、トライクでは後ろの2輪が左右に離れ、前輪とは異なる軸上に配置されていることから、路面の左右方向への傾きや左右で別個に現れるギャップに反応し、これらが回転方向の揺れとして伝わってくることになる。

 考えてみればあたり前のことだ。けれど、2輪の上下動が平面の2次元的なものだとすれば、3輪のトライクはもう1次元別の動きが加わっているわけで、これだけで2輪とは大きく乗り味が異なり、全く別の乗り物であることを再認識する。さらに、舗装路面では多くの場合、側溝へ向けて排水するための横断勾配が設けられているが、トライクではこの勾配の存在を2輪の時よりも意識せざるを得ない。横断勾配が少し強い路面では、まっすぐ走行しているにもかかわらず、ごくわずかに山側に重心を寄せ、ハンドルも気持ち山側に切っているような状態となる。

フラットな直線を走っていても、横断勾配を強く意識することがある

 トライクは2輪よりも転倒のリスクがずっと低いことはたしかだ。しかし、だからといってそれが必ずしも2輪より楽に乗れる、ということは意味しない。転倒しないようにバランスに気を配る緊張感からは解放されるし、信号待ちで足をわざわざ付く必要がないのはトライクの快適さの1つの要素ではあるけれど、3輪には3輪ならではの意外にハードな部分が存在することはぜひ覚えておきたい。

 ハードさということで言えば、ハンドリングも2輪や4輪とはやはり異なり、注意しておきたいところもある。ハンドルの構造自体はもちろん2輪と全く同じではあるものの、2輪のように車体を傾けて曲がることはできないので、ハンドルを切って曲げていくことになる。というか、むしろハンドルを左に切れば車両は遠心力で反対方向の右前方にわずかに傾くし、右に切れば左前方に傾く。前1輪で、ライダー自身が直立姿勢で座っているため、コーナリング時のヨーやロールの感覚は4輪よりも感じやすい。

 そのため、慣れないうちはコーナリングでどのような姿勢を取ればいいのか迷うかもしれない。決してコーナリングが難しいわけではないが、コーナーの内側に向けて身体を気持ちばかりリーンインさせ、その内側のお尻をシートを押しつけるように踏ん張るのを意識し、遠心力や車両の姿勢変化に戸惑うことなくスムーズに曲げていきたい。

ミルウォーキーエイトと良好な車体バランスで、2輪以上のパフォーマンスを引き出せる

 こうしたトライクの特性を踏まえ、改めてFREEWHEELERという車両を見てみると、新しいミルウォーキーエイトエンジンが3輪という構造において不安に感じそうな部分を上手にカバーしてくれているように思う。凹凸が多い路面では車両がバタバタすることでアクセル操作にも影響してしまいそうだが、過剰な敏感さがないエンジンであるため、微妙にアクセル操作がぶれてもぎこちない挙動を見せることはないし、よく動くリアサスペンションによって接地感を身体で把握しながら、意図した通りの駆動力を路面に伝えることができる。

ウインドスクリーンやカウルはなく、全身に風を浴びながら走る
単眼のアナログスピードメーター。その中に配置されたデジタル表示の液晶ディスプレイでタコメーターやギヤインジケーター、オド・トリップなどを切り替え表示する
体重移動の妨げにならない、少し張りのあるスポーティなシート。

 背中側にやや体重を預けて楽に座れるホールド力の高いシートではあるが、コーナリングでは左右に腰を移動して体重移動する際の妨げにならず、内側後方に踏ん張る力も入れやすい。コーナー外側方向に働く遠心力は常に感じているものの、たとえうまく身体を動かせずハンドルを力ずくで曲げて車体をコントロールしているような状態であっても、つんのめって転倒しそうな不安はない。ここでもきっちりサスペンションが仕事をしていると感じるし、エンジンを含めた車体の重心やディメンションのバランスのよさを実感するところでもある。単に2輪にもう1つ車輪を加えて3輪にした、というモデルではないのだ。

 コーナリング時は外側のハンドルが遠くなるので、小柄な人だと操縦は決して楽ではないと思う。けれど、低回転かつ高いギヤでもノッキングを起こしにくいミルウォーキーエイトエンジンのポテンシャルを活かすことで、回転数やギヤポジションをあまり意識せずともメリハリをつけて気持ちよくコーナーを走り抜けられるから、操縦のしにくさがそのまま走りに影響することはあまりない。きっとほとんどの人が、2輪や4輪では得られないトライク独特の面白さを実感するはずだ。リズムよく走れるようになれば、ワインディングでは2輪と同等かそれ以上のペースで走ることも可能だろう。

 ただ、特に2輪に乗ることの多いライダーは、インに寄りすぎたりアウトにはらんでしまったりするので注意したい。なぜなら、2輪の感覚で操縦すると後部の車幅が大きいことを忘れてしまいがちで、気がついたら後輪が路側帯や反対車線にはみ出していることもあるからだ。マスツーリングに慣れた人だと、前後のオートバイが千鳥走行している時に、それに合わせて車線の左右どちらかに寄りたくなるが、それも要注意。4輪と同じように車線の中央を走ることを心がける必要がある。

穏やかなエンジン特性と車体バランスのよさによって、凹凸の多い路面も戸惑うことなく走り抜けられる

日常の足や日帰りツーリングでも活躍するスポーティな1台

 FREEWHEELERで唯一物足りないと感じたのは、ABS非搭載であること。2輪におけるABSは転倒防止の側面もあり、フルブレーキしても転倒の可能性がまずないFREEWHEELERでは不要、という判断があったのかもしれないが、多くのライダーが制動距離を最短にできるという意味では、やはりABSは欲しくなる。とはいえ、リアブレーキ操作時は前後連動ブレーキとなり、独立動作のフロントブレーキのみを握るより効率的に減速できる仕組みになっているのはありがたい。

タンデムシートの部分はあまり長距離ツーリングには向かなそうなシンプルなタイプ
しかしタンデムステップは少し大きめで、楽に足を預けられる
トランク容量は60L。この手の車両にしては控えめで、全体的に軽快感がある

 タンデムシートは背もたれのないシンプルな形状で、トランク容量も60Lと控えめ。ウインドスクリーンやカウルはなく、しかも単眼メーターで、必要最小限の装備に止まっている。泊まりがけの長距離ツーリングよりも、日帰りツーリングや街乗りに使うのに向いているだろう。全身で風を切りながら走るスタイルは2輪の楽しさを再現しており、コンパクトなスタイリングによって積極的に身体を動かしながらスポーティに走れるモデルにもなっている。FREEWHEELERは、2輪のエッセンスとトライク独特のフィーリングという両方の特徴を、ミルウォーキーエイトというエンジンで高次元にまとめ上げた1台と言えるだろう。

日沼諭史

日沼諭史 1977年北海道生まれ。Web媒体記者、IT系広告代理店などを経て、現在は株式会社ライターズハイにて執筆・編集業を営む。IT、モバイル、オーディオ・ビジュアル分野のほか、二輪や旅行などさまざまなジャンルで活動中。著書に「できるGoPro スタート→活用 完全ガイド」(インプレス)、「はじめての今さら聞けないGoPro入門」(秀和システム)、「今すぐ使えるかんたんPLUS Androidアプリ大事典」(技術評論社)などがある。2009年から参戦したオートバイジムカーナでは2年目にA級昇格し、2012年にSB級(ビッグバイククラス)チャンピオンを獲得。所有車両はマツダCX-3とスズキ隼。

Photo:高橋 学