インプレッション
アバルト「124 スパイダー」(サーキット試乗)
2016年11月8日 06:00
“広島生まれのイタリア車”、それがアバルト「124 スパイダー」というクルマだ。マツダの現行「ロードスター」をベースとして、エンジンやエクステリアを大幅に変更。かつて存在していた「124 スパイダー」の面影をどこか感じさせる仕上がりになっている。一方のインテリアに関しては、赤く染められたタコメーターを使い、ロードスターよりも太めのステアリングに変えるだけに留まっている。
だから、乗り込んでみるとほとんどロードスターそのまま。ちょっとしたチューニングモデルぐらいにしか感じることはない。だが、エンジンを始動させた瞬間にそんな残念な気持ちは吹き飛ぶ。いかにもアバルトらしい野太い鼓動を奏でるエキゾーストノートは、爽快さを追求した自然吸気エンジンのロードスターとは明らかに違う。
搭載されるマルチエアエンジンはカムシャフトで駆動せず、電子油圧バルブを利用してインテークを制御。ポンピングロスを低減するエコな一面を持ちつつ、パワフルにも走れるエンジンだ。スペックは排気量が1.4リッターにも関わらず、ターボを追加することで最高出力125kW(170PS)/5500rpm、最大トルク250Nm(25.5kgm)/2500rpmを実現。車重に関してはロードスターよりも少し重く、6速MTで1130kg、6速ATで1150kgとなっている。
走り出せば明らかにトルクフル。低回転からいかにもリアから蹴り出す感覚が得られ、ロードスターよりも重ためのシフト(ロードスター 1.5リッター車のトランスミッションとは違うもの)をラフに2速へと叩き込めば、キュッとスキール音が出てしまうくらいのジャジャ馬ぶり。ロードスターとは明らかに違う加速を見せる。レブリミットは6600rpmと低めだが、テンポよくシフトチェンジして加速を重ねていける感覚はなかなか。一般道を試した限りでは、速さはロードスターというより、むしろ86&BRZと同じくらいの感覚か!?
その速さに対応するためか、足まわりはかなり引き締められた感覚が強い。乗り心地やしなやかさを大切にするようなタイプではなく、とにかくキビキビとした応答を求めようというアバルトらしさが滲み出ている感覚だ。また、ブレーキも対向キャリパーを備えるなど、ブレーキタッチやストッピングパワーに関しても国内仕様のロードスターとは明らかに違う。ストリートだけで楽しむには有り余るスペックである。ストリートにおける使い切り感覚を重視したかに思えるロードスターとは、まるで違う方向性なのだ。
シャシーが一緒でもまるで違うクルマ
そこでサーキットで試すことにしたのだろう。試乗会で準備されたステージは富士スピードウェイである。ノーマルのまま走ってどこまでいけるのか? 走り始めてみれば、いきなり180km/hでスピードリミッターが作動。「イタ車なのになぜ?」なんてじれったい思いをしたが、まぁそこは混血なんだから許す。しかし、それ以外はかなりバランスよく走るものだと感心する。
ストリートでは若干ハーシュネスが強めだと感じていた足まわりも、高荷重がかかる状況になればちょうどよく動いてくれるから心地いい。サーキットではジワリとクルマが動き、確実なトラクションを生み出してくれる。やや旋回ブレーキでスナップオーバーステアが出やすい特性はロードスターっぽいが、その後のコントロール性はなかなか。その気になれば、トルクフルだからドリフトだって維持が可能。速さに関してはタイム計測ができなかったものの、スピードリミッターがかかる位置が86と同じようなところだったと言えば想像がつくだろう。街乗りで感じていた86&BRZに近い感覚だというのも、あながち間違いじゃなさそうだ。
つまり、このクルマはロードスターとは別物ということだ。“広島産でイタリア車”という異色のクルマだが、やはり「アバルトのエンブレムを掲げるだけのことはやってくれたな」というのが正直な感想だ。
86&BRZも全く同じといっていいコンポーネントを使いつつ、それぞれに違ったテイストを実現しているが、ロードスター&アバルト 124 スパイダーはその上をいく違いをハッキリと示していたことが嬉しい。今後、台数が見込めないスポーツカーのジャンルでは、このクルマのようにメーカーの垣根を超えたコラボレーションを展開することが増えてくるだろう。そんななかにあって、まるで違うオリジナリティを出せたアバルト 124 スパイダーは、今後のスポーツカー造りにおいて、「シャシーが一緒でもまるで違うクルマを造れますよ」ということを示した好例になりそうだ。それぐらい、ロードスターとアバルト 124 スパイダーは別世界を実現している。