インプレッション
ランドローバー「イヴォーク コンバーチブル」
2016年11月30日 06:00
独創のエクステリアデザイン
オープンボディのSUV――そんな大胆モチーフを、量販モデルの世界で具現化させたのが、2015年末に開催されたロサンゼルス・モーターショーでアンベールされたこのモデル。
日本では2016年の秋から765万円という価格で導入。ただし、今回テストドライブを行なったのは、ブラインドスポットモニター&リバーストラフィックディテクションや、レーンキープアシスト、自動緊急ブレーキなどから成る「ラグジュアリーパック」や「ブラックデザインパック」、アダプティブLEDヘッドライトやマッサージ機能付き電動調整式14ウェイフロントシートなど、軽く200万円超分のオプション・アイテムが加えられた、総額980万円に迫ろうという豪勢なモデルだった。
イヴォーク コンバーチブル最大の魅力。それはもちろん、「独創の」と表現するしかない、斬新かつスタイリッシュなエクステリアデザインにある点に異論を持つ人はいないだろう。
高い地上高と大径シューズを用いた、いかにもSUVらしく厚みのあるロアボディに、いわゆる“チョップドルーフ”を思わせる薄いキャビンという組み合わせは、そもそもイヴォークというモデルが備え持つ特徴的なルックス。
そのルーフ部分を大胆にカットした上で、新たにソフトトップを採用したこのモデルの場合、ベース車両の個性を生かしながら、ルーフが閉じた状態でもオープン状態でもさらに斬新なルックスを実現させている。こうして魅力的なスタイリングを、実は意外なほどに高い実用性と両立させている点も見どころだ。
外観から察する限り、とても大人の実用には耐えそうになく思える後席も最低限のニースペースが確保されるとともに、シートバックにもそれなりの後傾角が与えられ、実は長時間でなければ大人が過ごしてもさほど苦痛ではない。開口部が垂直になってしまうが、高さも奥行きも思ったより大きなトランクスペースも、相当量の荷物を飲み込んでくれる……といった具合である。
欧州にはディーゼル・エンジン仕様も用意されるものの、日本向けのパワーパックは従来の3ドア/5ドアモデルと同様の、最高出力240PSを発する2.0リッターのターボ付きガソリンエンジン+9速ATという組み合わせのみ。もちろん4WDシャシーを採用し、「アプローチ/ディパーチャーアングルが19°/31°で渡河限界が500mm」などとなかなか高度なオフロード性を謳うのは、こうしたファッショナブルなモデルであってもさすがはレンジローバーの作品だ。
前述のように、パッケージングとしては意外にも高い実用性を確保する一方で、狭いスペース内での使い勝手は3ドアボディを備える「クーペ」と同様に、決して優れるとは言い難い。ドアの前後長が大きく、楽に乗降するためにそれを広い角度で開くには大きなスペースが必要なのがその要因。もっとも、後席にアクセスする場合は頭上高が“無限大”となるので、ルーフを開いているととてもラク! といったオープンモデルならではの副産物(?)も皆無ではないのだが。
ヒップポイントに対して相対的にフロントのカウルトップとサイドのベルトラインが高く、それゆえ全方向でボディ直近の死角が大きめなのは、ベースモデルの場合と同様。こうして、視界の点ではいま1つ解放感に欠けるのも、まずはルックスこそが最優先と思えるこのモデルの場合には「個性的テイストの一部」と好意的に受け取るべきなのかも知れない。
乗り味はオープン状態の方がスッキリ?
Dレンジを選択し、アクセルペダルを踏み込めばそれなりの力強さが得られるものの、それでも加速の軽快感は既存のイヴォークほどではない。3ドアボディ比では、その車両重量が260kgほどの大幅増になっていることが無関係ではないだろう。ルーフ部分のカットにより“殻”としての構造が成立しなくなる分の補強と、大きな電動ソフトトップを架装することなどによる影響は、やはり小さくはないということだ。
一方で、「もしかするとそうした重量増がポジティブな方向に働いたかな」と思えたのはフットワークのテイストだった。サスペンションの動きは、むしろ既存のクローズドルーフの持ち主よりもしなやか。しっとり感が増した乗り味は、こちらの方が上質とさえ受け取れるものであったのだ。加えれば、そうした印象はルーフを閉じた状態よりも、実はフルオープンにした方がより好ましく思えた。
補強を加えたとはいえ、それでもどうしても剛性の低下が避けられないはずのボディが生み出すしっかり感は、ルーフを閉じた状態の方がむしろやや緩く思えたのだ。キャビン内にこもるドラミング的な空気の振動感も、同様にルーフ閉じの方がこもり気味。かくして、その乗り味はオープン状態の方がスッキリと感じられたのだ。
後方からの不快な風の巻き込みを防ぐウィンドディフレクターはメーカーオプションの設定。しかし、そうしたアイテムを用いずとも、サイドウィンドウを上げていれば100km/h程度まではキャビン内は「平和」に保たれることが確認できた。何よりも、フロントシート背後に“ついたて状”に設置されるこのアイテムは、せっかくのスタイリッシュさを大きく阻害してしまうもの。日本の常用速度域では、これはまさに無用の長物と言って差し支えなさそうだ。
一方で、走行中でも約50km/hまでの速度ではトップの開閉動作が継続できるというのは、随分とありがたく感じられる機能だった。このモデルのソフトトップは可動部分が大きいため、開方向には18秒、閉じ方向には21秒と、動きが完全に完了するまでにはそれなりの長い時間を要する。
実は、「SUVでもオープンボディ」という同様のアイデアをより早く実現させたのは、日産自動車発の「ムラーノ クロスカブリオレ」というモデルだった。こちらも同じくロサンゼルス・モーターショーでのデビュー。しかも、そのタイミングはイヴォーク コンバーチブルよりも5年も早い2010年のことだった。
ただし、率直なところそのスタイリングはいま1つ魅力に欠け、実際に販売もたちまちにして終了してしまった。そんな状況を傍目に見ていたに違いないランドローバーは、まさに満を持してイヴォーク コンバーチブルを登場させたことになる。それもあって、レンジローバー最新の作品でもあるこのモデルの今後の成り行きは大いに注目したい。
もちろん、決して多くの台数が売れる類のモデルでないのは想定内。けれども、これほどに「クルマの世界を面白くしてくれるモデル」には、ぜひとも末永く生き残って行ってほしいのである。