インプレッション

フォルクスワーゲン「ティグアン」(2代目)

 フォルクスワーゲンの中堅SUVであり、フォルクスワーゲン グループ ジャパンの2017年シーズンを切り開く第1弾が「ティグアン」だ。ティグアンはC/Dセグメントに属するSUVでサイズ感も手ごろなところから、地味だが根強い人気がある。従来モデルからフルモデルチェンジされて新型となったティグアンだが、これまでのコンセプトは変えておらず、いかにも欧州車らしいモデルチェンジで、外観の印象はどこから見てもフォルクスワーゲン ティグアンである。

 さて、ざっと新しいティグアンを紹介しておこう。クルマの骨格となるプラットフォームは、フォルクスワーゲン得意のモジュールコンセプト「MQB」で作られる。サイズとして全長で70mm長い4500mm、全幅では30mm広い1840mmでひと回り大きくなっているが、実は全高が逆に35mm低くなっているために大きくなった印象はそれほどない。デザインのイメージは共通しているものの、エッジの効いたサイドラインなども効果的に入れられ、グンと締まって新鮮さを感じさせる。ホイールベースは70mmも伸ばされて2675mmとなっている。それだけでも安定性や居住スペースの向上が想像できる。実際に室内長は26mm長くなっている。

フルモデルチェンジで2代目となったティグアン。グレードはTSI ハイラインでボディサイズは4500×1840×1675mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2675mm
LEDヘッドライトはTSI ハイラインとR-Lineに標準装備。TSI コンフォートラインはオプション設定
キーを持ってリアバンパー下で足を動かすとテールゲートが電動オープンする「Easy Open&Easy Close」は、「パワーテールゲート」とセットでTSI ハイラインとR-Lineにオプション設定
ピレリのオールシーズンタイヤ「SCORPION VERDE」を採用。タイヤサイズは235/55 R18
パワートレーンは全車共通で、110kW(150PS)/5000-6000rpm、250Nm(25.5kgm)/1500-3500rpmを発生する直列4気筒DOHC 1.4リッターターボとデュアルクラッチトランスミッションの6速DSGを組み合わせる。JC08モード燃費は全車16.3km/L

 エンジンは、従来は2.0リッターターボと1.4リッターターボ+スーパーチャージャーだったが、新型では1.4リッターターボ1本に絞られた。この1.4リッターエンジンは「CTH」型から「CZE」型に変わり、ボア×ストロークも異なる新世代のダウンサイジングエンジン。110kW(150PS)/5000-6000rpm、250Nm(25.5kgm)/1500-3500rpmを発生する。重量が従来よりも軽量であることはもちろんだ。

 1.4リッターエンジンは回転が硬質で滑らか。エンジン振動が抑えられているのでざわざわした音が少なく、静粛性も優れて好感が持てる。ボディサイズは大きくなっているが、実は車両重量は1540kgで従来と変わらない。MQBコンセプトの効果などで軽量化も進み、これだけ装備品が多くなっているのにも関わらず重量増を抑えられたのは立派だ。

 このため、出力としては1.4リッターターボで十分。トルクフルなエンジンで低回転から粘り強く加速していく。エンジンのトルク特性は全域で太いトルクを出すようになっており、中間加速もスムーズで力強いのが特徴で、追い越し加速も不足はない。

 試乗したR-Lineは最上級で、かつちょっとスポーティなグレードだ。タイヤはべーシックなTSI コンフォートラインの215/65 R17から、ぐんと大きい255/45 R19という大径タイヤを装着する。

 このタイヤは試乗時にエア圧が規定より高かったこともあり、しっとりと路面にコンタクトするというよりも、ガツンとしたグリップ感を重視したフィーリングだった。そのため、路面のアンジュレーションでもステアリングのスワリがやや劣っていた。また、乗り心地も路面からの反発力が少し高い。リアシートは座面も含めてフラットで硬めの設定(これはこれで使いやすいが)なので、フロントよりも突き上げが大きい。ドイツ車は走行距離が延びると次第になじみが出てくるものは多いが、ティグアンもその例に倣っているのかも。

R-Lineではコンチネンタルの「ContiSportContact 5」を標準装備。タイヤサイズは255/45 R19
外装のフロントグリルやフロントフェンダーなどにR-Lineのバッヂを装着
専用表皮を使うシートやステアリングの下側スポークなどにR-Lineのバッヂを装着。ステアリングは全車レザー仕様
R-Line専用デザインのステンレスドアシルプレート
アルミ調ペダルクラスターを専用装着

 ちなみに、ドライブのシーンに応じてエンジンやトランスミッションの特性を変えられる「ドライビングプロファイル機能」はR-Lineに標準装備されており、さらにダンパーの減衰力を好みに応じて変えられる「DCC(アダプティブシャシーコントロール)」はTSI ハイライン以上にオプション設定となる。

 ドライブモードの「スポーツ」と「コンフォート」では明確に差が付けられており、街なかではコンフォートの腰のある快適さが好ましい。スポーツはハイスピードになるとロールも少なく安定したコーナリングを誇るが、それ以外では硬いと感じられた。ただ、これらも装着するタイヤのサイズによって、17インチのTSI コンフォートラインや18インチのTSI ハイラインではフィーリングが異なるだろう。

 また、エンジンノイズ、ロードノイズはかなり抑えられており、静粛性の向上は目をみはるばかりだ、音は疲労に直結する。この軽減の効果は大きい。燃費技術に関しては「気筒休止システム(ACT)」「ブレーキエネルギー回生システム」「アイドリングストップ」などの採用で、JC08モード燃費は従来モデルの14.6km/Lから16.3km/Lに向上しており、SUVとしては期待できそうだ。

左がティグアン R-Line(ピュアホワイト)、右がティグアン TSI ハイライン(ディープブラックパールエフェクト)
ティグアン TSI ハイラインのインテリア。内装色は専用オプションのサフラノオレンジ

 キャビンに乗り込むと、インテリアには新型らしい華やかさがある。最初に気づくのはAピラーの位置が立ち気味になっており、斜め前方視界が広がっていることだ。また、スカットルの位置も低いので直前視界も優れている。このため、アップライトに座るドライビングポジションと合わせてフェンダーラインが見やすくなっており、サイズアップされたボディだが、実際の使い勝手は向上しているように感じられた。

 トランスミッションはフォルクスワーゲングループ得意のデュアルクラッチトランスミッションである6速DSG。微低速でのコントロールはアクセル操作にデリケートさを求められるが、通常走行では変速の速さも素晴らしく、滑らかだ。中間加速での変速もトルクバンドの広いエンジン特性と相まって、適切なギヤを選択してリズミカルで小気味よい。

TSI ハイライン(写真)とTSI コンフォートラインはステアリングのスポーク部分が光輝ブラック塗装になる。TSI ハイラインはステアリング裏側にパドルシフトを装備する
パーキングブレーキはオートホールド機能を備える「エレクトリックパーキングブレーキ」を全車で採用。運転席足下はアクセルとブレーキの2ペダルとなる
レザーシートはTSI ハイラインのみにオプション設定
オプション装備に合わせてドアトリムにもサフラノオレンジ色のレザートリムが使用される
リアシートは6:4分割で前後に180mmスライド
ラゲッジスペースの容量は、初代の470Lから615Lに拡大。さらにリアシートを前方に倒して最大1655Lまで拡張できる

“フォルクスワーゲンらしい硬質さ”に一体感が加わった

 ハンドリングは軽快で、フットワークはSUVとは思えないもの。ちょっと残念なのは、今回導入されたティグアンはすべて2WD(FF)で、4WDの「4MOTION」は導入時期が未定であることだ。しかし、FFのフットワークのよさには高い完成度が見られる。ちなみに最低地上高は従来モデルと変わらない180mmであり、悪路や深雪などでの走破性に有利だ。SUVの美点は全天候性にあるが、ティグアンはその素質を十分に備えていると言えるだろう。

 日常的なドライブでは軽快で安心感のあるハンドリングが特徴で、まさに「ゴルフ」にも通じるものだ。従来のティグアンはいかにもフォルクスワーゲンらしい硬質な味わいあるSUVだったが、新型ではこれに一体感が加わってタフな感触がある。

 19インチタイヤを履くR-Lineのトレッド幅はフロント1590mm、リア1580mmで、従来モデルの前後1575mmよりも広げられている。ロングホイールベースになっているが最小回転半径は5.4mと小さく、SUVらしい小まわり性を見せる。従来のティグアンは5.7mだったから、操舵力が軽くなって滑らかになったロック・トゥ・ロック2.5回転のステアリングは、オフロードだけでなく市街地でもかなり機動力が上がっている。

 フォルクスワーゲンの安全コンセプトは「オールイン・セーフティ」とネーミングされている。多くのメーカーが提唱するように、予防安全、衝突安全、そして二次被害防止装備から成り、ティグアンには最新の装備が与えられている。全車速追従機能付きの「アダプティブクルーズコントロール(ACC)」や渋滞時の追従支援機能となる「トラフィックアシスト」、歩行者検知対応の「シティエマージェンシーブレーキ」、意図しない車線逸脱時にステアリングを自動修正する「レーンキープアシスト」、衝突時にボンネット後端を50mm持ち上げて歩行者などを保護する「アクティブボンネット」、エアバッグと連動して自動ブレーキを作動させて二次被害を防ぐ「ポストコリジョンブレーキ」などなど、新世代の安全システムは進化が目覚ましい。

フロントグリルのブランドロゴ内に設置されたレーダーセンサーで歩行者や先行車を検知して危険の回避、被害軽減などを行なう「プリクラッシュブレーキシステム」を全車標準装備。レーダーセンサーは約120mまでの範囲を測定可能
車線からの逸脱を抑制する「レーンキープアシスト」(左)、エアバッグの作動後に自動的にブレーキを効かせて車速を低下させる「ポストコリジョンブレーキ」(右)などの先進安全装備を用意している
2016年6月に発売された「パサート GTE」に続いて導入されたデジタルメーター「アクティブインフォディスプレイ」。12.3インチ(1440×540ピクセル)のTFT液晶ディスプレイにカーナビの地図やドライバーアシスタンス機能など各種情報を表示できる

 さて、キャビンも全体的に刷新されてスマートになったが、TSI ハイライン以上のメーターには「アクティブインフォディスプレイ」が標準装備され、カラーディスプレイによってカーナビなどの多彩な情報をドライバーの前に出すことが可能になった。例えばオフロード走行時などはタイヤの切れ角が視覚的に分かり、雪道などで利便性が高い。また、ヘッドアップディスプレイもオプションで選べる。視線の移動が少なくなって安全性に貢献する。

 フロントシートの背面に設けられたテーブルは大型化され、リアシートのパッセンジャーにはなにかと便利だ。ついでに言うと、後席はゆったりしたスペースを持ち、「3ゾーンフルオートエアコンディショナー」で前席とは独立した温度調整が可能だ。

 もう1つ。新しいティグアンでは“つながるSUV”を謳っており、カーナビの検索機能が飛躍的に向上するだけでなく、携帯端末やWi-Fiルーターを介して優れたコネクトビリティを発揮し、便利な情報を得ることができる。実際にこの快適さを経験するとハマる。

車速やカーナビのターンバイターン案内、ACC設定などをプロジェクターで映し出すヘッドアップディスプレイはTSI ハイラインとR-Lineにオプション設定
純正インフォテイメントシステム「Discover Pro」は「Car Play」「Android Auto」「MirrorLink」に対応。スマートフォンと接続してインターネット経由の最新情報、音声入力機能などが利用できる
後席頭上のさらに後方まで開く電動パノラマスライディングルーフはTSI ハイライン専用のオプション装備
後席でも温度調整できる「3ゾーンフルオートエアコンディショナー」は全車標準装備。運転席と助手席、後席左右を温めるシートヒーターはTSI ハイラインとR-Lineで標準装備する

 最新の技術をまとって登場した新型ティグアン。360万円がスタ-トプライスだが、装備の充実したTSI ハイラインは433万2000円で、このモデルがお薦めグレードになるだろう。

日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員/16~17年日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。

Photo:堤晋一