インプレッション

スズキ「ワゴンR」(2017年フルモデルチェンジ)

強敵ひしめく中での新型ワゴンRの魅力

 ハイトワゴン軽の元祖として、パワフルなターボモデルやドレスアップなどのトレンドを作り、男性“も”胸を張って乗れる軽自動車のトップを走り続けてきたスズキ「ワゴンR」。でも、いつの間にやらその座は本田技研工業「N-BOX」やダイハツ工業「タント」といったスーパーハイトワゴン軽に押し出され、ここ数年は年間の新車販売台数ランキングでも下位に沈んでいた。

 ただ、ワゴンRの人気が低迷したのかというと、そうではなさそうだ。中古車流通大手のガリバーが発表した2016年の販売台数ランキングでは、タントに次いで堂々の2位。そしてスズキ調べでは、2016年末までの保有台数ランキングでも約280万台で軽自動車1位だ。初代が登場した1993年から20年以上にわたる功績が、確実に「ワゴンRブランド」を浸透させ、まだまだユーザーに必要とされる存在であることを物語っている。

 スズキは、ジリジリと人気が後退していた「アルト」でも、2014年末のフルモデルチェンジで渾身の新型を生み出し、イッキに販売台数をトップ3にまで復活させたばかり。「よいクルマを作れば、必ずユーザーは帰ってくる」ことはアルトで実証済みだ。もちろん6代目となった新型ワゴンRからも、復活を狙う気迫が伝わってくる。ダイハツ「ムーヴ」やホンダ「N-WGN」、そしてけっこうワゴンRからユーザーが流れたのではと感じるスズキ「ハスラー」など、強敵ひしめく中でどんな魅力を打ち出してきたのか、とても楽しみに初試乗へと臨んだ。

 アルトやハスラーの大成功でも分かるように、まず大事なのはデザイン。乗る前にどれだけユーザーの心をつかめるかが、最近のクルマでは売れる・売れないの第一関門になっている。新型ワゴンRはその点、かなりの気合を感じた。「機能性とデザイン性の両立」をテーマに掲げ、新定番/スタイリッシュ/ストロングと3タイプものデザインを用意。そのどれもがドッシリとした頼もしさと、シンプルながら威張りの効く存在感をまとっている。ワゴンRらしい道具感がモダンに上質になって戻ってきた印象で、グッと心をつかまれた。

 サイドから見ても、前部分をパーソナルスペース、後部分を実用スペースと位置づけ、それが重なるBピラーまわりのボディパネルが斜めにカットされているのが個性的。低めの位置に戻ったリアコンビネーションランプも、横長のワゴンRらしいデザインとなっている。

 また、カラーはフレッシュなイエローやミリタリーっぽいカーキ、金属の質感がスポーティなオレンジメタリックなど3つの新色を含め、計13色と豊富。流行りの2トーンが設定されなかったのは女性として少し残念ではあるが、これも我が道をゆくという潔さの表れなのかもしれないと思う。

新プラットフォーム「HEARTECT」採用

軽量化と高剛性を目指した新プラットフォーム「HEARTECT(ハーテクト)」

 そして次に気になるのは、軽自動車初搭載となったマイルドハイブリッドを筆頭に、新型ワゴンRの走りがどう進化しているのか。“走り”とひと口に言っても、幅広いユーザー層をカバーしなければならないワゴンRだけに、運転しやすさも、燃費のよさも、滑らかさや静かさ、高速走行の快適性、そしてパワフルな加速と、求められる要素はとても多い。

 今回、新型ワゴンRは「スイフト」から始まったスズキの新プラットフォーム「HEARTECT(ハーテクト)」を採用し、基本性能から見直してきた。HEARTECTの主な特徴は、強度的に不利となる骨格の屈折や継ぎ目をなくし、最短距離で滑らかにつないだ構造となっていること。先代のアンダーボディと比べると、前後の段差や左右の骨格のつながりが緩やかに、スッキリとしているのが分かる。

 そして軽量で強度の高い超高張力鋼板を、重量比で先代の約2倍となる17%使用し、サスペンションも新設計。2WD車はリアがトーションビーム式に変更され、高剛性化と軽量化を両立している。こうした抜本的な改革と、それに付随する各部の部品見直しなどで、車両重量は先代比で20kg減。これはマイルドハイブリッドを搭載したターボの最上級モデル「スティングレーHYBRID T」でも、先代の最上級モデル「スティングレー T」より20kg軽くなっており、シリーズ全体で達成していることが分かる。

 高剛性化と軽量化というベース部分をレベルアップしたうえで、新型ワゴンRが搭載してきたマイルドハイブリッドは、むやみに過剰なバッテリーやモーターを用いるのではなく、ISGと呼ぶモーター機能付き発電機と、助手席下に搭載できるほど小型のリチウムイオンバッテリーで、主に街中を走るシーンや渋滞時などでの燃料の無駄使いを抑えることに特化したシステム。発進時や停車寸前にモーターによるクリープ走行が最長10秒間できたり、約100km/hまでの加速時に最長30秒間のモーターアシストができるのが特徴だ。もちろん、約13km/h以下でエンジンが自動停止するアイドリングストップ機能もセットとなる。

助手席下に用意されるアンダーボックス。そのボックスの下に小型のリチウムイオンバッテリーがレイアウトされる

 マイルドハイブリッドは自然吸気エンジンとの組み合わせのみならず、ワゴンRスティングレーにターボエンジンと組み合わせたモデルを最上級グレードとして用意。ベースグレードはマイルドハイブリッドなしの自然吸気エンジンとなるが、燃費は26.8km/Lで、自然吸気エンジン+マイルドハイブリッドがトップの33.4km/L、ターボエンジン+マイルドハイブリッドが28.4km/L(すべて2WDの数値)を達成している。

3台に試乗

 試乗はまず、最上級グレードとなるワゴンRスティングレーの「HYBRID T」からとなった。運転席に座ると、センターパネルを挟んで両端までストレートに伸びる2本の赤いラインや、ワイドでクッキリとしたセンターメーターが、ピリリと大人っぽいコクピット感。硬めのファブリックシートにはさりげなくハニカムグリル柄があしらわれて、刺激的な走りの予感を匂わせる。スタートボタンで始動すると、「ウー」と低いアイドリング音が小さく響いて、さらに期待が高まった。

 そしてアクセルをそっと踏み込んでいくと、出足から余裕たっぷりの加速フィール。低速で短いストップ&ゴーを繰り返すようなシーンから、すでにシャキッとした軽やかな身のこなしがタダ者ではない印象だ。街中を50~60km/hで走ってみても、どこにも無駄のないシャキッとした気持ちよさは変わらない。少し、ステアリングの反応は街中にしては機敏すぎるかなと感じたが、カーブの続く道など左右に頻繁にステアリングを傾けるようなシーンでは、それがドンピシャで反応してくれて爽快だ。センターメーターに配されたエネルギーモニターで、モーターアシストが作動しているかどうかが分かるようになっており、信号で止まってから再発進するたびに作動している。

 ただ、それが体感で伝わってくることはなく、モニターを見なければ何の違和感もない、上質でスムーズな加減速。高速道路でも、合流や追い越しでの加速時からクルージング状態まで、全域で余裕たっぷりといった感覚で、シリーズで唯一15インチタイヤを履く恩恵もあってドシリとした安定感があり、これはコンパクトカーと比べても満足感が高いと感じた。

“ストロング”をテーマに掲げるワゴンRスティングレー。写真はマイルドハイブリッド仕様の「HYBRID T」(2WD)で、ボディサイズは3395×1475×1650mm(全長×全幅×全高)、ホイールベース2460mm。JC08モード燃費は28.4km/Lで価格は165万8880円
ワゴンRスティングレーではメッキ加飾とブラックパール塗装のフロントグリル、開口部の開いた専用フロントバンパーに加え、スモールランプに連動して点灯するLEDイルミネーションを内蔵するLEDヘッドランプなどを標準装備。足下は15インチアルミホイールにブリヂストン「エコピア EP150」(165/55 R15)の組み合わせ
直列3気筒DOHC 0.66リッターターボエンジンは最高出力47kW(64PS)/6000rpm、最大トルク98Nm(10.0kgm)/3000rpmを発生。マイルドハイブリッド仕様では、これに2.3kW(3.1PS)/1000rpm、50Nm(5.1kgm)/100rpmを発生する「WA05A」モーターを組み合わせる
新型ワゴンRシリーズでは新プラットフォーム「HEARTECT」の採用により室内長2450mmの広々空間を実現するとともに、Aピラーのスリム化やドアミラーの小型化および下方に配置することで右左折時の視界を確保。写真はブラックを基調にしたワゴンRスティングレーのインテリアで、エアコンルーバーガーニッシュに赤いアクセントが入るのが特徴的。ヘッドアップディスプレイは標準装備される

 次に試乗したのは、スタイリッシュがテーマのデザインで、自然吸気エンジン+マイルドハイブリッドの「HYBRID FZ」。インテリアはさりげないメッキ装飾が入って上質感が増し、シートのファブリックもモダンな印象となっている。走り出しの余裕は少し和らぐものの、スムーズさが際立ち、40km/hあたりからの加速の伸びがとくに気持ちがいい。ステアフィールにも機敏さは影を潜め、落ち着きがあって自然な印象。

 アルトから採用された新しいフレームのシートは、ボディにダイレクトにシートレールを付ける構造に変わっており、ヒップポイントが先代より15mm下がったこともあって、クルマと自分との一体感がアップしたようでリラックスできる。14インチタイヤ+アルミホイールとなる足下も、適度なガッチリ感があってとてもバランスがいいと感じた。

“スタイリッシュ”がテーマのワゴンR「HYBRID FZ」(2WD)。マイルドハイブリッド仕様となる同モデルのJC08モード燃費は、全高1550mm以上の軽ワゴンタイプでNo.1となる33.4km/L。14インチアルミホイール(155/65 R14)を標準装備する。搭載エンジンは自然吸気の直列3気筒 0.66リッターで、最高出力は38kW(52PS)/6500rpm、最大トルク60Nm(6.1kgm)/4000rpmを発生。価格は135万円
HYBRID FZのインテリアはブラックを基調とし、アクセントにダークブルーのインパネカラーパネルを採用
後席は左右独立でスライドできるほか、片手で操作できるワンタッチダブルフォールディング機能やリクライニング機構が備わる
後席は50:50分割可倒式を採用。新型ワゴンRでは荷室開口幅を先代モデル比で100mm拡大したほか、バックドアバランサーを室外に設置。これにより、後席の圧迫感を減らすとともに荷物の出し入れのしやすさと収納性を向上させている

 そして最後にもう1グレード、新定番スタイルとなるデザインをまとった「HYBRID FX」に試乗。ベースグレードの「FA」が自然吸気エンジンとなるため、これがマイルドハイブリッドとしては最もリーズナブルなモデルとなる。インテリアはベージュが選択されており、印象がガラリと変わって明るく温かみのある雰囲気。インパネのガーニッシュがホワイトとなるのが個性的だ。

 走り出しや加速フィールは先ほどのHYBRID FZとほとんど変わらない印象だが、大人3人が乗るとズシリと重さが加わる感覚や、カーブを曲がる時などにボディが少しだけ大きめに傾く感覚がある。速度を上げていった時の安定感も、先の2台ほどのガッシリ感はなく、路面状況に応じたしなやかさが感じられる。実は先の2台は前後ともスタビライザーが装着されていたが、HYBRID FXはどちらも非装着(4WDは前のみ装着)。それと14インチタイヤ+スチールホイールとなることなどから、こうした違いを感じるのだろう。

初代モデルのイメージを受け継ぐ「FA」や「HYBRID FX」(写真/2WD)は“新定番スタイル”を標榜。エクステリアでは四角をモチーフとしたフロントマスクを採用。価格は117万7200円
明るいベージュ内装を採用するHYBRID FXのインテリア。インパネカラーパネルはホワイトになる

 室内の静粛性に関しても、スティングレーのHYBRID Tから比べるとやや風切り音やロードノイズが大きいように感じたが、開発者に聞いたところやはりスティングレーの方がそうした処理を手厚くしているとのことだった。とはいえ、運転しやすさも乗り心地も、HYBRID FXで十分によさが実感できる。今回はFAの試乗車がなかったため、自然吸気エンジンのモデルがどんな仕上がりなのかは分からないが、新型ワゴンRの走りは大きく進化したと言える。

車内の快適性は?

 さて、最後に気になるのは、室内が広いことはもうハイトワゴンでは当たり前になった今、どれぐらい快適に過ごせるようになっているか。新型ワゴンRでは、HEARTECTの採用によってエンジンルームを最小化した結果、室内長が軽ワゴンNo.1の2450mmとなり、室内高も1265mmを達成しているが、その広さ以上に感心したのが収納面での工夫や装備の充実度だった。

 キャビン内では従来からお馴染みの助手席アンダーボックスやオープントレーが備わるのはもちろん、アッと驚くのがリアドア両側に新設された、軽初のアンブレラホルダー。濡れたまま傘を差しても、雨水が車外に排出される構造となっているのがまたスゴイ。そしてマイルドハイブリッドとなっても変わらないワンタッチダブルフォールディング操作のシートアレンジは、ドア側だけでなくラゲッジ側からも簡単にできるし、ラゲッジの床下収納も深さがたっぷりとなって、これならベビーカーなどを縦積みすることもでき、使いやすさがさらにアップしている。

後席ドアの内側にはアンブレラホルダーを採用。雨水を車外に排出できるので、濡れたままの傘をそのまま収納できる便利機能

 また、運転席シートヒーターが多くのグレードで標準となっていたり(4WDは助手席も標準)、エアコンもベースグレード以外は抗菌処理タイプのフルオートとなるなど、快適装備も満足度が高い。

 安全装備では、単眼カメラとレーザーレーダーで前方の車両だけでなく歩行者も検知し、衝突回避支援をはじめ誤発進抑制機能やふらつき警報機能など6つの予防機能がつく、デュアルセンサーブレーキサポートを多くのグレードに設定。オプションでは自動的にロー/ハイを切り替えてくれるハイビームアシスト機能や、運転中の視線移動を最小限にする軽自動車初のヘッドアップディスプレイ、自車を真上から見たような映像で車庫入れなどをサポートする全方位モニターなども設定された。使いやすさに加え、安心感もトップレベルに引き上げられている。

 こうしてチェックしてみると、基本性能から見直しただけでなく、この先5年、10年と快適に安心して乗り続けるための要素がしっかり詰め込まれたのが新型ワゴンRだと実感。ライバルと比べると、ハイブリッドとはいえ価格が少し高めの設定となるのが気になるが、その差を納得させるだけの魅力はあるはず。とくに、シングル世代の男性にはかなり刺さる1台ではないだろうか。カッコよく乗れるハイトワゴン軽の復活に、今後の動向が楽しみだ。

まるも亜希子

まるも亜希子/カーライフ・ジャーナリスト。 映画声優、自動車雑誌編集者を経て、2003年に独立。雑誌、ラジオ、TV、トークショーなどメディア出演のほか、モータースポーツ参戦や安全運転インストラクターなども務める。海外モーターショー、ドライブ取材も多数。2004年、2005年にはサハラ砂漠ラリーに参戦、完走。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。女性のパワーでクルマ社会を元気にする「ピンク・ホイール・プロジェクト(PWP)」代表。ジャーナリストで結成したレーシングチーム「TOKYO NEXT SPEED」代表として、耐久レースにも参戦している。過去に乗り継いだ愛車はVWビートル、フィアット・124スパイダー、三菱自動車ギャランVR4、フォード・マスタング、ポルシェ・968など。ブログ「運転席deナマトーク!」やFacebookでもカーライフ情報を発信中。

Photo:安田 剛