試乗レポート

ルノー「キャプチャー E-TECH HYBRID」、走りと燃費のよさを兼ね備えた実力派のフレンチコンパクトSUV

ルノー「キャプチャー E-TECH HYBRID」

E-TECH HYBRID搭載第3弾モデル

 欧州で2020年に販売されたすべてのSUVの中で、最も売れた実績を持つルノー「キャプチャー」。日本では「オシャレなフレンチコンパクトSUV」として、洗練されたツートーンカラーやポップなインテリアにファンが多いモデルだ。でもそこはフランスを代表する歴史ある自動車メーカーのルノーだけに、乗ってみれば走りも清々しく、2021年に登場した現行モデルではADASなどの先進安全運転支援技術も惜しみなく搭載。使い勝手や安心感も高いレベルに引き上げられた、オシャレな実力派フレンチコンパクトSUVとなった。

 そして今回、鬼に金棒的な新モデルとして加わったのが、輸入車ではルノーだけが展開しているフルハイブリッドの「E-TECH HYBRID」。第1弾としてブランニューモデルの「アルカナ」が登場し、次いでコンパクトカーの「ルーテシア」にも加わり、第3弾としてキャプチャーに搭載されることとなった。これによってキャプチャー E-TECH HYBRIDは、輸入車SUVナンバーワンの低燃費、22.8km/L(WLTCモード)を実現。いったいどんな仕組みなのか、走りはどうなのか、興味津々だ。

キャプチャー E-TECH HYBRID レザーパック。価格は389万円。ボディカラーはブラン ナクレ M/ノワール エトワール Mの2トーン。ボディサイズは4230×1795×1590mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2640mm

 ただ、外観ではガソリンモデルとの見分けは少々難しい。2代目となった際にプラットフォームからパワートレーンまで一新し、デザインはモリモリと筋肉質なアスリートのように、躍動感と曲線の官能性が強調された、ボリューミーな印象にチェンジ。フロントのヘッドライトとリアのテールランプには、現代ルノーのアイコン的モチーフである「Cシェイプ」がアーティスティックに表現されている。そしてリアに回るとようやく、ガソリンモデルとの決定的な違いである「E-TECH HYBRID」のエンブレムが見つけられる。

エクステリアデザインはガソリンモデルと共通となり、アスリートのしなやかな筋肉を彷彿させる躍動的でダイナミックなボディラインに直線のプレスラインを効果的に取り入れた“フレンチデザイン”が特徴。彫刻のようなボンネットや、後方に向けて傾斜するルーフライン、スリムなグラスエリアといったデザインによって躍動感を、フロントやリアに装着されるスキッドプレート、ルーフレールなどによって、SUVらしさを表現している。デイタイムランプやリアランプはルノーモデルを象徴するCシェイプを採用

 インテリアを見ると、E-TECH HYBRID専用装備の1つである、10.2インチフルデジタルインストゥルメントパネルが存在感を放ち、シフトベースにもエンブレムが置かれていて、少しプレミアム感がアップした印象。もとより、この2代目キャプチャーはルノーが「インテリア革命」だと呼ぶスマートな空間となっていて、センターパネルなどがドライバーに向けて配置され、運転席と助手席を仕切るように張り出す「フライングセンターコンソール」が特徴的だ。ドライバーが自然に手を伸ばした時に操作しやすいよう設計されており、従来より軽く正確な操作が可能となるシフト・バイ・ワイヤー採用の「e-シフター」が、小気味いい操作感をもたらしている。

キャプチャー E-TECH HYBRIDのインパネ
インテリアデザインもキャプチャーのガソリンモデルと共通となり、人間工学に基づいてドライバーを中心に考えられたスマートコクピットデザインが特徴。高いアイポイントと水平基調のダッシュボード、フレームレスミラーによって広さを演出。7インチマルチメディア ESY LINKのタッチスクリーンはドライバー側にわずかに角度がつけられている。また、上位クラスのモデルをベンチマークにし、細部の仕上げまでこだわり、手の触れる部分には高品質なソフト素材を採用している
キャプチャー E-TECH HYBRID レザーパックはレザーシートに加え、ランバーサポート付きの運転席電動シートが標準装備される。レザーパック非装着の場合はファブリック×レザー調のコンビシートとなる。6:4分割可倒式リアシートは前後に最大160mmスライド可能
ラゲッジは440Lの容量を確保。スペースを上下に分割するラゲッジボードが装備される

デザインヨシ、走りヨシ、燃費ヨシ!

 そしていよいよドライブするE-TECH HYBRIDは、基本的にアルカナと共通のハイブリッドシステム。システムを構成するのはまず、メインのモーターとなる「E-モーター」で、36kW/205Nmの出力がある。サブモーターとして「HSG」(ハイボルテージスターター&ジェネレーター)があり、こちらは15kW/50Nmだ。エンジンは直列4気筒1.6リッター自然吸気エンジンで、69kW/148Nmを発生。さらに、ルノーがF1参戦で培った技術をフィードバックした、ドッグクラッチマルチモードATが大きな特徴だ。

 これは一般的に用いられるクラッチやシンクロナイザーを省き、ダイレクトに減速ギヤとギヤセレクターの歯を噛み合わせることができるようになっている。どうしてもショックが大きくなるところをモーターで滑らかにしており、駆動力の直結も可能。モーター側に2つ、エンジン側に4つのギヤを持ち、全12通りの変速比で効率よく切れ目のない動力を引き出すことができるという。

 アルカナを試乗した際には、あまりの余裕たっぷりかつスムーズな加速フィールに驚いたのだが、注目すべきはアルカナよりキャプチャーの方が、車両重量が60kg軽いというところ。またスペック表をよく見ると、ギヤ比もアルカナとは異なっており、キャプチャーに合わせて手を入れていることが予想される。

パワートレーンには最高出力69kW(94PS)/5600rpm、最大トルク148Nm(15.1kgfm)/3600rpmを発生する直列4気筒DOHC 1.6リッター「HR16」エンジンを搭載。組み合わせるEモーターは最高出力36kW(49PS)/1677-6000rpm、最大トルク205Nm(20.9kgfm)/200-1677rpmを、HSGは最高出力15kW(20PS)/2865-1万rpm、最大トルク50Nm(5.1kgfm)/200-2865rpmを発生する。トランスミッションにはF1由来の技術を採用した電子制御ドッグクラッチマルチモードATを搭載

 ここで少し、ガソリンモデルのキャプチャーを試乗したインプレッションを振り返っておくと、「発進直後からしっかりした踏ん張り感」と「ボディの塊を感じさせる重厚感」「上質で厚みのある加速フィール」が際立っていると書いていた。果たしてキャプチャー E-TECH HYBRIDはどうだろうか。

 驚くことに、アクセルペダルを踏み始めた瞬間からスルスルスルッと極上の軽やかさで始まり、シルキーでなんの引っかかりもない加速がどこまでも伸びやか。もちろんそれは頼りない軽さではなく、しっかりとしたボディ剛性による安定感がありながら、すべてのパーツがピタリと一体となって隙間なく加速していってくれるような、とても爽快な走りが続いていく。発進時はモーターのみで駆動し、そこから中速域に入るにしたがってエンジンとの組み合わせになるはずだが、その切り替えがどこからどうなったのか、エネルギーマネジメントの表示をじっと注視していなければよく分からないくらい、違和感がない。

10.2インチフルデジタルインストゥルメントパネルの右側にエネルギーマネジメント表示を配置

 1.6リッターエンジンは日産、三菱自動車とのアライアンスエンジンである「HR16」型が採用されているが、エンジンマッピングやピストン、コネクティングロッド、クランクシャフトなどがE-TECH HYBRID用に新たに開発されているという。その実力は高速道路に入ると如実に表れ、クルージング中のわずかな加速・減速のコントロールにも遅れなく、意図した通りの反応が得られ、追い越しのために強く再加速するようなシーンでは、モーターのアシストも加わって背中を押されるような力強さも一瞬で引き出せる。

 また、気持ちのいい走りは日常のふとした場面でも感じることができる。例えば地下駐車場から出る際に、ガソリンモデルだと上り坂に差しかかるところでアクセルペダルを踏み込むと、どうしても一拍遅れてから加速が始まるような感覚があるが、E-TECH HYBRIDはそれが見事に一筆書きのようなつながり。市街地での頻繁なストップ&ゴーが滑らかに、かつダイレクトな操作感によって、いつしか楽しくなっていることも、キャプチャー E-TECH HYBRIDならではだ。最小回転半径はガソリンモデルと同じ5.4mで、取りまわしがしやすい美点と相まって、これまで日常で感じていたストレスや苦手意識を一気にクリアにしてくれると感じた。

 1点だけ、ルームミラーによる後方視界はややタイトなところが気になったが、そこはE-TECH HYBRID専用装備として、バックギヤに入れた際に車両の接近を検知すると後方映像の画面表示で注意を促すリアクロストラフィックアラートが装備され、360°カメラやパーキングセンサーも標準装備となっているので、積極的に使ってカバーしたいところだ。

 使い勝手では、後席が前後スライド可能なのに加えて、ラゲッジは後席を最前端にした状態で536Lの容量を確保。ライバルの多くが400L台なのでこれは優秀だ。6:4分割で後席をパタンと倒せば、最大1235Lの大きなスペースになり、フロアの高さが変えられるダブルフロアシステムもあるので、ファミリーやアウトドアレジャーにも頼もしいSUVと言えるはず。

 そして輸入車SUVトップの低燃費に加えて、多くの装備が標準で揃いつつ価格が374万円、重量税免除、環境性能割が非課税というのは、コスパの面でもかなり魅力的。欧州ではこのE-TECH HYBRIDが、ディーゼルモデルに置き換わる形で導入されているということで、「あのハイブリッド嫌いで名高い欧州の人々が?」と抱いていた疑念はすっかり晴れた。ハイブリッド好きと言われる日本人の中にも、CVTによる面白みのない走りが嫌いという人もいるが、そういう人たちにこそキャプチャー E-TECH HYBRIDはインパクトがあるかもしれない。もちろん、初めての輸入車、初めてのハイブリッド、初めてのSUVとしても死角なし。オシャレで実力派のフレンチコンパクトSUVが、輸入車への敷居を下げ、ハイブリッドの概念さえも変えてくれそうな予感だ。

まるも亜希子

まるも亜希子/カーライフ・ジャーナリスト。 映画声優、自動車雑誌編集者を経て、2003年に独立。雑誌、ラジオ、TV、トークショーなどメディア出演のほか、エコ&安全運転インストラクターなども務める。海外モーターショー、ドライブ取材も多数。2004年、2005年にはサハラ砂漠ラリーに参戦、完走。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。2006年より日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。ジャーナリストで結成したレーシングチーム「TOKYO NEXT SPEED」代表として、耐久レースにも参戦。また、女性視点でクルマを楽しみ、クルマ社会を元気にする「クルマ業界女子部」を吉田由美さんと共同主宰。現在YouTube「クルマ業界女子部チャンネル」でさまざまなカーライフ情報を発信中。過去に乗り継いだ愛車はVWビートル、フィアット・124スパイダー、三菱自動車ギャランVR4、フォード・マスタング、ポルシェ・968、ホンダ・CR-Z、メルセデス・ベンツVクラスなど。現在はMINIクロスオーバー・クーパーSDとスズキ・ジムニー。

Photo:中野英幸