試乗記

レクサスの本格オフローダー、新型「GX」 14年ぶりのフルモデルチェンジ

14年ぶりにフルモデルチェンジしたレクサスの本格オフローダー、新型「GX」を富士スピードウェイの新設コースで試乗しました

14年ぶりにフルモデルチェンジしたレクサスの本格オフローダー、新型「GX」

 日本では初めてとなるレクサスオフローダーの本流。グローバルでは3代目となり14年ぶりのフルモデルチェンジとなるのが新型「GX」になる。

 プラットフォームは「LX」と同じく、フレームモデルのTNGA GA-Fを採用、オフロードの本流らしくビルトインフレーム、どこへ行っても必ず帰ってくることを念頭に開発されたレクサスらしい選択だ。

堂々たるオフロードモデルとなった新型GX。直線基調のデザインを好ましく思う人は多いだろう

 サスペンションはフロントがダブルウィシュボーン、リアがトレーリングリンクのリジットと、LXを踏襲したレイアウトを採るが、タイヤの接地性を上げるためにサスペンションストロークを伸ばした新しいジオメトリを採用した。

 パワーステアリングはオフローダーにも必須だが、電動パワーステアリングにすることオンロードのみならずオフロードでも効果的だ。

驚くべき路面追従性を発揮する新型GXのサスペンション

 デザインはスクエアで、GXのタフさを実感できるエクステリアとシンプルで操作しやすいコクピットを組み合わせたまとまりのよいもの。ドライバーシートに座ったときにGXの意図を実感した。

 少しアップライトな運転姿勢を取ると前後左右の視界が明快。水平のボンネットには左右に少し凸になったフェンダー。左右の視界も水平のサイドラインが自分の位置を把握しやすく、サイドミラーもドア付けの縦型で斜め方向の視界を遮らない。同時に下方も見やすくなっている。シンプルで美しいデザインだ。

 パワートレーンは、V型6気筒3.5リッターツインターボと直列4気筒の2.4リッターターボハイブリットになるが、試乗したのは2.4リッターハイブリットモデル。

 これまでランドクルーザーで培ってきた4WD技術は、GXに余すこところなく注ぎ込まれている。以前はマニュアルで操作して、そこにプロの技が使われていたものが、GXではスイッチの意味さえ知っていれば誰でもプロの技が使える。

新型GX
リアまわり
がっちりとしたデザインのホイール
ミラーは、横へのはみ出しを小さくしながら、路面を確認しやすい形状としている
水平基調のコクピット
ステアリングはブラインドでスイッチポジションが分かるタイプ。質感はもちろんレクサスクオリティ
さまざまな電子制御が投入されたセレクトレバーまわり

富士スピードウェイに新設された本格オフロードコースで新型GXを試乗

 富士スピードウェイに新設されたオフロードコースの試乗では、最初にインストラクターに運転してもらい、操作方法をレクチャーしてもらう。いきなりモーグル、そして傾斜路、さらに岩盤路だ。この試乗コースは近い将来、レクサスのオフロードコースとして一般に公開される。レクサスではOVER TRAIL Projectと呼ばれ、レクサスのある生活をオフロードなどのアウトドアにも広げていく。

 早速、運転席に座る。以前の4WDのようにクルマによじ上るような感覚はない。水平基調のインパネは14インチディスプレイも突起せず非常にクリアに見え、視覚的にも車両の姿勢を把握しやすい。

 一昔前はギヤがなかなか噛み合わず、力を入れてガチャンと入れていた4WDのローギヤは、今ではスイッチ一つで簡単に入る。ドライブモードはロック、サンド、スノーなどいろいろ選べるがAUTOを選択しておけば万能だ。

 まずは巨大なモーグル。ディスプレイ上には浮いたタイヤが表示される。レクサス初のE-KDSS、電子制御でスタビライザーを切り離し、サスペンションストロークが増すオフロード車ならではの装備が、GXではさらに進化して自動的に作動する。大抵の凹凸路では4輪は路面から離れない。

 それでも巨大なモーグルでは、対角線上にあるタイヤが路面から離れてしまう。MTS(マルチテレインセレクト)を入れるとブレーキ制御も働いて、空転していたタイヤを止めることで、残りの接地している2輪でジワリと走り出す。実際には、最初は空転しているがジワリとアクセルを踏み続けるとユックリ動き出す。

 便利なのはフロント下面をシースルーで映し出すマルチテレインモニターだ。これまで勘に頼ってきた前輪の位置を正確に把握でき、さらにディスプレイには前方も表示させることもできるためドライブに集中できる。

 20度ほどの傾斜路は何でもないが、横を見ると地面があるのでちょっと驚く。バンクでもライントレース性がよく、シートはソフトだが体の側面をよくサポートしてくれ絶妙なホールド感だ。

 さらにアップダウンで先が見通せないコースもモニターを使えば前方の様子が把握できるので不安感がない。

 いよいよ苦手の岩場になる。ダッシュボードにあるクロールコントロール(CRAWL)を入れるとモードセレクトは速度設定ダイヤルになり、1~5km/hの範囲で設定できる。1km/hを選択する。アクセルを踏まなくても岩をよじ上ってゆく。マルチテレインモニターで正確にフロントタイヤの位置を把握し、岩にタイヤを乗せるようにして登る。最低試乗高は230mm。これはデフの位置なので実用面ではさらに攻めていける。

 ドライバーはステアリング操作に集中していればよく、前方の状況も完璧に把握できる。下りも同様にジワジワと降りていける。今度はブレーキ制御が仕事をする。フロントのオーバーハングは現GXより20mm短く、アゴを打つことは格段に減った。ホイールベースはLXと同じ2850mm、これはランクルに始まるビルトインフレームの黄金比と言われる。

 ハイブリットのよいところは、モーターで微細な動きを制御できるところで、エンジンでは難しかったところを微妙なトルクをかけて安定して動かせる。

 もう一つ、運転を容易にしているのは電動パワーステアリング。一定の操舵力を維持し、キックバックもないのが素晴らしい。路面からのフィードバックはある程度遮断しているが、これでだけ電子制御化が進んでいるともはや必要ないのかもしれない。

 GXの実力の高さをタフなコースで堪能した。意外とコンパクトだと感じたのはイージードライブのためだが、諸元を聞くとなんと全長5005mm、全幅2000mm、全高1935mmというビッグサイズだった。重量も2.5t近くはありそうだがそれと感じさせないところがすごい。

 気が付くとメカニカルノイズもまったくなく、激しいオフロードを通過してきたとは思えないほど静か、その上よく動くサスペンションで乗り心地も最上だった。

 GXは北米が主戦場だがオーストラリアなども輸出され、日本には来年デビューするという。本物志向のオフローダーに人気沸騰は間違いないだろう。

日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員/2020-2021年日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。

Photo:安田 剛