試乗記

スズキ「スイフト スポーツ」に試乗 クルマ好きにとって身近なスポーツカーの価値に迫る!

スズキ「スイフト スポーツ」

2017年に発売されてから走り続けるホットハッチ

 年内にもフルモデルチェンジされると噂のスズキ「スイフト」。

 その予想には「全車直列3気筒モデル化」や「48Vハイブリッド」というワードが頻繁に飛び交っているわけだが、その原因となっているのはご存じの通り激しさを増す環境性能への対応であり、CO2排出量の削減だ。

 となると気になるのは、走りのモデルであるスイフト“スポーツ”の行く末だ。

 どれもこれもがいつのまにか高くなってしまった日本製スポーツカーを横目に、いつまでも「お値段以上」のプライスで私たちクルマ好きたちを応援し続けてくれている“スイスポ”。

 そのベースボディのサイズが拡大し、あまつさえ駆動用モーターとバッテリが搭載されるなんてことになったなら。仮に走行性能は上がったとしても、スイスポならではの「軽さ」が失われてしまうのではないか? もっと言えばそもそも論として、スイスポは生き残れるのか?

 そんな次期型モデルの答え合わせは、近い将来にできるはず。

 というわけで今回は、あえてモデル末期(?)の現行スイフト スポーツを6速MTで走らせて、いまいちどその価値に迫ってみた。

6速MTのスイフト スポーツ(全方位モニター用カメラパッケージ装着車)に試乗

 ハロー、スイスポ!

 久しぶりの試乗に、胸躍らせて乗り込んだコクピット。先代よりもローポジションになったとはいえ、基本的にはアップライトな着座位置のシートと、そこから少し手を伸ばして左手に収まる、6速MTの感触が懐かしい。スポーツカーのような低いドラポジは、確かに理想的。しかしこの生活感あふれるノッポなハッチバックがはじけるように走るからこそ、スイスポなのだ。

 などと1人で盛り上がる筆者とは正反対に、そのインテリアは極めて落ち着いた雰囲気だ。インパネのデザインは、立体的でスタイリッシュ。ドライバー側に軽く傾斜したセンターパネル、そこに配置されるエアコンの調整ダイヤルもやや大ぶりだが、とても見やすく扱いやすい。

 惜しいのはダッシュボードやグローブボックス、スカットルエリア、そしてドアパネルなど、見える部分、触れられる部分ほとんど全ての質感が低いことだ。ただここまでコストカットが徹底されていると、逆に感心してしまう。だからこそスイスポは、188万5400円~という驚きの価格が実現できているのだと、勝手に納得させられてしまう。

スイフト スポーツのインテリア

 そしてユーザー間では、こうしたドアパネルのハードプラをアルカンターラでカバーするなどしてカスタムを楽しんでもいるようだ。そういう意味で言うと、ソフトパッドなどメーカーにしかできない部分は、スズキがメーカーオプションを用意してもよいと思う。

 またこれは個人的な好みだが、至る所に差し込まれるワインレッドはややうるさい。スポーツモデルとしてベースモデルとの差別化を図りたかった気持ちは分かるが、ダッシュボードとメーター程度でよかっただろう。

 例えばそこにイエローやライムグリーンといった今風なバリエーション展開ができないのは、シートやステアリング、シフトノブといった大物のステッチや柄を、ワインレッドで固定してしまったからだろう。フォルクスワーゲン「ポロ GTI」ほど恥ずかしくはないが、その登場から6年が経ち世の中の価値観が激しく変わったいま、走りのモデルを表現するテイストが急激に古くなってきてしまったことは否めない。

 さて肝心な走りはというと、こちらもヤル気満々だ。

 1人乗車だと、試乗車はまだ下ろしたての新車(走行2570km)だったせいもあるが、硬めの足まわりは街中の段差やうねりで小刻みに跳ねた。高速道路に乗ればタイヤからのロードノイズは、割と遠慮なしに車内へと入ってきた。

 そのハンドリングは操舵初期の反応が敏感で、ゆえに直進安定性がやや低く感じられた。まさにコーナリングパフォーマンスの高さを普段乗りから訴えかけてくる乗り味だ。

 とはいえその足下に履かせているコンチネンタル「コンチ・スポーツ・コンタクト 5」は、絶対的なドライグリップ性能を狙ったタイヤじゃない。もちろんスポーティだが、高速巡航時やウェット路面での走安性を視野に捉えた、トータルパフォーマンスの高いタイヤだ。つまり、このコンチ・スポーツ・コンタクト 5である程度のしなやかさが出せず、日常領域におけるNVH性能が少しばかり厳しいのは、スイフトスポーツ側の問題だと言える。

 ただ静粛性に関しては、内装と同じくコスト面での納得ができる。そして乗り心地に関しては、車重(試乗車は970kg)がこのクラスとしては軽すぎるから、押さえが効かず少し跳ねるのだと思う。

 とはいえ重たくするのでは、何も意味がない。また可変ダンパーを奢るような車格でもないから、もうほんの少しだけタイヤ側でケースおよびブロック剛性が落とせればいいと思う。そうすればあえてコンチネンタルを登用する狙い通りの、上質なハンドリングと常用域での高い走安性が両立できるはずだ。

 それだけに、山道でスイスポを走らせたときの楽しさは格別だ。

 それまでとがったレスポンスばかりが目立っていた操舵フィールがジワリと落ち着き、足まわりがタイヤにグーッと圧を掛けていく様子が感じ取れるようになる。

 ブレーキングではリアサスの伸び方も穏やかで、ハンドルを切り込んでいったときの挙動も安定している。また手のひらに伝わる接地感も、切り終わりの最後まで持続する。ハンドルを素早く切り返すような場面でもダンパーの追従性が高く、連続するカーブを突っ張ることなくクリアしてくれる。

 スイフトスポーツが低速域での快適性をある程度犠牲にしてまで、こうした高荷重領域での穏やかさに狙いを定めているのは、K14C型直列4気筒ターボが先代と比べてはるかに力強くなったからだろう。

直列4気筒1.4リッターK14C型エンジン

 ターボ化されたとはいえ、1371ccの排気量から発揮される最高出力は、リッター100馬力越えの140PSだ。そして230Nmという最大トルクは、先代Z33型の約1.4倍である。しかもそれを2500rpmという低い回転から引き出して、70kgも軽くなったボディで引っ張るわけだから、その足腰を強くするのは当然のことだと言える。

 エンジンフィールには高回転まで切れ味が持続した、先代NAエンジンのような気持ちよさはまったくない。しかしシフトアップ後もトルクが持続するターボならではの加速感は、こうした官能性と引き換えにしても魅力的だ。ショートシフトで走らせればその伸びやかさは極めてGT的で、コンパクトカーとは言えないほどの余裕を感じながら高速巡航することができる。

 そして6速MTを駆使してパワーバンドをキープし続ければ、シンプルに速い。

 さらに言うとこのK14Cユニットは、速いだけでなく実直だ。たとえば高速巡航時にゆっくりアクセルを踏み出すと、ブースト計は負圧のまま4000rpmくらいまでエンジンが粘り強く回る。そしてこのときでもグーッと、トルクを出してくれる。K14Cユニットは過給圧ありきのエンジンだと思われがちだが、そのボディの軽さも合わせて、17.6km/L(6速MT)の燃費性能を誇るのだ。こんな高燃費なスポーツモデルは、なかなかない。

 というわけでまとめに入るが、今もってスイフト スポーツは魅力的なホットハッチだった。そしてもしあなたがスイフト スポーツを欲しいと思っているなら、このZ33型が新車で手に入るうちに手に入れておくことをお勧めしたい。

 スイフト スポーツ最大の魅力は、なにがどうあれ価格が安いこと。市場を見る限り昨今のスポーツカー事情がスイフト スポーツにまでジワジワと及んで来ているようだが、当の新車価格が200万円であれば、それを超えようがないからだ。もしスイフト スポーツの価格が高騰するようなことがあったらそのときは、このZ33型がディスコンするときだろう。

 そして願わくば、スズキには次期型スイフト スポーツを継続し、是が非でも現行モデルの性能を超えてほしい。そうすることでZ33型の高騰は防がれ、若者(とオジサン)たちに夢を与え続けることができるからだ。

 いわばスイフト スポーツは、小さなタイプRだ。残念ながらシビックは走りの面でも価格の面でも、日本人がおいそれとは手が届かない世界へ行ってしまったけれど、“スイスポ”はデフレまっしぐらな日本で私たちの身近な存在であり続けていてくれている。

スズキ「スイフト スポーツ」概要

スイフト スポーツのボディサイズは3890×1735×1500mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2450mm。車両重量は970kg。駆動方式は2WDのみが設定されており、試乗車は全方位モニター用カメラパッケージ装着車の6速MTモデル。価格は208万1200円
ノーズを前方にせり出させた専用バンパー&グリルにより躍動感を強調し、存在感のある専用マフラーで迫力のリアビューを演出。切削加工とブラック塗装を施した17インチアルミホイールには195/45R17サイズのコンチネンタル「ContiSportContact 5」を装着
最高出力103kW(140PS)/5500rpm、最大トルク230Nm(23.4kgfm)/2500-3500rpmを発生する直列4気筒DOHC 1.4リッター直噴ターボ「K14C」型エンジンを搭載。6速MTモデルのWLTCモード燃費は17.6km/L
スイフト スポーツのインパネ
Sport専用のレッドステッチ入り本革巻ステアリングホイールを装備。右側ステアリングスポークにはアダプティブクルーズコントロール(ACC)のスイッチが配置される。また、ステアリングから手を離さないで操作できる位置に車線逸脱抑制機能のスイッチを設定
専用スピードメーター&タコメーターの中心には、カラーのマルチインフォメーションディスプレイを配置
ナビゲーションはオプション設定。USBの充電ポートも備える
心地よいシフトチェンジができるMT用シフトノブ
専用デザインのシート。フロントリアともに座面と背面にレッドのアクセントが入る
ラゲッジ容量も十分
山田弘樹

1971年6月30日 東京都出身
A.J.A.J.(日本自動車ジャーナリスト協会)会員。

自動車雑誌「Tipo」の副編集長を経てフリーランスに。
編集部在籍時代に参戦した「VW GTi CUP」からレース活動も始め、各種ワンメイクレースを経てスーパーFJ、スーパー耐久にも参戦。この経験を活かし、モータージャーナリストとして執筆活動中。またジャーナリスト活動と並行してレースレポートや、イベント活動も行なう。

Photo:中野英幸