試乗記

メルセデス・ベンツの新型EV「EQE SUV」試乗 “プレミアムオールラウンダー”の実力やいかに?

「EQE SUV」に試乗

一充電航続距離は528km

 メルセデス・ベンツではこのクルマを「プレミアムオールラウンダー」と表現している。ひと足先に出た「EQS SUV」と同じく、電気自動車専用プラットフォームを用いたSUV版の第2弾となり、いくつかの新しい特徴的なものも与えられている。

 89kWhのリチウムイオン電池を搭載し、一充電航続距離は528kmを達成したほか、機能面ではより効率的な走行を実現するディスコネクトユニットの搭載や、日本向けは外部給電器として利用できるようになったことが、まず大きなポイントだ。

 試乗したのは「ローンチエディション」に21インチのAMGアルミホイール(7万7000円/台)と、同カラーの本革シート(3万3000円)のオプションを装着した車両となり、標準装備がかなり充実していることがうかがえる。

 サイズ感が掴みにくい少し離れた状況で眺めるとそれほど大きくないように見えるのだが、実際にはEQS SUVほどではないにせよ、それなりに大柄だ。その流麗なボディの上面と下面を工夫することで、SUVタイプでありながら0.25のCd値を実現したというから恐れ入る。ボンネットはサービス工場でのみ開閉可能で、ウォッシャー液補充のためのサービスフラップのみ左フェンダー側面に設けられている。

今回試乗したのは、2023年8月に約注文の受付を開始したSUVタイプの新型EV(電気自動車)「EQE SUV」に設定される「EQE 350 4MATIC SUV ローンチエディション」(1369万7000円)。EVならではのパッケージの有用性を活かしたエクステリアデザインでは、Cd 値0.25という空力における機能性も兼ね備えた先進の美しさを表現した
ボディサイズは4880×2030×1670mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは3030mm。搭載されるリチウムイオンバッテリは89kWhで、6.0kWまでの交流普通充電と、直流急速充電(CHAdeMO規格)に対応した。最高出力は215kW(292PS)、最大トルクは765Nmを発生し、航続可能距離は528km。車両重量は2630kg
EV専用プラットフォームを使用するとともに、EVならではのパッケージの有用性を活かしたエクステリアデザインではCd値0.25という空力における機能性も兼ね備えた先進の美しさを表現。なお、日本仕様の特別な機能としては、EQE SUVから車外へ電力を供給できる双方向充電が可能。家庭の太陽光発電システムで発電した電気の貯蔵装置となるほか、停電した場合などに電気を家庭に送る予備電源としても利用できる
撮影車はオプション設定の21インチAMGマルチスポークアルミホイールをセット

 インテリアも柔らかな曲線を描く中にデジタルの要素を積極的に取り入れていて、眼前と中央にはタブレット状のディスプレイが並ぶ。EQS SUVにあるMBUXハイパースクリーンは、セダンのEQEと同じくAMG EQE 53 4MATIC+ SUVには設定がある。

 EQS SUVよりもホイールベースが短いといっても3mを超えていて、後席も全方位のクリアランスが十分に確保されている。ポジションがアップライトでヒール段差も高く、身長172cmの筆者が座っても狭いと感じないだけの広さを実現している。

 新しい機能としては、ヒートポンプの採用が挙げられる。これのおかげでより効率よく快適に車内ですごせるようになる。さらには室内の空気をよりクリーンに保つHEPAフィルターを装備した空気清浄システムや、PM2.5の量を随時確認でき、イオナイザーやパフューム機能などを備えたエアクオリティ機能も充実している。

上質なインテリアでは一部に省資源材料(リサイクル材や再生可能原材料)を採用。例えば中古タイヤの熱分解オイルと農業廃棄物から精製されたバイオメタンからケミカルリサイクルで作られたプラスチックをグラブハンドルに利用。そのほかルーフライナーとピラートリム表面の素材は40%リサイクルペットボトルフレークを、また床面のカーペットには漁網など海洋プラスチックごみから作られたナイロン糸を使用している

キビキビとしたハンドリング

 EQS SUVに対してホイールベースが短く車両重量がかなり軽い上に、セダンのEQSとEQEもそうだったように、見た目の雰囲気は似ていてもそれぞれにふさわしく走りも味付けされている。

 大らかでゆったりと乗れるEQS SUVに対し、EQE SUVはキビキビとしたハンドリングで、走りにダイレクト感と一体感があり、実際の車重やボディサイズの差以上に軽くコンパクトに感じられる。EQS SUVより軽いとはいえそれなりに重い車体をこれほど走れるように足まわりを引き締めたためか若干は微振動が見受けられるものの、乗り心地の快適性や静粛性は十分に確保されていることも念を押しておこう。

 予想どおり印象的だったのは、驚くほど小回りが利くことだ。最大10度も切れるリアステアにより、このサイズで4.8mと小型車並みの最小回転半径を実現しているだけあって、やはりインパクトがある。

 EQS SUVよりも大幅に軽いことはもちろん電費にも効いてくる。正確には比べていないが、感触としては2割ほど上回るように感じられた。

最大10度も切れるリアステアにより、最小回転半径は4.8mを実現

 前後に永久磁石同期モーターを搭載しており、最高出力は215kW(292PS)、最大トルクは765Nmを発生するので、動力性能はいわずもがな。俊敏で力強いアクセルレスポンスと、静かでなめらかな走りが心地よい。

 サウンドエクスペリエンスは3種類から選ぶことができる。4種類のモード+Individualが選べるダイナミックセレクトにはオフロードモードも設定された。エンジン、足まわり、ステアリング、ESPなどの設定が変わり、スポーツモードにすると足まわりが引き締まって瞬発力が増し、AMGモデルでなくてもけっこうスポーティな雰囲気が楽しめる。EQE SUVにはこのテイストもよく似合うように思えた。

 また、フロントの駆動を切り離すことで、セーリング効果が増して電費を向上させるというディスコネクトユニットについても今回はあまりその本領を発揮させることはできなかったのだが、良好な電費に寄与していたことには違いない。

状況に応じてさまざまな制御を

 パドルシフトで回生の強さを設定変更できて、最強にするといわゆるワンペダルドライブを実現する。新しいメルセデス車に装備される「D Autoインテリジェンス回生」は、どんなシチュエーションを走るにも重宝する。

 フットブレーキはややペダルのロスストロークが大きめながら、できるだけ多く回生しようとしていることがうかがえた。フィーリングとしては、いかにも重いものを止めようとしている感触があることには違いないが、じわっと利いて、奥のほうでコントロールできるようになっているので、回生と姿勢の制御を両立する意味では理にかなっているかなと思うものの、好みは分かれそうだ。

 ディスプレイでエネルギーフローを確認しながら走っていると、傾向としてはゼロスタートではリアモーターが最初に動くことが多く、巡行から再加速する際にはフロントモーターが先に動き、スポーツモードでは前後とも動く頻度が高いように見受けられた。

 回生についても、ドライブモードを変更しながらいろいろなシチュエーションで試してみたところ、前後輪のどちらを主体に回生するかが状況によりさまざまだったのだが、出力とトルクでフロントの倍以上となるリアモーターを回生にも積極的に活用しており、横Gのかかり具合など状況によっては車両を安定させるよう最適に制御しているのかもしれない。そのあたりどのようなロジックで制御しているのかもぜひ詳しく知りたいところだ。

「プレミアムオールラウンダー」という言葉には、パッケージングや利便性に優れ、ON/OFF問わず走りに優れるという意味が込められていると思うが、限られた試乗の中でも、そのプレミアムなオールラウンダーぶりの片鱗がうかがえた。それを電気自動車で実現したところにEQE SUVならではの価値がある。

岡本幸一郎

1968年 富山県生まれ。学習院大学を卒業後、自動車情報ビデオマガジンの制作、自動車専門誌の記者を経てフリーランスのモータージャーナリストとして独立。国籍も大小もカテゴリーを問わず幅広く市販車の最新事情を網羅するとともに、これまでプライベートでもさまざまなタイプの25台の愛車を乗り継いできた。それらの経験とノウハウを活かし、またユーザー目線に立った視点を大切に、できるだけ読者の方々にとって参考になる有益な情報を提供することを身上としている。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:安田 剛