試乗記
スバル「インプレッサ」のベーシックグレードに試乗 佐渡の大自然の中で感じたよさとは
2023年10月5日 07:00
素朴なインプレッサで自然を感じるロングドライブ
スバルはレヴォーグの新たな価値観を「レイバック」で提案する一方で、佐渡島で開催された試乗会に「クロストレック」と「インプレッサ」を持ち込んでいた。
その中でも彼らのお勧めは、インプレッサの最もベーシックなグレード「ST」(2WD)だ。なぜならこのモデルは発売後3か月間で45%もの販売比率を占め、229万9000円という価格に対してそのコストパフォーマンスが高く評価されているというのだ。
ということで今回はそのリコメンドに素直に従って、佐渡島の一般公道をこのインプレッサ STでロングドライブしてみた。
走り出す前にインプレッサSTの概要をいまいちどおさらいすると、2.0リッターの「F20型」水平対向4気筒(154PS/193Nm)エンジンをフロントに縦置き搭載した、前輪駆動のモデルだ。
室内に乗り込んでまず軽い驚きを覚えたのは、いまやスバルのアイコンとなった縦長なセンターパネルの下半分に、7インチディスプレイがこぢんまりと収められていたこと。またセンターリング加飾がないだけで、見た目がかなり寂しかった。
ベーシックモデルで11.6インチディスプレイがオプションとなるのは、仕方のないことだ。とはいえせめてナビ位置は見やすい上部に持ってくるべきだろう……とブツブツ車内でしゃべっていたら、編集担当氏が「ディーラーオプションのナビは上部に装着可能ですよ」と教えてくれた。それならあとは、気の利いたストレージボックスがあればなおいい。
ちなみに試乗車はステアリングも樹脂タイプという正真正銘のベーシックグレードだったが、メーカーオプションで11.6インチモニター(&インフォテインメントシステム)を選ぶと本革巻きステアリングホイールも付いてくる。そのほかにはキーレスアクセス&プッシュスタートとリアビューカメラ(アナログ)が付くのだけれど、そこにナビを選ぶだけでセットオプション価格は24万7500円から45万6500円に跳ね上がってしまう。その内訳にはステアリングヒーターやデジタルマルチビューモニターなど、どれも「あったらいいな」と思わせる絶妙なアイテムだけに悩ましい。
一番ベーシックなインプレッサを買って装備を充実させるのか、とにかく安く済ませるのかで、クルマとの向き合い方が大きく変わると感じた。
ということで走らせたインプレッサSTの印象だが、その乗り味はグレード通りの素朴さが心地よかった。
適度にソフトな足まわりは、路面からの入力を堅実に吸収する。タウンスピードではタイヤの転がり感も高く、アクセルを軽く踏み込むだけでスーッと走ってくれる。佐渡の海岸線が平坦だったせいもあるが、1500rpmも回せば日常は事足りる感じだ。デュアルピニオン式のステアリングは操舵フィールがしっとりしており、13:1というクイックなギア比をうまく街中でバランスさせてくれていた。
内陸の山道ではそのハンドリングも楽しめた。
前述した足まわりに205/50R17タイヤの組み合わせは、荷重が高い領域だと上級グレードほど俊敏な操舵レスポンスではない。よって、コーナーをスポーティに走らせるには前もってジワーッとハンドルを切り始めるか、ブレーキングで適度なフロント荷重を乗せてやる必要があるのだが、それがかえって運転の楽しさにつながっている。
ターンインが決まれば、フロントタイヤがピタッと路面を捉えて気持ちよく旋回してくれる。このあたりにはフルインナー化されたボディ剛性の高さと、インタークーラーもなく重心が低い、自然吸気の水平対向4気筒のメリットがよく出ている。ドライ路面では4WDの安定性やトラクション性能よりも軽さと回頭性のよさの取り分が多く、2WDであることのデメリットは感じられない。
アクセルの追従性はトルクが高まるほど、どうしてもCVTに若干の遅れが生じる。そんなときはステアリングのパドルを使ってあらかじめ回転を高めておけば、こちらも若干だが応答遅れを緩和できる。
だが本音を言えば、こうしたベーシックグレードにこそ6速MTが欲しいと思った。豪華装備はなくとも素性のよさで運転の喜びを体感できるインプレッサSTのようなクルマこそ、若者たちに乗ってほしいからだ。
1つ残念なのは、フロント2座の快適さに比べてリアシートのギャップが大きいことだ。ボディ剛性はきちんと出ており、リアにダブルウィッシュボーンを用いながらも荒れた路面で突き上げるのは、ブッシュやダンパーにコストをかけていないからだろう。そして遮音性もフロントに対してはかなり落ちる。それを「ベーシックグレードだから」とか「価格が安いから」と簡単に言い訳するのではなく、コストを抑えながらもなんとか乗り心地を出してほしい。また、シート形状も立体的でサポート性が高いはずなのだが、中央部のファブリックが滑りやすく感じた。
ちなみに85kmほど走らせた車載燃費計の数値は約11.7km/Lで、ワインディングを走ったとはいえ信号が少ない佐渡島の一般道をゆったり走らせた印象としては少し厳しい。それでもこのインプレッサ STに心を引かれるのは、素直にその動的質感が心地よいからだろう。
とがったところは何ひとつない。しかしクルマとの対話ができる質素で誠実なその作り込みには、上質さを狙ったレヴォーグ レイバックとはまた違うスバルの本質を感じた。佐渡島の美しい海を眺めながら、旅の相棒としては合格点があげられると感じた。