試乗記

スバル「インプレッサ」のベーシックグレードに試乗 佐渡の大自然の中で感じたよさとは

スバル「インプレッサ」

素朴なインプレッサで自然を感じるロングドライブ

 スバルはレヴォーグの新たな価値観を「レイバック」で提案する一方で、佐渡島で開催された試乗会に「クロストレック」と「インプレッサ」を持ち込んでいた。

 その中でも彼らのお勧めは、インプレッサの最もベーシックなグレード「ST」(2WD)だ。なぜならこのモデルは発売後3か月間で45%もの販売比率を占め、229万9000円という価格に対してそのコストパフォーマンスが高く評価されているというのだ。

 ということで今回はそのリコメンドに素直に従って、佐渡島の一般公道をこのインプレッサ STでロングドライブしてみた。

のんびり佐渡をロングドライブ。「海にダイブ!」などの無茶振りをされる前に勝手にポーズ

 走り出す前にインプレッサSTの概要をいまいちどおさらいすると、2.0リッターの「F20型」水平対向4気筒(154PS/193Nm)エンジンをフロントに縦置き搭載した、前輪駆動のモデルだ。

 室内に乗り込んでまず軽い驚きを覚えたのは、いまやスバルのアイコンとなった縦長なセンターパネルの下半分に、7インチディスプレイがこぢんまりと収められていたこと。またセンターリング加飾がないだけで、見た目がかなり寂しかった。

 ベーシックモデルで11.6インチディスプレイがオプションとなるのは、仕方のないことだ。とはいえせめてナビ位置は見やすい上部に持ってくるべきだろう……とブツブツ車内でしゃべっていたら、編集担当氏が「ディーラーオプションのナビは上部に装着可能ですよ」と教えてくれた。それならあとは、気の利いたストレージボックスがあればなおいい。

 ちなみに試乗車はステアリングも樹脂タイプという正真正銘のベーシックグレードだったが、メーカーオプションで11.6インチモニター(&インフォテインメントシステム)を選ぶと本革巻きステアリングホイールも付いてくる。そのほかにはキーレスアクセス&プッシュスタートとリアビューカメラ(アナログ)が付くのだけれど、そこにナビを選ぶだけでセットオプション価格は24万7500円から45万6500円に跳ね上がってしまう。その内訳にはステアリングヒーターやデジタルマルチビューモニターなど、どれも「あったらいいな」と思わせる絶妙なアイテムだけに悩ましい。

 一番ベーシックなインプレッサを買って装備を充実させるのか、とにかく安く済ませるのかで、クルマとの向き合い方が大きく変わると感じた。

インプレッサのベーシックグレードST。価格は2WDモデルで229万9000円。ボディサイズは4475×1780×1450mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2670mm。車両重量は1655kg。アイサイトは「プリクラッシュブレーキ」「全車速追従クルーズコントロール」「車線逸脱抑制」「先行車発進お知らせ機能」といった「アイサイトコアテクノロジー」をしっかりと標準装備している
シンプルなシルバーの17インチアルミホイールに組み合わせるタイヤはブリヂストン「TURANZA T001」(205/50R17)
“運転に必要なものだけそろえました”といった印象のインテリア。7インチセンターインフォメーションディスプレイは標準装備されるが、ナビゲーションはオプション設定。シート表皮はトリコット(シルバーステッチ)
搭載するパワートレーンは最高出力113kW(154PS)/6000rpm、最大トルク193Nm(19.7kgfm)/4000rpmを発生する水平対向4気筒DOHC 2.0リッター「FB20」。トランスミッションにはリニアトロニックCVTを組み合わせ、モーターは搭載されない。カタログ上のWLTCモード燃費は15.8km/L

 ということで走らせたインプレッサSTの印象だが、その乗り味はグレード通りの素朴さが心地よかった。

 適度にソフトな足まわりは、路面からの入力を堅実に吸収する。タウンスピードではタイヤの転がり感も高く、アクセルを軽く踏み込むだけでスーッと走ってくれる。佐渡の海岸線が平坦だったせいもあるが、1500rpmも回せば日常は事足りる感じだ。デュアルピニオン式のステアリングは操舵フィールがしっとりしており、13:1というクイックなギア比をうまく街中でバランスさせてくれていた。

 内陸の山道ではそのハンドリングも楽しめた。

 前述した足まわりに205/50R17タイヤの組み合わせは、荷重が高い領域だと上級グレードほど俊敏な操舵レスポンスではない。よって、コーナーをスポーティに走らせるには前もってジワーッとハンドルを切り始めるか、ブレーキングで適度なフロント荷重を乗せてやる必要があるのだが、それがかえって運転の楽しさにつながっている。

 ターンインが決まれば、フロントタイヤがピタッと路面を捉えて気持ちよく旋回してくれる。このあたりにはフルインナー化されたボディ剛性の高さと、インタークーラーもなく重心が低い、自然吸気の水平対向4気筒のメリットがよく出ている。ドライ路面では4WDの安定性やトラクション性能よりも軽さと回頭性のよさの取り分が多く、2WDであることのデメリットは感じられない。

 アクセルの追従性はトルクが高まるほど、どうしてもCVTに若干の遅れが生じる。そんなときはステアリングのパドルを使ってあらかじめ回転を高めておけば、こちらも若干だが応答遅れを緩和できる。

 だが本音を言えば、こうしたベーシックグレードにこそ6速MTが欲しいと思った。豪華装備はなくとも素性のよさで運転の喜びを体感できるインプレッサSTのようなクルマこそ、若者たちに乗ってほしいからだ。

 1つ残念なのは、フロント2座の快適さに比べてリアシートのギャップが大きいことだ。ボディ剛性はきちんと出ており、リアにダブルウィッシュボーンを用いながらも荒れた路面で突き上げるのは、ブッシュやダンパーにコストをかけていないからだろう。そして遮音性もフロントに対してはかなり落ちる。それを「ベーシックグレードだから」とか「価格が安いから」と簡単に言い訳するのではなく、コストを抑えながらもなんとか乗り心地を出してほしい。また、シート形状も立体的でサポート性が高いはずなのだが、中央部のファブリックが滑りやすく感じた。

 ちなみに85kmほど走らせた車載燃費計の数値は約11.7km/Lで、ワインディングを走ったとはいえ信号が少ない佐渡島の一般道をゆったり走らせた印象としては少し厳しい。それでもこのインプレッサ STに心を引かれるのは、素直にその動的質感が心地よいからだろう。

 とがったところは何ひとつない。しかしクルマとの対話ができる質素で誠実なその作り込みには、上質さを狙ったレヴォーグ レイバックとはまた違うスバルの本質を感じた。佐渡島の美しい海を眺めながら、旅の相棒としては合格点があげられると感じた。

山田弘樹

1971年6月30日 東京都出身
A.J.A.J.(日本自動車ジャーナリスト協会)会員。

自動車雑誌「Tipo」の副編集長を経てフリーランスに。
編集部在籍時代に参戦した「VW GTi CUP」からレース活動も始め、各種ワンメイクレースを経てスーパーFJ、スーパー耐久にも参戦。この経験を活かし、モータージャーナリストとして執筆活動中。またジャーナリスト活動と並行してレースレポートや、イベント活動も行なう。

Photo:堤晋一