試乗記

ホンダ新型「N-BOX」初試乗、3代目の進化のポイントはどこか?

ホンダの3代目となった新型「N-BOX」をテストコースで試乗する機会を得た

変わっていないように見えても、大きく進化していた新型N-BOX

 ベストセラー、ホンダNシリーズの嚆矢「N-BOX」がモデルチェンジを行なった。ユーザーから高い評価を得ているだけに「キープコンセプト」として、一見変化がないように見えるが、先代モデルのネガ部分を徹底的に改善した秀逸なモデルチェンジに仕上がっていた。

 デザインは先代モデルを踏襲しボクシーでどっしりした安定感と、サイドラインの工夫でスッキリした外観になった。深く世の中に浸透したデザインの基本は変えることはないということだ。

パッと見はあまり先代モデルと変わらないように見えるが、果たして乗り心地は……

 特にテールゲートは開閉ハンドルの位置が70mm下がって、面がシンプルでデザインの質感が向上した。ただしハンドルの位置を下げたのはデザイン上の話だけではない。先代モデルではハンドルが高いので、開けた時に身体がドアに触れやすかったのだが、ハンドルの位置を下げたことで無理なく開けやすくなっている。この開閉ハンドルに象徴されているように、細部を煮詰めたのが今回のN-BOXのモデルチェンジの特色だろう。

新型N-BOX
新型N-BOX カスタム

 試乗してまず語るべきは、プラットフォームとサスペンションは側突対応への補強を除いて先代モデルを踏襲している点。では“同じ”かというといえばそうではない。走りやすさが驚くほどに違うのだ。

 電動パワーステアリング(EPS)のパワーもあるが、それだけではお椀形状の道路をまっすぐ走れる理由にならない。軽いレーンチェンジでの素直な応答性も理解することが難しい……。実はあらゆる場面でスッキリと軽く動くのは、サスペンションの取り付け方だった。通常サスペンションの取り付けは車体が浮いた状態で行なうが、それを接地状態で締結する生産ラインに変えて実施したという。わずかなことだがラインを変えるのはなかなか大変な作業だ。そもそも設計値はそれを見越して設定されているはずだが、やってみたら効果大だったという。

バンクのある高速周回路でも安定して走れる新型N-BOX

 実はターボモデルを除きショックアブソーバーの減衰力も変わらず、バネレートもタイヤも変更していないことに驚いた。また、その効果のほどにも目を見張るばかりだ。路面傾斜に対して先代モデルではわずかに横流れをしていたところ、新型ではどっしりとして直進性が高くなった。軽自動車とは思えない安定感で、郊外路での直進性に大きな効果を発揮する。

新型は直進安定性が高くなっている

 市街地での低速走行では、荒れた路面の通過でバタバタ感が抑えられ、路面へのサスペンション追従性が高くなっている。路面からの最初のショックを素早く吸収している効果がよく分かる。

 また、ロードノイズが抑えられ、音圧が下がっている。先代モデルでも静かだったが、どの領域でも音が少しずつ下がっていることから、走行時の安定感と共に走りの質感が上がった印象だ。さらに高速走行では風切り音が少し小さくなっていることに気づく。

新型はロードノイズも押さえられ、風切り音も小さくなっていた

 ついでにいうなら高速クルージングではADAS系の進化があった。先代モデルも渋滞時前車追従システム、アダプティブクルーズコントロール(ACC)が装備されていたが、前走車への追従性が高くなり、しかもワンタッチで作動可能で実用性も高い。ACCは使い方がなじめば高速道路でのドライバー負担がグンと減る。

 車線逸脱装置、レーンキープ性能も向上しているが、この作動を好まないドライバーもいる。先代モデルではACC連動だったが、新型では単独で機能をオフにすることもできるのもドライバー本位だ。

 また、運転でもっとも頻繁に使うのはハンドル。消費電力の少ない電動パワーステアリングも実は舵角フィードバック制御が組み込まれ、より自然な反力が得られてなめらかになり、運転の品質向上に貢献している。

先代N-BOXのステアリング
新型N-BOXのステアリング
先代N-BOXのステアリング右側のオートクルーズの操作ボタン
新型N-BOXはシンプルで使いやすくなっている

 エンジンでは自然吸気エンジンの出力が向上し、特に低速トルクが強くなっているために市街地走行ではアクセル開度が小さくなり、この面でも走りやすくなった。WLTC燃費以上に実用燃費が高くなっていることは容易に想像できる。また、CVTの改良でエンジンが先走ってしまう感触も薄められ、自然吸気エンジンとのコンビはなかなかだ。普段何気なく使っている小さな0.66リッターのエンジンには高度な技術の塊が込められている。

 出力に余裕のあるターボもトルクアップされ、もはや高速走行でも何の痛痒も感じない。アクセルのレスポンスもよく、こんなに力強く走ってよいのかと思う。

ターボ仕様にも試乗した

 乗り心地ではターボも自然吸気も基本的に大きな違いはないものの、ターボでは若干ゴツゴツ感は高くなる。しかし、しっかりしたダンピングは高速走行が多いドライバーには、ターボの上下収束の高さとロールを抑えた走りは好感度が高いだろう。

 明るい車内はN-BOXの特徴の1つ。新型ではさらに広くなった。それはフロントウインドウ上部のハーフシェイドを廃止したことと、メーターレイアウトの変更で前後席からの視界が水平に見えることで明るい室内を実現している。

先代モデルはフロントウインドウの上部にハーフシェイドを設けていた
新型はハーフシェイドを廃止したのと、丸みのあるメーターフードもなくなり、かなり視界が広くなった

 さて、今や軽自動車の後席はリムジン並みに広いのはよく知られているが、N-BOXでも小学校低学年の子供が車内で立って着替えができるほど広く、後席の視界も向上させてクルマ酔いの頻度もかなり低減されたという。もちろん前席でも視界に入るウエストラインがスッキリしていることと、フラットな乗り心地で爽快な感じを持ったが後席にも共有されているようだ。

 メーターはドライバー前に軽初の7インチディスプレイ、センターには9インチディスプレイを備えており、インパネトレイと共にスッキリしたデザインで視界の邪魔をしない。センターディスプレイには、ナビと同時に今回のフルモデルチェンジメニューの1つ、進化した最新の「ホンダコネクト」のサービスを享受できる、もはや小型車にできるものでN-BOXにできないものはない。

新型N-BOXカスタムのインテリア。クルマ全体が水平基調になっていることが分かる

 安全面でも前後の誤発進抑制機能は、最後にはブレーキを掛け、障害物がなくても急アクセルでは作動させるようになった。現実的な選択だ。また、前後オーバーハングの短い軽、それも視界のよいN-BOXでは駐車時の取りまわしに苦労しないが、マルチビューモニターがあると狭い場所での駐車もさらに安心だ。

マルチビューモニターも備える

 こうN-BOXを見ると、改めて正常進化以上の進化を遂げているのが分かる。すでにこのプラットフォームではいきつくところまでやり切ったという印象だった。

先代モデルのフロントカメラ
新型のフロントカメラはより広角に見えるカメラへと進化している

さらにかゆいところまで進化させたスロープ仕様にも注目したい

 スロープ仕様は新型の低床プラットフォームを最大限に生かしている。福祉車両で車いすを乗せるのに使われるが、この車両も進化しており、軽くて頑丈で3段階で引き出せるアルミスロープは取り扱いが容易だし、車いすを簡単に安全に引き上げられる「進路補正付き電動ウインチ」を備えている。福祉関係者の声を反映した正常進化だが、先代型より容積で40L増えた後席は数字以上に広い。

電動ウインチがあるので100kgでも楽々乗せることができる
試しに電動ウインチなしで押してみたが、とても登れたものではない

 スロープはもちろん車いす以外でもレジャーにも活用できそうだ。重いキャリーも容易に積み込むことができるし、それ以外にもいろいろな用途が考えられる。

 外観上もまったく変わらず、車いすを搭載しない時は広い後席で大人がゆったりと座れる。エンジンは自然吸気とターボの2種類をそろえている。ちなみにN-BOXのスロープ車は5年連続でナンバー1の販売を誇る、隠れたベストセラー車でもある。

後席にも大人がゆったりと座れる
スロープがあってもラゲッジスペースはしっかりとした容量が確保されている
後席を倒せば大きなフラットスペースとなる
スロープの下も収納スペースとして利用可能だ
電動スロープ搭載車はリアゲートがバンパー下部までと長いのが特徴
車いすを乗せない場合は、別の目的に使えるのもメリットだろう
日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員/2020-2021年日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。