試乗記

“史上最強のコルベット”新型「Z06」試乗 大排気量の自然吸気エンジンに勝るものなし

新型「コルベット Z06」に試乗

洗練されたドライブフィール

 ミッドシップに生まれ変わって初めての高性能版「Z06」が、いよいよラインアップされた。2024年以降の納車分については、アークティックホワイトとトーチレッドも選べるほか、いくつか仕様が異なるが、2023年に先行して特別限定で導入される4台はブラックのみとなる。

 迫力満点のスタイリングには、空力向上のための要素がいくつも盛り込まれている。フロントノーズは冷却性能の向上のため形状を大幅に変更し、リアスポイラーには高速安定性と旋回性能向上のため調整可能なウィッカービルを装備した。これにより300km/h走行時に約164kgものダウンフォースが得られる。

 345mm幅のリアタイヤにあわせて、全幅はベース車といえる「3LT」比で85mm拡大され、2mを超えた。サイドエアベントからのエアフローの増大も図られている。

今回試乗したのは5月に行なわれたファンイベント「CHEVROLET FAN DAY 2023」で公開された、新型「シボレー コルベット Z06」。販売台数が僅少のため先行4台を抽選販売(すでに申し込みは終了)し、価格は2500万円
サーキット走行を前提としたパフォーマンスモデルとして設計・開発されたコルベット Z06のボディサイズは「コルベット クーペ 3LT」から55mm長く、85mm広い4685×2025×1225mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2725mm。全幅を85mm拡大したことで345mm幅のワイドリアタイヤを備える
ブレンボ製ブレーキシステムを備え、フロントキャリパーのピストン数はコルベットの4ピストンに対してZ06は6ピストンとなり、フロント14.6インチ径(370mm)/リア15インチ径(380mm)のブレーキローターを標準装備する。フロント20インチ、リア21インチの「スパイダー・デザイン」(ブラック)鍛造アルミホイールはコルベット市販モデルで最大となり、タイヤはカスタムコンパウンドを使用したミシュラン「パイロット スポーツ 4 S ZP」でサイズはフロント275/30ZR20、リア345/25ZR21
エクステリアでは左右2つのラジエーターに空気を送り込むサイドエアベントからのエアフローを増大させ、コルベット Z06専用に開発されたフロントフェイシアからは3つのフロントラジエーターに効率的に空気を配分し、冷却性能を飛躍的に高めた。また、レーストラックでの高速走行時の安定性とコーナリング性能を高めるため、調整可能なウィッカービルを備えたリアスポイラーを標準装備する

 ドライバーを囲むようにレイアウトされたインパネも、何度見ても印象的だ。ズラッと縦に並べられたスイッチは、操作性云々はさておき見た目にはインパクトがある。

 コルベットといえば、これまで内容のわりに価格がリーズナブルで、だいぶ上がったC8にもそれは当てはまると感じていたが、価格は「3LT」の900万円高となる2500万円。欧州の名だたるスーパースポーツの領域に入ってきたと同時に、それに見合う価値も身につけたことをあらかじめお伝えしておこう。

 レーシングカーの「C8.R」直系の知見と経験を活かしてサーキットを前提としたパフォーマンスモデルとして設計開発された旨が伝えられていたので、もっと過激なクルマをイメージしていたのに、むしろドライブフィールはひとことでいうと洗練されていて驚いた。

 さぞかしスパルタンなんだろうと思いきや、乗り心地もベース車よりも快適なほどで、やや見受けられた突き上げ感も薄れている。さらにはステアリングフィールもスッキリとし、DCTのつながりもよりスムーズになったように感じられた。

日本仕様は右ハンドルを採用。インテリアカラーはアドレナリンレッドで、カーボンファイバーを用いたステアリング、トーチレッドのシートベルト、コンペティションスポーツバケットシート、Apple CarPlayおよびAndroid Autoが利用できるナビゲーションなどが付く。ちなみにカーボン製ルーフはリアのトランクスペースに格納可能

インパクト満点のエンジンフィール

最高出力475kW(646PS)/8550rpm、最大トルク623Nm(63.6kgfm)/6300rpmを発生する新型V型8気筒DOHC 5.5リッター「LT6」型エンジンを搭載し、8速デュアルクラッチを介して後輪を駆動。燃料タンク容量は70L

 その上で、エンジンがまたインパクト満点だ。めっぽう速くて、吹け上がり方とそのサウンドがすばらしいのなんの。Z06といえば歴代ずっとエンジンが命であり、印象的なエンジンフィールでわれわれを魅了してきたが、今回のC8の「Z06」はひときわ印象深い仕上がりだ。

 市販の自然吸気V8エンジンとしては世界トップクラスの475kW(646PS)の最高出力を発揮する完全新設計の5.5リッター V8 DOHCスモールブロックエンジン「LT6」は、OHVではなくDOHCであり、フラットプレーンのクランクシャフトを採用している点が特徴だ。

 手作業によって組み立てられ、鍛造チタン製コンロッドと鍛造アルミニウム製ピストンを使用により低重心化と高強度を実現しているほか、軽量なフラットプレーンのクランクシャフトの採用も効いて、最高回転数は8550rpmに達している。

 ご参考まで、V8エンジンのクランクシャフトは、正面から見ると一文字のフラット(=シングル)プレーンと、十文字のクロス(=ダブル)プレーンに大別され、それぞれ特徴を持つ。

 量産車では一般的なクロスプレーンは、クランクピンの位相を90度ずらして配置されており、排気干渉が生じ、出力面では不利なものの、振動特性に優れバランスシャフトが不要というメリットがある。広く普及しており、高級乗用車にも用いられている。

 一方、クランクピンが180度間隔で同一直線上に配置されるフラットプレーンは、点火タイミングが等間隔になり排気干渉が起きないことから、ハイパワーを引き出しやすくレスポンスにも優れる半面、振動面では不利だ。レーシングエンジンでは一般的だが、市販車ではフェラーリとマクラーレンぐらいしか使っていない。

 コルベットもこれまではクロスプレーンだったところ、あえてフラットプレーンとしたのは、もちろん追求する性能を実現するための手段としてに違いないだろうが、前述の欧州スーパースポーツと肩を並べようという意味合いもあってのことかもしれない。

 タコメーターは7500rpmからイエロー、8500rpmからレッドの表示となり、9000まで数字が刻まれているが、大排気量でありながら本当にその領域までよどみなく極めてスムーズに回ることには恐れ入った。まさしくレーシングエンジンのようだ。低~中回転域は大排気量の自然吸気らしくリニアで力強いトルクが後押しし、中回転域からトップエンドにかけては、粒のそろった美しい音色を放ちながら痛快に吹け上がる。

 一方で、2000rpm-3000rpm+αにかけてのよく使う領域では、演出としてか往年のクロスプレーンと思わせるような、アメリカンV8っぽい脈動感のあるサウンドを聴かせるあたりも心憎い。スポーツモード以上を選択すると、より野太いサウンドとなる。そんな多面性をも身につけていて、音には相当にこだわって作り込んだことがうかがえる。

れっきとしたスーパースポーツ

 俊敏で一体感のあるハンドリングと、強大なV8パワーをあますところなく路面に伝えるトラクションの感覚は、まごうことなきミッドシップならではのものだ。まさにそれをやりたかったからこそコルベットはミッドシップに生まれ変わったことを痛感する。車内のディスプレイで、電子制御LSDのカップリング度合いを確認することもできる。

 フロント275/30ZR20、リア345/25ZR21と前後ともベース車より大幅に拡幅されたタイヤの高いグリップ力と、引き上げられた空力性能があいまって、高速走行時のスタビリティは抜群に高い。コーナリング性能も限界がはるかかなたにあるようなグリップ感があり、何の不安もなく、どこへでも行きたいところに自由自在に行けるかのようなドライブフィールを実現している。

 4種類+オリジナルの走行モードが選べる上に、ステアリングホイールの左側に配された「Z」というボタンを押すと、究極的な走り重視の特性になる。いろいろ試してみたくならないわけがないが、公道での試乗ゆえ運転中はずっと自制心との戦いであった。中でも際立つのが、やはりエンジンの存在感だ。欧州勢がみなターボ化した中で、大排気量の自然吸気に勝るものなしであることを、あらためて思い知った次第である。

 これまでコルベットというのは、欧州スーパースポーツ勢とは別の世界で、独自のポジションを確立して成功しているように感じていた。それは新しいことずくめで登場したC8の「3LT」も含めて。ところが、史上最強のコルベットを謳う今回のC8のZ06は別物で、次元が違ったように思えた。これはもうれっきとしたスーパースポーツの一員に違いない。

岡本幸一郎

1968年 富山県生まれ。学習院大学を卒業後、自動車情報ビデオマガジンの制作、自動車専門誌の記者を経てフリーランスのモータージャーナリストとして独立。国籍も大小もカテゴリーを問わず幅広く市販車の最新事情を網羅するとともに、これまでプライベートでもさまざまなタイプの25台の愛車を乗り継いできた。それらの経験とノウハウを活かし、またユーザー目線に立った視点を大切に、できるだけ読者の方々にとって参考になる有益な情報を提供することを身上としている。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:堤晋一