試乗記

ポルシェの718ボクスター&ケイマンに設定された「スタイルエディション」、純度の高い“ピュアスポーツ”性能に触れた

2022年11月に受注を開始した「718ボクスタースタイルエディション」(手前)と「718ケイマンスタイルエディション」(奥)の2モデルに試乗

ミッドシップで4気筒が「718」の由来

 2005年にボクスターがコードネーム「987」の2代目に移行する際に、新たにケイマンが加わった。両車はともに2013年に「981」にモデルチェンジし、2016年には「718~」を車名に冠して再デビューした。なお、「718」というのはあくまで車名の一部であり、コードネームとしては「982」となる。

「718」というのは、かの「550」の後継として1957年に登場した往年の名車に由来する。水平対向4気筒エンジンを搭載するミッドシップの小型軽量なレーシングカーは、数々の名声をポルシェにもたらしたと伝えられる。

 ポルシェがあえて件のレーシングカーの名称をケイマンとボクスターに名乗らせたのは、ミッドシップで4気筒である点で共通し、優れたパフォーマンスをアピールする意味合いもあってのことに違いない。

 4気筒とともに、718世代のもう1つの大きなポイントがターボ化だ。これにより出力向上と燃費の低減や、コンパクト化と軽量化やパッケージングの最適化など、多くのメリットを得た。

「スタイルエディション」は、そんな718ボクスター/718ケイマンがモデルライフ終盤を迎えたからこそラインアップされた、見た目を重視するユーザーのために用意された特別なバージョンだ。

 いずれも2.0リッター水平対向4気筒ターボのエントリーレベルをベースとしており、2023年10月時点で6速MTの価格がボクスターは991万円、ケイマンは952万円、7速PDKはプラス42万円で、ハンドル位置は左右とも選べる。

「明るく活動的かつエクスクルーシブ」をキーワードに、斬新なカラーと調和のとれたコントラストパッケージを特徴としており、ホイールカバーにポルシェカラークレストをあしらったハイグロスブラックの20インチ718スパイダーホイールや、ブラックのスポーツテールパイプ、リアのハイグロスシルバーの“Porsche”ロゴなどを装備する。

エクステリアとインテリアにハイコントラストなデザインを施した2台のスタイルエディションに乗った

快適で意のままのオープンエアドライブ

ルビースターネオカラーの「718ボクスタースタイルエディション」(991万円)。スタイルエディションでは最高出力220kW(300PS)/6500rpm、最大トルク380Nm/2150-4500rpmを発生する水平対向4気筒2.0リッターターボエンジンを搭載

 パワートレーンとシャシーのスペックは差別化されておらず、両モデルで違いはない。試乗したのはボクスターがPDK、ケイマンがMTだった。

 ボクスターの印象的なボディカラーは、スタイルエディションなればこそ選べる、964型の911カレラRSに採用されていたカラーを現代的に解釈した「ルビースターネオ」だ。

 2.0リッター水平対向4気筒ターボエンジンは、いずれも220kW(300PS)の最高出力と380Nmの最大トルクを発生し、0-100km/h加速はMTの5.1秒に対し、PDKは4.9秒で、さらにスポーツクロノパッケージを装着すると4.7秒となる。

 シート越しに後方から聞こえるエンジン音に加えて、ソフトトップを開けると開放的で爽快なオープンエアドライブとともに、空気を介して伝わってくるボクサーサウンドを楽しめるのもボクスターの醍醐味だ。久々に乗って、低く響くサウンドは、心なしか以前よりも耳当たりのよい音質になったように感じられた。サイドウィンドウとディフレクターを立てたときの外界とのほどよい距離感も心地よい。

718ボクスタースタイルエディションでは、“Boxster”のエンボスロゴがサイドウィンドウ上部のソフトトップに専用のラベルとして追加される。ボディサイズは4379×1801×1281mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2475mm
コントラストパッケージは追加料金なしでブラックとホワイトの2種類から選択でき、どちらを選択してもフロントラゲッジコンパートメントリッド上のデコレーティブストライプ、サイドの“Porsche”デコレーティブロゴ、ホイールのブラック&ホワイトハイグロス塗装仕上げ、リアのモデルロゴが含まれる。足下はハイグロスホワイトの20インチ 718 スパイダー ホイール
スタイルエディションのインテリアではヒーター付きスムースレザーマルチファンクションステアリングホイール、シートヒーター、2ゾーンオートクライメートコントロール、フロアマット(クレヨンのコントラストステッチ付)、ブラックのレザートリム(クレヨンのコントラストステッチング付)、パワーステアリングプラスが標準装備される

 エントリーレベルとはいえ、レスポンスがよく十分にパワフルなエンジンパフォーマンスは申し分ない。加えて感心したのがPDKの完成度の高さだ。つながりが極めてスムーズながらダイレクト感もあり、シフトチェンジの歯切れもよい。世界最良のDCTの1つに違いない。そのPDKの制御とエンジンの特性が見事なまでにピタリとマッチングが図られている。ドライブモードの選択により走りのキャラクターが期待どおりに変化する。

 足まわりもエントリーレベルらしく気張ったところもなく、乗り心地がよく動きも素直なので、いたって乗りやすい。ミッドシップとはいえナーバスなところもない。非常にバランスのよい印象を受ける。特徴的なルックスとともに、快適で意のままの走りとオープンエアドライブを満喫できる1台である。

より一体感のあるケイマンの走り

アークティックグレーのボディカラーにブラックのコントラストパッケージを装着する「718ケイマンスタイルエディション」(952万円)。ボディサイズは4379×1801×1295mm(全長×全幅×全高)

 MTのケイマンは、PASM=アクティブサスペンションやPTV=トルクベクタリングの装着が効いて、スポーツカーらしさががぜん高まっていた。カーボンインテリアパッケージも、その雰囲気を引き立てている。

 MTに乗るとエンジンのパフォーマンスがよりよく分かる。低回転域では自然吸気のようにレスポンスがよくて扱いやすく、3000rpmあたりからは強力に過給されて伸びやかな加速を味わわせてくれる。自然吸気とターボの両方のよさを兼ね備えたような仕上がりだ。エンジンサウンドもクローズドルーフゆえかよりダイレクトに鼓動が感じられて、勇ましい吸気音とともにいかにも背後でエンジンが動いている感覚がある。

 MTのシフトフィールもなかなかのものだ。ショートストロークながら短過ぎず、ダイレクト感があり、節度感も高いがキツすぎないので扱いやすい。刻みも分かりやすく、よほどでないとシフトミスしなさそうだ。これも以前ドライブしたときよりも心なしかよくなっている気がした。

 フットワークも、ボクスターでもオープンなのにこれほど高い剛性感を実現していることに感心したが、ケイマンはさらにハイレベルで、より走りに一体感がある。素早くステアリングを切ってもそのとおりについてきて、タイヤが路面をしっかりと捉えて、文字どおりオンザレール感覚でイメージしたラインをトレースしていける。ブレーキもつま先でそのままローターを掴んでいるかのように減速度をコントロールしやすい。

ハイグロスブラックの20インチ 718 スパイダー ホイールをセット
718ケイマンスタイルエディションのインテリアはブラックのレザーパッケージ(チョークのコントラストステッチ付)をセット

 ミッドシップでありながら、実用性の高さも特筆できる。前後には外見から想像するよりもずっと広いストレージが確保されていて、車内にも使いやすい収納スペースがふんだんに設けられている。そのあたりも両モデルの人気のヒケツに違いない。さらにスタイルエディションは装備が非常に充実しているのも魅力だ。

 ポルシェは“役”のついた高性能版ももちろん魅力的な一方で、実は“素”がいいんだという話もよく耳にするのだが、それをあらためて実感した次第である。今後はボクスターとケイマンを電動化する旨が明らかにされており、ポルシェのことだからきっと間違いないものを作ってくれるに違いないだろうが、見た目の魅力に加えて、純内燃エンジンを積む両車の純度の高い“ピュア”スポーツぶりはなかなかに印象的であった。

岡本幸一郎

1968年 富山県生まれ。学習院大学を卒業後、自動車情報ビデオマガジンの制作、自動車専門誌の記者を経てフリーランスのモータージャーナリストとして独立。国籍も大小もカテゴリーを問わず幅広く市販車の最新事情を網羅するとともに、これまでプライベートでもさまざまなタイプの25台の愛車を乗り継いできた。それらの経験とノウハウを活かし、またユーザー目線に立った視点を大切に、できるだけ読者の方々にとって参考になる有益な情報を提供することを身上としている。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:堤晋一