試乗記

車いすユーザーがバイクに乗った! アカザーの「サイド・スタンド・プロジェクト」で知った参加者を笑顔にする理由

23年ぶりにバイクに乗ってきました!

障害がある人の「オートバイに乗る」という夢をサポートする支援団体SSPのイベントに参加してみた

 どうもアカザーっす! けがで脊髄を損傷し、車いすユーザーになって23年になるオレです。けがをする前はバイクに乗って仲間とツーリングに行ったり、バイク屋の軒先を借りてバイクをイジったりと、どっぷりバイク沼にハマっていました。

どうもアカザーっす! 23年目の車いすユーザーです。(イラスト・水口幸広)

 しかし、車いすユーザーになると二輪免許の必須条件である“ひとりでのバイク引き起こし”ができないため、バイクの免許は返納しました。それ以来、バイクはもっぱら「モトGP」や「鈴鹿8耐」などレースを観戦するだけの見る趣味になっていたのですが……。

 なんと先月、23年ぶりにバイクに乗っちゃいました! 車いすユーザーで歩くコトもままならないオレなのに!

 コトの発端は8月に大洗で開催された「室屋義秀エアショー in ひたちなか&大洗 2023」でのこと。エアショーまでの空き間に何か食べようと会場をブラついていると、ある車いすユーザーの方から声をかけられたんです。

 その方とお話をしたところ以前、車いすのレーシングドライバーである青木拓磨選手の主催する、手動運転装置のドライビングスクールHDRSを取材した際の記事を読んでくれていたらしく……。

 その方いわく、「弟の青木治親さんの主催するSSP(サイド・スタンド・プロジェクト)もかなり魅力的な活動なので、ぜひ取材してみてください」とのこと。

 SSPの活動は以前から知っていたこともあり、ふたつ返事でオッケーして、後日SSPに連絡を取ったところ、とんとん拍子で10月のSSPに参加することになりました!

 とはいえバイクに乗るのは23年ぶり、しかも下半身不随で乗るバイク! 不安しかなかったのですが、実はやってみたら笑顔しかない、サイコーに元気をもらえた1日だったんでレポートさせてください!(長文注意)

障害のあるなしにかかわらず共にバイクを楽しめる場所

 SSPは、「障がい者と健常者がいつでも一緒にオートバイで楽しめる環境を作る、かなわなかった健常者とツーリングを楽しむ」ことを目標に活動をしている団体です。

 2019年に、元WGP(GP125クラス)世界チャンピオンで現オートレーサーの青木治親選手が設立し、以来「パラモトライダー体験走行会」などのイベントを定期的に開催し、今年で活動4年目を迎えています。

Side Stand Project ~支える勇気・支えられる勇気~

 オレがSSPの活動を知ったのは、その発端となった2019年7月28日に鈴鹿サーキットで開催された「Takuma Rides Again 2019 Suzuka 8H」というイベント。

「Takuma Rides Again 2019 Suzuka 8H」で22年ぶりに鈴鹿サーキットを走る青木拓磨選手

 このイベントでは、22年前にサーキットでテスト中の事故により、車いす生活を余儀なくされ、WGPライダーも引退することになった青木拓磨選手が、弟の青木治親選手と兄の青木宣篤選手の協力により、なんと22年ぶりにバイクに乗って鈴鹿サーキットを走行したという奇跡のプロジェクト!

 青木拓磨選手は「僕がバイクに乗ることで、僕と同じように障害を負って、もうバイクには乗れないと諦めていた人でも『障害を負っていてもできるんだ!』ということを知ってほしい。チャレンジする精神を持ち続けてほしい」というメッセージを発信。

 そして、そのメッセージを受け取った、同じ境遇や障害を持った方から「どうすればまたバイクに乗れるんですか?」という問い合わせが殺到。そのニーズに応えるかたちで、青木治親選手が立ちあげたのがこのSSPというワケなのです。

なぜかボランティアスタッフを含む全員が笑顔のイベント!?

 オレ自身、10代の頃からバイクに乗っていたこともあり、同年代の青木3兄弟が世界で活躍する姿を、誇らしく感じていたのを覚えています。そんな矢先、WGPでチャンピオンを期待されていた、青木拓磨選手がテスト中の事故。その後車いすユーザーになったニュースもリアルタイムで知り、まさかのその2年後にオレもけがで車いすユーザーに(笑)。

 それ以来、車いすユーザーの先輩としても青木拓磨選手の活動にはずっと注目していました。なので、青木拓磨選手が22年ぶりにバイクで鈴鹿を走ったニュースにはかなりウルっときました。

 とはいえ、HDRSを取材した際に青木拓磨選手に「アカザーさんもバイク乗れますよ~」と、誘われても「青木さんだからできたんですよ~」と、自分のコトとしては考えられずにいました。転倒時の骨折リスクも怖かったですし(笑)。

 それでもSSPの活動は気になっていたので、機会があるごとにWebなどではずっとチェックしていました。そしてWeb記事の写真を見てあるコトに気付いたんです!

 バイクに乗っているライダーを含む、サポートスタッフまでが、なぜか全員笑顔なんですよ⁉

SSPのボランティアスタッフはとにかく皆さん笑顔が最高にイイんです。アブナイ宗教的な意味ではなく(笑)

 SSPのバイクには転倒防止の補助輪が付いているんですが、万が一に備えてそのまわりをサポートスタッフ数人が囲むように走るんです。で、その一緒に走っているスタッフ全員がめっちゃ笑顔なんですよ! さらには拍手をしているギャラリーまでも笑顔! なんで??

 そのことに気付いてからさらにSSPのことが気になっていたんですが、前述の大洗で声をかけていただいた方も、SSPのことを話されるときにはめっちゃ笑顔だったんです。

 というワケでそのみんなの笑顔の理由を知りたくなったのが、今回SSPに参加したいちばんの理由です(笑)。

できない理由を探すより、できる方法を探すのがSSP流

 オレが参加したのは、神奈川県川崎市の向ヶ丘自動車学校で開催された29回目のパラモトライダー体験走行会。ちなみにエントリー手続きはFacebookのSSPページから行ないました。

パラモトライダーやボランティアの応募はFacebookのSSPのページから行なえる

 当日、向ヶ丘自動車学校に集まったパラモトライダーはオレを含む5名。そして、偶然にもそのなかに大洗でオレに声をかけてくれた方こと、松崎さんを発見! いや~こんな偶然もあるんですね~。

SSPに参加するきっかけをくれた松崎さんと偶然の再会!

 今回バイクに乗るパラモトライダーは5名。うち2名がオレと同じ脊髄損傷で、1人が脳性まひでの下半身不随、1人が後天的な視覚障害を持った方、もうひと方が半身マヒと、それぞれ持っている障害もさまざま。

 オレは脊髄損傷なので、脊髄損傷のコトはなんとなく分かるのですが、ほかの障害の知識は皆無に等しい感じなんです。障がい者のオレですらそんな感じなので、ボランティアスタッフの方とかはさぞやご苦労されているのでは? と余計な心配が頭をよぎります。

 と、スタッフさんの心配をする前に、オレもやるべきことがありました。パラモトライダーの体の状態や、できるコト、できないコトをスタッフみんなでシェアするために、事前にメディカルチェックを受けなければいけないのです。

 メディカルチェックを行なってくれるのは、SSP専属メディカルアドバイザーの時吉直祐先生。理学療法士の時吉先生はボランティアスタッフとして、福岡から毎回SSPに足を運んでいるそう。時吉先生からメディカルチェックを受けながら、SSPに参加された経緯を伺いました。

SSP専属メディカルアドバイザーの吉直祐先生(理学療法士)が、事前にパラモトライダーのメディカルチェックを行なう

 時吉直祐先生は「治親さんに『障害を持った方でもバイクに乗せてあげたいんです』と言われたときに、職業柄いろいろな問題があるコトをお話して、なんとか諦めてもらおうと思っていました。でもそのたびに、治親さんはどうやればできるのか? だけを考えるんです。そんな治親さんに影響されたのか、いつしか私もどうすればリスクを最小限に抑えて、目標を達成できるか? を考えるようになりました」と話してくださいました。

 できない理由を探すより、できる方法を探す! 頭では分かっていても、実際にやるとなるとなかなか難しいんですよね~。さすがWGP(GP125クラス)で2度も世界チャンピオンになった男は考え方が違うぜ~!

同じ目標に向かい、共に達成する喜びを分かち合いたい

 そんな諦めるコトを知らない世界チャンピオンの青木治親さんにも、「どうしてSSPをはじめたのか?」そのいきさつを聞きました。

気さくな笑顔がすてきなSSP代表の青木治親さん

 青木治親さんは「2019年に拓磨を乗せてから、多くの方からどうしたらまたバイクに乗れますか? のお問い合わせをいただきました。ですが、拓磨を乗せるのとは訳が違うので、走られる方の体に詳しい専門家の時吉先生に入っていただき、2020年の6月の袖ケ浦サーキットで1回目の活動をスタートさせました」。

「僕ら3兄弟はオートバイに乗り始めて40年以上になります。若い頃には皆さんに応援されて、世界チャンピオンにもなれたので、オートバイで何か恩返しをしたいなとずっと思っていたんです。もちろん事故をしないように交通安全でのオートバイの乗り方をレクチャーするようなこともあったんですが、たまたま拓磨がまだオートバイに乗れることになって、ほかにも『乗りたい!』という声が上がってきたことで『みんな乗りたいんだ』と気が付きました。そして、みんなが乗りたいのであれば、誰かがそういう環境を作らないといけないなと」。

「僕は今オートレーサーとして活動させてもらっていて、ご飯を食べられています。なので、それ以外の空いている時間でこいうったオートバイを使った社会貢献、オートバイで何か夢だったり希望だったり、生きる上での活力になるような活動ができればいいなと。あとコレはやり始めて分かったコトなんですが、われわれ健常者のボランティアスタッフも“障がい者の方がオートバイに乗る”という挑戦にすごく勇気付けられるんです。僕たち健常者も、諦めているコトっていっぱいあると思うんです。そんななか、パラモトライダーさんが『ああ乗れた!』とニッコリする瞬間がうれしいし、それに勇気付けられるんです。同じ目標に向かって共に達成する喜びを味あわせてもらえることが本当にうれしいんです」と、人懐っこい笑顔で、そう話してくれました。

 ちなみにスタッフさんいわく「治親さん、毎回必ず泣くんですよ~」というくらい、涙もろくもあるみたいですヨ(笑)。

障害を持ったライダーでも乗れるようバイクを改造

 今回のSSPで使用するマシンはKTMの「390デューク」。排気量373.2㏄水冷DOHC4バルブ単気筒のネイキッドバイクです。この「390デューク」には、オレのような足が不自由なパラモトライダーでも乗れるよういくつかの改造が施されています。

いくつか改造が施されたKTMの「390デューク」を使用

 足でシフトペダルを動かせないパラモトライダーのために、シフトペダルをスイッチ式にして、左グリップに移動。また、フットステップにはビンディングが取り付けられ、靴底に取り付けるアダプターやビンディングブーツを使うコトで、ワンタッチで足の固定・取り外しが可能に。

シフトペダルの上にシリンダーユニットでシフトチェンジする。操作は左手のスイッチで行なう
足がステップから落下しないよう、ステップにはビンディングを装着。靴底には専用のアダプターを装着して使用する

 また、フレームには転倒防止のための補助輪(アウトリガー)が取り付けられており、使用するパラモトライダーの障害やスキルに合わせて、適宜取り外しができるようになっている。仕組み的には子供の頃に補助輪を取り付けた自転車で練習したアレです。

補助輪(アウトリガー)は4つ取り付けられ、パラモトライダーの技量が上がるにつけ簡単に取り外しができる仕組み

 バイクの改造はそれぐらいで、あとはボランティアスタッフの助けを受けながら、SSPの練習メニューをこなしながらパラモトライダーとしての練度を上げていく感じです。

 そして目指すは、すべての補助輪を取り外しての外周路の周回やサーキット走行! とはいっても今回用意された走行枠は1人30分程度。なので、パラモトライダーとして参加する皆さんは、複数回参加しつつ技術を磨き、少しずつ乗れるようになっていくとのこと。

 ちなみに青木拓磨選手が初めて乗った際には補助輪などはなく、シフトボタンの移設のみ。拓磨選手は昔とったきねづかというか、持ち前のセンスでいきなり乗れてしまったみたいなんですが、走行中に足がステップから落ちて、治親さんはじめスタッフがヒヤヒヤするという一幕も。そこからビンディング式フットステップが開発されたり、太ももをバンドで縛ったりと、ライディングスタイルやギアもいろいろと進化してきたようです。

それぞれの障害に合わせたライディングとサポートで!

 さて、メディカルチェックを終えたあとは、治親さんと時吉先生からこの日乗るパラモトライダー5人の紹介が。その方たちがどういう障害を持ち、どんなことができたりできなかったするのか? という情報をボランティアスタッフ全員とシェアをする重要なミーティングです。

その日乗るパラモトライダーの障害がどんなものか? どんなサポートが必要なのか? を事前にスタッフ全員で共有する。初参加というボランティアスタッフも多い

 この日はオレを含む5人のパラモトライダーが参加したのですが、それぞれに4~5人のボランティアスタッフがついて、チームとして動きます。チームはひと目でそれと分かるよう、それぞれが色分けされたバンドを腕に付けます。ちなみにオレはイエローチームで黄色のバンドを腕に付け、出走順は3番手。

 この日の1番手は大洗でオレに声をかけてくれた、松崎さん。松崎さんはオレと同じ車いすユーザーなんですが、脊髄損傷ではなく脳性まひで、生まれたときから歩行は難しいとのこと。この辺も事前のミーティングで情報がシェアされるので、自分の障害以外はあまり詳しくないオレも他の方の障害についていろいろと学ぶことができました。

松崎さんは足首などの骨に変形があり、うまく歩行することができない。またその日によっても状態が変わることもあるので、事前のメディカルチェックは重要

 バイクに乗るという共通の目標を持つことで、パラモトライダーができるコトやできないコトをチームで共有し、結果、その方の持つ障害のコトを深く理解するに至る。真の多様性社会の実現ってこういうことなのではないでしょうか? 互いをよく知らないのに、うわべだけのバリアフリーを語っても、その先には何もない気がします。

 そんな思いを巡らせつつ、松崎さんの準備を眺めていると、さっきまで笑顔だった松崎さんがバイクに乗ったとたんに少し緊張の面持ちに。今日でパラモトライダーは3回目とのことなので、かなり余裕だろうな~と見ていたんですが、確かに足が動かなくてバイクに乗るとなると緊張しますよね。あ~、なんか見てるオレまで緊張してきた!

ライダーもスタッフも緊張の面持ちで走る1本目!

 最初こそ緊張で体が硬くなり、「前回よりうまくできない」とおっしゃっていた松崎さんでしたが、治親さんやスタッフの盛りあげも手伝って、最後はこの笑顔! 治親さんから「次回は補助輪を外して周回ですね!」と太鼓判をもらっていました。

でも最後はこの笑顔!

 続く2番手は野島さんです。野島さんはオレと同じ脊髄損傷ということで足は動かせないが、上半身は問題ナシという身体的な面でもほぼオレと同じコンディション。しかも、オレと同じ今回がSSP初体験とのことで、ライディングはかなり参考になるかも!

 ただし、野島さんは元チェアスキーで日本代表にもなった、すごいパラアスリートとのことなので、やはりあまり参考にならないかも(汗)。

最初から笑顔で順調にメニューをこなしていく野島さん

 さすが元パラアスリート、順調にメニューをこなしていき、あっという間に後ろの補助輪を外しての、補助輪2輪での走行に挑戦です。しかし、これも難なくこなすかと思いきや、バイクがどちらかに傾き、傾いた車体を戻そうとすると逆方向に傾いたりと、かなり手こずっている感じ!?

いったんバイクが傾いてしまうと、足が使えないぶん車体をまっすぐにするのが難しい

 スキー板1本で斜面を100km/h以上のスピードで滑走する、バランス感覚に優れたパラアスリートが手こずるのを目の当たりにして、改めて足が動かない車いすユーザーがバイクに乗るコトの難しさを再確認すると同時に、オレから笑顔が消えました。

 不安を消すために、午後の部1番手であるオレの体験会までの間にいろいろとイメトレを試みます。とはいえ、未体験のオレにイメトレの意味はあるのか? と、昼飯も食えずに悩んでいると、スタッフさんから「トレーニングバイクを使った特訓をこの昼休みにやってみましょうか⁉」との提案が!

ランニングバイクを使ったトレーニングで感覚をつかもう

 その特訓に使うトレーニングバイクがコレ。

足が不自由でも2輪で走る感覚を練習できるランニングバイク

「ストライダー」的な仕組みのペダルレスの自転車、いわば車いすユーザー用のランニングバイクです。とはいえオレは足で地面を蹴ることができないので、スタッフさんが後ろから押してくれる感じで使用します。

 ヤジロベエの腕のように左右に付けられた小さな補助輪をなるべく接地させないよう走るのが目標です。

 後ろからスタッフさんに押してもらいながら走っていると、子供の頃の父親に自転車の後ろを押してもらいながら練習をしたときのコトを思い出して懐かしい気持ちに(笑)。

SSPランニングバイク練習

 事故で車いすになる前にはもちろん自転車にも乗っていたんですが、なにせ23年ぶり、イメージではまっすぐ走っているつもりだったんですが、右の補助輪がずっと接地してガーガーと音を立てます。

 2本目はなんとか接地させないようにと務めるも、1本目と同じ結果。後ろから押してくれているスタッフさんいわく、少し右重心になっているとのこと。

 そこで思い出しました。オレは右の腹筋の力が強く、お尻の感覚も左が弱く右が強い、そのせいか車いすに座っていても右肩が下がりやすい(体が逆くの字に曲がりやすい)のです。どうやらこのランニングバイクに乗っているときも、その傾向が出ているよう。

シートの中央にまっすぐに座るとイイ感じに!

 それを踏まえて、シートの中央に座り、体幹をまっすぐに保ち、目線を遠くに置くと少しイイ感じに! 初めて補助輪を外して自転車に乗れたときの、2本のタイヤで走る気持ちよさを思い出しました!

 そんなこんなで特訓を終え、いざパラモトライダー体験走行へ!

いよいよ23年ぶりにバイクに乗るときが!

 これまでのパラモトライダーは革ツナギを着用していたみたいなのですが、革ツナギは転倒時などにけがを防止してくれる半面、足が不自由だと1人での着脱が難しかったり、熱が体にこもって熱中症になりやすかったり(基本的に感覚がない部位は発汗機能もないので熱が体にこもりやすいんです)するとのことで、今回からは必要な部位へのプロテクターの着用となったとのこと。

今回から、必要な場所のみ(体、肘、膝)をガードするボディプロテクターを採用。また、足首が硬い人にはビンディング付きのブーツを使用するようですが、オレは足首がやわらかいとのことで、靴に取り付けるビンディングパッドを使用して足を固定
スタッフさんに抱え上げられて車いすからバイクに移動。足もビンディングにセットしてもらう

 装備を着用したあとは、スタッフさん数人に抱えられるかたちでバイクにまたがります。おお! 23年ぶりのバイクは目線が高い! こんな高かったのか! この感じ、ぜんぜん忘れてたわ~。

 と、感慨にふけるオレをよそに、スタッフさんたちはテキパキとセッティングをすすめます。膝でタンクをホールドするような体勢で、左右の太ももをベルトで固定。続いて靴底に取り付けたビンディングプレートの金具をステップに接続、と。

 なんか少しずつバイク乗っていた頃を思い出してきたかも⁉ ていうか初めてバイクに乗ったときのドキドキはこんな感じだったな~。

バイクにまたがってみて、バイクの目線ってこんなに高かったのかと思い出しました

 今回、オレをサポートしてくれるイエローチームのリーダーは松岡さん。松岡さんはSSPへのボランティア参加は初めてながら、教習所の教官を務められていたコトもある運転教習のプロです。

オレをサポートしてくれたイエローチームのリーダー松岡さん(右)。前職では教習所の教官を務めていたという教えのプロ! 隣は松尾さんの婚約者の方でオレが乗ったバイクを押しまくってくれました。おふたりともサポートありがとうございました!

 なので、教えも的確! というかオレがめちゃくちゃ緊張しているのを察してか、終始にこやかに対応してくれるんです。昔、バイクの免許を取ったときのめっちゃ怖かった教習所の先生とぜんぜん違うよ! 昔の教習所の教官が鬼なら、松岡さんは仏の教官! たぶん教習所でも大人気の先生だったんだろうな~。

緊張をほぐすため治親さんはじめスタッフの皆さんは冗談を飛ばしてくれるので、終始なごやかな雰囲気に

 そんな温かいスタッフに励まされての1本目。

 まずはバイクに慣れるためエンジンはかけず、スタッフ3人がかりの通称“人力エンジン”でバイクを押してもらいます。速度は駆け足ほどで、感覚的には事前に練習したランニングバイクがバイクに変わった感じ。さらには補助輪も4つあるので、転倒などの恐怖感は皆無です。

 走行を重ねるたびに少しずつスピードを上げていきます。バイクに乗っているオレは松岡さんの指示どおり、引かれた白線の上を走るコトだけに集中! しているつもりなんですが……これがなかなかに難しい。

 やはりランニングバイクのときと同じように右に傾いてしまうんです。そして、バイクはランニングバイクよりも重いので、傾いたらなかなか戻せない!

SSP人力走行

 そこに手こずっているオレを見かねてか、松岡さんから「次はシートの真ん中に座ることを意識して、視線を遠くに置いてみてください」のアドバイス。このアドバイスのおかげで、なんとか白線の上を走れるようになったんですが、まだバイクが傾くとうまく立て直せない!

 そこでさらに松岡さんから「バイクが傾いたときは無理に体で修正しようとせずに、ハンドルだけを使って修正することを意識してみてください」とのアドバイス! そしてこのアドバイスどおりに、ハンドルだけでバイクを立て直してみると、これがかなりイイ感じ!

傾いたバイクを戻すのに手こずっていると、治親さんや松岡さんからのアドバイスが

 コツはクッと鋭く短く、立て直したい方向にハンドルを入れる感じ! そうそう、そうだった! こうすればバイクって勝手に安定してくれるんだった! 教習所で一本橋教習をしたあの感覚! なんか思い出してきた~!

 と、調子にのってヘルメットの中で叫ぶと、声が外のスピーカーで拡散されてスタッフの皆さんにまる聞こえ(笑)。そしてそれを聞いた治親さんから「じゃあそろそろエンジンをかけてみましょうか~」と、教習段階を1段引き上げる指示が。

 これはほかの参加者さんもそうだったのですが、すべてのパラモトライダーさんの習熟度を治親さんが判断し、スキルに合わせて徐々に教習レベルを上げていくのだそう。

 ドキドキしながら治親さんの指示に従い、エンジンを始動し、クラッチを握って、左ハンドルについたシフトアップボタンを押して、ギアを1速に!

 ガチャン!

 ギアが1速に入る、音と振動が体に伝わった瞬間! バイクに乗っていた記憶が鮮明によみがえりました! エンジンの振動とギアがニュートラルから1速に入る音。

 バイクに乗っていた頃、信号待ちから発進するときのあのドキドキワクワクする感覚です! こういうちょったしたコトで記憶って鮮明に呼び起こされるんですね! あ~もうこれだけでSSPに参加したかいがあったわ~!

エンジンをかけただけでこの笑顔。なんでよ(笑)

 と、なんかもう自分の中では、この感覚を味わえただけでやり遂げた感があったんですが、あくまでエンジンをかけただけ。ここからクラッチをつないで走りださないと……。しかし、昔の感覚が戻ったオレには朝飯前! やっぱり楽しさって重要なんですね!

 めちゃくちゃ楽しくなってきて、さっきまでの緊張感はどこへやら? 1速に入れたまま、さっきまで地面を擦っていた補助輪をほとんど接地させるコトなくあっという間に往復完了! さっきまでのフラフラがうそのようにがぜん調子が出てきました。

チームで達成するのがSSPの醍醐味(だいごみ)!

 そんな感じで2~3本走ったあたりで、また治親さんから「じゃあ後ろの補助輪を外しましょう」との、さらに教習段階を上げてもいいとの許可が!

 1分もかからずに後ろの補助輪は外され、エンジン横から伸びる補助輪2本だけの仕様に。ここで静止状態のバイクを軽く左右に振ってもらい、どこまで傾くのかを確認します。感覚的には左右に20cmほど傾く感じで、よりバイクとしての自由度が上がる半面、傾いたバイクを戻すのにさらに苦労しそうな予感。

 そして補助輪2本での1本目。

 最初は“人力エンジン”で押してもらい、傾く角度に慣れるコトから。はい、難しい! パラアスリートの野島さんもこの段階でめちゃくちゃ手こずっていたように、バイクがどちらかに傾くと傾きを戻せずに、傾いた側の補助輪をずっと接地させて走る感じに! さっきの安定感がうそのようにバイクもフラフラと、白線の上を走ることさえままならない感じです。

SSP補助輪2本での走行

 手こずること数本、治親さんの「ハンドルを小刻みに動かすと真ん中で安定しますよ」というアドバイスで、だいぶ白線の上を走れるようになり、松浦さんの「グリップは強く握らずに肩の力を抜いて操作しましょう」のアドバイスで、傾いたバイクを戻せるようになった頃……治親さんからの「じゃあエンジンかけてみましょう」の声。

 そして、エンジンをかけて走行するコト数回。いくぶんマシにはなってきたものの、まだ補助輪を擦らないで走れたコトは1本もなく……。

 ついにラスト1本の復路。泣いても笑ってもこれが最後! という最後の最後で、ついに最初から最後まで補助輪を接地させるコトなく走り切り、思わずガッツポーズ!

 走行後、気付けば駆け寄ってきてくれた治親さんをはじめスタッフの皆さんと抱き合ってました!

 なに、このレースで勝ったみたいな展開(笑)。でもなんかそれぐらいうれしかったんですよ! この最後の1本だけは“バイクで走った”気がしたんです!

1速で往復しただけなのに、思わずガッツポーズが! なぜだ!?(笑)

 そしてこの成功の決め手となったのは、松岡さんの「最後の1本、体の力を抜いて楽しんでいきましょう」の言葉だった気がします。

 そうか! こういうコトなんですね!

 最初は車いすユーザーがバイクに乗るコトにどんな意味があるの? と思っていたオレですが、SSPを体験してみてよく分かりました。想像どおり車いすユーザーがバイクに乗るということ自体には、それほど大きな意味はないんです。

 でも、不可能と思われるコトにみんなでチャレンジし、共にそれを成し遂げる! その目標に少しでも近づくコトに大きな意味があるんだと気が付き、胸の奥が熱くなりました!

チームで何かを達成する喜びを分かち合うのがSSPの醍醐味(だいごみ)!

盲目のライダーも片まひのライダーもみんな最高の笑顔に!

 オレの次にパラモトライダーして走行された渡辺さんは盲目ですが、フツーに手足は動くので、それに合わせてバイクをノーマルへと仕様変更。

 このあたりもさまざまな障害を持った方を乗せてきたSSPならではで、オレが使っていたシフトボタンやビンディングステップも5分ほどで取り外し、あっと言う間にバイクはノーマル状態に。

 そして目が見ない上にバイクに乗るのも初めてという渡辺さんを、チームが一丸となって「どうすれば安全に乗れるのか?」を考えます。

どうすれば乗れるのか? を全員で考えて実現させていく!

 あるスタッフは声を出しながら進行方向をアドバイス、パラモトライダーの渡辺さんも「足下の白線ならうっすらと見ます」など、自分ができるコトや感覚をまわりのスタッフと共有し、あっという間にチームになっていき、まっすぐ白線の上を走るんです! なんかドラマを見ているようでした。

 そして、ヘルメットに取り付けられたマイクからは、渡辺さんの楽しそうな笑い声が! 最後に渡辺さんはヘルメットの中の笑顔が分かるような弾んだ声で「次はバイクを傾けて周回したいです」とコメントしていました。

渡辺さんもまわりを走るサポートスタッフもみな笑顔に!

 なんでボランティアの方が笑顔なのか? 自分が体験し、この場の空気を感じ、そしてこうして改めてほかの皆さんの走行を見ることで、理解しました。

 最後、5人目のパラモトライダーの山辺さんは右半身マヒの障害を持っています。右手の指を開くことが難しく、走行中にブレーキを握るとアクセルまで開けてしまうという症状に悩まされていました。

乗る前には理学療法士の時吉先生から「山辺さんは右手をうまく使うことが難しいんです」との情報を全員で共有。ブレーキレバーを握るとアクセルまで開けてしまう問題が

 それを見た治親さんの「アクセルワイヤー外してアイドリングだけで走ろう」との提案で、この問題をあっさりと解決! 山辺さんも最後は笑顔で走行を終えられました。

パラモトライダーの障害に合わせた改造をバイクに施すことで、見事走れるように!

 その場ですぐに解決策を提案できる治親さんもそうですが、それにものの数分で応えるボランティアスタッフにも驚きました。気になったのでメカニックさんにお話を聞いたところ、レースメカニックの経験もあるすご腕のメカニックさんでした。

SSPのサポートスタッフのなかには、あっという間にトラブルを解決できるバイクの仕組みを知り尽くしたプロも多数在籍する

 治親さんを筆頭に、すごいスキルを持ったスタッフたちがボランティアでその技術を惜しみなく提供しているSSP。この記事をここまで読んでくれた方でも「なんでそんなすごい人たちがボランティアで?」と信じられないと思います。

 でも、この場所に来て、この空気感を共有するとなんか納得できるんですヨ。他ではなかなか経験できない、気持ちいい時間や笑顔がここには満ちている感じがします! いわば超一級パワースポットのような何か? それがこのSSPにはある気がしました!

 パラモトライダーとして、もう少しうまくなりたい自分もいるんですが、次回はボランティアスタッフ側としてSSPに参加してみたくなりました! 皆さんも一緒にいかがですか? めちゃめちゃパワーがもらえますよ~! 興味を持った方はSSPのWebサイトを確認してみてください!

【お詫びと訂正】記事初出時の一部表記に誤りがありました、お詫びして訂正させていただきます。

アカザー

アカザー(赤澤賢一郎)
週刊アスキーの編集者を経て、現在は車いすのフリー編集者・ライター。2000年にスノーボード中の事故で脊髄を損傷(Th12-L1)。車いすユーザーになって23年の車いすユーザー。2018年に札医大で再生医療の治験を受け、2020年に20年ぶりに歩行!愛車は手動運転装置付きのレガシィツーリングワゴン2.0RSpecB。

撮影協力:青山義明・SSP