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大洗の空に室屋選手のエアショーが帰って来た!

最後のローパス(低空飛行)では、キャノピー内の室屋さんの姿もハッキリ分かるほどの低さ&低速で飛行!

 どうもアカザーっす! にわか航空ファンのオレですが、8月19日~20日に開催された「室屋義秀エアショー in ひたちなか&大洗 2023」を生で観て、こんな海外でしか見られないようなエアショーが日本にもあったのか!とめちゃくちゃ感動して、この原稿を書いています。

 事の発端はプロデューサーで航空ジャーナリスト協会会員の杉山潔氏から「室屋選手が4年ぶりに大洗の空を飛ぶので、見に来ませんか?」とのお誘いをいただいたこと。杉山さんには過去、2008年にもツインリングもてぎで開催された「“オートボルテージュ”アエロバティックス日本グランプリ」にお誘いいただき、お話を聞いた瞬間にそのエアショーでの興奮が一気に押し寄せ、二つ返事で「見に行きます!」と返事をしたオレ。あのとき見た、グランドスタンド前のローパスにめっちゃ鳥肌が立ったんだよな~。

イベントのポスター

アジア人初のレッドブル・エアレースチャンピオン!

 Car Watchを読んでいる諸兄には釈迦に説法だとは思いますが、パイロットの室屋義秀選手のご紹介を少し。室屋選手は1973年生まれのエアレース&エアロバティックパイロット。初フライトは18歳、大学生の頃にグライダーでの飛行訓練として。「機動戦士ガンダム」の主人公アムロ・レイに憧れてパイロットになったという話には、同世代のオレ的にめっちゃ共感です!分かる~(笑)。

 そしてアムロ・レイ同様、パイロット適正のあった室屋選手はメキメキとその頭角を現わします。20歳のころに渡米し飛行機のライセンスを取得し、1997年よりエアロバティックスに参戦。2009年からは「レッドブル・エアレース ワールドチャンピオンシップに初のアジア人パイロットとして参戦開始。そして2016年に千葉大会で初優勝。翌2017年には、ついにアジア人初の年間総合優勝を果たしたという、レジェンド級のパイロットなんですヨ。

室屋義秀選手(YOSIHIDE MUROYA OFFICIAL HPより)

 オレが生で見た室屋選手のフライトは、レッドブル・エアレースに参戦する前、前述のエアショーのフライトのみ。エアレースに参戦し、アジア人初のワールドチャンピオンとなった今、フライトスキルを上げまくった室屋選手によるエアショーが生で見られるチャンス!

全国各地から室屋ファンが大洗に集結!

「室屋義秀エアショー in ひたちなか&大洗 2023」は、8月19日に阿字ヶ浦海水浴場上空でのフライト、翌8月20日は大洗マリンタワー前でトークショーを行なった後に、大洗サンビーチ海水浴場の上空でのフライトという2本立てでした。

19日には阿字ヶ浦海水浴場上空でもフライト。

 そんなワケで、オレは室屋さんの話も聞けてフライトも堪能できるという、欲張りセット的な20日に大洗にいくことに。夏真っ盛りのドピーカンの中、マリンタワー前に設けられたトークショー会場前は開始10分前というのに大入り満員!

室屋選手のトークショー前に開催されたフラダンスショーもかなり盛り上がっていたんですが、開始10分前にはこれがほぼ満席に!

 観客のなかには富山から駆け付けたという方も!そのファンの8割くらいが過去に室屋選手のフライトを目の当たりにして、その虜になった方でした。あのフライトを生で見たらまたリピートしたくなる感じ、分かるわ~。

 トークショーの司会者である杉山さんの呼び込みに合わせて、フライトスーツに身を包んだ室屋選手がステージに登場。

 最初のあいさつでは「ここ大洗でエアショーを実施したのは4年前で、昨年も実はフライト予定だったのですが、雨などで残念ながら飛べずということで、4年ぶりに大洗の空を飛べるのをとても楽しみにしています」と、大洗の空を飛べる喜びを語ってくださいました。

 実は、昨年もフライト時間が3~4時間ほどずれていれば飛べていたらしく、室屋選手にとっても1年越しの、コロナ禍期間を入れると4年越しの待望のエアショーだということが、その言葉から伝わってきました。

 トークショーは室屋選手のほかに、航空ファン編集長神野幸久氏、大洗観光協会長大里明氏に司会の杉山氏を加えた4名によるクロストーク形式で行われました。

左から杉山氏、室屋選手、神野氏、大里氏。

 大里氏によればこのイベントの発端は、大洗の広い空を皆さんに楽しんでもらうイベントを何か企画したいと考えていた折に、杉山氏に室屋選手を紹介され、約4年前に2人で室屋選手の拠点である福島スカイパークに会いに行ったのがきっかけとのこと。

 司会の杉山氏が前日に行なわれた阿字ヶ浦海水浴場上空でのフライトの感想を室屋選手に聞いたところ、室屋選手は「天気がよかったのでビーチには人が一杯で、最後にローパスするときに手を振ったりするんですけど、下からみなさんが手を振ってくれるのが見えるんです。なので、今日も手を振っていただけると嬉しいんですが、その時にタオルとか旗とか大きいものを振っていただけると良く見えてとても元気が出ます!」と笑顔で応えてくれました。

笑顔で質問に答える室屋選手。

 杉山氏もそのときに阿字ヶ浦海水浴場で室屋さんのエアショーの写真を撮っていたらしく、ビーチにいたおばあちゃんがずっと空を見上げているのを見て、思わずシャッターを切ったそうです。それを見て「われわれのような航空マニアが喜ぶだけではなく、こういった場所で普段エアショーなどを見たことがない人に見てもらうのは凄くいいことだなぁ」と感じたそう。

杉山氏が阿字ヶ浦海水浴場で撮影した1枚。航空ファンでもない一般の方もずっと空を見上げていたそう。

 神野氏が昨日のフライトの離陸場所である茨城空港から阿字ヶ浦海水浴場までどのくらいの飛行時間がかかるのか?を質問したところ、「飛行機だと6~7分ですかね、でもこのトークショー後には空港まで車で30~40分かけて行かないといけないんです」と観客を笑わせていました。

 またエアショーの舞台裏エピソードとして、「飛行機が煙を吹いて落ちて行きましたという連絡が警察にいっぱい入るので、警察など関係各所には事前連絡を行なっております」というお話でも会場は笑いに包まれていました。

 室屋選手の4年ぶりのフライトへの抱負は「4年練習したので少しは上手くなったと思います。あと機体も新しいエクストラ330SCというものに変わっていて、馬力も1割ぐらいパワーアップし、舵の利きもよくなっています。」とのこと。

 レシプロ単機で行なうエアショーの難しさと、その見せ方についての質問には、「皆さんがエアショーとして頭に浮かべる、ブルーインパルスやジェット戦闘機による編隊飛行はエンタテイメントとしてスケールが大きいんですけど、僕らは凄く小さな飛行機でものすごく狭い範囲で飛ぶんです。なので、目の前、もうこの辺で見えるわけです。15分間くらいの間すべての技がほぼ切れ目なく続きます。それをショーとしてどう組み立てれば楽しんでもらえるのか?を考えています」。

 エアショーの飛行中にかかる最大Gについての質問には、「最大は+10G、-10Gちかくかかります。皆さん大洗マリンタワーにエレベーターで昇りました?あのエレベーターでかかるGがだいたい1.1Gとか1.05Gなんですけど、だいたいその100倍くらいの感じです」。

エアショーでかかる最大Gは±10G!体重の+10G では10倍の重さがパイロットの身体にかかります。

 エアショーのトレーニング方法については「トレーニングでは慣れないうちは高い高度で技を練習します。そして技に慣れてきたところで、少しずつ高度を下げ低い位置で演技をするんです。そして高度を下げたらまた簡単な技からはじめます。そうやっていろんな安全マージンを何重にも積み重ねてやるわけです。そしてそういった経験を積むことで、徐々に高度が下がり見栄えのするパフォーマンスができるようになるんです」。

 エアショーの見どころはどこですか?との質問には、「少しマニアな見方ですが、プロペラ機にしかできない動きがあって、飛行機がでんぐり返しをするような動きであったり、空中でプロペラ推力で止まる、ヘリコプターのホバリングのような動きなどは、ジェット機ではエンジンが止まってしまう可能性があるのでできないんです。なので、その辺の低速域でのフライトを見ていただけると嬉しいです。ちなみに最低速度だと30キロほどでも飛ぶことが可能です。たぶんエアショーを見たことが無い方は、飛行機があんな飛び方をするんだ!と驚かれるかもしれません」。

まるで無重力空間を飛んでいるような演技も!

 航空ファン編集長の神野氏は写真撮影する上でのコツも話してくれました。「スマホで撮るコツは空だけじゃなく、まわりの人や風景も入れて撮るとその場の雰囲気が出ます。望遠レンズで撮る場合はシャッタースピードを上げるとプロペラが止まってしまうので、手ブレしない範囲でシャッタースピードを下げると迫力ある写真が撮れますよ」とのこと。

 トークショーの終わりには大洗観光協会長の大里氏から嬉しいコメントも。「ひたちなか大洗リゾートの取り組みとしてスカイスポーツというものが入っていますので、室屋さんにはこれからも継続的に来ていただいて、大洗の空を盛り上げていただけたらと思っております」これは来年も開催されるというコトなのでは?

 そんな感じでトークショー会場は大盛り上がり!スタートが遅れたこともあり予定時間を15分ほどオーバーし12時15分ごろに終了。室屋選手はフライトのために茨城空港に向かいました!

 室屋選手が大洗サンビーチ上空に現れる14時45分までは2時間以上あったので、室屋さんの「時間まで体調管理のうえ、お昼は美味しいモノでも食べていただいて気楽に見ていただければと思います」という言葉どおりに、イベントステージ周りに設営されていた出店をチェック!猛暑で失われた塩分補給にと五浦ハムのハム焼をパクリ!ウメ―!塩味が染みる~!

大洗マリンタワー前の出店スペースも大盛況!海上保安庁音楽隊の演奏などもあり、フライト時間まで夏らしいイベントを堪能しました!
高萩の有名店である五浦ハムのハム焼。炎天下で塩分を失っていたからか、めちゃめちゃウマかったです。

ちょ!めっちゃ低い?ていうか飛行機の動きじゃねぇ!!!

 室屋さんのフライト時間まで大洗マリンタワー前のイベントスペースで行なわれているイベントを見たり、出店でメシを食ったりして過ごしたりしたオレは、フライトのほど1時間前に大洗サンビーチへ移動。サンビーチ前の駐車場から砂浜までは舗装路もあり車椅子ユーザーのオレにも優しい感じでした。

 途中、ビーチセンター前にあった室屋選手のグッズ売り場などをチェックしつつ、目指すはパトロールセンター前に設けられた撮影ゾーン。

室屋選手のグッズ売り場も大盛況。コンサートやカーレースの前っぽい雰囲気かも!?

 パトロールセンターを過ぎたあたりから撮影ゾーンまでの最後の数十メートル、超サラサラの砂浜に車椅子のタイヤを取られスタック気味に進んでいると、優しい室屋ファンの方から「押しましょうか?」との嬉しいお言葉をかけていただきました!この炎天下のなか他人にその優しさを向けられるアンタに幸あれ!その節はありがとうございました!

 そんなこんなで汗だくになりながらも、なんとかエアショー開始の5分前に撮影ポイント到着!

 トークショーで茨城空港から大洗サンビーチまでは5~6分と言っていたので、この時まさにこんな感じで茨城空港を飛び立とうとしていたのかも?

茨城空港から離陸しようとする室屋選手と愛機エクストラ330SC。

 撮影ポイントでしばし大洗サンビーチの砂浜の広さと、その上に広がる空の青さに見とれていると、どこからかイカしたBGMに乗せてのMCが始まったかと思いきや……。

 まさに、司会者の前説を受けて入場してくるスターやアスリートのように、室屋選手の愛機エクストラ330SCが背後から超低空で大洗サンビーチ上空に飛来!

 めっちゃ低い!!!

 その時、スマホで動画を取りながらも、観客の間を縫っていくかのような超低空飛行に鳥肌が立ちました!ホントに前の観客の頭より低いところを飛んでいるように見えたんですヨ!

この低さヤバイ!

 そして、そのまま90度ターンからの急上昇!

 いきなり想像の上を行く軌道に、口を開きっぱなしです。そこに畳みかけるようなMCが!「さあヨシの準備運動は終わったようです、これから機体は3000フィートおよそ1000メートルまで上昇します」との解説が!えっコレでウオーミングアップなんすか!?ていうか、このMCさんと室屋さんの演技が息ぴったりなんすけど!サイコーかよ!

 聞けば、MCを務められているジュンさんは、10年ほどずっと室屋さんのエアショーのナレーターをしている方らしいです。どうりで息がピッタリなハズだ!技の解説も完璧で素人の俺にもめっちゃ分かりやすかったです。個人的にはこのBGMに乗せたジュンさんの解説で室屋選手の演技が5割増しくらい輝いて見えました!

エアショーのMCを務められたジュンさんも室屋さん同様にフライトスーツに身を包まれていました!格好もシンクロしてる!

 大きく弧を描きながらの急上昇!青い空に白い煙で描くそのマニューバはもはや芸術の域!素人目にも「これはすごいものを見ている!」と思えるようなエアショーが日本で見られるとは!

 そして15分間のエアショーの間、息をつく暇もないくらい矢継ぎ早に技を繰り出す室屋選手。そのなかでオレがいちばん驚いたのが、飛行機が空中でバックするこの技!

 ジュンさんのMCによれば、テールスライドという技らしいのですが……。空中での動きがもはやUFO!プロペラ飛行機がこんな動きをするなんて聞いてないっすよ!

機体の動きがオレの知っている飛行機の動きじゃないんですよ!
かなり低い位置を飛ぶので、大気の震えや音を肌で感じられるほどの迫力がありました!

 そして最後はスローな低空飛行でビーチから見上げる観客に手を振り、茨城空港に帰って行きました!最後までカッコ良かった~!

 そんな、ひたちなかと大洗でのエアショーイベントの動画が、この原稿を書いている今、室屋選手の公式チャンネルでアップされたらしいので貼っておきます。本当にこんなに低く飛んでいるんですよ!

エアショー in ひたちなか&大洗 2023

 興奮の15分間のエアショーが終わって、ビーチから帰ってくる人を見ていたら、あることに気が付きました!皆さんめっちゃ笑顔なんですよ!

 トークショーで室屋さんが、「人は空を見上げると元気になるんですよ!」と語っていたとおりでした。しかも砂浜の帰り道では3人の室屋ファンが車椅子を引いたり押したりしてくれました!行きの3倍!室屋さんのエアショーを見ると人は3倍も優しくなれるというのか!?

 と、ここまで読んでくださって、室屋さんのフライトに興味が出たあなたに朗報です!なんとこの10月に東京のド真ん中、渋谷上空で室屋さんのフライトとエアレースが見られるんですよ!

10月15日に渋谷上空でエアレースが開催!?

 そのイベントの名は「AIR RACE X」。

Soaring beyond boundaries AIR RACE X

 室屋選手がトークショーで語ってくれたエアレースXの解説によると……。

「本当は昨年イギリスのプロモーターの手で新たなエアレースがスタートする予定だったんですが、これが残念ながらスタートできなくなり、2023年もレースが開催されないということがわかってきて、われわれもう4年も待っていてこのままじゃ機体もパイロットも腐ってしまうので、何とかしようよということでパイロットが集まって何とかできないか?と話し合ったのが発想の原点です」。

「コロナ禍でリモート会議が浸透して、そういう方法があるよねというのがみんなの頭に入ってきて、だったら飛行機もそれぞれの拠点で飛んでレースをできるよね、コースを同じように設定してフライトデータを取れるので、タイムアタックをやってみようと」。

「じゃあコレを一般の人に見てもらって、楽しんでもらって、どうやってレースとして成立させるか?が課題だったんです。でもこれをARの技術を使って、スマホを空にかざせばそれぞれの機体がレースをしているのがバーチャルで見られるという」。

「当日はレースがネットでも配信されるので、それを見ているといままでのエアレースのTV中継を観ているのと同じような感覚になって、会場の渋谷に行くとその配信にあわせてスマホを空にかざすと、ARの飛行機がぶわーっと渋谷の街中を飛んでいるのが観られるというものです」。

「これだといままでは飛べなかった場所でもそういうイベントができるので、航空ファンの方以外にも楽しんでもらえる機会が増えるのでは?というあたらしい取り組みの都市型のスポーツイベントです。こういうリアルとデジタルを繋ぐXR型のスポ―ツって、たぶん今まで世界的にもないんじゃないかと思います。世界初の試みなので」。

「昨年開催予定だったエアレースに参戦する予定で、機体もその前に2年くらいかけて作り込んでいたんですが、それを披露する場がなくて。もどかしい日々が1年以上も続いていたので、それが披露できて、タイムアタックしてみて、他の対戦相手たちがどのくらいタイムを出してくるのか?凄く楽しみでもありドキドキもしています。そんな感じで今はコンディション作りも含めて、最終仕上げに入るところです」。

 室屋選手のお話にあったように、AIR RACE Xは実際のフライトとデジタル技術を融合させた次世代のモータースポーツです。世界中に散らばるエアレースパイロットたちで同じコースを飛びそのタイムを競います。そのフライトレコーダーから取得したデータを元にAR技術によって可視化。専用アプリを入れたスマートフォンを空にかざすことによって、これまで飛行許可が出なかった場所でもエアレース観戦が可能になりました。

 10月8日~10月13日に開催される予選リーグは、世界中に散る8名のエアレースパイロットにより競われます。室屋選手はホームである福島スカイパークでフライトの予定。当日は福島スカイパークの空にスマホをかざすとARパイロンが出現して、エアレースをしているのと同じ風景も見られるとのこと。

 そして、10月15日に渋谷上空で予選リーグを勝ち上がったトップ4名での決勝が見られるようです!

 これは10月も室屋選手のフライトを見て笑顔になるしか!