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アカザーの「国際福祉機器展H.C.R.2023」を見て感じたモビリティ・フォー・チェアウォーカーな未来!

2023年9月27日〜29日 開催

「国際福祉機器展H.C.R.2023」に行ってきました

 どうもアカザーっす! 2000年にスノーボード中の事故で脊髄を損傷(TH12-L1)して以来、車いすユーザー歴23年目のオレです。

 オレのような車いすユーザーやその関係者にとっての年イチのビッグイベントが、毎年秋にビッグサイトで開催される「国際福祉機器展H.C.R.」です。というワケで今回は車いすユーザー目線でモビリティ・フォー・オールなアイテムをいくつか紹介します。

どうもアカザーっす! 車いすユーザーになったオレに“移動の自由”を与えてくれたのが手動運転装置でした!(イラスト:水口幸広)

“車いすユーザー自身の移動”を前提としたモビリティが増えて来た!

 2023年の「国際福祉機器展H.C.R.2023」は9月27~29日の3日間開催されました。車いすユーザーになってからは、長距離の移動は手動運転装置を使っての車移動が多くなったこともあり、毎年このイベントでもクルマ関係の出展ブースは目を皿のようにして回っています。

今回で50回目を迎えた「国際福祉機器展H.C.R.」。今回の出展社数は380社超。最近ではウェブ展(https://hcr.or.jp/web2023)も開催されこちらも盛況

 そんなオレが毎回注目しているクルマ関係のブースですが、ここ数年で大きな変化が現れています。それは自動車メーカーさんが“車いすユーザー自身の移動”について考えはじめたこと。

 オレが車いすになった約20数年前には大手自動車メーカーさんの出展自体がなく、手動運転装置を扱うメーカーさんなどがいくつか小規模なブースを出していた程度。

 そこから数年後に自動車メーカーさんの出展が増えてきたのですが、その出展内容はオレ的にはガッカリするものばかり。ほぼ車いすユーザーをもつ家族に向けた福祉車両の展示ばかりだったんです。ひとりではクルマの乗り降りが難しいので、誰かに車いすを押してもらって乗り込む、いわゆる介護用車両というやつです。

 もちろんそういった介護用車両のニーズがいちばん大きいのはじゅうぶん承知しているのですが、「自分自身の手で好きな時に好きな場所に移動したい!」と考えるオレの要望を満たしてくれる展示ではなかったんです。

 その風向きが変わってきたのは、東京でオリンピック・パラリンピックの開催が決まった後あたりから。

 2016年の国際福祉機器展のマツダさんのブースで手動運転装置が付いたロードスターを目にしたときは、しばらくその場を動けずにずっと眺めていました。

2016年に試乗させていただいた「手動運転装置付きロード―スター」(当時は「ロードスター SeDV」という名称ではなかった)。風を感じた4代目ロードスターのドライブ体験は今でも忘れられません!

トヨタが目指す“移動の自由”とは?

 そして2019年頃からはトヨタさんが、車いすの前に取り付けることで小型コミュニティEVになる「歩行領域EV 車いす連結タイプ」を出展。次第に風向きが変わり、“車いすユーザー自身での移動”を意識した展示が増える方向に!

「歩行領域EV 車いす連結タイプ」は3年前にも体験させていただいたのですが、今回のトヨタブースでは「C+walk車いす連結タイプ」として、製品化の一歩手前まで開発が進んでいるものが展示されていました。

歩行領域EV車いす連結タイプ装着動画
C+walkのラインアップに車いす連結タイプとして市販化間近か!?

 なお立ち乗りタイプの「C+walk T」と、シニアカータイプの「C+walk S」はすでに製品化されています。

 そして、2023年のトヨタブースの中央に展示されていたのは、2022年と同様に“階段を上り下りができる車いす型モビリティ”「JUU」でした。2023年のものは2022年の正常進化版ともいえるモデル。

トヨタが提唱する次世代の車いす型モビリティ「JUU」が2022年より進化!

 2022年のHCRで動態デモをしていたJUUは、見るからにプロトタイプなものでした。しかし2023年は未来的な外観をまとったもので、動態デモを披露。さらに2022年はコンセプトムービーだけで紹介されていた各種機能なども実機を使ったデモで披露。

2023モデル(上)と2022モデル(下)。並べて見ると進化の具合がよく分かる

 実機を使ったデモでは、タブレットによる遠隔操作でJUUを格納してあるシエンタの荷室から、運転席の横まで自動運転。JUUの左側に付いたカメラで周囲の状況を把握しながら、ユーザーの待つ運転席までスムーズに移動していました。

シエンタの荷室からシッポを展開し降りて来るJUU
降りた後は内蔵カメラでシエンタのボディに貼られたマーキングを読みつつ、運転席横まで自動運転で移動

 車いすユーザーがシエンタの運転席からJUUへの移乗の際には、シートの角度が変わったり、前方にスライドしたりと、乗り降りがしやすいように変形していました。JUUに移乗した後は、通常の電動車いす同様に、右手側についたジョイスティックで操作する感じ。

シート下前面に付いているLEDではJUUのバッテリー残量などが視認できるとのこと

 階段などの段差の前では、ボタンを押すことで背もたれの後ろについたシッポが90度展開し、上り下りモードに変形。このシッポと後部についたふたつのオムニホイールでJUU本体を後ろで支えながら段差を登る仕組み。このJUUの動きを支えるモーターには、自動車で採用されている電動パワーステアリング用のモーターを採用し、信頼性と安全性を確保している。

移動モード(上)から段差移動モード(下)へ。JUU本体からユーザーがズレ落ちないよう、階段の斜度に合わせた角度にシートが傾いた後に上り降りを行なう
JUUのデモ

シートが動くことで身体が安定する次世代シート

 次に紹介したいのは、2022年も展示されていてめちゃくちゃ気になっていた「Kinetic Seat」(以下、キネティックシート)。去年は見た目がただのシート的な感じで地味だったこともあり、スルーしちゃった人もけっこう居たかも?

 でも2023年はこのシートのウリである内部構造がひと目でわかる感じの展示に。

シートが動くことで身体が安定するという「キネティックシート」

 このキネティックシートは、長時間運転時の疲労低減やGのかかるコーナリング時の運転のしやすさを目標につくられたシートで、そのルーツは2016年のパリモーターショーで展示された「LEXUS Kinetic Seat Concept」。高級シート=疲れにくいシートなイメージがあるんで、こう聞くとがぜん興味が沸きません?

「LEXUS Kinetic Seat Concept」。こういう編み上げタイプのシート、最近はオフィスチェアやゲーミングチェアとかでもよく見ますよね

 2016年当初はレクサス向けの高級シート? だったようですが、その開発をすすめるなかで、体幹の弱い脊髄損傷者のドライバー用シートとしてもポテンシャルを秘めているのでは? ということになり、2022年よりH.C.R.に出展しているそうです。そして2022年の展示会以降に、車いすユーザーの意見などを募り、それをフィードバックしたのがこのモデルとのこと。

 車いすユーザーの声を反映した2023年のモデルは、2022年よりも可動範囲を制限、より効果的で必要最低限な動きを目指したとのこと。主に腰とお尻の部分の動きを2022年モデルよりも縮小し、人間のもつ背骨の特性をシートが追従するような動きを実現。

Kineticの紹介

 コーナリング時などには、通常なら旋回Gに負けないようどうしても体幹を保つように身体に力を入れつつのドラビングになってしまうのですが、キネティックシートは身体にフィットしたまま動くので、コーナリング時などの遠心力をシートがいなしてくれるそう。結果、ドライバーはかなりリラックスしてのドライビングができるそうです。

人間の下半身は腰~足首の骨盤軸のラインが慣性主軸となっており、そこがいちばんロールしやすい。この軸を使ってシートを突き上げる縦方向の振動などもロールに変えて逃がし、上半身には振動が伝わらない仕組み

 ブースで流れていたキネティックシートのPVを観ていると、まさにそのPVに出演されている車いすインフルエンサー現代のもののけ姫Maco(@s_maco_)さんが登場!

キネティックシートのPVにも出演しているYoutuber、現代のもののけ姫Maco(https://www.youtube.com/@Macomononokehime)さん

 現代のもののけ姫Macoさんに、PV撮影時にサーキットで体験したキネティックシートの印象を聞いてみました。

「あれっ? いつもこんな感じでカーブを曲がったら、もっと身体が降られるな~とか、こんなにスピード出して曲がれないなと思うスピードでも、あれっ? 安定しているみたいな感じでした。シートがすごく保持してくれているという感じではないんですけど、いつもより体幹が安定している感じでした」

 またブースには、2022年アジアクロスカントリーラリーで総合優勝した青木拓磨氏(TOYOTA GAZOO Racing Indonesia)の姿も。

 キネティックシートのスタッフにあれこれ質問を投げかけていました。来年のアジアクロスカントリーラリー用マシンにキネティックシートが採用されているかも(笑)。

車いすのレーシングドライバー青木拓磨さんも、キネティックシートに興味がある様子

走る歓びをすべての人に届けるため目に見えない進化を続けるマツダ

 トヨタブースのあとにオレが向かったのはH.C.R.での大本命! 車いすユーザーにも“Be a Driver. ”を提供してくれるマツダブース!

そんなマツダブースの2023年の目玉は「CX-30 Self-empowerment Driving Vehicle(SeDV)」(以下、CX-30 SeDV)(参考出品)。これは車いすユーザーと健常者が運転をシェアできるSeDVシリーズの第3弾として発表されたもの
参考出品の「CX-30 SeDV」は、来年の発売を目指しているとのこと

 2022年発売された「MX-30 SeDV」と同じくマツダ独自開発のアクセルリング式手動運転装置を採用。アクセル操作はハンドル内側に取り付けられたアクセルリングを手のひらで押し、ブレーキは左手でブレーキレバーを押し込んで操作するというもの。

手動運転装置などの装備は「MX-30 SeDV」と同じタイプを採用

 手動運転装置や移乗ボード、肘のサポートボードなどはほぼ「MX-30 SeDV」と同じ。純粋にマツダ純正の手動運転装置のバリエーション展開といえるラインアップ。

 2016年発表の「ロードスター SeDV」、2021年の「MX-30 SeDV」に続き、こうしてコツコツと手動運転装置車のラインアップを増やしてくれるマツダさんの活動、車いすユーザーとして本当にありがたいです!

 ちなみにオレも今回のマツダブースで知ったのですが、マツダさんの手動運転装置付き車の第1号は1961年発売の特別仕様のR360クーペ(手動運転装置付き)とのことです。そんな昔からあったんすね~。

「CX-30 SeDV」のルーツは、1961年発売の特別仕様R360クーペ(手動運転装置付き)にあった!

 オレが車いすユーザーになった23年前に比べて、公共交通を使っての車いす移動はかなりよくなったのですが、それでも目的地までドアtoドアで移動できるクルマ移動のほうが格段に便利なんですよね。

 SeDVシリーズの生みの親である、マツダ 商品本部 主査 前田多朗氏がブースにいらしたので「CX-30 SeDV」の開発経緯についてお聞きしました。

SeDVシリーズの生みの親、マツダ株式会社 商品本部 主査 前田多朗氏

 MX-30 SeDVを出して以降、全国のリハビリセンターなどを訪問させていただき、そこで多くのお声をいただきました。そしてそれをネクストステップに反映していきたいな、という事をずっと考えていたんです。簡単に言うと、自分が乗りたいと思うクルマに皆さんも乗りたいと思っているんです。そこは健常者と同じなんです。

 それを考えたら、いろんなクルマに展開していきたいなという思いがあって、その(アクセルリングリング式手動運転装置)展開の第1弾がこのCX-30 SeDVということなんです。

 CX-30はMX-30よりヒップポイントも低いので乗り降りがしやすく、MX-30 SeDVで使っていたアクセルリングやブレーキレバーがそのまま使えるということが開発段階で分かったので、それならできるだけはやくお届けしようという事で今回発表しました。発売は来年を予定しています。

 前田氏いわく、開発スタッフの皆さんは、年間、数えきれないほどいろいろなリハビリセンターや装具の研究所などを訪問し、多くの車いすユーザーとその関係者たちからさまざまな意見を集めているとのこと。

ワークショップなどを開催して車いすユーザーとの対話の機会を多くとることで、SeDVの可能性を模索している

 2022年、MX-30 SeDVを試乗させていただいた際に前田さんからお聞きした、「腰を据えて開発しないと期待されている方に失礼なので、やるなら本気でやらなければ! 継続が必要なんです」という言葉の有言実行を、このCX-30 SeDVから感じました。

 MX-30 SeDVからCX-30 SeDVへの変化は、一見地味な変化なんですが、こういう地に足がついた目に見えにくい変化や努力って、本当に大切なんですよね!

カーメーカーがつくる車いすに期待大!

 皆さんはMX-30 SeDVが発表された時に、同時に発表されたこの「車載用超軽量車いす」を覚えていますか? “クルマへの積み下ろし”を前提で作られた約5.4kgの超軽量カーボン製の車いすです。

2021年のH.R.C.で参考出品されていた「超軽量カーボン製の車いす」シートクッションを外した重量は驚きの3.7kg

 ほぼ毎日積み下ろしをしているオレの車いすが13kgほどなので、持った時にその軽さにビックリしました。またクルマのサイドシルにぶつからない形状というのがイイ!クルマメーカーがつくったものらしくて、クルマへの愛が溢(あふ)れている!

 しかし、2022年のH.C.R.での進化モデルの発表はナシ! 「車載用超軽量車いすもう出ないのかな~?」と思っていたところに、今回の進化モデルの展示ですよ!

 以前の2021モデルでは、“超軽量でクルマへの積み降ろしがしやすいデザイン”がウリだったのですが、今回の2023モデルでは”車いすとしての性能”を意識したものへと進化!

クルマと並べた時に親和性のある曲線を入れたデザイン。実車も光の当たり方で印象がかわるので、車いすでもその辺を意識したとのこと

 その影には、開発チームに車いすユーザーでもあるシニアデザイナー中村祐輔氏が加入したことが大きい気がします。実はオレも2021モデルに乗った際には、軽さ故の剛性不足とアクティブな車いすユーザー向きではないポジションの2点にちょっと不満がありました。

 しかし、今回の2023モデルはまさにその2点を改善してきたとのこと!

2023モデルをデザインした、デザイン本部アドバンスデザインスタジオシニアデザイナーの中村祐輔氏。自身も車いすユーザーだ

「車いすに人間が乗った状態できれいに見えてほしかったので、座った状態で背筋が伸びて見えるように、座面を53mm上げてフットレストを43mm下げました。また、折りたたみ式なんですが、海外の固定式車いすのように、スマートに見えるようできるだけ足下のフレームを絞ったデザインにしてみました」

「デザインするにあたっていろいろなメーカーさんの車いすを調べてみたのですが、やはり車いすメーカーさんはよく考えて設計されています。なので、マツダが車いすを出すのであれば“自動車メーカーがオプションとして出すならどんな車いすであるべきか?” を念頭において開発をすすめています」

先代モデルと比較してみると2023モデルがより洗練されたデザインということが分かる
着座姿勢も大幅に改善され、車いすとしての使い勝手も向上

 また車いすの折り畳み・展開操作も改善。2021モデルは開きづらいとの意見を踏まえて、シート下に内蔵されたコードを引くことで展開できるギミックを追加。

2023年モデルの軽量車いす

 今回、トヨタやマツダブースを巡って感じたのは、解説スタッフに中村氏のような車いすユーザーが見られるようになったコト。最近のトヨタやマツダのモビリティづくりが、障害者のニーズや気持ちを理解したものになってきたのは、現場にそういうスタッフが多くなったからかもしれません。

 こうやって車いすユーザー自身も活躍の場を広げることで、健常者との相互理解が進み、バリアフリーという言葉や概念が過去になる未来が訪れるといいな~。