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アカザーの「国際福祉機器展 H.C.R.2022」で見た! 今そこにある近未来の車いす
2022年10月26日 12:43
どうもアカザーっす! 2000年にスノーボード中の事故で脊髄を損傷し車いすユーザーになってかれこれ22年。相棒はOXエンジニアリング製のオーダーメイド車いす「RC」です。
そんなオレが、今年の「国際福祉機器展 H.C.R.2022」で一番期待していたのがコチラのRDSさんのブース。オレはRDSさんが2017年から運営しているウェブスポーツメディア「HERO X」の大ファンなんすよ~。そこで見ていたカッチョイイガジェットが生で見られるとあってもうワクテカでした。
RDSさんは母体が工業デザイン会社ということもあってか、ひと言でいうとそのコンテンツすべてがカッコイイ!そのどれもが、既存の車いすや福祉機器のイメージを払拭する感じのデザインなんすよ!
車いすユーザーのQOLを爆上げするシーティングシミュレータ
それはこちらのSF映画に出てきそうな近未来デザインの「bespo」を見てもらえれば一目瞭然! コレ、実は車いすのシーティングシミュレータなんです。医療機器というカテゴリーなんですが、RDSが作ればこのイカしたデザインですよ!
通常、車いすのシーティングはリハビリ担当の理学療法士さんと車いすメーカーの担当者、そして購入する車いすユーザー本人の3人で相談しつつ決める感じなんです。基本的には車いすユーザー本人が気に入った製品で決めちゃうんですけれども、大変なのはその後。“その車いすをどういったディメンションで作るのか?”が超重要! ここで失敗するとその後数年間の車いす生活QOLがダダ下がりなんですヨ!
具体的には、車軸をどの位置どの高さにもってくるか? シート座面の傾き角や深さをどうするのか? などなど。車いすって体と一体になる究極のパーソナルモビリティなので、ひとりひとりの体格や障害度合いでその数値がまったく変わってくるんです。
つまり、正解の数値はユーザーの数だけあるワケで、短時間でクリティカルな数値を出すことはかなり難しかったりするんです。またその正解の数値も、本人の体調や病気や障害の回復・進行具合により数年ごとに変動したりするという……。
なので、30万円以上出して作った車いすが届いたのに、実際に乗ってみるとちょっと使いづらいなぁ……みたいなことがけっこうあるんです。オークションサイトをのぞくとそんな車いすがよく出品されていたりします。
オレみたいな中途障害で車いすユーザーになった場合は、社会に復帰する際に車いすを足がわりに使いこなせるかどうか? でその後の生活スタイルやQOLが本当に大きく変わります。
なので、オレも1台目を作るときは、乗った後に調整できるよう、調整幅が大きい車いすをベース車に選んで乗りました。でも調整幅が多いということはそれだけ車いすが重くなるということ……。それを約10年乗って自分好みのディメンション、社会生活での車いすの運用に慣れ、体幹もついてきた頃、それを踏まえて2台目を作ることにしました。
でもいざ作ろうとすると……怖いんです。
それまで乗り慣れた車いすのディメンションを大きく変更することが……。10年間乗っての不満や改善したい点はあったんですが、そこを大きく変更して大丈夫なのか? もっとわるくなったらどうしよう? これまでの慣れたディメンションが無難なのでは? という考えが頭をよぎるんです。
で、最終的には体格が似ている知人が乗っていた車いすに実際に乗らせてもらったりして、フィーリングが合うディメンションで作りました。結果、1台目よりかなり特化した方向に振ったので扱いはピーキーになりましたが、以前よりも多くのことができるようになり、個人的には満足のいく車いすを作ることができました。
と、まあこれまでは新しい車いすをディメンション変更で作る際には、めっちゃドキドキなギャンブル性が少なからずあったワケです。
そこでこの車いすシーティングシミュレータ「bespo」の登場ですよ!
この車いすのシーティングシミュレータ「bespo」で、シートに座ったままディメンションの変更ができるのは、大きく分けて以下の3点についてです。
【bespo変更可能点】
・座面・バックレスト・ステップなど使用者に触れる部分の角度変更
・ホイール径の大きさと取り付けキャンバー角の変更
・車軸の前後・上下変更
さらに「bespo」がすごいのは、それらのディメンションを変更した状態のまま、車いすを漕いだときのタイヤにかかるトルクや、漕ぐ際の上体の動かし方、重心移動などを、各部に取り付けられたセンサーにより可視化できる点。
これにより、座っている状態と車いすを漕いでいる状態での使用感が体験者のフィーリングのみだけではなく、定量化された数値で確認できるという仕組み。そこまで細かくデータ収集が可能なのは、「bespo」が元は競技志向のパラアスリートの「より効率がいい最適なポジションを探る」ために作られたというルーツがあるから。
なので、シーティングだけでなくリハビリやトレーニング機器としても利用が可能というマルチに使用可能なシミュレータなんです。
収集データを実際に乗れる車いすとして具現化!
そして「bespo」で取得したデータを効率的に使うために用意されたのが、この高精度シーティング用車いす「MIGRA」。こちらも車いす陸上やチェアスキーなどのパラスポーツギアの開発から誕生した車いすで、「bespo」だけでは体験できない車いすのキャスター上げなど、より実生活で使う動きをシミュレートするために作られたもの。
なので「MIGRA」も「bespo」同様に各部に測定用のセンサーが取り付けてあり、それをスマホやタブレットでモニターすることが可能。
動画を見ても分かるように、洗練された外見からは想像できないほどのポジション変更が可能という超機能的な車いす。しかも各種測定用パーツを外すことで、そのまま日常用車いすとしても使用可能という。
ていうかこのシートとバックレストを限界まで上げた仕様で、オレが最近ハマっているパラアーチェリー用の車いすとして使ってみたいわ~。2021年からパラスポーツを始めたんですが、結果を求めだしたりすると、車いすのシーティングをそのスポーツに特化させてパフォーマンスを上げたくなってくるんすよね~。
車いすの先にあるスーパーモビリティへ!
コチラは「bespo」の前身であるシートポジションシミュレータ「SS01」で開発された、車いすの形をしたスーパーモビリティこと「WF01」(コンセプトモデル)。メインフレームにはドライカーボンを採用し、フットレスト部を折り畳むことでコンパクトに収納も可能。
またキャンバー角も自由に変更可能なため、日常使用からスポーツ使用まで対応可能とのこと。そして驚くべきが、専用の電動ユニットを装着すれば最高速20km/h(これでもデチューンしているとのこと)まで出せる、電動モビリティにもなるらしい! カッケー! こんな未来から来たようなモビリティが走ってたら、視線釘付けになりますよね!
東京パラで21枚のメダルを獲った技術力を車いすにフィードバック
お次は、2021年はコロナ禍で出展を控えていたOXエンジニアリングブース。去年はブースが無かったんで寂しかったぜ~。そんなオレとOXエンジニアリングとの付き合いももう22年になるんすね~。
元はバイクのチューニングメーカーとして創業したOXエンジニアリング。先代社長の石井重行氏がバイクのテスト中の事故で車いすになったのをきっかけに、「オレが乗りたいカッコイイ車いすをオレが作る!」と一念発起。以来、バイクチューナーとして培った技術を礎に、機能性とデザイン美を車いす業界に持ち込んで大ブレイクしたメーカーです。
そんなカッチョイイOXエンジニアリングの車いすと22年前に出合ったおかげで、オレは車いすで街に出るコンプレックスが無くなりました! 以来、ずっと乗っていますが、パンクを数回(釣りに行ってタチウオの歯が刺さってパンクとかw)ぐらいでほぼノートラブル!
そんな質実剛健なOXエンジニアリング製車いすを支えている技術力は、競技からフィードバックされたもの。ホンダがレースで技術力を磨いたように、OXエンジニアリングもまたパラスポーツの世界で技術を磨いてきたんです。
東京パラリンピック車いすテニスの金メダリストで、日本人テニスプレーヤーで唯一グランドスラムを達成したパラアスリートの国枝慎吾選手も、ずっとOXエンジニアリング製のテニス車「TRZ」のユーザー。
そんなOXエンジニアリングが車いす事業を開始したのは1989年。そのわずか4年後の1993年から車いすテニスと車いす陸上競技用車いすの販売・サポートを開始。2021年の東京パラリンピックでは、金メダルに輝いた国枝慎吾選手(車いすテニス)や里見紗李奈選手(パラバドミントン)をはじめ、国内外のパラアスリートたちがOXエンジニアリング製の競技車両を駆って21個のメダルを獲得!
そんな東京パラリンピックを席巻したOXエンジニアリング製の競技車両。そこから日常用車いすにフィードバックして誕生したのが、生まれ変わったハイエンドモデル「ZZR」です!
アンダーフレームにはカーボンファイバー(CFRP)を使用し、アッパーフレームにはマグネシウム合金を使用するというマルチマテリアル構成! これは車いす陸上用レーサー「CARBON GPX」譲りのもの!
石井勝之社長によれば「体に直接触れる部分のカーボン素材の使用は、万が一カーボンに傷が入りささくれたりした場合に、使用者の体に深刻なダメージを残す恐れがあります。なので、そういった箇所はマグネシウム合金製として、カーボンとのマルチマテリアル構成にしました。また、マグネシウムフレーム部には、東京パラリンピックをイメージしたゴールド、シルバー、ブロンズ3色のミラーペイントを用意しています」とのこと。機能とデザインが具現化したような新型ZZRめっちゃカッケーよ!
東京パラリンピックでは、メーカーにサポートを受けたトップのパラアスリートたちがワークスマシンのような500万円超の車いす陸上用レーサーを使用するなか、OXエンジニアリングは「トップのワークスマシンと戦える性能を個人競技者にも!」と、個人でギリギリ手の届く100万円ほどで「CARBON GPX」を販売。ワークス対プライベーター、そんな熱い闘いのドラマがそこに生まれたんすよ! ドラマを知るとさらに競技を熱く見られるんすよね~!
今のオレの愛車「RC」は今は亡き先代の石井重行社長との思い出が詰まった超お気に入りの1台なんですが、この新型「ZZR」には乗り換えたい気持ちが! というのも石井重行社長が最後に乗ってた車いすが実は「ZZR」にカーボンフレームを入れたプロトモデルだったんですよね~。く~悩むぜ~!
でもオレがZZRでニューマシンを作る際には、RDSのシーティングシミュレータ「bespo」でデータを収集して、その数値を元に作るコトは決定(笑)。ていうかOXエンジニアリングのファクトリーに「bespo」入れてくんね~かな~。そして最終的には業務提携とかして身近な場所で気軽に計測ができる環境になってほしいぜ~。
重度の障害があっても電動車いすの操作やPCの入力が可能に!
最後に紹介するのは、福祉機器展の中で一番面白く尖った製品が集まっているとオレの中で話題の「福祉機器開発最前線」ブース。そこで見つけたオレのイチオシ「筋電位電動車いすコントローラーWH1」です!
これは北陸大学服部研究所とシステムデザイン・ラボが共同開発している、筋電位を使って電動車いすを動かす入力デバイス。
ブースの前を通りかかった際に、システムデザイン・ラボの杉本義己さんが電動車いすを操作しているところだったのですが、体のどこも動かしていないのに電動車いすが自在に動いている! と、しばしその光景に釘付けに。眼鏡をかけ、頭にヘアバンド型のデバイスを装着していたので、眼球移動で動かすHMD式視線入力かな~? と思っていたんですが、どうやら違うよう。
見ているだけではその仕組みがさっぱり分からなかったので、杉本さんに聞いたところ、答えは奥歯の噛み込みによる操作とのこと。正確には奥歯を噛んだときに動くこめかみの筋肉の動きをヘアバンド内のセンサーが検知し、車いすへと送る仕組み。
オレもヘアバンドを装着し入力を体験させてもらったのですが、バック以外はかなり簡単に操作できました。右奥歯を噛むと右折、左奥歯で左折、そして左右奥歯を同時に噛むと前進。そしてバックが奥歯を同時にダブルクリックなんですが、これが少し慣れが必要な感じでした。
杉本さんいわく「筋拘縮や不随意動作でジョイスティックがうまく操作できない方や、視線入力を使用するほどは困っていない方からのリクエストがあり、5年前に入力デバイスである『テンプラー筋電位スイッチ』を開発しました」とのこと。また共同開発者の北陸大学服部博士によれば「取得した噛み込みの筋電位は、端末のモニターでのタッチパネル入力でしきい値の調整が可能なので、使用者に合わせた微調整も容易です」とのこと。
オレは車いすユーザーですが両腕は普通に使えます。でも、同じ車いすユーザーでも電動車いすのジョイステックさえうまく操作ができない方も居るんですよね。でも、腕がうまく使えなくても口は動かせる方は多い気がします。
そんな方でも自由に電動車いすを動かせるようになる、こんな可能性の塊のようなガジェットが3万8500円で5年も前から発売中だったとは……知りませんでした。気になる方はぜひ「アシステック・オンラインショップ」をチェックしてみてください。ていうか自分の意志で車いすを操作する喜びは格別ですし、ほかにも可能性が広がるアイテムがたくさんありますよ~。
車いすユーザーになってかれこれ20年以上も国際福祉機器展を見てきましたが、東京オリンピック・パラリンピックが決まったあたりから多様性に富んだデザインやパーソナライズに特化したアイテムが加速度的に増えてきた気がしていました。そして最近は、それがこういった展示会のみではなく、すでに自分の生活の隣にあることに気付く瞬間が増えました。たぶん今年の「国際福祉機器展 H.C.R.2022」で見た近未来的なガジェットたちも、すぐに街中で見かけたりするようになる気がしています。実はもう夢に描いていた未来に生きているんすよね~!