ニュース

マツダの手動運転装置付車「MX-30 SeDV」を「国際福祉機器展 H.C.R.2021」で体験してきました

2021年11月10日~12日 開催

どうもアカザーっす! 2000年に脊髄を損傷して以来21年間車いすユーザーです。車いすになってもクルマや運転は大好きで、21年間ほぼ毎日のように手動運転装置付きのクルマを運転しています

 車いすユーザーになってから、情報収集のためにほぼ毎年通っている国際福祉機器展。2020年はコロナ禍でオンライン開催のみとなったのですが、2021年はオンライン開催もしつつ例年よりは小規模とはいえブース展示も復活!

 しかし、ひいきの車いすメーカーの出展がなかったりと、ちょっとテンション低めで会場をうろついていたところ……いちばん奥にスゲーもんを発見し、一気にテンションがMAXに! クルマ好きの車いすユーザーとしてコレはどうしても紹介しなければ! というワケでこの記事を書いている次第です。

どうもアカザーっす!(イラスト:水口幸広)

手動運転装置付きロードスターから5年、さらなる進化を遂げたクルマが登場!

手だけで運転できる手動運転装置が搭載された「MAZDA MX-30 Self-empowerment Driving Vehicle(SeDV)」(市販予定車)

「国際福祉機器展 H.C.R.2021」で、オレのテンションを爆上げさせたブツ。それはマツダブースに展示されていた、手動運転装置付車こと「MAZDA MX-30 Self-empowerment Driving Vehicle(SeDV)」(以下、MX-30 SeDV)です。

 5年ほど前の「国際福祉機器展 H.C.R.2016」のマツダブースでひときわ輝いて見えた、手動運転装置付きのロードスター!

“Be a driver”がコンセプトの手動運転装置付きマツダ「ロードスター」

https://car.watch.impress.co.jp/docs/news/1024906.html

 当時から自動車メーカーの出展は珍しくはなかったのですが、そのほとんどが“車いすユーザーをいかにうまくクルマに載せて運ぶか?”的な福祉車両。もちろんそういうクルマの大切さは理解しているつもりです。でも、クルマ好きとしては、障がいがあってもできれば自分で運転したい!

 なんて思いつつも、心のどこかで「でも、そんな障がい者はマイノリティー中のマイノリティーだろうし、社外品の手動運転装置をあとから取り付ければたいがいのクルマは運転できるし、まぁいっか~」みたいに考えていた5年前のオレの前に現れた、手動運転装置が付いたメーカーコンプリ―トのロードスター!

 しかもそのできが、実際にクルマを運転しているであろう車いすユーザーが考えて作ったとしか思えない完成度!

 会場で見た俺は有頂天になり感動しまくって、後日試乗体験までさせてもらいました。

足の不自由なオレでも“Be a driver.”!「手動運転装置付きロードスター」

https://car.watch.impress.co.jp/docs/news/impression/1029070.html

 実際に乗ってみるとロードスターとの“人馬一体”をひしひしと感じられ、手動運転装置での運転であることを忘れるくらいスポーツドライビングの楽しさを堪能できるクルマでした。そして、メーカーがニッチな市場にここまで本気でやってくれたかのか! と胸が熱くなりました。

今回の福祉機器展でも手動運転装置付きのロードスターは「MAZDA ROADSTER Self-empowerment Driving Vehicle(SeDV)」という名称で展示されていました

 ロードスターの完成度があまりにも高かったからか、「コレができたのは市場が尖っているスポーツカーのロードスターだからで、メーカーコンプリート車としてはこれが手動運転装置搭載車の完成形なんだろうな~」との思いも。

 それから5年。すいません! 俺は世界で唯一ロータリーエンジンを作り続ける孤高の自動車メーカーであるマツダさんのコト甘くみていました! 全然まだ上がありました!

足の動かない車いすユーザーでもさらに“人馬一体”となれるクルマ!

「MX-30 SeDV」、なんすかこのクルマ!

 コレ以上ないと思っていた5年前の手動運転装置付きロードスターを軽く超えてきたのを、シートに座った瞬間感じました。

シートに座りステアリングを握った瞬間に“メーカーとしての本気”をビシバシ感じる!

 まず乗降時に使う乗降用補助シートです。ロードスターでは座席の横に取り付けられており、これをドア側に90度倒すことで車いすから楽に乗り降りができるものでした。その完成度は俺が知る限りでは、乗降用補助シートとしては完璧と言えるできでした。

「MX-30 SeDV」ではコレが右足の膝から脛のあたりに折りたたまれ、走行時にはコレが足のサポートとして機能する仕組みに!

乗降用補助シートが運転時(格納時)には膝サポートなる仕組み

 これには本当に驚きました! 俺自身、今よりももっと足が動かなかった数年前は、運転時に右脚に力が入らずに右膝が外側に開きっぱなしのカニ股座りになっていたコトを思い出しました!

 ていうか少し体幹が強くなって膝の開きを保持できるようになった今でも、この乗降用補助シートが運転時に膝サポートになる仕組みは身体の保持とクルマとの一体感とを高めてくれる素晴らしいアイデアだと思います。そしてこのギミックは世界初な気が!

乗降用補助シートが運転時にはこのように右足のサポートとして機能する

 同じ体幹保持という目線で運転席の左肘あたりをみると、そこには斜め45度ほどに取り付けられた板が。コレは左膝のサポート台で、ブレーキング時にここに肘を置き支点とすることで、より安定した感じでブレーキレバーを操作することができるというもの。

ちょうど左肘のあたりに取り付けられた肘サポート台

 手動運転装置付きのロードスターでは、パーキングブレーキの上に左手の下あたりをコンタクトさせることでブレーキのタッチを安定させることができたんですが、そこがさらに進化した感じです。

 そしてそこから操作するブレーキレバーも押す面を大きくとり、握力がないユーザーでも手のひらを置いてより大きな面で押せるような工夫がされていました。

 そうそう、ロードスターのものと同様にほとんどの手動運転装置はこの位置にあるレバーは押してブレーキ、引いてアクセルという仕組みなんです。でも、この「MX-30 SeDV」では押してブレーキのみの仕様。

 そしてなんとアクセルがステアリングの内側にあるんです!

ステアリングの左にあるレバーを押し込むことでブレーキ。アクセル操作はステアリングの内側にあるリング状のものを押し込む

 アクセルがステアリングについているこの方式は、海外製の手動運転装置では以前から採用されています。この方式は高速道路などステアリングの舵角をあまり必要としない場面では、両手でしっかりとステアリングの保持ができて、運転時の疲労も少ないというメリットがあります。しかしその反面、ステアリング舵角の多い街中やGが大きくかかり体幹が失われやすいサーキットでのスポーツ走行時には、ステアリングを切りながらの微妙なアクセルワークがしづらいといったデメリットを感じていました。

 しかしさすが“人馬一体”のマツダさん。まさかのステアリングの内側に取り付ける事で、ステアリングアクセル方式で俺が感じるデメリットを全部クリアしてきました! 海外製のものはハンドルの表面か裏面に2~3センチほど出っ張る感じで取り付けられるので、上記のようなデメリットを感じていたんです。

ステアリングと一緒に握っても違和感のない絶妙な高さに配置されたアクセルリング

 ステアリング内側の絶妙な位置に取り付ける事で、微妙なアクセルワークを実現してくるとは! これぞメーカーコンプリート車の真骨頂! ていうかこの方式だと、たびたび問題視されるアクセルとブレーキの踏み間違いとかにも効果あるのでは?

 と、実車を運転してもいないのに、このマツダ式ステアリング内蔵アクセルをここまでベタ褒め、激推しするのには理由があるんです。

教習所にも置いてほしい! 手動運転装置用ドライビングシミュレーターまで開発

 それは同ブースで体験した「MX-30 SeDVドライビングシミュレーター」。もしかしたらブースの隅に設置してあったので見逃した方もいらっしゃるかもしれませんが(オレも最初見逃していました)、このドライビングシミュレーターもすごかったんですよ! たぶん手動運転装置のドライビングシミュレーターとしては世界トップレベルのできだと思います。

4K画質で表示される3種類のコースでMX-30 SeDVの手動運転装置を体験可能な「MX-30 SeDVドライビングシミュレーター」

 シミュレーターに座り「両手でステアリング握って運転するの、やっぱりいいすね~」とか言いつつご機嫌で走っていると、開発者の方から「アクセルは指先で押さずにステアリングを握ったまま、親指の付け根の母指球あたりで押し込む感じで操作してみてください」とのアドバイスが。

 アドバイスどおりに操作をしてみると、微妙なアクセルワークが簡単にできるじゃないすか! さらに「押しはじめは軽いんですが、押し込んでいくと重くなる部分があります。そこをさらに押し込むことで鋭い加速が可能です」とのこと。

 なに~! スポーツカー的な2段アクセルが手動運転装置にも採用されているだと!!!

ドライビングシミュレーターには、急ブレーキ時にはステアリングに応力がかかるといったギミックも搭載

 そしてこのアクセルリングのタッチの滑らかさよ! 俺が知っているリング方式のアクセルはあまり滑らかではない印象があったんですが、コレは全然違います。

「アクセルのタッチが気持ちいいすね~」的なコトをいうと、開発者さんは「スピードレンジによりタッチが自然になるように、試作を何回繰り返したかもう忘れました」と笑って応えてくれました。

 その笑顔をみていると、なぜか21年前にはじめて手動運転装置を使って運転した時のことを思い出しました。車いすになって「もうひとりでは何もできない」と絶望していた時に、足が動かなくてもクルマを運転できるコトを知りました。

 それからリハビリの目標のひとつに「クルマに乗って退院する!」が加わり、10か月後に自分の手でクルマを運転して病院を後にした日。「車いすになっても、クルマがあればまたひとりでも自由にどこにでも行ける!」と自分に自信が待てました。

 車いすユーザーのオレにとってクルマは“ひとりでも行動範囲を広げられる大きな車いす”だったりもするんです。

 そして、手動運転装置でクルマを運転できるようにしてくれた先人たちや、それをブラッシュアップしてきてくれた方たちのおかげで、俺の、俺たち車いすユーザーの人生が豊かになってきたんだな~、との思いが頭をよぎりました。

開発者のみなさん、すごくいいモノを開発していただきありがとうございます! コレすごい完成度なので、こいうったイベントでの体験展示だけではなく、教習所などにもこのシミュレーターがあれば足が不自由で運転を諦めていた方の実践的な手動運転装置のドライビング練習になる気がします

自動車メーカーならではのアプローチでつくられたカーボン製超軽量車いす

 そしてマツダブースにはさらにもうひとつ革新的なものが! 車いすメーカーならではの“クルマに積むコト”を前提で作られた車いす「車載用超軽量車いす」です。

 カーボン製で総重量がなんと約5.4㎏! シートクッションと背もたれを外せは3.7㎏って! コレもしや最軽量車いすのギネス記録とかなのでは? ちなみに自分では激軽だと思っている俺の車いすはシートクッション込みで13.7㎏です。

カーボン製の「車載用超軽量車いす」は総重量がなんと約5.4㎏!

「MX-30 SeDV」に乗るときにこの車いすを使ってみたんですが、まずクルマに寄せたときに感動しました。

 クルマのサイドシルに当たる車いすのフレーム部分が無いんです! 正確には車いすのフレームが、サイドシルを避けて車いすをクルマに寄せられるフレームデザインなのです。

サイドシルに干渉しないフレームデザインを採用した車いすなので、従来の車いすよりも運転席の近くまで寄せることができる

 これは自動車メーカーならではの“目から鱗”な車いす製作アプローチだと思います。これなら腕力がなくて自力でシートに移乗できない車いすユーザーにもワンチャンある気がします。そして、俺のような歴代愛車のサイドシルをボロボロにしてきた車いすユーザーにも朗報!

 そうなんです! 車いすからクルマへと乗り降りする際に、車いすのフレームが当たりクルマのサイドシルを傷つけてしまうんです。毎回気を付けてはいるのですが、運転で疲れた後などついつい忘れてガリッとやっちゃうんですよ!

 そんな俺の小さな悩みまで解決してくれる革新的なフレームワークに感心しつつ「MX-30 SeDV」のシートに乗り移り、次はこの「車載用超軽量車いす」を車内に収納してみます。

「車載用超軽量車いす」のシートは「MX-30 SeDV」 の運転席や乗降用補助シートよりも少し低め。ここは同じ高さのほうが移乗しやすい気がします

 担当者さんのアドバイスにならって、背もたれ裏のワイヤを引き、背もたれを折りたたみます。シートに密着するまで折りたためばロックが入るので、シート裏の持ち手をもって引き上げると、シートが外れました。

背もたれ裏のワイヤを引いて背もたれを折りたたんだ後、バーをつかんでそのまま持ち上げることでシートと背もたれが外れる

 このシートと背もたれを運転席の後ろに収納します。通常の車いすの車載方法は、運転席のシートを倒し→折りたたんだ車いすを持ち上げて体の上を運び→助手席の後ろあたりに収納する感じです。ですが、観音開きドアを持つ「MX-30 SeDV」なら、運転席を倒さずに後部座席に収納が可能なんですね! うーむ、この辺もクルマの特性を活かした自動車メーカーならではの搭載方法すね。

車いすから取り外した、折りたたんだシートと背もたれは後部座席の足元に収納する

 シートと背もたれを積んだあとは、残った車輪とフレーム部分。コレはシートを外したら出てくるハンドルを持ち上げると半分に折りたたむことができて……って、軽っ! え? この部分3.7kgなんすか? これなら上半身が効くクルマユーザーなら、片手でも余裕で持ち上げられる感じです。

 右手でヘッドレストを抱えるように体幹を安定させ、左手一本で車輪とフレーム部分を持ち上げ、運転席後ろの後部座席に乗せて車載完了です! たぶん慣れたら積むのに20秒とかからないかも。そして後部座席にはロードスターの助手席と同じコンセプトで作られた専用シートカバーが! こういう愛車をカッコよく大切に乗るためのちょっとした配慮が嬉しいんすよ~!

アドバイスをもらいながらの初めての積み込みでも1分もかからずに搭載できました

 熱意をもって開発された製品てコトが、こういう端々からもビシバシ感じ取れます。開発者さんたちの「車いすユーザーでも運転を楽しんでほしい」という熱意はちゃんとユーザーまで届いてまっせ~!

 時代は“多様性”や“共生社会”などと言いますが、これまでもこれからも、われわれ車いすユーザーの人生をより豊かなものにしてくれているのは、こういった人を思いやるものづくりをする方たちの情熱だったりするんですよね~と感じた、「第48回 国際福祉機器展 H.C.R.2021」でした。