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マツダ「MX-30 SeDV」の健常者も障害者も運転をシェアできる多様性がアップデートでさらに向上!

 どうもアカザーっす! スノーボード中の事故で脊髄を損傷して以来、22年間車いすユーザーのオレです。オレのような車いすユーザーにとって、最新バリアフリーアイテムの情報が手に入るイベントこと「国際福祉機器展H.C.R.2022」が10月5~7日の3日間にわたり東京ビッグサイトで開催されました。

 車いすユーザーになってからこっち、情報収集のためにほぼ毎年通っているこのイベント。でも、通い始めたころはクルマメーカーの展示といえば、ほぼすべてが車いすユーザーを介護するための「介護車」と呼ばれる福祉車両の展示ばかり。

どうもアカザーっす! 車いすユーザーですが手動運転装置を使ってカーライフをエンジョイしています!(イラスト:水口幸広)

 車いすユーザーになっても手動運転装置を装着したクルマを運転し、健常者のころと変わらぬカーライフをエンジョイしているクルマ好きのオレにとっては、いくぶん寂しい感じの展示会が続きました。

 しかし! 東京オリパラ開催が決まったあたりから徐々に、車いすユーザー自身が運転する「自操車」の福祉車両の展示が増えてきたんですよ! これは自立して活動的に動きたいと考えているオレのような車いすユーザーにとってはめっちゃ嬉しい傾向!

 というワケで、ここ数年継続してそっち方面をけん引してくれているマツダブースからオレのイチオシアイテムをご紹介します!

毎年すごい人だかりでにぎわいをみせるマツダブース

手動運転装置にはそれを必要とする人の人生を変える力がある!

 2021年の「国際福祉機器展 H.C.R.2021」で、オレが大興奮したイチオシアイテムこと「MAZDA MX-30 Self-empowerment Driving Vehicle(SeDV)」(以下、MX-30 SeDV)がさらにバージョンアップして登場です!

「MX-30 SeDV」は、MX-30の後ろに付けられたSeDV(個人に力を与える運転可能なクルマ)の文字が表すように、足が動かない車いすユーザーが手だけで快適かつ楽しく運転できるようにと、マツダがMX-30用にイチから設計した専用の手動運転装置を搭載したもの。

手だけでも運転可能な手動運転装置が搭載された「MX-30 SeDV」。2022年はそのルーフにあるものが付けられるように⁉

「MX-30 SeDV」に搭載された手動運転装置いちばんの特徴は、アクセル操作をハンドルの内側に取り付けられたアクセルリングで行なうところ。何度も何度も試作を繰り返したというだけあって、ハンドルを軽く握れば手のひらの母指球でアクセルリングを押し、パーシャルアクセルが容易にできるようなポジションに自然と収まる仕上がり。

 さらに加速する場合は、そのまま親指でアクセルリングを押し込んでいく。アクセルリングは押し込むとあるところで重くなるので、不意に押し込んでの急加速などを防止できる。

基本は教習所で習うステアリングポジションでハンドルを持ち、両手の母指球と親指でアクセルリングを押し込むことで加速

 車いすユーザーが身近にいない方にはあまり馴染みがないと思いますが、この手動運転装置というもの自体はオレが車いすユーザーになった22年前からありました。

 そのころの手動運転装置といえば、中途障害を負って車いすユーザーとなった方が、障害を負う前のスキルを生かして自分が使うためだけに自作し、それを周りの車いすユーザーにも作ってあげていたらメーカーになっていた! みたいな超マイノリティな感じのアイテムでした。なので、その人の障害にあわせて様々なタイプが存在します。

オレの愛車に付いている手動運転装置は、左手でレバーを押してブレーキ、引いてアクセルのタイプ。ウインカー・ホーンなどのスイッチ類も内蔵されている

 そんな超マイノリティなものですが、車いすになって絶望していたオレにとって「車いすユーザーになってもクルマを運転してひとりでどこにでも行ける」ということは、車いすで生きていく上で大きな希望になりました。市場規模は小さくても、それが必要な人にとってはその後の人生を変えるようなアイテムだったんです。

 しかし、大量生産ができない儲からないアイテムでもあります。

 過去にはホンダさんがいちばん真剣に取り組まれていましたが、いちど撤退された過去があるくらいビジネス化は難しいコトなんです。(現在はホンダさんもこの分野に再参入)。

 それぐらい難しい分野なので、マツダさんがメーカーコンプリート車として手動運転装置を装備した「MX-30 SeDV」を出す際に、開発陣は経営陣に対して「いちどはじめたら後戻りはできませんが、それでもやるんですか?」と幾度となく確認したそうです。

 とはいえ、いきなり「MX-30 SeDV」を出したワケではなく、はじまりは6年前の「国際福祉機器展H.C.R.2016」に遡ります。そこで、ミクニライフ&オート製の手動運転装置を装着した「ロードスターSeDV」が展示されました。

 これはディーラーオプションという位置付けで手動運転装置が取り付けられたモデルだったのですが、手動運転装置を製造しているミクニライフ&オートさんとマツダ開発陣がタッグを組んでキッチリと作り込んだものでした。

「ロードスターSeDV」の手動運転装置はニライフ&オート製のもので、左手で押してブレーキ、引いてアクセルのタイプ。“人馬一体”なスポーツドライビングを楽しめる位置に手動運転装置が取り付けられている

 オレも実車を試乗させてもらったのですが、スポーツドライビングに最適な装着位置を探ったり、車いすを助手席に積んだ際に助手席を汚したり傷つけることがないようにと専用の車いすカバーを用意したりと、“車いすユーザーが楽しくクルマを運転するには?”への追及がそこかしこに見て取れるクルマでした。

ロードスターの軽快な乗り味を、手動運転装置でも十分堪能できる!

 個人的には、この「ロードスターSeDV」を乗ったときに「車いすユーザーでもスポーツドライビングを楽しめる時代が来たんだ!」と、大きな喜びがあり感無量だったのですが……それから5年後の2021年。コロナ禍で縮小開催された国際福祉機器展示で「MX-30 SeDV」を見た時は、鳥肌がたちました。「マツダさんはあれから5年間、ずっと開発を続けてくれていたんだ!」と。

さらに多くの車いすユーザーに対応した「MX-30 SeDV」

 そんなマツダさんなので、2022年はより多くの車いすユーザーが「MX-30 SeDV」を運転できるようにと、2021年のものより進化させてくれました。

 なかでもいちばん大きなアップデートは、ミクニライフ&オートの「オートボックス」が対応(※参考出品)になったコト! 「オートボックス」はクルマの屋根に取り付ける、ルーフトランク型の車いす収納ボックスです。その使用手順は以下のような感じ。

ルーフトランク内に車いすを自動で収納できる、ミクニライフ&オートの「オートボックス」

【オートボックス操作方法】
①スイッチを入れるとルーフに取り付けたトランクが運転席側にスライド。
②中から降りてくるつり下げベルトに車いすをつり下げる。
③ルーフトランク内部の電動ウインチが車椅子をつり上げる。
④トランク内に車いすを横倒しにするように収納。
⑤トランクがもとの位置にスライドし収納完了。

MX30オートボックス展開・収納

 オレのように体幹もそこそこはあって上半身がフツーに使える脊髄損傷の車いすユーザーなら、車いすを持ち上げて車内に積み込むことにそれほど問題はありません。しかし、頚髄損傷で体幹も弱く車いすを持ち上げて車内に積み込む腕力がない人は、手動運転装置が使えても車いすを積むことができない。つまり、ひとりで運転して出かける事ができないんです。

 22年前、オレが入院していたリハビリ病院のリハビリルームで、クルマの原寸大模型を使って移乗の練習をしている頚髄損傷の知人がいました。身体を少し持ち上げるだけでもめちゃくちゃ大変そうで、運転席に取り付けられたトランスボードへお尻をスライドさせるようにして、なんとか運転席まで乗り込んでいました。

 その腕の力があまりない知人がリハビリ後、愛車に取り付けていたのがこの「オートボックス」(当時はニッシン製)です。リハビリ病院の駐車場でそのギミックを見せてもらったときには、そのスムーズでスピーディな動作に感動! 22年前でもほぼ現在のものと変わらないくらいの完成度でした。

 開発スタッフさん曰く「昨年この『MX-30 SeDV』の販売を開始したところ、購入希望のお客様から『オートボックス』を装着したいというお声を多くいただき、今回対応させていただきました」とのこと。

 その言葉を聞いて、2021年の国際福祉機器展で見た「MX-30 SeDV」は、車いすの搭載方法がちょっと特殊だったコトを思い出しました。

 車いすを載せる場合は「MX-30」特有の観音開き型「フリースタイルドア」の後方部分を開き、運転席シートに右半身を預けるように足を外に出し横座り。その姿勢で、車いすを運転席の後ろに積み込む感じなんです。

通常、「MX-30 SeDV」への車いす搭載は、観音開き型「フリースタイルドア」の後方を開き、運転席の後ろの座席に積み込む。※画像は2021年度のもの

 これはこれで、オレのような脊髄損傷の車いすユーザーであれば、通常の搭載方法よりも着衣や車内を汚さないで車いすを積み込めるというメリットがあります。ですが……頸椎損傷者にこれはかなりハードルが高い積み込み方法であることは想像に難くない感じ。

 そこで頸椎損傷者がクルマを運転する際に、手動運転装置車と同時に取り付ける定番商品である「オートボックス」の装着! というワケなのです。

 さらに「ロードスターSeDV」的な繊細なアップデートとして、後部ドアを閉めるためのベルトとガイドを追加。これにより運転席から身を乗り出すことなく後部ドアを閉められることが可能になりました。

車いすを運転席後部に積み込んだあと、シートに座ったまま「フリースタイルドア」を閉められるベルトとガイドを追加(※参考出品)

 こういう細やかな気遣いでいうと、「MX-30 SeDV」はオンラインで商品説明や商談をすることが可能なのです。オレはもう車いすでディーラーにいく事には抵抗はなくなりましたが、やはり車いすになった直後はディーラーに足を運ぶことに対してかなり不安がありました。

 今ではほとんどのディーラーには車いすトイレまで完備されていますが、22年前はそんなことはなく、当時対応してくれた方も「手動運転装置の取り付けは初めてなんです」とおっしゃるような時代でした。でも、その担当の方が本当に親身になって対応してくれたのを憶えています。あの時は嬉しくて心強かったな~。

マツダの「オンライン商品説明・ご商談予約」)は、マイクロソフト社製「Microsoft Teams」を使いオンラインで商品説明を受けたり来店予約をとったりできるシステム。いい時代になりました

手動運転装置用のドライビングシミュレーターもアップデート

 そして2021年も絶賛した、「MX-30 SeDVドライビングシミュレーター」もアップデートされてましたヨ! 今回はハンドコントロールのみの対応ではなく、実車同様にフットコントロールモードも追加!

脚でも運転ができるようになった「MX-30 SeDVドライビングシミュレーター」

 ていうかですね、書き忘れていた(オイ>俺)のですが、「MX-30 SeDV」は普通のクルマと同様に足でも運転が可能なんです! これは手動運転装置付きのクルマに乗っている人にとっては常識なのですが、多くの人は知らないですよね。なので、こういったドライビングシミュレーターで手でも足でもどっちでも運転できますよ~、と声を大にして訴求してくれるのはありがたい感じです。実は手動運転装置は時代を先取りした多様性ある装置なんですよ(笑)。

実車同様にエンジンをかける際に、足でブレーキを踏んでスタートスイッチを押せば、通常どおり足でアクセルとブレーキを操作するモードに。左手でブレーキレバーを押し込みながらスタートスイッチを押せば手動運転モードになる

 会場でも健常者と車いすのカップルがふたりで楽しそうに体験をしているのを見ました。オレも遠出をした時には、嫁さんや友人に運転をかわってもらったりするコトがよくあるんですよ~。

 さらに前回は飾りだったATシフターやマツダコネクトとも連動させるという凝った仕様になってるし! これは絶対に開発陣のなかにドライビングシムマニアがいるとみた!(笑)

 ATシフターをR(リバースギア)に入れるとバックモニターが起動し、クルマの後ろ側や真俯瞰の映像が表示される仕組み。なんだよそんなコトかよ~と思ったそこのアナタ、健常者ですね(笑)。

手動運転装置を使ってのバックモニターやマツダコネクトの使用感までもが体験可能に

 手動運転装置での基本的な運転スタイルは右手がハンドル、左手でアクセル・ブレーキレバー(「MX-30 SeDV」はブレーキのみ)を操作する感じ。つまり両手を常に前方向に出しておく必要があるので、健常者のように半身をひねって後方確認しながらクルマを動かすコトができないんです。

 なのでバックでの駐車時、オレは基本ルーム&ドアミラー命! 停車位置にある程度入れたらいちどクルマを停めて、ドアを少し開けてサイドの白線までの距離と後方を目視で確認、ドアを閉めてもういちどクルマを動かして駐車、みたいな流れなんです。

 もちろんバックモニターの有用性は分かっていましたが、自分のクルマにはついていないので、こうして体験するのは実は初めて。シームレスでハンドルとアクセルとブレーキを操作しつつ車庫入れができるのが、こんなに便利だとは!(今更かよ>俺)。と、まあこんなコトも体験できちゃうドライビングシミュレーターなんですヨ。

 今回は用意された3コース全てを体験させてもらったのですが、2つの高速道路を模したコースでは、やはり加速や減速でGを感じないぶん、思っていたよりもスピードが出すぎたり、減速し過ぎたりな感じに。この辺はゲームでよくあるブレーキングポイントなどを知らせるガイドビーコンを出したりするコトで、より感覚とドライビングのアジャストが効いて、実践に近い練習になる気がします。

 今回いちばん訓練になるなと感じたのはドライビングスクールモード。このコースは2021年も実装されていたんですが、体験するのは今回がはじめて。で、走ってみた感想は、手動運転装置での運転を習得するならこのコースが最適! です。

 特にクランクでのハンドル操作とアクセル・ブレーキの使い方は、機能改善訓練のリハビリとしても練習になりそうな感じ。というか手動運転装置の操作でいちばん難しいのは、この低速での切り返しなんです。クランクで左右にハンドルを忙しく切りながらの微妙なアクセル操作! たぶんコレができればあとの操作はだいたい問題ない気がします(※ブレーキを適切に踏める前提)。

MX-30 SeDVドライビングシミュレーター

 クランク難しい! 切り返しが遅れる~! とアタフタと操作している時に、ハンドルに旋回ノブがないことに気が付きました! マイカーのハンドルには、フォークリフトとかに付いている旋回ノブが付いており、急な切り返し時にはこのノブを持って右手でハンドルを操作、左手でアクセルレバーを操作する感じなんです。

 隣にいたスタッフさんに「旋回ノブが欲しいです~」と言ったところ、「アクセルリングを軽く押した状態で、そのままハンドルを滑らす感じで操作してみてください」とのアドバイス!

 健常者のように両手でハンドルをもって、アクセルリングを軽くホールドした状態(アクセル一定)で、素早く切り返すことが可能とのこと。マジすか! アクセルリングの手動運転装置はそんなコトができるんですか!

 と、意気揚々やってみたところ……失敗!(笑)アクセルリングを一定にした状態でハンドルを素早く回すのはけっこう難しい。そして自分の手動運転装置の癖で、どうしても左手をブレーキレバーに載せたくなってしまう! 結局この体験時間内ではこの操作を自分のものにするコトはできなかったのですが、手動運転装置もそのタイプごとの操作方法に奥深いものがあることを知りました。

アクセルリング操作のコツ

 ていうかこの操作方法で自由に走れるようになりて~! というオレの心の声が聞こえたのか、スタッフさんから朗報が!

 今後はこの「MX-30 SeDVドライビングシミュレーター」と「MX-30 SeDV」を使っての体験会キャラバンを予定しているとのコト!(開催スケジュールの確認方法は現状未定)

 オレは健常者のころに運転免許証を取得していたので、手動運転装置への免許書き換えは、5分ほどの簡単な適正検査(車いすから運転席に乗り移れるか? ブレーキレバーを素早く力強く押せるか? など)を受けるだけでした。法律的にはそれだけで路上を走れてしまうのですが、それだけで路上に出るのは大半の人が不安に感じると思います。

 幸いなことに、オレは22年前に入院していたリハビリ病院に手動運転装置の教習コースがあったので、免許書き換え前にそこで練習してから路上に出ることができました。しかし、それでも初日の路上運転はドキドキしたのを憶えています。あのころにこういった「MX-30 SeDVドライビングシミュレーター」のようなものがあればな~。

22年前に入院していたリハビリ病院にコレがあれば、リハビリがめっちゃはかどった気がします(笑)

 全てのディーラーや教習所にコレを設置してほしい!とまでは言いませんが、各都道府県の免許センターや教習場やディーラーなど、どこかにせめて1台でもこういったものがあれば、病気や障害で運転を諦めている人の人生をもっともっと違うものにできる気がします!

 ていうか、アクセルリング式の手動装置で「MX-30 SeDV」を路上で運転してみて~!