試乗レポート

アカザーの新型フィット用手動運転装置「テックマチック」に試乗しました

テックマチックと電動駆動のスムーズさに、ホンダのこだわり“Do you have a HONDA?”を実感!

 どうもアカザーっす! 怪我で車椅子になって20年になるオレです。車椅子ユーザーの移動手段としてのナンバー1バリアフリーアイテムはズバリクルマ! そんなオレもこの20年 “手動運転装置”というモノを愛車に取り付けて運転しています。

どうもアカザーっす!(イラスト・水口幸広)

 俺の愛車「レガシィ2.0R specB」に取り付けているのはミクニライフ&オート(旧社名:ニッシン自動車工業)の「APドライブ オーエックスバージョン」(現在は廃盤)。基本的な操作はスティックを押してブレーキ、引いてアクセルというもの。

 この手動運転装置は、購入した車輌を工場に持ち込んで取り付けてもらうタイプで、この20年で乗り継いだ3台の愛車すべてにミクニライフ&オートの「APドライブ」を取り付けて使ってきました。そのいちばんの理由は20年でいちども故障したコトがないから! あとやはり使い慣れているという点も大きいです。

「レガシィ2.0R specB」に取り付けた手動運転装置「APドライブ オーエックスバージョン」。ウインカーやハザードなども左手だけで操作可能です

 ちなみに旅先などでレンタカーを利用する際には、携帯型手動運転装置を持参し使用しています。以前レビューさせていただいた、ニコドライブの「ハンドコントロール」や、今野製作所の「SWORD(ソード)」です。コレはアクセルベダルとブレーキペダルの中央に取り付け、軽飛行機の操縦桿のように操作するタイプ。携帯性や着脱性を重視しているので、ウインカーやライトスイッチはクルマのものを使う感じです。操作可能なのはアクセルとブレーキのみ。

15分ほどで着脱が可能な携帯型手動運転装置。「ハンドコントロール」(左)と「SWORD(ソード)」(右)

 と、ここまで読んだ懸命な読者はお気付きだとは思いますが、オレは20年間手動運転装置を使ってほぼ毎日のように運転しているにもかかわらず、使ったコトがある手動運転装置はほぼ「APドライブ」ひとつだけという事実!

 そのコトを担当編集者に話したところ、「アカザーさん、ホンダ製の手動運転装置テックマチックが付いた新型フィットを試乗してみませんか?」との提案が。

 マジすか! テックマチックといえば、国内メーカーでは唯一ホンダのみが自社開発している手動運転装置! さらに新型フィットっていやぁ、2019年の東京モーターショーで発表されるやそのヨーロッパ車のようなハイセンスな外観で話題になったクルマじゃないすか!

 こんな提案されたら答えはYESのみ! というワケで、後日取材に訪れたのは、埼玉県和光市にあるホンダ和光ビル。

広い車内空間は車椅子の積み下ろしにも最適

 ホンダ和光ビルで試乗させていただく4世代目のフィットとご対面! 今回の試乗車は、「ホンダ フィットe:HEV BASIC Honda・テックマチックシステム手動運転補助装置 Dタイプ装着車」! って、名称長っ!

 分かりやく言うと、フィットのハイブリッド車の一番スタンダードなグレードに、これまた一番スタンダードなテックマチックシステムを搭載したクルマってコトです。

ホンダ「フィット e:HEV BASIC Honda・テックマチックシステム手動運転補助装置 Dタイプ装着車」パワーユニットは直列4気筒DOHC 1.5リッター+モーターのハイブリッド
手動運転装置テックマチックはe:HEVとガソリン車どちらにも装着可能

 運転席に座ってまず気が付いたのは、車内空間がめっちゃ広いコト! 5ナンバーなのに、3ナンバーのオレのレガシィより確実に広い! ていうか、このフロントウインドウは視界良好過ぎじゃないすか! 水平基調デザインの低いダッシュボードと、細くデザインされたAピラー、そしてその後ろの三角窓。それらがあいまって、室内が広く明るい!

 そして、車椅子ユーザー的にうれしかったのは、運転席側のドアまわりが広く大きいコト! ドアまわりの広さって、車椅子の積み下ろしにかかわる超重要ポイントなんです。

新型フィットの大きく広いドアまわりは、車椅子の積み下ろしも快適

 自分で運転する車椅子ユーザーは、車椅子から運転席に乗り移ったあと運転席のシートを倒して、折り畳んだ車椅子を自分のからだ上を通過させて、助手席か助手席側のリアシートに積むんです。

 でも、運転席側のドアが狭いと、車椅子のいろんな部分がドアの枠にひっかかりかなりめんどうなコトに。最悪なケースとしては物理的に車椅子が入らない場合も! なので、オレは新しくクルマを購入する場合は、まず最初に“車椅子が問題なく載めるか?”を現物車輌でチェックさせてもらいます。

 車椅子搭載視点でいうと、この新型フィットはリアシートが跳ね上げられるのもポイント高いです。オレは車椅子を助手席側のリアシートに折り畳んで入れるんですが、雨の日とかに濡れた車椅子を積み込むとリアシートがかなり汚れるんです。

 でもこのフィットは、リアのシート部を跳ね上げてその空いたフロア部に折り畳んだ車椅子を置くことが可能! なので、リアシートが汚れない! というワケです。コレは何気にうれしい。

新型フィットはリアシートが跳ね上げられるので、車内を汚さず車椅子を搭載できるのもうれしい

ホンダらしい手動運転装置テックマチック

 さて、ここからは本題であるホンダ自社開発の手動運転装置テックマチックのお話です。

 本田技研工業で福祉事業を担当者する加藤達朗さんによれば、テックマチックが開発されたのは1976年! なんと40年以上も前から開発されていたんですね! そして記念すべき搭載1号車は初代シビックだったとのコト! 搭載車の1台目がシビックってトコが、モータースポーツに力を入れてるホンダらしいな~。

本田技研工業株式会社 日本本部 商品ブランド部 福祉事業課の加藤達朗さん

 もちろんオレ自身のテックマチックに対するイメージも、モータースポーツ。皆さんは、元F1ドライバーのクレイ・レガツォーニ氏が手動運転装置でNSXをドライブするCMを覚えていますか?

 事故で車椅子になったF1ドライバーが、口笛を吹きながら手動運転装置を使いNSXを疾走させる! その最後には“Do you have a HONDA ?”のキャッチコピーが! とにかくそのCMのイメージが強烈で、当時「車椅子ユーザーでも、手動運転装置でも、あんなふうに運転できるんだ!」と衝撃を受けました。

 そんな衝撃的な出会いから、オレのなかでテックマチックは“スポーツドライビングの相棒”的なイメージ。そんな先入観からか、フィットに取り付けたられたテックマチックもスポーティ&シンプルに見える!

 この試乗車に取り付けられた「Honda・テックマチック手動運転補助装置 Dタイプ」は2つのパーツから構成されています。1つはハンドルの左ナナメ下にセットされたコントロールグリップ。もう1つはハンドルにセットされた旋回ノブです。

コントロールグリップ
旋回ノブ

 ここで、車椅子ユーザー目線でいいなと感じたのが、コントロールグリップの取り付け位置。センターコンソールに固定されているため足下のスペースがかなり広いんです! オレが使っている後付の手動運転装置(たぶん他の多くの手動運転装置も)は、フロアに取り付けられているためにどうしても足下が狭くなりがち。なのでコレもめっちゃポイント高いです!

取り付け位置がフロアでななくセンターコンソールなので足下が広い!
センターコンソールとの接続部分にはカバーが付き仕上がりも美しい。前方に伸びている黒いコードの中にはワイヤーが仕込まれており、このワイヤー経由でアクセルとブレーキを操作する
株式会社ホンダアクセス 開発部の清水隆彦さん曰く「この車輌を製作するにあたって、車椅子ユーザーさんから多くのご意見をいただきました」とのこと

リニアな操作感に驚愕! フィットってスポーツカーでしたっけ?

 テックマチックの操作は、左手でコントロールグリップを奥に倒せばブレーキ、手前に引けばアクセルという単純なもの。基本的に操舵は右手のみになるので、Uターンや駐車場での切り返し時にはハンドルに取り付けた旋回ノブが活躍します。

 左手で操作するコントロールグリップには、ウインカー、ハザード、ホーン、ライト(HI/LO)切り替えなどの運転時に頻繁に操作するスイッチも配置されています。左手だけでこれらの操作ができるのはホントに便利なんですヨ。コレたぶん健常者でも便利に感じる機能なんじゃないでしょうか? 特にウインカーとハザードは最高に便利です!

コントロールグリップを押してブレーキ(左)。引いてアクセル(右)
コントロールグリップには、ウインカー、ハザード、ホーンなどのスイッチを配置。グリップを握ったまま指1本で操作が可能

 ひととおり手動運転装置の機能を理解していただいたところで、いよいよフィットのエンジンをスタート! 手順は以下の感じ。基本的にはブレーキを踏んでエンジンを始動するAT車の方法と同じです。

【テックマチックでの始動手順】

1:ブレーキロックスイッチを押したままコントロールグリップを前に倒し、ブレーキをロック(ブレーキを踏んだ状態)

2:エンジンスタートボタンを押してエンジン始動

3:ATセレクトレバーをDレンジに入れ、サイドブレーキ(EPB)を解除する

4:コントロールグリップを前に軽く倒してブレーキロックを解除

5:ゆっくりコントロールグリップを戻す(ブレーキリリース)ことで走行開始(クリープ走行)

 コントロールグリップを戻し、クリープ状態で走り出すフィット。フィットe:HEV BASICは、2モーターのハイブリッド車で基本的にエンジンは発電機を回すのに使い、駆動力はほぼ電気モーターのみで行なう仕組み(高速巡航時のみエンジンが直結される)。

EVドライブモード
ハイブリッドドライブモード
エンジンドライブモード

 これが想像以上にスムーズ! 駐車場から出たところで、テックマチックのコントロールグリップをニュートラルから手前に軽く引いてアクセルオン。ゆっくり1cmほど引くと、これまたリニアに、しかもトルクフルにクルマが前に出る。

フロントウインドウは本当に広い! 視界は超良好です

 ここまで運転してわずか1分ほどなんですが、オレが今まで使ってきた手動運転装置とは明らかに違います!

 オレがこれまで使ってきた「APドライブ」は、フロアからコントロールレバーの固定軸が立ち上がり、ここを支点として動作するもの。まず、力点であるコントロールレバーを引き、固定軸の支点を介して、アクセルペダルの後ろに取り付けられた作用点のアームが奥に下がり、アクセルオンされるという仕組み。

「APドライブ」はフロアに固定され、金属製ロッドを介してアクセルやブレーキを操作する

 コントロールレバーやリンケージは金属製の長いパイプや板なので、引いたりすると少したわみ、リンケージがバネのようにしなり、少し遅れてペダルに動きが伝わる感じなのです。なので、スムーズな操作のコツとして、そのたわみやしなりをあらかじめ予測し、先読みで操作を行なうのが身体に染み付いています。

 ですが、このテックマチックはコントロールレバーを引けば引いただけアクセルがリニアに反応してくれる! コレはキモチイイ!

 新型フィット用テックマチックシステムの開発を担当した、ホンダアクセスの清水隆彦さんにお聞きしたところ、「テックマチックはリンケージではなくワイヤーを介してペダルを操作するので、リニアな感じがするのではないかと思います」とのこと。

テックマチックはリンケージではなく、ワイヤーを介してペダルを操作するので操作感がリニアで変なクセが感じられない

 なるほど~、ワイヤー操作だとこんなにリニアになるんすね~。と、思いながら迫ってくる左コーナーのために引いたコントロールレバーを戻しつつ、そのまま軽く奥に押してブレーキング。

 以前、携帯型手動運転装置でEV(電気自動車)のBMW「i3」を試乗したとき、回生ブレーキの効きが強かった記憶があるので少し身構えていたんですが……。なんすかこれ! めっちゃスムーズじゃないすか! レバーを離しただけ回生ブレーキが自然な効きをみせ、レバーを押し込んでのブレーキングも超リニア。そのときに欲しいぶんだけブレーキが効く感じ。

ブレーキもコントロールレバーを押したぶんだけ、欲しいぶんだけかかる感覚

 リンケージ式のオレの愛車は、これまたレバーを押したあとにレバーやリンケージがたわみ、たわんだ金属製リンケージがひと呼吸おいてから戻る際に強くブレーキをかけるので、それを予測した先読み操作が必要なんです。まぁこの20年それをあたりまえにやっていたので、あまり気にはしてなかったのですが……軽いカルチャーショックを受けました。

 フィット+テックマチックのあまりにリニアな操作感に、車椅子になる前に自分の脚でスポーツカーを運転していたころを思い出しちゃいました。ていうかこのリニアな操作感、フィットってスポーツカーなんじゃ!?

 テックマチックの操作にも慣れてきたので、お次はホンダ和光ビルの敷地の外へ! コントロールスティックを多めに引いて加速すると、フィット(ハイブリッド車のみ)に搭載された電気式無段変速機がイイ仕事するんですよ! まったくシフトアップによる加速の段差がなく50km/hまでニュートラルに加速する!

 テックマチックのワイヤーコントロールのリニアな操作感とあいまって、本当に気持ちがいい! まさか電動化されたパワーソースと手動運転装置テックマチックの相性がここまでいいとは予想外! これが今のハイブリッド車、今の手動運転装置なんですね!

ホンダの2モーター・ハイブリッド「e:HEV」は、街中などの低速域ではほぼ100%電気の力だけで走るシステムというので、この特性とテックマチックとの相性が抜群なのかも!

手動運転装置での運転歴が長い人にこそ体験してほしい!

テックマチック搭載のフィットは、福祉車両について相談できるディーラーとして405店舗展開する「ホンダオレンジディーラー」を含めた、全国のホンダカーズで購入可能です

 試乗を終え帰ろうと自分のレガシィに乗った際に、あらためて新型フィット(e:HEV)+テックマチックの凄さに気付かされました! 自分のクルマの手動運転装置を引いても、クルマが全然前に出ないんです! サイドブレーキを引いたままかと思ったほどでした。たった小1時間ほどの試乗なのに、コントロールスティックの軽さや、操作にリニアに付いてくるe:HEVモーターの特性にヤラれてたみたいです。新型フィット(e:HEV)+テックマチックの快適さを体験すると、ガソリン車+古い手動運転装置には戻れない身体になってしまうのか!(笑)

 今回試乗させてもらったテックマチックを搭載した新型フィットは、福祉車両について相談できる「ホンダオレンジディーラー」を含めた全国のホンダカーズで購入可能とのことです。

 ホンダオレンジディーラーでは、カタログや動画を使いながら商品説明をしてくれるそうなので、気になった車椅子ユーザーはお近くのホンダオレンジディーラーへGO! 新型フィット購入の際はガゾリン車ではなく、手動運転装置との相性抜群のハイブリッド車e:HEVモデルを強くオススメします! 旧式の手動運転装置の運転歴が長い人ほどカルチャーショックを受けると思いますよ~。

 最後に、蛇足だとは思いつつやっぱり書いちゃいます。このホンダテックマチックの唯一残念な点です。それは、現状テックマチックに対応している新車ラインナップが、この新型フィットのみという点!

 テックマチックとモーター駆動のウルトラスムーズな操作性に感動した今、ピュアEVで後輪駆動の「Honda e」が発売されるのを知って「あのHonda eにもテックマチックが搭載される日が来るといいなぁ」と思わずにはいられませんでした。やっぱりナイスな手動運転装置で、好きなクルマを運転したいじゃないですか! ホンダさん、ご検討のほど宜しくお願いいたします!

「Honda e」にもぜひともテックマチックを! 絶対に相性がイイと思うんですよね~

アカザー

アカザー(赤澤賢一郎)
週刊アスキーの編集者を経て、現在はフリーの編集・ライター。初めて買った愛車はカローラレビン(AE86)。以来、240SX(北米版180SX)やRX-7(FC3S)などMTスポーツカーを乗り継ぐ。2000年にスノーボードの事故で車椅子になった後も、手動運転装置を使ってAT車を運転。現在の愛車はレガシィ ツーリングワゴン2.0R スペックB

Photo:堤晋一