試乗レポート

日下部保雄の「ショーワ技術体感試乗会」で次世代サスペンションを体感

フィットやN-BOXに組み込まれた次世代技術

第2世代SFRDが組み付けられたN-BOX。次世代のサスペンション技術を体感してきた

 ショーワが試乗を含めた技術体感試乗会「Showa Technology Experience」を10月上旬に初めて開催した。自動車メーカーの試乗会ではそのクルマの特徴となる技術をアピールする場にもなるが、その下支えをするサプライヤーの技術となるとなかなか表面に出てこない。最初は、今後の車両制御のトレンドとなるであろう協調制御「iLEED」が組み込まれた車両についてお届けし、2回目は次世代ステアリング技術についてお届けした。

 試乗インプレッションとしての最後は、ショーワの最新サスペンション技術になる。この次世代サスペンション試乗では、主にショックアブソーバーの進化を確認することができた。

第2世代SFRDが組み付けられたN-BOXとともに

次世代サスペンション

第2世代SFRD
第2世代SFRD技術概要

 SFRDは、Sensitive Frequency Response Damperの略で、電子制御を使わずにショックアブソーバー単体で操縦性と乗り心地の改善を目指すものだ。

 コンセプトとしては凹凸を通過するときの周波数で減衰力を設定するタイプで電子制御部品は使わない、コンベショナルなショックアブソーバー。低コストでかつこれまでの性能を上回るものを目指している。

 油圧回路を工夫することで流路の効率を上げ、レスポンスを向上。また、ショックアブソーバーの各パーツの締結性を上げて生産性も上げ、コスト削減を図っている。

 試乗車はN-BOXで行なわれ、試乗コースは総合試験路と5種類の路面を通過する特殊路が使われた。

 最初は現行N-BOXで現行品を試乗する。相変わらずシッカリした足まわりで、背の高い軽にもかかわらず素直なハンドリングと乗り心地で安定の実力だ。

 ハイトワゴン系なので直線路でのセンターフィールも少し広めに設定されているが、小さなRでも姿勢を崩すことなく不安感はない。

 特殊路は40km/hで通過し、中小のウネリ、編み目路、そして乗り上げ段差、乗り下げ段差の路面を走る。さすがに4輪がバタバタと動き、接地を失いそうになるものの上下動はよく追従する。バタバタとするのは重量とサイズから来るもので、仕方ないと感じられた。

 次にSFRDの考え方をフロントストラットに組み入れたN-BOXに乗る。リアのショックアブソーバーは標準車と同じものだが、フロントのSFRDに合わせて若干チューニングされている。

 操安はバネ上の動きが少し小さくなり、少舵ではロールの過渡領域での動きが滑らかになっている。小さなコーナーでも舵の効きもよくなった印象だ。また、連絡路での凹凸路面ではロードノイズが少し下がり、上下の減衰力は伸び側がスムーズに動き、収束も速いので乗り心地がよく感じられる。

 結果的に振動が減少しておりドライバーの目線が安定する。入力時のショックアアブソーバーの収まりはよく、車体がよく制御される。ノイズに関してはショックアブソーバーが出す高周波ノイズも減少しているようだ。

 乗り心地は明らかに向上しており、軽自動車にも質が求められる時代にあって、地道な努力が走りや乗り心地の質の向上を支えている。

次世代S-SEES
S-SEESについて
次世代S-SEES技術概要

 現行のS-SEES(Showa Super Empowering Efficient Suspension)第2世代と次世代技術が組み込まれた2台が用意されていた。

 S-SEESはコンベンショナルショックアブソーバーの基本技術を向上させるべく、減衰力応答性の向上を目指したものだ。実はS-SEES技術は2012年の第1世代から始まり、現行フィットには第2世代が搭載されている。

 ショックアブソーバーは大きなショックを吸収するだけではなく、常に微小な動きを受けており、その作動領域に注目してオイル、シールなどのパーツの技術に着目した。第1世代はフリクション特性を改良して滑らかな乗り心地を目指し、前後のショックアブソーバーの改良で微小振動の改善が図れた。

 現行フィットに搭載されている第2世代S-SEESは、さらに油圧流路を改良して車輪前後で発生する揺れを抑える応答のよいショックアブソーバーを開発した。減衰力の応答性を上げるためにボトムバルブ、ピストンバルブの変更でオイル流路を改善し、ブッシュ特性を変えられた。フィットの乗り心地の評価は高いが、これらの技術の貢献は大きい。

次世代S-SEESの組み込まれたフィット

 次世代S-SEESは詳細技術について語られることはなかったが、フリクション特性技術の進化でしっかり感を出す目標を掲げて開発されている。

 最初の試乗車は現行フィット。第2世代S-SEESである。さすがに定評あるだけにコンパクトカーでは秀逸な乗り心地だ。ショックアブソーバーの極微低速域での減衰はフリクションをうまく利用することでしっとりとした乗り心地が得られている。

 間髪を入れずに伝わる路面からの入力に対して、ショックアブソーバーのフリクションを使っていかにフラットに走らせるかが技術のポイントであり、横方向に対しても腰砕けのないコーナリング特性を持たせている。キビキビ走るよりも、安定感のある走りが得意なコンパクトカーだ。

 次は次世代S-SEESの入ったフィットで、開発中のパーツを組み込んだ車両になる。ステアリング応答性は明らかに向上していた。バネやEPSなどは変わっていないのでショックアブソーバーの減衰力、フリクションだけで攻めているのは驚きだ。

 荷重移動時のロール、ピッチングを抑制することで車両の姿勢が安定し、結果としてステアリング応答性も向上していると思われる。さらにロールの小ささでコーナリング時のステアリング舵角が小さくなったことも収穫だ。タイヤがシッカリと路面を掴んでいる感じが好ましい。

 摺動部品の改良でここまでチューニングでき、欧州車の粘り強いハンドリングにも似る味付けになっている。高速になるほど安定感は高まり、直進時のシットリした粘り感のある安定性も好ましい。

 乗り心地では路面突起のアタリは少し強くなっているものの、上下収束性は向上しておりバネ上の動きはよく抑えられている。目線はさらに上下に揺さぶられにくくなっているので、ロングドライブでも疲れにくそうだ。

 この収束は小さい入力よりも中程度の入力の方が向上し、乗り心地のフラット感は高くなる。リア側から入るピッチングをもう少し抑えられるとさらにフラットになるというエンジニアの言葉もあったが、上市までまだ先。大物の部品を変えるわけではなそうなので、ぜひ狙ったポイントの完成形を見たい。

 電子制御も素晴らしいが、このように地道な努力でコンベンショナルショックアブソーバーの乗り味を詰められることにチョット感動した。

IECAS……積載検知ロジック
IECAS技術概要(その1)
IECAS技術概要(その2)

 IECASはIntelligent Electronic Control Adaptive Suspensionの略。こちらはクルマの車速や車輪速、加速度などのCANデータからタイヤ接地荷重を割り出し、姿勢制御を行なうものだ。例えばウネリ路で加速度からバネ上の動きを推定し、位相のずれを前後の電子制御ショックアブソーバーの減衰力を変えることで姿勢をフラットに保つ。

 話だけ聞いていると「そんなことができるのか?」と思ったが、タイヤ空気圧センサーも各輪のABSセンサーから微妙な差を感知していることを思うと、今の技術を持ってすればなんでもできそうだ。

 このシステムは、新たにストロークセンサーなどを追加することなく車両のCANデータから制御を行なえることが大きなポイントだ。

IECASの切り替え装置

 試乗ポイントはIECASによるフラットな乗り心地。車両はアキュラ「RDX」である。これに特設スイッチで積載検知モードを追加し、ショックアブソーバーの減衰力を変えられるようになっている。ドライバーはショーワのエンジニアが務めて、今回は後席での体験となる。積載状態は5名+荷物を想定しているため、シートには重りが搭載されている。

 路面は特殊路の中の波状路。ここを100km/hで走り抜ける。最初は積載検知モードスイッチをOFFにしての走行だ。バウンシングとピッチングが交互に起こり、後席はイヤな周期で揺さぶられる。クルマ酔いする典型的な揺動パターンである。

 次に制御をONにする。積載量の検知は駆動力と実際に発生する加速度をCAN信号から得て、推定ロジックに則って重量などを判定する。この数値がある閾値を超えると積載と判定し、積載モードに入って減衰力を変える。

 4輪独立で変えるが、今回の場面ではウネリに対して直角に入るので同時に減衰力を変えることになる。連続可変ではないが、十分以上に効果的なのはすぐに理解できた。

IECASの組み込まれたRDX

 波状路に入る直前、構えていると呆気なく通過してしまった。路面が路面だけにバウンシングと小さなピッチングはあるが、OFFよりも大幅に揺れは小さく、システムの有難みを痛感した。

 このシステムは新しく追加するセンサーがなく、余分なワイヤハーネスも必要ない。別項目で紹介した「S-SEES」と組み合わせることで快適な乗り心地をCセグメントの車両でも味わえる。積載検知ロジックを組み込むだけですむので、コストを抑えられる点も大きい。


 この日、普段、間接的にしか知ることができないショーワの技術の一端を垣間見ることができた。そこには未来を見据えてよいモノをより安価に提供するというサプライヤーの意地が詰まっていた。ショーワに限らず、日本には優秀なサプライヤーがたくさんあり、日本の自動車産業を支えていると実感した1日だった。

日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員/2020-2021年日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。

Photo:安田 剛