試乗レポート

日下部保雄の「ショーワ技術体感試乗会」でiLEED協調制御実験車両に乗ってみた

ショーワの開発テストコースである塩谷プルービンググラウンドを協調制御搭載開発車で走る

 ショーワが試乗を含めた技術体感試乗会「Showa Technology Experience」を10月上旬に初めて開催した。自動車メーカーの試乗会ではそのクルマの特徴となる技術をアピールする場にもなるが、その下支えをするサプライヤーの技術となるとなかなか表面に出てこない。今回のショーワは数少ないそんな場で興味深い内容だった。

 ショーワはホンダ系のサプライヤーだが、メガサプライヤーがますます巨大化する中で2019年10月30日に、日立オートモティブシステムズ、ケーヒンおよび日信工業と経営統合することを発表。2020年10月19日に統合会社の名称を日立アステモとすることが発表された。

 この技術体感試乗会は、現時点でのショーワの技術レベルを理解してもらおうというものになる。技術体感試乗会では得意の2輪や4輪のサスペンション、EPS(電動パワーステアリング)に加え、近い将来の技術展示と試乗も含まれていた。ここでは試乗を伴う協調制御&車両制御、EPS、サスペンションについての体験をレポートしていく。

 テストコースは栃木県塩谷町にあるショーワの開発テストコースとなる塩谷プルービンググラウンド。ショックアブソーバーメーカーらしく総合試験路と直線路に5種類の路面が用意されており、ワインディングロードもEU路と北米を模したUS路というコースがある。コンパクトにまとまっているが効率のよい施設である。試乗内容は多岐にわたるため、協調制御&車両制御、EPS、サスペンションに分けてお届けする。

初めて訪れたショーワの塩谷プルービンググラウンド
ショーワの技術全体について解説していただいた株式会社ショーワ 取締役 専務執行役員 開発本部長 関野陽介氏

車両制御

ステアリング+サスペンション協調制御
技術概要
開発中ながらこの協調制御には「iLEED」という名称が与えられている。ショーワの本気度が伝わってくる

 ステアリング+サスペンション協調制御は、EPS(電動パワーステアリング)と電子制御ショックアブソーバーを組み合わせて姿勢をコントロールしようというもので、セミアクティブ的な制御になる。このシステムが組み込まれているのは欧州仕様の1リッター3気筒ターボのシビック。制御はスイッチのON/OFFで選択できるようになっていた。

 シビックに使われているEPSはショーワのデュアルピニオンタイプで、操舵力などを変え、ショックアブソーバーの制御はコンフォートとスポーツの2種類のモードを持っている。これをステアリング舵角や速度などからEPSと組み合わせて制御しようというものだ。

 主な目的はステアフィールの滑らかさ。コースは総合試験路の直線コースで60km/hと100km/hのレーンチェンジと微小舵角での反応。そしてワインディングロードではライン追従性やギャップでの姿勢安定性を確認できた。

欧州仕様の1リッター3気筒ターボのシビックが開発車両

 OFFではステアリングの切り始めにタイムラグがあり、少し滑らかさに欠ける部分があるが姿勢安定性やライントレース性などは気にならず、さすが量産車でまとまりがよい。

 次に制御をONにして走る。最初の総合試験路での中速域のレーンチェンジでは切り始めの反応の鈍い部分は小さくなった。同時に車体はロールが抑えられて、前のめりになる姿勢変化が小さい。

 ステアリングを切ったときに素早くフロント内側ショックアブソーバーの伸び側減衰力を締めてロールが小さくなり、その分ステアリング応答性もスッキリとしたものになっている。

 直線での微小舵角での反応は目立って変わらないが、切り始めてから操舵力の変化が少ないので軽くなったように感じられた。

 素直に曲がっていくなと感じたのはワインディングロードだ。ライントレース性に優れていて、ステアリング舵角が小さい。US路のコーナー途中にあるマンホール状のギャップでも跳ね上げられることなく接地性が高い。OFFでは少し姿勢が乱れたがONではすんなり通過した。

ワインディングロードを走るiLEED開発車両

 比較するとセミアクティブのように動くサスペンションの味が理解できた。姿勢変化が小さくなることによってステアリング応答性が向上し、合わせてライントレース性も上がって素直なハンドリングを実現した。

 乗り心地に関して凹凸のある直線の連絡路を走ってONとOFFを確認したが、上下動に対する制御は織り込まれておらず、当然ながら差はほとんどなかった。

このようなシミュレータで確認しながらiLEEDは開発されている
EPSによるステアフィール向上技術
技術概要

 車両制御でもう1つのメニューは、シビックによるEPSの制御を変えることで滑らかなステアフィールの実現を目指したものだ。

 現在のパワーステアリングは燃費や制御幅の広さに優れるEPSが主流だが、かつてはHPS(油圧パワーステアリング)がすべてだった。HPSはうまくチューニングすれば滑らかで上質なステアリングフィールを作り出せ、BMWなどは絶品で各社が目標としていた。

 EPSは何でもできるが立ち上がりトルクが大きく、HPSのようなジワリとした特性は出しにくい。このジワリといた操舵感に着目したのが今回試乗した進化型EPSだ。

微小舵角時のステアリングフィール向上を図っている

 EPSにはないHPSのオイルシールなどの摩擦特性に注目し、それらを微小なステアリング舵角時にEPS上で再現し、HPS以上のセンターフィールを目指している。ドライバーは直進状態でも僅かなステアリング舵角で車両が反応していることを感知しているが、この領域はHPSの場合は油圧内のシールなどの摩擦で、EPSではすでに摩擦を通り越して、実際にステアリングが効く領域になると言われる。

 実際に僅かにあるステアリングのアソビを修正するためにドライバーは無意識に修正しているケースが多いが、これをEPSモーターの特性を変えることでステアリングのセンターフィール特性を自在に変え、HPSのような特性を持たせることもできる。しかしこれまでは有効なデータがなく検証が行なわれてこなかったが、試乗車にはスイッチ1つで変更できるEPSを実験的に搭載していた。

 標準車のEPSでは操舵力は軽めで、ニュートラル付近からの切り始めも僅かに反応しない部分があってからスッと切れ込んでいく。直進時には微小なステアリングセンターのスワリ部分をほんのわずかに修正するが、無意識のうちに行なっているのでそれほど気にならない。

 スイッチをONにすると途端にグンとステアリングフィールが重くなった。ニュートラル付近ではほんの微小域でシットリとした抵抗があり、センターフィールが広がったような感触があった。余分なステアリング操作を必要とせず逆にコーナーでは保舵感に微妙な反力があってHPSのような感触を得た。

 ニュートラルから僅かに抵抗を感じながらステアリングが反応するが、その後、操舵力が必要以上に大きくなるクセがあった。今後さらに適合が進むことになるだろう。ワインディングロードでのハンドルの切り返しではスッキリした追従性を感じられた。

 このシステムはEPSだけの制御のため、追加したパーツがない。コストを抑えられ、かつ上質なフィーリングを得られる可能性がポイントだ。ステアリング系のチューニングが進むのはドライバーにとって嬉しい。EPSのウィークポイントが解消されることでサスペンションもボディもさらに進化すると思う。今までEPSのステアリングフィールにちょっと違和感を持つことがあったので楽しみなアイテムだ。

日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員/2020-2021年日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。

Photo:安田 剛