試乗レポート

日下部保雄の「ショーワ技術体感試乗会」で次世代ステアリングシステムを体感

第2世代「DPA-EPS」や「BRA-EPS」

次世代ステアリングシステムの組み込まれたアキュラ「MDX」

 ショーワが試乗を含めた技術体感試乗会「Showa Technology Experience」を10月上旬に初めて開催した。自動車メーカーの試乗会ではそのクルマの特徴となる技術をアピールする場にもなるが、その下支えをするサプライヤーの技術となるとなかなか表面に出てこない。前回は、今後の車両制御のトレンドとなるであろう協調制御「iLEED」が組み込まれた車両についてお届けした。

 今回はその要素技術であるEPS(電動パワーステアリング)の次世代タイプ。現代のクルマには欠かせないEPSだが、常に進化を続けており、本記事では第2世代「DPA-EPS」や「BRA-EPS」が組み込まれた実験車両の試乗をお届けする。

ステアリングシステムの進化
前回お届けしたiLEED協調制御実験車両

https://car.watch.impress.co.jp/docs/news/impression/1283806.html

ステアリング

第2世代「DPA-EPS」
第2世代「DPA-EPS」技術概要

 DPA、つまり駆動モーターを2つ持つDual Pinion AssistのEPSは上級モデルに採用機種が増えているが、さらに次世代DPAを目指して開発された第2世代も試乗でき、現行世代と2種類を比較することができた。

 第2世代のDPAは応答性、リニアリティ、ステアフィールの向上を図り、さらにADASへの対応や将来のコネクテッドに対してのセキュリティ対応などを行なったものだ。

 最初はシングルピニオンとデュアルピニオンの違いを体感する。車両はマツダ「CX-5」で、オリジナルはシングルピニオンのコラムタイプアシストとショーワのデュアルピニオンタイプだ。

 現行型では微低速でステアリング操作した際のレスポンス遅れを感じ、レーンチェンジなどではその動きが大きくなって、切り返し時などの操舵量が大きくなった。しかしドライバーがその見越量を入れて早めの操作をしているので、まとまっているように感じる。

第2世代「DPA-EPS」の組み込まれたCX-5(左)。右は市販のCX-5で、ショーワのステアリングシステムが組み込まれている

 次にDPAに載せ替えたCX-5に乗る。ステアリング系の操作遅れが減少して、オンセンターからの切り遅れのイメージが少なくなり、先ほど感じた微低速での遊びは大幅に小さくなっている。

 ステアリングのスワリもドッシリしたものになっており、路面反力から感じるアソビの感触がかなりカットされた。レーンチェンジも同様、これまで無意識に見越してステアリングを切っていたのがスッと切れるので、狙ったとおりのラインをトレースできる。また100km/h付近でのステアリングの切り始めもスッキリした味付けになっており、切り返したときの反応のよさも速く滑らかだ。

 さらに言えば操舵力そのものも変化が小さく、これまでステアリングにわずかだが無駄な力が入っていたのが軽減されたように感じる。

 ワインディングロードでは操舵初期の応答遅れが小さいため、長いコーナーでもライントレース性が上がって、余分な修正舵が少なくなった。ステアリングの応答性は調整可能でまだ詰めることができるようだが、SUVのキャラクターを考えるとあまりハッキリと反応してしまうと、SUVの味であるゆったりとした感じがなくなってしまうように思われる。

 従来のシングルピニオンタイプでも上手にチューニングされているが、Dual Pinion Assistだとワンランク上の上質なステアリングフィールとなり、DセグメントのSUVにふさわしい質感になる。

 何よりもステアリング角と操舵トルクの関係が自然で滑らかなのがポイントになると思う。DPAは操舵回路にダブルのバックアップシステムが組み込まれており、前述のとおりADASへの対応も進んでいる。また構造的には軽量化努力で従来のDPAより20%軽いとしている。

「BRA-EPS」
「BRA-EPS」技術概要

 BRAはBelt-Drive Rack-Assistの略で、文字どおりモーターがベルトを介してラックにトルクをかけていくEPSだ。高出力電動車、次世代の自動運転車にマッチさせたシステムとなる。ポイントは汎用モーターを用いることでコストを低減でき、ベルト駆動によるボールスクリューを組み合わせることで高出力化できること、ハウジングの軽量化などで小型軽量化できたことが大きい。

 車両は3.5リッターのV6エンジンを搭載した北米向けアキュラ「MDX」となる。標準車はラックアシスト型のEPAを持ち、異なるMDXにBRAを搭載する。

 最初に標準システム搭載車に乗る。聞き耳を立てて低速でステアリングを切るとエンジン音とともにラックを動かすボールが回転するジャーとした音が入り、質感に欠けるのが最初の印象だ。あまり縁のない北米車両だがちょっと意外だった。

実験車両として「BRA-EPS」が組み込まれたアキュラ「MDX 17モデル」(左)。右は通常タイプのEPSが組み込まれている「MDX 14モデル」

 総合試験路での定常的な微小舵角の反応、直進路のステアリングの座り、レーンチェンジでの舵の効き、ワインディングロードのトレース性や外乱の乱れなど、短い時間でチェック項目は多い。保舵をしている場面などでは路面からの振動を伝えやすかった。小さなショックを伝えやすいようだ。ミドルサイズのSUVとしてはもう少し滑らかさがほしい。

 次にBRAに換装した実験車両のMDXに試乗する。まず切り始めのジャーというノイズがまったく聞こえてこないのに驚いた。ベルトドライブとボールスクリュー技術の進化で静粛性が際立っている。さらに微小舵角からもう少し切り込んだポイント、またステアリングを戻したときでも余計なノイズは聞こえてこなかった。これだけでもクルマの質感が上がる。

 続いてステアリングの座りも確認したが、路面からの凹凸がない場面では変わらないが、外乱による振動は少ない。また微小舵角から切り始めたときの自然なフィーリングが好ましい。これはステアリングを保持するようなコーナーでは顕著で、従来モデルではステアリングに振動を感じることが多かったが、BRAでは振動が消えスッキリとして上質感がある。

各種の路面で乗り比べ

 ステアリングを切ったときの応答性は、一定のリズムと操舵力で、キレ、応答性もリニアなのが印象に残る。試験車両のMDXはBRAによってステアリング振動だけでなく上質なハンドリングも得ている。

 いいことづくめのBRAだが、先進技術や電動化に対応したアイテムを盛り込んでいるためコストは少し高くなる。それでもEPSモーターを専用開発する必要がなく、汎用モーターを使うことでサイズ選択の自由やコスト削減の効果があるという。

日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員/2020-2021年日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。

Photo:安田 剛