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アカザーのホンダ福祉車両・製品体験試乗会 車いすユーザー目線で確認

車いす歴21年のアカザーが最新のホンダ福祉車両をチェック!

ホンダの福祉車両・製品 体験試乗会を自動車教習所で開催

 どうもアカザーっす! 2000年にスノーボード中の事故で脊髄を損傷し車いすユーザーになってかれこれ21年。室内や近場の移動には車いすを使い、遠くへの移動には手動運転装置付きの車を使って生活しています。

どうもアカザーっす! 車いすユーザー歴21年です。イラスト・水口幸広

 そんなオレですが、ホンダさんが福祉車両を一堂に集めて試乗・体験会を開催するというので、開催場所の自動車教習所「ラヴィドライビングスクール蒲田」へ。ホンダの福祉車両関係は展示会などで目にする機会は多かったのですが、それを実際に試乗体験ができる機会は実は初めてです。

ホンダの福祉へのさまざまな取り組みを紹介し、実際に体感する「Honda福祉車両試乗・体験会」がラヴィドライビングスクール蒲田で開催された。

ホンダ福祉車両のルーツは「Honda・フランツシステム」にあり!

Honda・フランツシステムが搭載された「FIT e:HEV」。

 この体験会では複数の車両が用意されていたのですが、最初にご紹介したいのは「Honda・フランツシステム」搭載車。これは、両上肢が不自由な方でも、足だけで車の運転が可能になるという運転補助装置。その原型は1965年にドイツで開発されたもので、1981年にホンダが開発者のフランツ氏から技術指導を受けつつ、それ以降は独自の技術開発を加えながら進化させてきたもの。

足だけでクルマの運転が可能になるという運転補助装置「Honda・フランツシステム」

「Honda・フランツシステム」開発のきっかけは、サリドマイドで生まれつき両上肢がない方から「両腕がなくても運転できるクルマを作ってほしい」との申し出があったこと。その方の申し出に応える形で、1982年にホンダから第1号のフランツシステムが搭載のシビックが発売されました。

 ちなみに、クルマの補助運転装置としてはメジャー感のある手動運転装置(車いすユーザー用)の「Honda・テックマチックシステム」のデビューは1983年ですから、その1年も前にこの「Honda・フランツシステム」は発売されていたんですよ! そして、ここから現在へと続くホンダの福祉車両の開発が始まりました。

 そんな、ホンダの福祉車両のルーツとも言えるフランツシステムに初試乗! 試乗車は「FIT e:HEV」です。とはいえ俺は下肢に思うように力が入らないので、フランツシステムの運転は編集部スタッフに任せ、後部座席から観察します。

 乗り込む前にホンダアクセス 開発部の清水隆彦さんからある質問が。

株式会社ホンダアクセス 開発部の清水隆彦氏

「このHonda・フランツシステムを使われる方は、両腕がない方が多いです。その方たちはどうやってクルマに乗り込むか分かりますか?」

 確かに! いつもの調子で手でドアノブを引いて、ドアを開けて~。と考えていたのですが、ドアも足で開けなければいけないのか! というワケで編集部スタッフは靴を脱いで足先をドアのノブに引っかけて開錠……したまではよかったのですが、そこからドアをうまく開けられない! 3回目のトライでやっとドアオープン!

靴を履いたままではドアノブの下に足が入らないので、靴を脱ぐ必要がある

 その理由はドアの内側にありました! 腕を使わずにシートベルトが装着できるように、ドアにはシートベルトがマウントされているのですが、このためにフツーのドアを開けるよりも少しコツがいったみたいです。

席に座りドアを閉めることでシートベルトが装着される「パッシブシートベルト」

 ここで「Honda・フランツシステム」の各部名称と仕組みを説明します。

(1):足用ステアリングペダルユニット
(2):足用コンビネーションスイッチ
(3):足用シフトペダル

 運転席に座ったあと左足の靴を脱ぎ、(1)の“足用ステアリングペダルユニット”の靴に履き替えます。この靴が装着されたペダルを自転車のペダルをこぐように回せばハンドルは左に、その逆に回せばハンドルは右に回るという仕組み。

時計回りにペダルをこげばハンドルは右に、反時計回りにこげば左に切れる

 あと、ステアリングセンター下とフロントピラー根本の部分の右足左右にあるのが(2)“足用コンビネーションスイッチ”。ウインカーをはじめハザードやワイパーなどの各種スイッチがあり、これらは右足のつま先やかかとで操作します。

 ちょうどアクセルぺダルの手前の位置にあるのが(3)の“足用シフトペダル”。これはATシフトレバーと連動しており、つま先を右に動かした後にペダルをシーソーのように動かすことで、ワイヤでつながったATシフトレバーが連動して動く仕組み。

「Honda・フランツシステム」の運転操作は基本的にはこんな感じなのですが、なまじ手で運転することに慣れたわれわれが、この操作で運転をするのはかなりの練習が必要なように思いました。

手を使わないでクルマを運転してみた!【Honda・フランツシステム体験】

 なかでも一番大変そうだったのが、“ハンドルの戻し”です。通常のくるまではコーナーを曲がったあとにハンドルを軽く持ちハンドルの戻りにまかせていればいいのですが、「Honda・フランツシステム」では、この操作を左足のペダルを回して行なわないといけないのです。

 後ろから編集部スタッフのドライブを見ていた限りでは、この一連の左足ステアリング操作に手間取ってか、コーナーを10km/h以上で曲がろうとするとステアリングの戻しが遅れてアンダーが! さらにステアリングに修正舵を当てるのにも左足を前後にひっきりなしに動かしており、これは慣れるまでにはかなり左足が疲れるのでは?との印象を受けました。

 路上に出るのは夢のまた夢な感じで15分ほどの試乗は終了! 開発の加藤さんも運転に慣れるのには10時間ほどかかったとのとこでしたが、「Honda・フランツシステム」車のオーナーさんの運転は、健常者の運転とかわらないほどスムーズだったそうです。

 とはいえ、「購入してすぐの運転は危険な気がするのですが・・・」との疑問を開発の加藤さんに向けたところ、そのためにホンダアクセスさんには「Honda・フランツシステム」搭載のレンタル車両があるとのこと。車両に空きがあれば、購入前に試乗することが可能とのことです!

 レンタルして教習所などに持ち込んでの練習もできるそうなので、事故などの中途障害で両腕を失ったけれど、それでもくるまあいいを運転していろんな場所に行ってみたい! という方はホンダアクセスさんにお問合せしてみてください。道が拓けると思います!

「Honda・フランツシステム」購入から導入までの流れ

「Honda・テックマチックシステム」と「FIT e:HEV」で実現した次世代の手動運転

「FIT e:HEV」+テックマチックの相性は最高ッ!

「Honda・フランツシステム」のあとは半年ぶりに「Honda・テックマチックシステム」に試乗。あいかわらず「FIT e:HEV」+テックマチックの相性は抜群すね~。モーターによる低速域でのリニアな立ち上がりと、ワイヤ接続のテックマチックのリニアな操作感の相性が良すぎる! 受傷前に足で操作していた時以上のダイレクトな操作フィールを感じさせてくれました。

手だけで車を運転してみた!【Honda・テックマチックシステム体験】

 ひとつ心残りを挙げるとすれば、ホンダセンシングが使えなかったコト。会場の教習所では速度を出しての前車追従ができなかったんですよね~。でも、テックマチックとホンダセンシングの相性がこれまた最高なんすよ! 以前、高速道路で試乗した時には、「なんなら指1本で運転できちゃうよ~」みたいな勢いでした。

ホンダ センシングと組み合わせた運転体験は、コレはもう未来の運転装置かも!

https://car.watch.impress.co.jp/docs/topic/special/1296063.html

 ハッ! もしかしたらホンダセンシングはフランツシステムとの相性もバッチリなのでは?

人を笑顔にさせるホンダ製の陸上競技車いすって?

フルカーボンモノコックフレーム採用の陸上競技用車いす「翔(KAKERU)」

 FITのテックマチックとフランツシステムを体験したあとに向かったのは、陸上競技用車いす体験ブース。そこに並んでいたのは「翔(KAKERU)」と「挑(IDOMI)」の2台の車いすレーサー!

「翔(KAKERU)」はホンダが東京パラリンピックを見据え、2019年にロールアウトしたフルカーボンモノコックフレーム採用の陸上競技用車いす。その重量は8.5kgという片手でも持ち上げられるほどの軽さなんですよ!

その外見やカーボンモノコックフレームがホンダF1をイメージさせる! そして価格は驚きの約300万円!

 あまり知られていませんが、ホンダと車いす陸上の関係は古く、40年前の1981年に開催された「第1回大分国際車いすマラソン」にさかのぼります。この大会に参加していた選手が、車いす陸上への思いを本田宗一郎氏に語ったことがそのきっかけです。その後、その方は設立間もない「ホンダ太陽」へ入社し「車いす研究会」を発足、1983年には仲間と共にプロトタイプのオールアルミ製車いすレーサー「ドリーム腕」を作り上げます。

ホンダの陸上競技用車いすレーサー開発の歴史

 1999年には、障がい者スポーツに取り組むアスリートを応援する「ホンダアスリートクラブ」が誕生。2002年には本田技術研究所の技術支援をうけて、フルカーボンの車いすレーサーの試作1号車が完成するまでに。

 その後もホンダ製陸上競技用車いすの開発は順調に進み、ホンダR&D太陽、本田技術研究所、八千代工業の3社共同体制となり、翌2014年には、八千代工業からついに量産モデルの「極(KIWAMI)」が登場! さらに翌2015年には「挑(IDOMI)」の生産販売が開始。

Honda車いす陸上競技支援

https://www.honda.co.jp/philanthropy/contents/culture-sports/wheelchair_racing/

2014年に八千代工業から量産モデル「極(KIWAMI)」が登場!

 そして、その歴史の集大成として2021年の東京パラリンピックでは、スイスのマニュエラ・シャー選手が、「挑(IDOMI)」を駆ってふたつの金メダル、3つの銀メダルを獲得! ホンダ製陸上競技用車いすのポテンシャルの高さを証明してくれました!

 と、かなり前置きが長くなってしまいましたが、そんなホンダのモータースポーツの歴史とダブるような開発ヒストリーが、ホンダの陸上競技用車いすにもあるんですよ。

 それを踏まえた上で、陸上競技用車いす「挑(IDOMI)」に試乗させてもらいました!

試乗したのは陸上競技用車いす「挑(IDOMI)」。これはひとつ前のモデルで、現行のものはフロントのダンパー周りが「翔(KAKERU)」と同じ内蔵式

 この「挑(IDOMI)」は「翔(KAKERU)」と同じ設計思想に基づきつつも、シートフレームをアルミの2タイプから選べるようにしたモデル。東京パラでも活躍した「翔(KAKERU)」は、シートが選手の身体を3D測定して作られる、カーボンフレーム一体成型のワンオフものですが、「挑(IDOMI)」ではシートはアルミのフレーム製。これによりシート部だけ取り外せるので、競技を初めて間もない自分の体形やスタイルがまだ固まっていない選手には最適なモデル。

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試乗車の「挑(IDOMI)」のシートは、足がシートの前方に出るので乗りやすいUフレームモデル

 試乗させてもらった「挑(IDOMI)」のシートはUフレームという、足がシートの前方に出てより乗りやすいタイプが装着されたモデル。Tフレームというシートモデルは「翔(KAKERU)」と同じく正座をするようにシートのなかに足を入れるタイプ。「翔(KAKERU)」の兄弟レーサーとして開発された「挑(IDOMI)」。重量は9kgほどで、価格は約120万円。

 乗り込み方は人それぞれらしいのですが、両下肢マヒの俺が一番乗り込みやすそうな、後部エントリーでトライ。最初はひとりでもイケるかな?と思っていたんですが、想像をはるかに超えたフロントの軽さにより、ホイール軸の後ろに手をかけるとウイリーというかバク転まったナシな感じ。なので、フロントを押さえてもらいながらなんとかフットレストに足をねじ込み無事に搭乗、というか合体! という言葉のほうがしっくりくる感じのフィット感!

頭をグッと下げ胸を膝に当てるように収めると、低い目線と相まって「ワイはレーシングマシンや!」みたいな感じに。これまでも展示会などで陸上競技用車いすに乗ったコトはあったのですが、ここまでレーシーなポジションは初めて。

 選手は腕にグローブのようなものをつけて、拳でハンドリムをたたく感じで30km/hほどで走行するんですが、そんな事は俺には到底無理! なので借りたグローブでいつのもような感じでハンドリムをつかみ前へとこぎ出すと……軽っ! ボディの軽さに加えタイヤが細いので、こぎ出しが軽い。ていうか、少しでも上体を起こしてこぐとフロントが浮く感じです。

フロントを上げて旋回しようと試みた際に、フロント部の軽さに驚愕! もう少しで後ろにバク転するところでした(笑)

なので、上体を太ももに付ける感じで寝かせてこいでみると、ググッ! という感じで想像以上に車体が前に出ます。加速感が気持ちよく調子にのってこぐと目の前に左90度のコーナーが! 車いすレーサーはハンドルの切れ角がないので、コーナーの前半からアプローチ開始。

コーナーへはハンドルを持ってアプローチ。切れ角が少ないので早い段階から旋回に備える。

 トラック競技などでは、ハンドル下のスイッチを入れることで一定の切れ角にフロントタイヤを保持してコーナリングしていくのですが、今回は切れ角設定もしていないので、勢いをつけてコーナー侵入>ハンドルを両手で操作してコーナリング。

 これがめちゃくちゃ気持ちイイ! バイクでコーナーを駆け抜けるあの感じ。しかも目線の位置が路面から数十センチなのでスピード感がかなりあるんです! 「東京パラリンピックで選手たちはこの目線で、さらに速い速度で東京の街を駆け抜けたのか~」と、教習所内の交差点を駆け抜けながら妄想に浸ってました。この感じ、車好きバイク好きはハマるかも~。

 あとで開発の方に聞いた話では、カーボンフレームはアルミフレームに比べて、路面の振動を吸収するので、細かいうねりや凹凸のあるアスファルトを30km/h以上で42.195kmを走る車いすマラソンでは、パワーロスや疲労感が全然違うとのこと。

ホンダ製カーボン車いすレーサー体験

 ホンダ製陸上競技車両に乗ったあとに、ふと俺の脳裏に浮かんだのは事前説明会でのスライドに書かれていた「人の役に立ちたい、喜ばせたい」というスローガン。

きょう、おれは、めっちゃうれしくなれました!