イベントレポート

【東京モーターショー 2019】アカザーが見た東京モーターショー。2020年代のバリアフリーなモビリティ社会が見えた!?

2019年10月23日 開幕

2019年10月25日 プレビューデー

2019年10月25日~11月4日 一般公開日

トヨタブースでヒューマノイドロボット「T-HR3」と握手!

 どうもアカザーっす! 皆さん、東京モーターショーは行かれました? 行かれた方はご存じのように、2019年はこれまでとはひと味違って、家族連れでも楽しめる体験イベントやショーが多い感じでしたよね。さらには自動車メーカーのみならず、家電業界、IT業界やドローン関連のベンチャー企業なども巻き込み、次世代イベント感満載。その甲斐あってか、来場者数は前回の77万人から大幅アップの130万900人とか! なんでも100万人を超えたのは、幕張メッセ開催の2007年以来で、お台場に会場を移しては初とのことらしいっすよ。スゲー!

 そんな盛り上がりまくった2019年の東京モーターショーですが、いつものように“オレ的な車いすユーザー視点”で見ていきたいと思います。ちなみに東京モーターショーは、障がい者手帳を持っている人向けの特別見学日(要事前申請)が用意されています。なので、車いすユーザーでクルマ好きの方は、2年後のモーターショーは特別見学日が狙い目ですヨ!

どうもアカザーっす。事故で脊髄を損傷して以来、19年間車いすユーザーやってます。(イラスト:水口幸広)

車いすユーザーが1人でも気軽に出歩ける“人が中心”のモビリティ社会へ

 最初に向かったのは、東京モーターショーを主催する日本自動車工業会 会長も務める豊田章男氏が率いるトヨタ自動車ブース。初日のスピーチで豊田社長が「今回のトヨタブースは、人を中心とした未来のモビリティ社会をつくりました」と語っていたように、いきなりそれを象徴するかのような展示がありました!受付で来場者とロボットがジャンケンをしてるとか(笑)。

受付のお姉さんの隣にいても違和感のない、人間のような動きや仕草が印象的なヒューマノイドロボット「T-HR3」

 隣にいたお姉さんに聞いたところ、コレはヒューマノイドロボット「T-HR3」という、人の活動をサポートするために開発されたトヨタの第3世代ロボットとのこと。すすめられるがままに、オレもジャンケンをしてみたのですが、T-HR3のスムーズな動きにビックリ。

 しかも、頭部のカメラアイと目が合うというか、アイコンタクトしてコミュニケーションをとってくるというか……。「コレ本当にロボットなんですか?」という疑問を技術担当者にぶつけたところ、実は別室でヘッドマウントディスプレイと、動作をトレースするスーツを着たスタッフが操っているとのこと! どうりで、動きや反応があまりにも人間臭いと思ったんだよな~。

マスター操縦システムで操縦者とロボットの動作がリンクする。トルクサーボによって32軸+10指がスムーズに動く

 T-HR3は“アシスタント”“福祉”“製造”“モビリティ”の分野での、高齢者や障がい者のサポートを目標に開発しているロボット。将来的には家にコイツがいて、普段はAI動作で単純業務を行ない、医療など専門的な知識が必要な場合は“中の人”が、医師やその分野のエキスパートに交代してサポートを行なってくれるってコトになるんですかね~?

 ていうかちょっと待って! コレってもしかして、その逆の使用法というか、1人で外出が困難な高齢者や障がい者が、その分身として職場や観光地に置いてあるT-HR3の中に入って、仕事やレジャーを楽しむってコトもできるのでは? 個人的にはそっちの使い方のほうがワクワクするなあ。昭和の時代はクルマが一家に1台だったのが、令和の時代はロボットが一家に1台の時代になるのかも!

ドコモの5G回線を使うことで遅延のない遠隔操作が可能になり、自分の分身のような操作ができるらしい

 初日のオープニングスピーチで豊田社長は「今回のトヨタブースは人を中心とした未来のモビリティ社会をつくりました」と、自動運転の「e-Palette」で壇上に登場。「今回このブースには来年発売されるクルマは1つもありません。社会と街がつながり、人に移動やサービスを提供するモビリティばかりです」と語ってました。車いすユーザーのオレもワクテカなモビリティ社会が来るんか!?

「人が中心にいる未来をつくっていきたい」と熱く語る豊田社長

e-Paletteは車いすユーザー待望の交通手段になるのか?

初日のあいさつで豊田社長を乗せて登場した、自動運転の「e-Palette」。トヨタブースのイチオシだ

 まさに今回オレが一番見たかったのが、2020年の東京オリンピック・パラリンピックの会場で運用予定の「e-Palette」。東京モーターショーではe-Paletteへの車いすでの乗車体験を期待していたんですが、今回はその希望は叶わず。残念。

 でも、10月末のお披露目では、介助者いらずで車いすのまま乗降可能な動画が公開されており、コレが一見したところイイ感じなんですよ。

乗降場に停車したあと自動でスロープがかかるので、介助者がいなくても車いすユーザー1人で乗り降りが可能

 なかでも正着制御技術により、停留所へわずか数cmで停車後、自動でスロープが展開するので、これまでのバスのような乗降に際しての煩わしさがない。車いすは4台まで搭載が可能とのことで、乗車の際も特別な固定は行なわず、車いすにブレーキをかけて手すりにつかまる感じで乗車する。

フラットフロアとロングホイールベースにより、最大4人の車いすユーザーが1人でも乗車が可能。乗降時にはドアの下部から自動スロープが出て来る

 これは最高速19km/hという運用条件があればこその気もするが、今後もこのようなかたちで、なるべく車いすの固定はユーザー本人に委ねる形で検討してほしいな~。オレがバスをあまり利用しない一番の理由は、運転手さんに車いすを固定してもらっている時のアノ空気が苦手だからなんすよね~。あの場の空気マジでめっちゃキツイんですよ(笑)。都バスも都営大江戸線みたいに、1人で乗り降りができるようにならないかなぁ。e-Paletteと、その後のバスの“真のバリアフリー化”に期待!

四半世紀にわたる改良を加えてきた電動車いすユニット

 トヨタブースが“1歩先の未来”のモビリティ展示なら、コチラのヤマハブースは“半歩先の未来”のモビリティってカンジです。

市販の手動式車いすに取り付けることで、電動車いすにしてくれる「JWX-1 PLUS+」。価格は31万3000円から

「JWX-1 PLUS+」はすでに発売中の電動車いすユニットです。今までの東京モーターショーでは、電動車いすは展示されていれば御の字という感じだったのが、今回はメインステージでの展示ですよ! スゲー!ていうか本当にありがとうございます。ヤマハさんの電動車いすにかける気合い、しかと受け止めましたヨ。

 JWX-1 PLUS+は既存の折り畳み車いすの駆動輪と交換することで、電動車いすとして機能するようになるユニットですが、その開発の歴史は古く、初期モデルの「JW-1」が発売されたのは1995年のこと。

 その後、2006年に登場した「JWX-1」では、走行可能距離が3倍の30kmにアップ。そしてこの「JWX-1 PLUS+」ではユーザーに合わせた細かなセッティングや、今や必需品となったスマートフォンを充電可能なUSBポートまでを装備するほどに進化してるんですヨ。

背面に取り付けられたケース内にはバッテリーが収納され、これで左右駆動輪の中心にあるモーターを動かす仕組み。1回の充電で、ニッケル水素バッテリーなら15km、リチウムイオンバッテリーなら30kmの走行が可能

 こうやって、車いすユーザーにとっては足ともいえる製品を、ほぼ四半世紀にわたりコツコツと実用レベルで改良してくれるのは、それが必要なユーサーにとっては本当にありがたいコトですよね~。

 以前、駆動輪を交換することで“電動アシスト”車いすとなる「JWX-2」を体験させてもらったことがあるのですが(別記事を参照)、ノートPCに接続し、アシストパワーのセッティングをしているときは、MotoGPのレーサーになった気分でテンションが上がりました(笑)。さすが世界のバイクレース界を牽引するヤマハ! 電動車いすでもワクワクさせてくれるぜ~!

以前、同じユニットを使用した電動アシストモデル「JWX-2」に試乗。坂道の下りでスピードが出過ぎないよう適度なブレーキが効いたり、傾いた道路では左右の駆動ユニットが適宜補正し、まっすぐ進めるようアシストしてくれた。スゲー快適だが、使うと楽し過ぎて太りそう(笑)

次世代の電動車いすは万人が利用したくなるものへ

 参考出品されていたコチラの電動4輪シニアカー「YNF-01」は、ジャンル的にはハンドル式電動車いすとかシニアカーと呼ばれる製品。モーターと電池パックは前述の電動車いすユニットのJWX-1 PLUS+と同じものを使用しているとのコト。しかし、カッコよさはコチラが数段上というか、もうなんか全然違う! 車いすユーザー以外の一般人にもウケそうなフォルムがサイコーじゃないすか? やっぱりヤマハデザインはカッチョいいすね~。

9月末に開催された国際福祉機器展(別記事を参照)に続き、参考出品されていた電動4輪シニアカー「YNF-01」

「道はすべてオフロード」という開発キーワードから生まれたYNF-01は、地面をしっかりと掴む大径タイヤと、衝撃を吸収する4輪独立サスペンションを装備。15cmほどの段差なら乗り越えるコトが可能で、アウトドアでの走破性も抜群とのこと。コレ、観光地とかでレンタルサービスがあれば、車いすユーザーや足の不自由な人はサイコーじゃないですか?

いかにも可動域が大きそうなアッパーアームとロアアームで支持された前輪には、大型のディスクブレーキが。後輪内に仕組まれたモーターで駆動する

モビリティの準備は万端!? あとはそれをとりまく環境の整備を!!

 最後に、2年前の東京モーターショーで一番感動した、FC(燃料電池)バス「SORA」(別記事を参照)が、有明エリアと青海エリアを繋ぐ無料シャトルバスの1台として運行していると聞いて、移動にはぜひこのバスを使いたい!と思っていたのですが、ある理由で断念。

前回、2年前の東京モーターショーで一番感動し、その後の実用化を期待したFC(燃料電池)バス「SORA」。2018年から導入が開始されたが……

 その理由とは長蛇の列もさることながら、乗り場とバスの間に段差とスキマがけっこうあったコト。2年前の東京モーターショーのトヨタブースで行なわれた展示時のようなフルフラットとまではいかないまでも、乗降場と同じ高さで隙間は10数cmほど、ってのをひそかに期待していたんですが……。

別記事「【東京モーターショー 2019】『有明』『青海』に分かれた会場を徒歩と電車で往復してみた」での会場の様子

 青海エリアと有明エリアのどちらの無料シャトルバス停留所も、車いすでの利用の際にバリアとなる段差と大きな隙間が。これではせっかくのフラットバスの性能をじゅうぶん活かし切れない。

 う~ん。ただでさえ混雑しているなか、ここで運転手さんの手を借りて、車いすで乗車してほかの皆さんを待たせてしまうような鋼のメンタルはオレにはなかったです。

 今回の東京モーターショーでも、いすゞブースの連結バス「ERGA DUO」の展示では、乗り降りがしやすいように乗降場がバスの高さと同じになっていました。

連結バス「ERGA DUO」を展示していたいすゞブースは、2年前のトヨタブースの「SORA」同様、乗降場所を作っての展示。ここまではなかなか難しいとは思いますが、コレに近付けるよう、街中の乗降場所も改善してほしい

 なので、担当者さんに「街中でもこの展示みたいに乗降場所をバスと同じ高さにして、ドライブアシストなどで乗降場にピタリと停車することができれば、車いすでも1人で乗り降りができて嬉しいんですが、なかなか実用化されないんですよね~」と、ため息混じりに伝えたところ、少し困ったお顔で「バスを作るのはわれわれ民間企業なんですが、乗降場を作るのは国土交通省さんはじめ国の管轄なので……、なかなか難しいです」との苦渋の回答が。

 やっぱり時間はかかりそうですか~。でも、2020年の東京オリンピック・パラリンピック会場でe-Paletteの運用が成功すれば、やがて街中にもバスと同じ高さになった乗降場ができてくるはず! そして、そうなったころにはタクシーの乗降場なんかもツライチになっているはず! そして2020年以降は、そんな車いすでも周りに気兼ねなく自由に動けるようなバリアフリーなモビリティ社会が実現してるハズ! と思った2019年の東京モーターショーでした! あ、もちろんマニアな次世代スポーツカーはどれもめっちゃカッコよかったっす!

アカザー

アカザー(赤澤賢一郎)
フリーの編集・ライター。週刊アスキーの体験レポート漫画「カオスだもんね!PLUS」の担当編集をしつつ、ホビー好きが高じてモデルアート誌などでも執筆し、YouTubeLIVE「プラモづくりは見てナンボ」にも出演中。こだわりのホビーマニアでもある。