試乗記

ホンダ「プレリュード」(プロトタイプ)初試乗! ファンな走りが楽しめる「Honda S+ Shift」とは?

新型「プレリュード」(プロトタイプ)に初試乗

次世代技術「Honda S+ Shift」搭載

 2025年に発売が予定されている本田技研工業の「プレリュード」。すでに2023年のジャパンモビリティショーで世界初公開し、さらには2025年の東京オートサロンではエアロパーツを装着したカスタマイズモデルを初公開するとアナウンスされている。そんな段階でついにテストコースにおいてプロトタイプの試乗を許された。高速周回路を1周、ワインディングコースを3周という短時間ではあるが、プレリュード(=序曲)は一体なにを感じさせてくれるのだろうか?

 試乗前に伝えられたプレリュードのポイントは、主に次世代技術である「Honda S+ Shift」についてだ。これは2モーターハイブリッドシステムである次世代e:HEVに搭載されるもので、ドライバーの操作とクルマの応答がシンクロし、体感、聴覚、視覚を刺激するという“五感に響く意のまま”を最大化することを目的とした制御である。これまでもホンダではe:HEVを搭載した2020年のフィットから車速とエンジンサウンドを連動させた「リニアシフトコントロール」を搭載し、強力な加速をする際にはモーター駆動ながらもステップ変速しながら加速しているかのような感覚をもたらしてきた。「Honda S+ Shift」はその進化版といっていい。

次世代技術「Honda S+ Shift」を搭載するのが大きな特徴となるプレリュード。タイヤはコンチネンタル「プレミアムコンタクト6」

「Honda S+ Shift」の特徴はまず、有段ギヤの変速フィーリングを生み出していることだ。プレリュードの場合は8速想定に段階が分かれ、アップシフトを行なう際には瞬間的にモータートルクを抜いて段付きをあえて出し、次のギヤに見立てたトルクを瞬時に与えることでキレのよい変速フィールを生み出している。そこにエンジン回転を同調させ、その動きをタコメーターでドライバーに見せていることもポイント。さらにASC(アクティブサウンドコントロール)によってエンジンサウンドを増幅している。

 一方のダウンシフト時にはブリッピングを行ないながら、下のギヤへとダウンしたかのようにエンジン回転を高めていく。かつての「リニアシフトコントロール」ではエンジンを止めて回生するのみで、そちらの方が効率的にはよさそうだが、実はスポーツ走行をするときには話が変わってくる。e:HEVはエンジンが発電する電力とバッテリに蓄えている電力とを合わせて再加速を行なっている。「リニアシフトコントロール」のような制御の場合、停止していたエンジンを再始動して立ち上げていくまでにラグが出てしまうが、「Honda S+ Shift」はエンジン回転を高めておくことで、再加速時にも瞬時に大電力を発生させることが可能になる。ハイブリッドとはいえ、やはりエンジン回転のキープは大切。遅れのないリニアなレスポンスが期待できそうだ。

プレリュード プロトタイプのインテリア。ナビゲーション画面やインパネの加飾など部分的にデザインが隠されている
シフトまわりの右上にあるのが「S+」ボタン
走行モードはコンフォート、GT、スポーツ、インディビジュアルの4種類設定
スポーツモードに入れるとメーターを赤く表示
サイドサポートが張り出ししっかりと体をサポートしてくれる
後席はタイトな作り

 今回の試乗前には残念ながらそれ以外の詳細な情報は与えてもらえなかった。ざっくり聞いたところによると、どうやらパワートレーンはシビックe:HEV、シャシーはシビック TYPE Rという感じのようだ。つまり2.0リッターのe:HEVがエンジンルームに収まっているのだろう。

 フロントの足まわりには、TYPE Rにしか与えられなかったデュアルアクシス・ストラット・サスペンションと電子制御ダンパーを奢っているに違いない。見えるところで言えばブレンボ製の対向キャリパーは色こそ違うが、TYPE R用だろう。タイヤサイズはシビックe:HEVと同様の235/40R19。タイヤ銘柄はコンチネンタルのプレミアムコンタクト6だった。TYPE Rと同様の265/30R19を装着しなかったこと、そしてタイヤ銘柄の選択からしても、ガチガチのスポーツではないことが理解できる。

 それはエクステリアを見ても同様だ。フェンダーを無理に膨らませることなく、すっきりとしたディテールで目の前に登場したプレリュードのプロトタイプは、キャビンをコンパクトに絞りながらも、テールへとなだらかにラインを描くルーフラインによって、明らかに2+2のスペシャリティクーペであることが伺える。ドライバーズシートに収まれば程よくタイトに感じられる空間だ。太めのグリップであるステアリングホイール、サイドサポートが充実したフロントシートは、運転を楽しむツールとして十分に機能してくれそうだ。メーターはモニターなのだが、その中にはシッカリと左側にタコメーターが存在しており、レブリミットは6000rpmあたりから。センターにあるATセレクターの脇には「Honda S+ Shift」のS+ボタンが備わっている。

2+2のスペシャリティクーペであることが伺えるデザインに

ホンダらしさが凝縮されている1台

プレリュード プロトタイプ、いざ試乗

「Honda S+ Shift」を作動させて高速周回路へ向けて全開加速をしてみると、次々にステップシフトをしていく過程がとにかく爽快だ。小気味よくシフトアップする際には段付き感が得られるが、それがとにかく短い時間で収まっており、まるでF1レースでも見ているかのような俊敏さがそこにある。ASCによる音の演出も絶妙で、5000rpm以上になると次数の違う音を入れてエンジンのパワーを絞り出しているような感じにしているところも好感触だ。

 また、ダウンシフトについてもブレーキングを行なえば速度がダウンするにつれて次々にダウン。その動きもまた瞬時にシフトがキマっている感覚に浸れるところがよい。まあ、8段ギヤなんてないのだが。ちなみに8速に入れるとエンジンと車軸はギヤによって直結され効率のよいドライブが可能。これもまたe:HEVの特徴。S+であってもそれを残したところはさすがだ。

「Honda S+ Shift」では俊敏さを感じさせるシフトアップを実現

 ワインディングシーンに行くと「Honda S+ Shift」はさらに威力を発揮する。スポーツモードに入れてクルマまかせで走っていると、エンジン回転は常に高いところをキープするようにダウンシフト。そこからの再加速ではたしかにトルクの立ち上がりがよく、遅れを感じるようなことはない。パドルを扱ってマニュアル操作する際にも、求めた通りにダウン。左のパドルを引きっぱなしにすれば、車速の落ちる速度に応じてダウンできるだけダウンしてくれる。もちろん、車速が高すぎる状況ではダウンシフトをキャンセルされてしまうが、8速に刻まれることもあって、それほどクルマにダウンシフトを拒まれるようなことはなかった。

 シャシーの感覚はTYPE Rとは全く異なるフィーリングだ。軽快さが際立っており、ドッシリ安定するわけではなく、ロールもピッチも程よく許してくれる感覚があり、そこをアクセルやブレーキでコントロールするところがおもしろい。メーカーは違うがマツダ「ロードスター」的? 車重は1300kg台に入っているかどうか?

軽快さが際立つ走りを体感できる

 コーナーからの立ち上がり時に「Honda S+ Shift」によって得られる強大なトルクはシッカリと路面に伝えられ、トルクステアを感じるようなことはない。求めるならLSDが欲しかった気もするが、それはこの先のお楽しみといったところだろうか。ブレーキはペダル剛性を感じつつ、リニアなコントロールができる。回生ブレーキとの協調も違和感がないところがうれしい。

 試乗後にリアシートにも座ってみたが、身長175cmの筆者もなんとか収まれるサイズ。頭上は全てがリアガラスではあるが、しなやかさが感じられるフットワークがありそうだから、頭を打たずに乗れるだろう。これなら小柄な方や子供であればこなせそう。スポーツカーだけど一応の実用性はありそうだ。

後席に収まったところ。一応の実用性はありそう

 このように序曲にしてはかなりの可能性を感じさせてくれたプレリュード プロトタイプは、効率ばかりを狙っているハイブリッドとは全く異なるモデルであると感じることができた。e:HEVは環境性能を満たしつつもファンな走りは絶対に諦めないという、ホンダらしさが凝縮されている1台だと思えた。

ファンな走りがしっかりと感じられたプレリュードはe:HEVの新境地を切り開く
橋本洋平

学生時代は機械工学を専攻する一方、サーキットにおいてフォーミュラカーでドライビングテクニックの修業に励む。その後は自動車雑誌の編集部に就職し、2003年にフリーランスとして独立。2019年に「86/BRZ Race クラブマンEX」でシリーズチャンピオンを獲得するなどドライビング特化型なため、走りの評価はとにかく細かい。最近は先進運転支援システムの仕上がりにも興味を持っている。また、クルマ単体だけでなくタイヤにもうるさい一面を持ち、夏タイヤだけでなく、冬タイヤの乗り比べ経験も豊富。現在の愛車はユーノスロードスター(NA)、MINIクロスオーバー、フェアレディZ(RZ34)。AJAJ・日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。