試乗記

ホンダのフラグシップ船外機「BF350」初試乗 VTEC機構を搭載するなど自動車技術を海にも応用

ホンダの新型フラグシップ船外機「BF350」を2基搭載した、ニュージャパンマリンの「NSB335」を試乗してみました

 1948年に創業したホンダ。バイクや自動車、飛行機、耕運機、燃料電池などなど、幅広い分野でエンジンを手掛けていますが、海=マリンエンジン事業がスタートしたのは1964年で、今年60周年を迎えました。当時、ホンダは自動車やオートバイだけでなく、新しい分野への進出を模索していましたが、環境にやさしい4ストロークエンジンを開発する技術を応用したホンダ初の船外機(船用エンジン)「GB30」を発売。以後、幅広い船外機ラインアップを展開しています。

 ちなみに船のエンジンの搭載方法は3タイプあり、大型船に多いエンジンを船内に配置する「船内機艇」、クルーザーや小型ボートに多いのはエンジン自体は船内、舵やギアなどは船外に搭載する「船内外機艇」、そして最近多いのがエンジンを船外に搭載する「船外機艇」がありますが、コロナ禍以降、プレジャーボートの需要の高まりと同時に船外機の人気が高まり、ホンダの船外機は高い人気を誇っています。

今回試乗したのはホンダのフラッグシップ船外機「BF350」です
新型大型船外機「BF350」はアクアマリンシルバーメタリック(左)とグランプリホワイト(右)の2色を設定

 ホンダマリンの船外機はすべて4ストロークエンジンで、燃費がよく、排気ガスが少ないため、環境にやさしいこと。静かで滑らかな運転を実現できること。自動車やオートバイで培ったホンダの技術を応用した高い耐久性と信頼性、そして簡単にエンジン交換やオイル交換が行なえる構造、さらに小型ボート向けの2馬力の軽量モデルからハイパワーの船外機まで幅広いラインアップが、その人気の秘密です。

BF350搭載例。エンブレムは高級感のあるメッキ仕様

 そして昨今の特に海外でのクルーザーブーム、船外機ニーズに対応するため、ホンダ初のV型8気筒エンジンを搭載する最高出力のフラッグシップモデル「BF350」を今年2月に発売。排気量4952㏄、最高出力350馬力の新開発V型8気筒5.0リッターVTECエンジンは、高出力とクラストップの燃費性能を両立し、そこに新設計のクランクシャフトを採用して低振動、低騒音。世界と戦う「世界戦略エンジン」ならぬ「世界戦略船外機」なのです。

 なお、ホンダは船体自体は作っておらず、エンジン(船外機)だけを供給しており、ホンダが参戦している世界最高峰のフォーミュラカーレース「F1」でもエンジンを供給しているので、同じような関係性に見えますね。

 ちなみにV8エンジンのバンク角には、ホンダが参戦しているインディレースと同じ60度を採用。これにより若干コンパクトになるといいます。また、クランクシャフトは2代目NSXのクランクシャフトと同じ高強度材を採用するなど、自動車の技術がふんだんに盛り込まれています。

BF350の主なスペック。水冷4ストローク60°V型8気筒5.0リッター 立軸形SOHC・VTEC・4バルブ(気筒当たり)、連続最大出力257.4kW(350PS)/6000rpm、推奨回転範囲5000~6000rpm、外寸は1120×650mm(全長×全幅)、燃料は自動車用レギュラーガソリン

いざ東京湾で「BF350」を搭載したボートを試乗

 船外機「BF350」の試乗は、東京・夢の島マリーナで行なわれました。天気は快晴。しかし……午後から風が出る予想のため、少し時間を早めて出航しました。取り付けたボートはニュージャパンマリンの「NSB335」。全長10.2m、全幅3.2mの中型プレジャーボートです。操船は船内と屋根の上に設けられたアッパーデッキの2か所で可能です。

 また今回は、「BF350」と同じくホンダの排気量3583㏄で250馬力の船外機「BF250」の2艇のボートに試乗して乗りくらべも行ないました。1艇に2基づつ搭載されています。もちろん、私も操船しますよ! 小型船泊1級免許持っていますから(笑)。

実は日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員だけでなく、日本ボート ・オブ・ザ・イヤー選考委員にもなっています

 まずは「BF250」から。予定していた試乗コースは海が荒れているとのことで、急遽、穏やかな運河のコースに変更。

 そして「BF350」。BF250と比べると当然ですが、見るからにサイズは大きく、その存在感は圧倒的。流線型のデザインがそのパワーと美しさを物語っています。さすがフラッグシップ船外機! オプションのグランプホワイトの色が一層、堂々とした佇まいに磨きをかけていますよね。

エンジンをかけても驚くほど静かでビックリ

 エンジンをかけると驚くほど静かで、力強さを秘めた音色が耳に心地いい。スロットルを押し込むと優雅に滑りはじめます。私はスピード調整が簡単なワンレバーモードで操船し、同乗者になるべく刺激を与えないよう緩やかな加速を心がけますが、「BF350」が本領を発揮したのはその後の加速でした。

ハンドリングは軽やかです

 波をものともせず突き進みます。最高速は50ノット(約95㎞/h)ですが、海の状態がよいとは言えない状況だったのでフルスロットルではなく、若干控えめに45ノット(約83㎞/h)ぐらいまで加速。ちなみに海上では陸上の3倍の体感スピードになるので、約250㎞/hぐらいのイメージ。でも、ハンドリングは軽やかだし、静粛性の高さにも驚かされます。そして高出力エンジンでありながらノイズは最小限に抑えられ、余裕のあるエンジンによる走行は、まるで魔法のよう。

フルスロットルではなく若干控えめに加速しても速い
別日に試乗した人は、海が穏やかだったので50ノットまで出せたそうです

 また、操船サポート技術においても電子制御系にはホンダらしさが全開。クルマからの技術が盛り込まれ、「クルーズコントロール」や設定したトリム角度に自動調整するホンダの船外機初の新機能「トリムサポート機能」、船外機を自動で上げ下げして係留や保管時の作業が楽になる「オートマチックチルト機能」などうれしい機能が満載です! そのほかにも、給水口を2か所にし、角度をつけて高速航行時の吸水性を高めつつ、船外機を腐食から守る犠牲金属「アノードメタル」も使用しています。

全周囲+後方ビューで、後進での離桟をサポート
初めての場所でもスムーズにアプローチできる着桟支援システムも搭載

 ホンダのフラグシップ船外機「BF350」の価格は、390万5000円~399万3000円で、1馬力1万円+αという感じ。とはいえ、2基搭載すると2倍の金額になりますが、予算に余裕があれば「BF350」をおすすめします!

【BF350】V8 350hp 5.0L Outboard Engine(1分6秒)
【Honda Technology】 少人数の作業者で組み立てるBF350専用セル生産ライン|細江船外機工場(1分16秒)
吉田由美

日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員/日本自動車ジャーナリスト協会理事/日本ボート ・オブ・ザ・イヤー 選考委員 1998年より 、モデル業の傍ら日産ドライビングパークにて、セーフティ・ドライビング(安全運転講習)のインストラクターとして3年間 活動。その後、「カーライフ・エッセイスト」としてクルマまわりのエトセトラを、独自の視点で執筆活動をはじめ、現在は自動車雑誌を中 心に、女性誌、テレビ、ラジオ、イベントなどで幅広く活動の場を広げている。