試乗記

大幅改良した新型「アウトランダーPHEV」、注目されるPHEVカテゴリーの中で質の高さが光る

新型「アウトランダーPHEV」に試乗

大幅改良をうけた「アウトランダーPHEV」を公道で試乗

 好調な受注が伝えられる「アウトランダーPHEV」。2024年秋に袖ヶ浦フォレストレースウェイでの試乗会が開かれ、ハイスピードでの試乗に続いて一般公道での試乗機会が与えられた。特に高速道路での直進安定性や一般路での乗り心地、ADAS系も自動車専用道路だと試しやすい。

 内装は発表当時からシンプルで高い質感だったが、さらにインテリアに統一感が加わり質感の底上げになっている。実用面ではフレームレスのデジタルルームミラーが標準となったため、セカンドシートの大型ヘッドレストや荷物で後方視界が遮られなくなった。

 大ぶりのシートフレームは共通だが、助手席にもシートベンチレーションが装備されシート表皮、クッション材も異なるため少し広く座るような感触だ。着座感は少し硬めになっている。

 またセンターディスプレイも9インチから12.3インチとワイドサイズになり、コネクテッド機能の増強に対応している。三菱自動車はスマホ連携に早くから取り組んでいたが、ナビゲーション上でGoogleのPlaces API(目的地検索)やストリートビューなどの表示も可能になった。Google機能の充実はMITSUBISHI CONNECTの利便性を大きくした。

 静粛性はEV走行の領域が広がったことで向上した。従来のオールシーズンから夏タイヤのブリヂストン「ALENZA 001」になったこともあり、高周波ノイズの低減にも効果的だ。タイヤサイズは従来と同じ大径の255/45R20である。

 最上級グレードの「P Executive Package」は後述するヤマハ・プレミアムオーディオのパフォーマンスを発揮できるように、フロントドアパネルの剛性を1.5倍に、溶接スポットも増して剛性アップが図られた。この効果はロードノイズや風切り音の低減にもつながっている。価格は「P」グレードから約28万円ほど高くなるがその価値は高い。

今回試乗したのは10月31日に発売となった三菱自動車工業の「アウトランダーPHEV」大幅改良モデル。「P Executive Package」(5人乗り)の価格は659万4500円。ボディサイズは4720×1860×1750mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2705mm
デザインについてはキープコンセプトとなるが、フロントアッパーグリルをスムースな造形にして質感を向上。リアコンビネーションランプはスモークタイプとし、Tシェイプのストップランプを際立たせるとともに、ターンランプ、バックランプをLED化。アルミホイールはより上質感と力強さを表現した新デザインへと変更し、タイヤはブリヂストン「ALENZA 001」(255/45R20)がセットされた
直列4気筒DOHC 2.4リッター「4B12(MIVEC)」型エンジンは最高出力98kW/5000rpm、最大トルク195Nm/4300rpmを発生。また、フロントモーターは最高出力85kW/最大トルク255Nm、リアモータは最高出力100kW/最大トルク195Nmを発生する。なお、新型アウトランダーPHEVではリチウムイオンバッテリを刷新し、容量を従来の20kWhから22.7kWhとし、EV航続距離を「M」グレードで従来の87kmから106km(WLTCモード)に、その他グレードでは83kmから102km(WLTCモード)へと伸長
インテリアは落ち着きのある室内空間を実現。モニターサイズは従来の9インチから12.3インチに大型化し、コネクティッド機能(MITSUBISHI CONNECT)の機能拡充によってナビゲーション上でPlaces API(Googleによる目的地検索)やストリートビュー、航空写真ビューを見ることが可能になった
シフトの下側に走行モードのセレクターを用意。S-AWCに加えて7つのドライブモードを設定
デジタルルームミラー(フレームレス)やLEDのルームランプなどの採用により利便性と快適性を高めた
最上級仕様のセミアニリンレザーシートのデザインを変更するとともに、シートやインストメントパネルなどに新色の「ブリックブラウン」を採用。運転席/助手席にはシートベンチレーション機能も備わった

出力が60%上がったことで加速力にさらなる余裕が

いざ試乗

 動力性能についてはバッテリ容量が従来から10%増しの22.7kWh、そして出力は60%も上がったため加速力に余裕がある。その効果は自動車専用道路への合流ですぐに発揮された。これまでも十分に速かったが、新型ではさらに高速域で伸びが長く続くようになった。

 安定性ではこれまで高速道路の路面変化で直進性が乱されることもあったが、新しいアウトランダーPHEVはこの癖が姿を消した。ショックアブソーバーの減衰力やバネの変更だけでなく、路面からのショックを伝えるサスペンションアーム、その取り付け剛性も強化されたこと、夏タイヤに切り替わったことでトレッド剛性が上がり、余分な動きが減少して直進安定性が格段に上がった。

出力向上の恩恵は自動車専用道路への合流ですぐに発揮された

 乗り心地は基本的に滑らかでピッチングも少ない。ただ腰のある硬さは荒れた路面ではわずかなショックを伝える。またジョイント路を斜めに通過した時はリアがバタついた印象もあったが、サスペンションはショックをよく吸収して姿勢はフラットに保たれた。乗り心地は節度ある柔軟性も持っている。

 電動パワーステアリング(EPS)のチューニング効果も大きい。これまでステアリングセンターから切り始めたところで操舵力が変わるような感触があったが、新型では滑らかに連続性のある操舵フィールになっている。直進性だけでなく操舵の正確性にもつながっている。

 交通の流れが一定になったところで全車速追従ACCを活用して前走車についていく。ステアリングホイールに軽く手を添えているだけでリラックスして走れる。走行レーンの認識も上がり、ACCがますます使いやすくなった。

 長い登坂が続く箱根ターンパイクは中高速コーナーが続く。重量級のSUVとは思えないほどロールが少なく正確な舵は高いライントレース性になって表れる。操舵力が重めなのを除けばEPSの進化は運転の質向上にもなっている。

重量級のSUVとは思えないほどロールが少なく正確な舵を見せてくれる新型アウトランダーPHEV

 一方、三菱自動車得意の4輪の駆動力コントロールもモニター上で確認できる。頻繁に変わる前後左右の駆動力変化を知るのはおもしろい。

 ダイヤル式のドライブモードはNORMALを選択したが、このほかにTARMAC、GRAVEL、SNOW、MAD、そしてECO、POWERが選択できる。路面に応じた駆動力配分になるが、それにかかわらずいろいろ試してみるのも楽しい。またダイヤルセンターにはプッシュ式のヒルディセントが備わる。使うことは稀だが、三菱自動車の芯となるオフロード魂が見て取れる。

 さて、試乗中には日本車初となるヤマハ製オーディオも体験した。いきなりクリアな音が室内に溢れ、抜けるような女性ボーカルの声色は圧倒的だった。ボリュームを上げても透明感のある音は変わらず、路面が異なっても音質が変わらないのにおどろく。ボルボのBowers & Wilkinsもすばらしい臨場感だったが、初めて聞くヤマハ製もなかなかだ。

 アウトランダーPHEVはグレードによって2種類のヤマハオーディオが設定される。トップグレードのP Exective Packagは12個のスピーカーを持つ「Uitimate」と呼ばれるモデルになり、4種類のサウンドレベルが選べるようになる。ベストな音はさらに心に染みわたる。その他グレードのオーディオは「Premium」と呼ばれ、走行中に入ってくるノイズ、路面、雨、速度によって補正された音を届け凝ったシステムを持っている。

ヤマハと三菱自動車がアウトランダーPHEV専用に共同で開発したオーディオシステム。「Dynamic Sound Yamaha Ultimate」/「Dynamic Sound Yamaha Premium」の2種類が用意され、ともにアーティストの息遣いまでも再現する、クリアで高い解像度の中高音やリアルな音へのこだわりを追求。スピーカーを搭載しているドアパネルの隙間を塞いでスピーカーボックスの役割を与えるとともに、スピーカー取付部の剛性も向上することで不要なノイズの発生を低減させた

 PHEVが注目される今、アウトランダーPHEVの質の高いビッグマイナーチェンジが光っている。

大幅改良による進化は公道でも体感できた
日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員/日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。

Photo:堤晋一