試乗記
モデューロが16年かけて熟成させた「実効空力」の進化と未来に触れた!
2024年12月24日 07:16
「実効空力」や「四輪で舵を切る感覚」という独特な言い回しを古くから行なってきた「Modulo」というブランド。これはホンダ車向けの純正アクセサリーを販売しているホンダアクセスが言い始めたものだ。
ちょうど30年前となる1994年に「Modulo」というブランドが立ち上がり、はじめはアルミホイールだけを扱うのみだったところから出発。その後、エアロの開発にも着手しはじめ、その名は次第に浸透していった。
その流れが大きく変化したのは前述した言葉がで始めた2008年。一般公道でも違いが感じられる「実効空力」を提唱しはじめたのだ。
2024年は「Modulo」誕生30周年記念イヤーということもあり、2008年にその「実効空力」を世の中に知らしめた「Sports Modulo シビック TYPE R(FD2型)」をホンダアクセスでは復元。わざわざ程度のよい車両を探し出し、エアロも新たに製作して装着しているのだとか。見れば当時のスタイルがそのまま再現されたかに思える仕上がりだ。
フロントは開口部をできるだけ少なくし、その上でボディの下側に空気を流すように設計。一方、基準車にはあったリアウイングをあっさりと排除し、新たな低いトランクスポイラーを奢っている。一見すると派手さはなく、ノーマルと比べてしまえばかなりおとなしい仕上がりだ。
だが、このクルマ実は速かったし、足まわりも変更して乗り心地もよくしなやかに走ったことで、当時ちょっとした話題になった。なんと、場所によってはノーマルよりも速いタイムを記録してしまったのだ。サーキットが本拠地と謳うノーマルのタイプRにとってこれは大事件。「Modulo」にとっては大金星といっていいだろう。
改めてそんな復刻版「Sports Modulo シビック TYPE R」を、ワインディングで走らせてみる。2.0リッターNAエンジンは、現代のクルマと比べてしまえば低回転のトルクは圧倒的に細いが、高回転へ向けた甲高く乾いたサウンドはとても爽快。少し重ためのステアリングもまた懐かしさが残る。けれどもシャシーの仕上がりは相変わらず現代にも通用する懐の深さがある。
感心できるのはあくまでもドライバーを中心として、前後バランスに優れた感覚があることだ。フロントだけでも、リアだけでもない、4つのタイヤにうまく接地感を与えているのだ。ドライバーはやじろべえの中心に刺さっているかの如く、アクセル、ブレーキ、そしてステアリングを使って、いかようにでも荷重をコントロールすることが可能だった。
「Modulo」はこうした取り組みをその後も徹底して行ない、エアロパーツや足まわりだけでなく、コンプリートモデルを開発したり、さらにはホイールの剛性バランスにも着目して開発を行なったりと、さまざまなアプローチで僕らを驚かせてきた。ホイールにおいても軽量、高剛性にこだわるのではなく、剛性バランスを大切にし、ホイールをうまくしならせようとしている。飽くなき探求はまだまだ続いているのだ。
エアロの領域では近年はテールゲートスポイラーによる走りの変化を生み出してきたことが興味深い。現行シビック TYPE R(FL5型)用に開発したそれは、まずAピラーからの風の流れを受け止めるように、翼端板はAピラーと並行にセット。中央部のメインエレメント部はNACA4412形状を基本とした断面形状とし、後端を跳ね上げたガーニーフラップ形状としている。けれども左右は中央よりも高さを落とし、旋回性を損なわない工夫も行なっていた。
そのノウハウを活かした新商品が、シビックRSやシビックe:HEVへ向けた新たなる「テールゲートスポイラー(ウイングタイプ)」だ。2024年1月の東京オートサロンで発表し、いよいよ市場へ投入された。特徴としては土台の部分については前期型用にあったものを踏襲している点。それにより前期モデル(マイナーチェンジ前)のテールゲートスポイラーを持っているユーザーは、ウイング部分だけ購入できるのも良心的。これは付け替えて走りの違いを確実に体感できるという自信の表れといってもいいだろう。
その変更前と変更後を、今回は群馬サイクルスポーツセンターで体感する。使ったのはシビックのマイナーチェンジ後に設定された日本専用6速MTモデルのシビックRSだ。変更前の状態を体感したあと、変更後のテールゲートスポイラーで走り始めると、まず感じるのは圧倒的なリアの接地感だった。
和製ニュルブルクリンクと称されるほどの荒れたコースでは、ワンミスが命取りであり不安のあるクルマでは攻めきれないのだが、変更後のものはとにかくリアが安定しており、躊躇なくコーナーに突っ込める感覚に長けている。
とはいえフロントが抜けるようなことはないところが絶妙だ。旋回姿勢に入るとリアの安定感がアプローチ段階から邪魔することなく、スーッとテールがついてくる。これぞ四輪で舵を切る感覚だ。時代が変わろうともしっかりとModuloらしい走りを受け継いだのは、開発陣の世代交代がうまくいっている証でもある。
4輪の接地感を意識するための開発陣の感覚向上ツールを公開
そんなことがなぜ可能だったのか? それは日々、開発者同士がModuloらしい乗り味とは何かを共通して意識しようと努力していたことだ。商品化した車両と共に、他社車両であっても見所があるとなれば購入。それらを連ねてロングドライブに出かける現場に同行させてもらったことがあるが、開発陣の意思や方向性の統一は、こうしてできあがっていくのだと興味深かった。
今はそれが変化し、今回はフィットの実験車両を見せてもらった。エアロの開発が最終目標のハズなのに、バンパーは装着せず、代わりにあらゆる部分に補強パーツが張り巡らされている。ひとつひとつを手作りしたその補強は、あえてボルト留めとすることで、付けたり外したりが容易に行なえるようになっている。
今回はフロントのラジエター前部にあるバーと、リアシート下にある横方向のバーを付けたり外したりして体感してみた。
まずフロントのバーを外すと、操舵する初期の応答が明らかに損なわれ、走りの違和感が即座に体験できる。これはブッ飛ばさなくても理解できるレベルだ。フロントのバーは戻しリアを抜いてみると、今度はリアの追従性が失われ自信を持って走れなくなる感覚があった。すなわちこの車両は四輪を感じることがいかに大切なのかを学べるツールだったのだ。すべての補強バーを組んだ状態は見事なまでに4つのタイヤの接地感を理解でき、前後のバランスも均等に接地している感覚があった。
4輪の接地感をエアロでいかに生み出して行くか? それを意識するためには、こんな開発陣の感覚向上ツールが必要だったということなのだろう。解析技術がどんなに進化したとしても、最終的には人間が仕立てなければ血が通ったフィーリングにはたどりつかない。ならば開発者という人間を育てる必要があるということをModuloは大切にしている。だからこそ走り味にブランドができあがったのだ。こんな姿勢があるからこそ、昔も今も変わらぬフィーリングが得られるのだろう。
【お詫びと訂正】記事初出時、「実効空力」を「実行空力」と一部で誤って表記していました。お詫びして訂正いたします。