試乗記

モデューロが16年かけて熟成させた「実効空力」の進化と未来に触れた!

30周年を迎えたModulo。独自空力機能「実効空気」を開発し、進化させ続け、今は若手エンジニアへの継承も行なっているそうだ

「実効空力」や「四輪で舵を切る感覚」という独特な言い回しを古くから行なってきた「Modulo」というブランド。これはホンダ車向けの純正アクセサリーを販売しているホンダアクセスが言い始めたものだ。

 ちょうど30年前となる1994年に「Modulo」というブランドが立ち上がり、はじめはアルミホイールだけを扱うのみだったところから出発。その後、エアロの開発にも着手しはじめ、その名は次第に浸透していった。

 その流れが大きく変化したのは前述した言葉がで始めた2008年。一般公道でも違いが感じられる「実効空力」を提唱しはじめたのだ。

Moduloブランド30年の歩み
Moduloブランド30年の歩み~アルミホイール~
Moduloブランド30年の歩み~エアロパーツ~

 2024年は「Modulo」誕生30周年記念イヤーということもあり、2008年にその「実効空力」を世の中に知らしめた「Sports Modulo シビック TYPE R(FD2型)」をホンダアクセスでは復元。わざわざ程度のよい車両を探し出し、エアロも新たに製作して装着しているのだとか。見れば当時のスタイルがそのまま再現されたかに思える仕上がりだ。

 フロントは開口部をできるだけ少なくし、その上でボディの下側に空気を流すように設計。一方、基準車にはあったリアウイングをあっさりと排除し、新たな低いトランクスポイラーを奢っている。一見すると派手さはなく、ノーマルと比べてしまえばかなりおとなしい仕上がりだ。

ホンダアクセスが2008年に手掛けた「Sports Modulo シビック TYPE R」は、サーキットからワインディングまでより幅広く、深い楽しみを味わえる「ロードゴーイング エンデュランサー」としてカスタマイズした1台
「風を流す・ふさぐ・切る」をテーマに、走行中クルマに発生する空力の前後リフト量を最適化し、シャシー性能を最大限に発揮する走行性能を実現した
フロントバンパーの両側に立てられたエッジで風を切ることで、車体の前後リフト量までも考慮した空力特性に仕上げている
風の巻き込みの原因となるリアバンパー下面の開口部を専用カバーで「ふさぐ」ことで整流
フロントから車両下部と上部、サイドへなめらかに「風を流し」、表面積を広げた形状のリアスポイラーにより、空力により走行安定性向上を実現

 だが、このクルマ実は速かったし、足まわりも変更して乗り心地もよくしなやかに走ったことで、当時ちょっとした話題になった。なんと、場所によってはノーマルよりも速いタイムを記録してしまったのだ。サーキットが本拠地と謳うノーマルのタイプRにとってこれは大事件。「Modulo」にとっては大金星といっていいだろう。

 改めてそんな復刻版「Sports Modulo シビック TYPE R」を、ワインディングで走らせてみる。2.0リッターNAエンジンは、現代のクルマと比べてしまえば低回転のトルクは圧倒的に細いが、高回転へ向けた甲高く乾いたサウンドはとても爽快。少し重ためのステアリングもまた懐かしさが残る。けれどもシャシーの仕上がりは相変わらず現代にも通用する懐の深さがある。

足まわりはModuloの5段階式減衰力調整機構付きスポーツサスペンションを装着

 感心できるのはあくまでもドライバーを中心として、前後バランスに優れた感覚があることだ。フロントだけでも、リアだけでもない、4つのタイヤにうまく接地感を与えているのだ。ドライバーはやじろべえの中心に刺さっているかの如く、アクセル、ブレーキ、そしてステアリングを使って、いかようにでも荷重をコントロールすることが可能だった。

乗り心地を犠牲にすることのない約10mmの車高ダウンで、常に路面に吸い付くようなフィーリングを両立していた

「Modulo」はこうした取り組みをその後も徹底して行ない、エアロパーツや足まわりだけでなく、コンプリートモデルを開発したり、さらにはホイールの剛性バランスにも着目して開発を行なったりと、さまざまなアプローチで僕らを驚かせてきた。ホイールにおいても軽量、高剛性にこだわるのではなく、剛性バランスを大切にし、ホイールをうまくしならせようとしている。飽くなき探求はまだまだ続いているのだ。

 エアロの領域では近年はテールゲートスポイラーによる走りの変化を生み出してきたことが興味深い。現行シビック TYPE R(FL5型)用に開発したそれは、まずAピラーからの風の流れを受け止めるように、翼端板はAピラーと並行にセット。中央部のメインエレメント部はNACA4412形状を基本とした断面形状とし、後端を跳ね上げたガーニーフラップ形状としている。けれども左右は中央よりも高さを落とし、旋回性を損なわない工夫も行なっていた。

 そのノウハウを活かした新商品が、シビックRSやシビックe:HEVへ向けた新たなる「テールゲートスポイラー(ウイングタイプ)」だ。2024年1月の東京オートサロンで発表し、いよいよ市場へ投入された。特徴としては土台の部分については前期型用にあったものを踏襲している点。それにより前期モデル(マイナーチェンジ前)のテールゲートスポイラーを持っているユーザーは、ウイング部分だけ購入できるのも良心的。これは付け替えて走りの違いを確実に体感できるという自信の表れといってもいいだろう。

シビック(FL1/FL4)用「テールゲートスポイラー(ウイングタイプ)」装着状態
マイチェン前用のテールゲートスポイラー(分かりやすいようにボディと色違いを装着)
新製品のテールゲートスポイラー(ウイングタイプ)
マイチェン前用のテールゲートスポイラーはシンプルでおとなしめのデザイン
新製品のテールゲートスポイラー(ウイングタイプ)は形状を見直し、レーシングカーに装着されているGTウイングのように、しっかりとした翼端板が設けられている
ルーフからの風をボディ後方へと導く形状のマイチェン前用テールゲートスポイラー
新製品のテールゲートスポイラー(ウイングタイプ)は、翼端板を設けたことでボディサイドの空気も積極的に後方へと導く形状となっている

 その変更前と変更後を、今回は群馬サイクルスポーツセンターで体感する。使ったのはシビックのマイナーチェンジ後に設定された日本専用6速MTモデルのシビックRSだ。変更前の状態を体感したあと、変更後のテールゲートスポイラーで走り始めると、まず感じるのは圧倒的なリアの接地感だった。

 和製ニュルブルクリンクと称されるほどの荒れたコースでは、ワンミスが命取りであり不安のあるクルマでは攻めきれないのだが、変更後のものはとにかくリアが安定しており、躊躇なくコーナーに突っ込める感覚に長けている。

サーキットではなく、一般道のような舗装路面の群馬サイクルスポーツセンターで試乗した

 とはいえフロントが抜けるようなことはないところが絶妙だ。旋回姿勢に入るとリアの安定感がアプローチ段階から邪魔することなく、スーッとテールがついてくる。これぞ四輪で舵を切る感覚だ。時代が変わろうともしっかりとModuloらしい走りを受け継いだのは、開発陣の世代交代がうまくいっている証でもある。

新製品のテールゲートスポイラー(ウイングタイプ)は、リアが安定するからコーナーでも積極的にアクセルを踏んでいける
旋回姿勢に入ってもリアの安定感があり、テールが“スーッ”とついてくる感覚

4輪の接地感を意識するための開発陣の感覚向上ツールを公開

 そんなことがなぜ可能だったのか? それは日々、開発者同士がModuloらしい乗り味とは何かを共通して意識しようと努力していたことだ。商品化した車両と共に、他社車両であっても見所があるとなれば購入。それらを連ねてロングドライブに出かける現場に同行させてもらったことがあるが、開発陣の意思や方向性の統一は、こうしてできあがっていくのだと興味深かった。

開発の若手が実効空力を感じるために使用しているテスト車両のフィット。「数値には現れない何か」を体で感じとるための実験車両だ
さまざまなバーを脱着することで、車両の挙動がどう変わるのか? タイヤの接地感はどのように変化するのか? など、若手エンジニアが日々試行錯誤しながらテストしているとのこと

 今はそれが変化し、今回はフィットの実験車両を見せてもらった。エアロの開発が最終目標のハズなのに、バンパーは装着せず、代わりにあらゆる部分に補強パーツが張り巡らされている。ひとつひとつを手作りしたその補強は、あえてボルト留めとすることで、付けたり外したりが容易に行なえるようになっている。

 今回はフロントのラジエター前部にあるバーと、リアシート下にある横方向のバーを付けたり外したりして体感してみた。

クルマのさまざまな場所の剛性の違いが、走行性能にどのような影響を与えるのか? とても興味深い実験車両だ

 まずフロントのバーを外すと、操舵する初期の応答が明らかに損なわれ、走りの違和感が即座に体験できる。これはブッ飛ばさなくても理解できるレベルだ。フロントのバーは戻しリアを抜いてみると、今度はリアの追従性が失われ自信を持って走れなくなる感覚があった。すなわちこの車両は四輪を感じることがいかに大切なのかを学べるツールだったのだ。すべての補強バーを組んだ状態は見事なまでに4つのタイヤの接地感を理解でき、前後のバランスも均等に接地している感覚があった。

タイヤの接地感の違いは速度を出さなくても感じられるレベルだった

 4輪の接地感をエアロでいかに生み出して行くか? それを意識するためには、こんな開発陣の感覚向上ツールが必要だったということなのだろう。解析技術がどんなに進化したとしても、最終的には人間が仕立てなければ血が通ったフィーリングにはたどりつかない。ならば開発者という人間を育てる必要があるということをModuloは大切にしている。だからこそ走り味にブランドができあがったのだ。こんな姿勢があるからこそ、昔も今も変わらぬフィーリングが得られるのだろう。

試乗会場には長年ホンダアクセスで開発統括を務め、2023年9月に定年退職した福田正剛OBの姿も

【お詫びと訂正】記事初出時、「実効空力」を「実行空力」と一部で誤って表記していました。お詫びして訂正いたします。

橋本洋平

学生時代は機械工学を専攻する一方、サーキットにおいてフォーミュラカーでドライビングテクニックの修業に励む。その後は自動車雑誌の編集部に就職し、2003年にフリーランスとして独立。2019年に「86/BRZ Race クラブマンEX」でシリーズチャンピオンを獲得するなどドライビング特化型なため、走りの評価はとにかく細かい。最近は先進運転支援システムの仕上がりにも興味を持っている。また、クルマ単体だけでなくタイヤにもうるさい一面を持ち、夏タイヤだけでなく、冬タイヤの乗り比べ経験も豊富。現在の愛車はユーノスロードスター(NA)、MINIクロスオーバー、フェアレディZ(RZ34)。AJAJ・日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:中野英幸