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ホンダアクセス「Modulo X」開発統括の福田正剛氏が引退をサプライズ表明 「すべて湯沢君に引き継いだ」

2023年9月18日 発表

長年Modulo Xの開発統括を務めた福田正剛氏

まさかのサプライズ発表にModulo Xオーナーから驚きの声

 ホンダアクセスは9月18日、コンプリートカー「Modulo X」シリーズの誕生10周年を記念するイベント「Modulo Xシリーズ10周年ユーザーミーティング」を、群馬県にある群馬サイクルスポーツセンターにて実施。イベントには全国各地から200台近いModulo Xとオーナーたちが集結し、開発陣によるトークショー、体験走行などが実施された。

 イベントには、おなじみのModulo X開発統括の福田正剛氏、Modulo X完成車性能担当の湯沢峰司氏、Modulo X開発アドバイザーの土屋圭市氏、カーライフ・ジャーナリストのまるも亜希子氏をはじめ、ホンダアクセスのブランドアンバサダーを務めるレーシングドライバー大津弘樹選手と、レースやイベントでMCを務めるピエール北川氏も参加。

ステージカーが用意されトークショーが行なわれた

 午後からの雨予報も覆し、終日好天に恵まれた会場だったが、最後の閉会式で、Modulo X開発統括の福田正剛氏が、9月で定年退職を迎え、Modulo Xの開発を引退することが明かされた。日中はModulo Xオーナーと談笑したり、記念撮影を一緒に楽しんでいただけに会場は一瞬騒然。しかし、福田氏の「湯沢君と10年一緒にやってきて、すべてを伝え、任せられるまでに成長してくれたので安心してほしい」と語ると、これまで一緒に過ごした時間を思い出したのか、湯沢氏の目にも涙が……。すると会場からはそんな2人に感謝を伝える拍手が沸き起こった。

9月で定年を迎えるため開発から引退すると発表した福田氏
福田氏からModulo Xのバトンを託され、感極まった湯沢氏

 福田氏は、初代NSXを開発した後にModuloを立ち上げたサスペンションとセッティングの専門家と呼ばれた玉村誠氏の後継者で、「最初はホンダアクセスという会社も知らなかったし、土屋さんがいることも聞かされていなかった。お互いに誰?って感じだったけれど、いいクルマを作りたいという情熱だけは同じ温度だったんだよね。だから続けてこられたし、いいものを作り上げることができたと思う」とコメント。また、「いろいろなModulo Xを作ってきたけれど、個人的にはセダンも作ってみたかった。スポーツカーではない、Modulo Xならではのセダン」と語り、今後もしかしたら湯沢氏指導のもとModulo Xにセダンがラインアップされる日がくるのかもしれない。

福田氏から工場の帽子をバトンの代わりに受け取り、「もっとModulo Xをよくしていく」と決意を表明

「Modulo X」の火は消さない。すでに湯沢氏も後継者育成をスタート

 会場にて初公開されていたのが「実効空力“感”」と書かれたフィット。これは約半年前から動き出したプロジェクトで、福田氏がいう「数値には現れない何か」を体で感じとるための実験車両。開発チームの若手である山崎順平氏と小野内唯人氏の両名が、仕事とは別の時間に試行錯誤を繰り返しながらいろいろとテストしているという。

開発の若手が実効空力を感じるために使用しているテスト車両のフィット
開発チームの若手、小野内唯人氏(左)と山崎順平氏(右)

 福田氏の説明によると、ボディは硬いほどいいのではなく、適度な“しなり”が必要。例えるなら弓矢の「弓」であり、しならないほど固いのは当然ダメだし、しなりすぎて折れてしまってもダメ。折れてしまえば、クルマの場合はタイヤのグリップが破綻することになる。

フロントまわりの補強バー
室内にも多数の補強バーが付けられている
運転席まわりやルーフにも装着
フロア下にも装着されている

 この車両を使いながら剛性の勉強をしている山崎氏と小野内氏によると、最初はネットにあるアフターパーツなどの情報を参考に、ボディのネジ穴とネジ穴を連結させることからスタート。しかし、「自分たちが想像していたような乗り味にはまったくならない」という。場合によってはボディをたたいて変形させてから補強バーを装着したり、バーの太さを変えたりして、あれこれ日々テストを繰り返しているという。

助手席はメルセデス・ベンツ「W124」の純正シートを装着。これは自分たちが産まれるよりも前のクルマだけど、当時その乗り味が自動車業界のベンチマークになっていたことから、少しでもそのテイストを取り入れようと、シートレールを溶接して装着したという。こうしたモノ作りにかける熱意もしっかりと継承されている
シートの前にも補強バーが装着されていた

「まだゴール(理想の乗り味)は見えていない」という2人だが、最終的に理想的な乗り味を作れたら、付いている剛性パーツをすべて外して、今度は実効空力で同じ乗り味を再現させるという。福田氏と湯沢氏は、「職人が導き出した数値には現れない最適解を、自分たちのチカラで導き出すために、あれこれと考えることが重要。正解と正解を掛け合わせるよりも、不正解と不正解を掛け合わせたほうがいい結果が出る場合もあるから、開発はトライ&エラーの連続になる」とModulo Xの先を見据えた人材育成もすでに進められている。

来場者がコメントを自由に記入できるメッセージボードには、多くの感謝や期待が書き込まれていた。これが開発陣の「がんばる源」になるという