試乗記
三菱自動車「アウトランダーPHEV」、大幅改良モデルは動力性能で質感を上げた!
2024年10月9日 13:30
ナビゲーションのモニターは12.3インチに大型化
三菱自動車工業の基幹車種である「アウトランダーPHEV」がビッグマイナーチェンジを図った。好評のエクステリア、インテリアは最小限の変更だが、PHEVの基幹となるバッテリの変更など機能面での強化に重点を置いている。
デザインはわずかな変更にとどめており、一見すると変更のないよう見えるが、フロントグリルの形状やバンパー開口部、スキッドプレートの形状変更、またリアコンビランプの点灯の仕方もさりげなく新しい。
インテリアでもっとも変わったのは9インチから12.3インチと大型になったセンターディスプレイ。コネクテッド機能も拡充してGoogleのPlaces API(目的地検索)やストリートビューなども可能となった。従来はなかったシートベンチレーションや積載時に便利なデジタルルームミラーもグレードによって選択可能で、ユーザーの利便性向上が図られた。
さらに三菱自動車と楽器メーカーのヤマハで共同開発した専用オーディオは中高音を重視した設計で車両側もドアパネルの隙間を塞ぎ、ドアパネル自体の剛性を上げるなど車体側でもオーディオに合わせたチューニングが行なわれている。「Ultimate(アルティメット)」「Premium(プレミアム)」という2種類のオーディオシステムがあり、今回新設定された最上級グレード「P Executive Package」(Ultimateを標準装備)のスピーカー数は12個になり、全音域で奥行きのあるクリアな音が体感できる。
約2.1tの車両重量をモノともしないパワフルさ
さて、試乗したのは袖ケ浦フォレストレースウェイ。まだ発表前のプロトタイプだが、ほぼ市販車とイコールだ。
まずはオールシーズンタイヤを標準装着する現行型からコースインする。相変わらず素直なハンドリングで、三菱自動車らしく前方向の駆動力を重視した前後駆動力配分だ。リアから押し出すようにややアンダーステア気味にターンインする。安定性の高いドライブフィールを改めて感じた。
モニターで表示されるバッテリ温度も安定しており、いち早くEV(電気自動車)に着手した三菱自動車らしいモニター表示だ。全高は1745mmと高いが低重心でロールも少ない。パワフルなPHEVは加速時に強力なトルクを発生し、発進加速だけでなく追い越しでも瞬発力がある。規定周回数の3周は瞬く間に終了する。
いよいよ新型の試乗となる。このモデルからタイヤがオールシーズンの「ECOPIA H/L 422 Plus」から夏タイヤの「ALENZA(アレンザ)001」となった。タイヤサイズは255/45R20と同じだが、タイヤのトレッド剛性はかなり高くなる。
PHEVの生命線であるバッテリは同じリチウムイオンでもメーカーが変更になり、電気の出し入れが早く、容量も20kWhから10%増しの22.7kWhと大きくなった。これにより航続距離が伸びただけでなく出力も20%ほど向上して加速力はさらに高くなっている。
ピットロードから出ていくだけでもその差が感じられ、同じアクセル開度だとグイと一歩前に出るような感触で、モーターならではの静粛性と力強さだ。微低速からの滑らかな加速は現行車を凌ぐ。
パワフルなのはコーナーからの加速や直線での瞬発力にも表れており、約2.1tの車両重量をモノともしない。電気ならではの力強さだ。それでいて速度がいつの間にか乗っている。高い姿勢安定性と継ぎ目のない加速度がそのように感じさせるのだろう。電池単体の出力では60%アップとされており余力は圧倒的だ。ちなみにドライブモードのノーマル比較では0-100km/h加速の比較で従来モデルが10.2秒なのに対し、新型では8秒以下とされている。試乗でも感じられるほど大きな差があった。
バッテリをもう少し深堀りすると内部抵抗が30%ほど低減され、冷却効率は50%アップされたPHEV専用に開発されたもので、その効果は大きく動力性能でアウトランダーPHEVの質感を上げた。
サスペンションとEPSのブラッシュアップは大きい
一方、サスペンション、ステアリング系にも大きく手が入れられ、直進性とハンドリングも進化していた。サスペンションはスプリングの変更とショックアブソーバのバルブ特性を変えており、接地性とロール特性が向上している。具体的にはコーナリング時の姿勢変化が滑らかになったことが大きい。角の取れたハンドリングと言えばよいのか。
もう1つ大きいのは電動パワーステアリングのチューニング。従来モデルではニュートラルからの切り初めでひっかかるような不感帯があったが、それがほとんど感じられなくなり操舵感が飛躍的に向上した。これはコーナーだけではなくレーンチェンジでも操舵力変化の少ない自然体でいられる。つまり余分な動きを修正しない分、直進性が飛躍的に向上し、高速での緊張感が大幅に緩和された。実は従来型ではこの点が気になっていたが、ロングドライブもリラックスできそうだ。タイヤの差も大きいが、足まわり全体で改善されてバランスが取れているのがうれしい。
コーナリング時の駆動力配分は変幻自在だが、大雑把に言えば基本は50:50で前半は60:40.後半は40:60で後ろから押していくスタンス。バッテリが60kgほど重く後輪の荷重が大きくなっているが、それに伴い駆動力配分はトラクションに重きを置きながらコーナリング時の流れるような動きにつなげている。
4720×1860×1750mm(全長×全幅×全高)という大きなクルマがそれを感じさせないように動くが、決して軽々しいわけではなくその意味でも質感は高い。サスペンションとEPSのブラッシュアップは大きいのだ。
静粛性ではボンネットをアルミからスチールに変更したことで高速でのボンネットのビビリ音を防いだという。このクラスの本格的なPHEVが少ない欧州への輸出を視野に入れた改良で、その他にもロードノイズや風切り音も小さくなっているのはオーディオにも効果の高い制振材などの採用が効果的だと思われた。雑音がよくカットされている。
続いて5人乗りと7人乗りの差も記しておこう。7人乗りの重量差は40kgほどあり、当然後輪に荷重がかかる。動力性能はほとんど違いがないがサーキットのハンドリングで軽快なのは5人乗り。ターンインからノーズの入りがよく、コーナー後半での加速ポイントが早い。7人乗りが鈍重というわけではないが比較するとフットワークの良い5人乗りも魅力的だ。多人数乗車がないなら5人乗りはおすすめだ。一方、約9万円ほど高くなる7人乗りの3列目シートは薄いものの脚がキチンと入るのでエマージェンシー以上の実用性もある。選択肢があるのは好ましい。
アウトランダーのもう1つのハイライトは、ヤマハのオーディオ「Dynamic Sound Yamaha」が全車に標準装備されたこと。三菱自動車の最高峰オーディオと位置付けられたのは、楽器メーカーのヤマハもこだわりのものづくりメーカーとしての共感から選定された。もちろん高い実力を持っているものの、これまで日本メーカーへのOEM納入はなく、三菱自動車が初めてとなる。P Executive packageには12個のスピーカーとデュアルアンプを持つUltimateが、それ以外のグレードには8スピーカーのPremiumが標準装備される。
オーディオは素人です。それでも確かにクリアな音は聞いてスッキリする心地よさだった。Premiumでも十二分に鮮明で美しい音だったが、Ultimateではさらに角の取れた音が低音から高音まで伸びのある奥の深さにおどろいた。さすがに専用チューンでドアパネルまで補強、制振材を使った効果はテキメンである。オーナーの好みに応じて4つの周波数特性の中から変えることもできる。BGMに適した音、楽器が鮮明になる音。ポップスを聞いて楽しくなる音など、本当にバリエーションが多くオーディオ音痴にもちょっと感動ものだった。