試乗記
マツダ、新型「CX-80」公道初試乗 ロングドライブで感じたパワートレーンで異なる乗り味
2024年10月10日 11:30
- 2024年10月10日 発売
マツダの国内におけるフラグシップモデルとなる「CX-80」を、今秋の発売に先駆けて試乗できた。
CX-80は2022年9月に登場した「CX-60」と同じ、ラージプラットフォームをベースとした上位モデルだ。最大の特徴は全長を4990mm、ホイールベースを3120mmまで伸ばしたことで得られた3列目シートで、そのキャラクターもアクティブ路線のCX-60に対して、質感を重視したプレミアム志向となっている。そういう意味では、CX-8の上級移行とも言える。
今回試乗したモデルは、直列6気筒3.3リッターディーゼルターボ(254PS/550Nm)にモーター(16.3PS/153Nm)を組み合わせた「XDーHYBRID Exclusive Sports」と、直列4気筒2.5リッターガソリンエンジン(138PS/250Nm)にモーター(129PS/270Nm)を組み合わせた「PHEV Premium Sports」(システム出力327PS/システムトルク500Nm)の2台。いずれも駆動方式はFRベースの4WDだ。
試乗は徳島空港から淡路島へと渡り、さらに神戸のホテルまで、片道約115kmの道のりを往復した。往路はロジウムホワイトプレミアムメタリックが眩しい「XDーHYBRID Exclusive Sports」でのスタートとなった。
初対面のCX-80は、とても美しいSUVだった。全長5m弱のボディは威風堂々としたたたずまいながらも、全体的な雰囲気は柔らかく上品さを醸し出ている。特に、いまやマツダのお家芸と言えるキャラクターラインを廃したドアパネルの曲面は、その面積が大きい分だけ光の反射も美しく、パキパキとした面構成で見る者を威圧する欧州車とは対称的なデザインセンスに、日本的な物言わぬ知性を感じた。もしぶつけたら修理が大変そうだが、それを押しても手に入れたくなるデザインだ。
またこうしたボディサイズの拡大によって得られたメリットは当然ながら実用性にも反映されており、大人3人が1泊2日できるだけの荷物とカメラ機材は、3列目シートこそたたまねばならなかったが、トランクルームにまるっと飲み込まれた。
ドライバーズシートに乗り込むとちょっとしたラウンジのような空間が広がり、フロントガラスごしに晴れた空が青々と心地良い。インテリアは基本的にCX-60と同じだが、そもそものデザインが完成されているから共用化もまったく気にならない。
ブラックのナッパレザーシートに合わせてインパネやダッシュ、センターコンソールやドアパネルまでもがトーンを合わせており、ボルボほどライフスタイルを訴えてはこないが、国産車としてはレクサスにも負けない仕上がりだ。
まずはXD-HYBRIDでショートトリップ
まさにエクスクルーシヴな内外装を持ったCX-80「XDーHYBRID Exclusive Sports」は、走りも予想以上にまとまっていた。“予想以上”としたのはもちろん、物議を醸したCX-60の乗り味に対しての回答だ。
果たしてその乗り心地は、突き上げ感が減り、路面のうねりに対しても上下方向の動きはまだ少し残るものの、押さえが効くようになっていた。マツダは大型SUVの挙動に対して前後方向のピッチングを嫌って、縦方向のバウンスでショックや外乱をいなそうとしている。その考え方には相変わらず賛同できないが、ともあれそうした動きによる乗り物酔いはまぬがれていた。
と思いきや、今度は2列目シートから若干不満の声が上がった。荒れた路面に差し掛かった際に、まだまだ突き上げや横揺れが起こるという意見だ。
ということで筆者も2列目および3列目を試してみたが、これは安直に足まわりが硬いからではないと感じた。ちなみにCX-80ではリアサスのバネレートを倍以上落とし、バンプストッパーを短くしてストローク量を拡大。対してダンパー(ZF製)は減衰力を高めてその動きをコントロールするようになった。またサブフレームブッシュそのものに変更はないが、取り付け角をわずかに変えて共振を抑える工夫を凝らしたという。
その上で2列目の乗り心地を整理すると、フロント2座よりも上下バウンスを感じる。なおかつ突き上げや横揺れが完全に払拭されているわけではないから、その乗り心地を「硬さ」と捉えてしまうのだと思う。
ちなみにこれがキャプテンシートだと、シートが重たい上にさらにスライド用シートレール幅が狭くなるので、6:4ベンチシートよりも揺れを感じるようになる。
つまりミニバンと同じ理屈で、一番くつろげるはずの2列目シートが、実は常にNVH(ノイズ・バイブレーション・ハーシュネス)を拾ってしまうというわけだ。
その証拠に、3列目シートは抑えが効いていた。ただ身長171cmの筆者が座るとつま先は2列目のシート下に潜り込ませねばならないし、エマージェンシーシートとまでは言わないが、膝まわりのクリアランスに余裕はない。
そう考えると、2列目と3列目シートの快適性はどっちつかずでちょっと悩ましい。
重いCX-80ではモーターアシスト付きのパワートレーンを選びたい
動力性能を述べると、CX-60でも感じたことだが、やっぱりこの直列6気筒ディーゼルターボは素晴らしい。
3.3リッターの排気量で550Nmという最大トルクは、ドイツ勢と比べてしまうと一見物足りないが、これは燃費を高める上でのあえての選択だ。燃焼効率を上げたことで高価な尿素SCRシステムを搭載せず、価格を抑えることもできた。
それでいてアクセルを踏み込めば野太い咆哮と共に、気持ちよく吹け上がる。ディーゼルゆえにか直列6気筒でも回転上昇感はやや荒々しいが、それが味にもなっている。
ちなみにカタログ燃費は19.1km/L(WLTC総合値)であり、実燃費はメーター上だがこのサイズで13.5km/Lをマークした。
少ないアクセル開度でも大きなボディがスッと動き出すのは、モーターアシストのおかげだ。今回は別日にノンハイブリッドの直6モデル「XD L Package」にも試乗したが、ゼロスタートや高速道路の追い越し加速などで、明らかにレスポンスが違った。ノンハイブリッドはモーターの初速がない分だけアクセルを多く踏み込んでしまうから、実際は十分なトルクが出ているにもかかわらず遅く感じてしまう。大きく重たくなったCX-80のパワーユニットとしては、XD-HYBRIDの方が合っていると思う。
しかし車体の動きは、ノンハイブリッドである「XD」の方が自然だからこれまたややこしい。また2列目の乗り心地も、XDの方がより穏やかだった。そこに60kgの車重差が現れているのかは分からない。エンジニアいわく直6ディーゼルターボ搭載車はモーターやバッテリの搭載分だけスプリングレートを高めているものの、動かし方のコンセプトは同じだと言う。
個人的にはマイルドハイブリッドのダンピング剛性は、もう少しだけ上げた方がよいように思えた。もっと言えばオプションで構わないから、電動制御の可変ダンパーを装着した方がよいと思う。
というのもXD-HYBRIDは、走りの面でもカーブでの初期応答性がちょっとばかり鈍いのだ。キャラクターとしてCX-80はプレミアム路線を狙っており、乗り心地をよくするためにもバンプ側の減衰力を抑えたいのは分かるが、切り始めの反応が鈍い分だけ狙いと操舵量がずれてくる。ハンドルを早めに大きく切り込まねばならなくなるし、場合によってはブレーキで、フロント荷重を与える必要が出てくる。
ブレーキのタッチはCX-60からずいぶんよくなったが、一般的にはバイト感(=効き具合)もまだ少し足りない。決してスポーティにしてくれと言うのではない。せっかくフロントサスにダブルウィッシュボーンを搭載する高性能SUVなのだから、クルマ全体のリニアリティをもう少し上げてほしい。
厳しいことを言ったが、それは「XDーHYBRID」が、本当に惜しい出来映えからだ。初めてのFR(ベースの)プラットフォームを手がけたことを考えれば熟成が期待できるし、マツダならそれをやってくれるはずだ。
続いて市街地と高速道路でPHEV Premium Sportsを試す
しかし復路で試乗した「PHEV Premium Sports」は、ちょっとばかり早急な改善が必要だと筆者は感じた。
パワーユニットは、非常にできがよい。システム最大トルクは500Nmと、数字だけを見ればディーゼルターボに見劣りするが、ストロングハイブリッドならではのトルク&レスポンスが、2240kgの車体を実にスムーズに走らせる。
スポーツモードを選べばモーターは一段とレスポンシヴになり、その初速に直列4気筒2.5リッターエンジンの爽快な吹け上がりがリンクしていく。直列6気筒3.3リッターディーゼルエンジンより個性は薄いが、その加速力に見劣りはない。
では何の改善が必要かと言えば、それはやっぱり乗り心地だった。
サスペンションがソフトなのはよいのだが、ダンパーがその動きを抑えきれていない。街中だと車重で抑えが効いているから、ストロングハイブリッドの静粛性と合わせてかなりプレミアムな乗り心地が得られる。
問題は速度域が上がる高速巡航時で、路面のうねりに対して上下動が船のように大きくなってしまう。今度は車重が災いして、この動きが弱まりながらもなかなか収束しない。
ユーザーのために正直に言うが、普通に走らせているだけなのに、筆者は運転していて酔ってしまった。2列目のスタッフも同様だ。このラージプラットフォーム車は基本的に同じ動きをするが、CX-80のPHEVが、一番顕著だ。
その原因を、たとえば車体剛性やリアサス剛性が足りないなどと、分かった風に結論付けることはしない。ともかく路面からの入力はバネ下で解決して、フラットな姿勢を保つべきだ。ボディを上下に動かして衝撃をいなすべきではないと思う。
かなり辛口な評価となってしまったことには、自分でもかなり驚いている。ラージプラットフォームは個人的にも購入検討に挙げていたから、少なからずショックだ。
ただ乗り心地は個人の感想とも言えるから、CX-80を購入検討している人はぜひディーラーでその乗り味を確認してほしい。筆者の評価が気にならなければ、CX-80は買うべき1台だ。