試乗記

304PSの心臓部を持つレクサス「LBX MORIZO RR」を公道試乗

ウェット路面も多くあったが、304PSの心臓部を持つレクサス「LBX MORIZO RR」を公道試乗

レクサス「LBX MORIZO RR」を公道で試乗

 LBX MORIZO RRは、シンプルにまとめるとレクサスのコンパクトSUV「LBX」にGRヤリスのプラットフォームとパワートレーンを与えられたスポーツカーになる。なぜSUVにGRヤリスを組み合わせたのか。限りなく競技志向のGRに対して実用性の高いSUVに本格的なスポーツカープラットフォームを組みあわせれば、日常からサーキットまでクルマの楽しみ方が広がる。前例がないので作るのにちょっと躊躇しそうだが、何よりもモリゾウさんの強い意向でLBX MORIZO RRが誕生した。

 爽快な走りにこだわったMORIZO RRはハイパワーエンジンの搭載に伴い、ボディのスポット溶接打点を標準ボディの約4000点に加えて469点を増し打ちし、構造用接着剤の長さも12.8m伸ばして振動を下げるとともに剛性を上げている。

試乗は富士スピードウェイホテルをベースに実施

 プラットフォームはGRヤリスと同じだが、LBXでは大きくなったボディに対してのマッチングを行なっている。ドライバーの操舵に一体感を持たせるためにボディ剛性は徹底的に追求された。さらに高いグリップ力を誇るコンチネンタル スポーツコンタクト7は235/45 R19という大径サイズ。それによる操舵遅れを解消するためにフロントロアアームに樹脂を焼き付けることで振動吸収とレスポンス向上を図り、レクサスらしい滑らかさと静粛性、そしてスポーツカーとしての操舵剛性を両立させている。

 このほかにもアンダーボディにブレス追加、ハンドリングに大きな影響を及ぼすリアまわりは重点的に剛性アップが行なわれ、パフォーマンスダンパーも組み込まれた。とにかくコダワリのボディ作りだ。

 マスタードライバーであるモリゾウさんの思いも受けて車両開発に貢献したのは佐々木雅弘選手。彼の豊富なノウハウもMORIZO RRに活かされている。

 公道での試乗は、6速MTと8速Direct Shift-8ATのワインディングロードや自動車専用道路など。それに富士スピードウェイのショートサーキットで、新たにサービスが開始されるサーキットモードを試す機会も設けられた。

 最初に6速MTに試乗する。精悍になったボディにワクワクして乗り込むと、早速ドライビングポジションが低くなっているメリットを感じた。LBXでは少し高めだったのが、セダンのようなドラポジだ。これに合わせてアルミペダルも踏みやすいように角度調整されている。ヒップポイントを10mm下げたというが結構大きい違いだ。

大径タイヤが目を引くLBX MORIZO RRのプロポーション
本格的なスポーツカーの心臓部を持つSUVになる

 少し重めのクラッチを踏んでガシリと丈夫そうなMTを操作する。シフトレバーは少し長いがなかなかよいシフトフィールだ。

 すでに名機とよばれる直列3気筒 1,6リッターターボのG16E-GTSは、224kW(304PS)/400Nmの出力だが、GRヤリスのような少しこもるような独特の音とは違い、室内はレクサスらしく静かなものだった。

 あの強烈なパワーユニットが回っているとは思えない。1440kgのボディに対して低速トルクは十分で市街地を高いギヤで走っても余裕があり、MTのズボラ運転を許容してくれるのだ。

MTモデルのインテリア。レクサスらしい落ち着いた高級感を持つ
シンプルながら握りやすいMTシフトレバー
SUVのため、同じ心臓部のGRヤリスより格段に優れた後席
ホールド性のよい前席と、運転席側だけパワーシートがおごられ着座位置が10mm低くなっている

 急勾配の山道に入る。乗降性のよいスポーツシートは身体をホールドして視線がぶれない。SUVはスポーツカーに変身する。タイトなコーナーが連続すると3速では本来のパワーバンドから外れて少し苦しそうだ。しかし大型ターボのブーストが上がってくると尻を叩かれたように吹っ飛んでいく。本領発揮だ。

 コンパクトなボディは山道でも取りまわしがよく乗りやすくて手の内に入る。エンジンは回転が上がるほどに力強さが増し、タコメーターも右側に行きたがる。やはりこのエンジンは面白い。

 ハンドリングは応答性がシャープでスイと向きを変えるのが特徴だ。標準のLBXも素直で機敏だが、MORIZO RRでは段違いに速い。佐々木さんとともに足まわりを仕上げた小林さんは、ISの絶妙なハンドリングを磨き上げた人だ。その小林さんが言っていた視線の方向にクルマが自然と向く、という表現がよく分かる。場面によってはもう少し緩くてもよいのではと感じるのはこちらが自然と肩に力が入っているせいかもしれない。ハンドル応答時の姿勢に躊躇がないのは好ましい。

 面白いのは前後駆動力配分を50:50に固定するスイッチがあり、その場合は振動収束が変わることだ。基本は70:30でフロントを引っ張り、状況に応じ駆動力配分を変えるが、路面アンジュレーションによっては収束が変化する。運転次第ではこのモードを使うとスッキリと収束する。

 いずれにしても乗りやすい方を選択できるのは贅沢だ。ただ50:50を選択するとウェットのタイトなヘアピンで後ろから押され気味になる。それでもライントレース性が大きく乱れないのは感心した。シャシーがタイヤを履きこなしている。

 乗り心地は標準車よりも硬い。相対的にリアが硬めに感じ、荒れた路面では突き上げもあるが想定内だろう。ソフトな乗り心地よりも節度あるスポーツSUVらしいハンドリングを採っている。その代わり上下収束は速く凹凸路面でもグンと収まる。それに大きなシートはショックをうまく遮断している感じだ。

 ロードノイズも小さく、常識的なゴー音はあるものの際立った音は入ってこない。僅かに自動車専用道で風切り音が時折入る程度でレクサスらしい静粛性だ。

 直進性は高く、ハンドルに軽く手を添えている程度でリラックスして走り、全車速ACCもレーンキープも含めてドライバーの疲労軽減に役立っている。

 次いで話題のDirecr Shift 8ATに乗る。MTより30kgほど重くなるが多段化したギヤレシオはエンジンを適正なトルクバンドに乗せることができ、回転がドロップしてしまうことがない。必要ならパドルシフトを使えば減速時の荷重変化で姿勢を作るのも容易だ。

ATモデルのインテリア。ステアリング部にはシフトパドルを備える
シンプルなATモデルのセレクトレバー。Mモードもあり、シフトパドルで変速する

 エンジンレスポンスはシャープで、特に中回転以上のパンチ力は爆発的。2ペダルのDirecr Shift 8ATとの相性はよく、運転に集中できるのが大きなメリットで、Dレンジで連続的にシフトしていく様はドライバーはまるで傍観者のように爽快な気持ちにさせてくれる。

 LBXの性格を考えるとこの選択はなかなか賢い。日常での使い勝手に支障をきたさず、サーキットでは積極的にスポーツ走行を満喫できるなんてまさにMORIZO RRの真骨頂だ。

スマートフォンと連動して機能アップするサーキットモード

 ATではショートサーキットで面白い経験をした。冒頭にも記したサーキットモードだ。これはGPSによる位置判定により登録されているサーキットならスピードリミッターの上限速度の引き上げ、アンチラグ制御、シフトタイミングインジケータなどが加わり、スポーツ走行で実用的で楽しめるアイテムだ。

 予め自分のスマホに専用アプリをダウンロードし、そこからサーキットであることを認識できればサーキットモードを使うことができる。

 最も効果的なのはアンチラグ制御で、回転落ちの仕切り値を4段階で選択できる。一番強いモードではコーナーでいったん回転が落ちる場面でも実際にはタービン回転を維持しているので再加速でのタイムラグが低減される。

 確かにアンチラグを使うと再加速でのタイムは縮む。ただしエンジン回転の落ちも小さくなるので、コーナーの中でアクセルコントロールによる姿勢変化をさせたい時にはマイナスになることもある。

 試しにアンチラグを一番弱い状態に変更するとある程度の姿勢コントロールができ、なおかつ最強ではないが鋭いエンジンレスポンスも得られる。コースや好みに応じていろいろな変化を試せるのだ。

 アンチラグは左足ブレーキと組み合わせるとさらにタイム短縮できそうだ。サーキットで探求することがまた増えた。

 サーキットモードではタコメーターが横バーグラフに変わりシフトタイミングインジケーターを使うことができる。リミッターにあたる前の回転数を設定することで棒グラフの色が変わり視覚的にシフトタイミングを教えてくれる便利装置で、自分に合った警告回転数を設定できる。

 さらにエンジンの水温を促進するためにクーリングファンの出力を最大にして、熱害からエンジンを守る機能もある。

 サーキットモードはMTにもATにも用意されており、年内にサービスを開始する予定となっている。

 コンパクトSUVでスポーツカー、今までなかったカテゴリーでその走りは本格的。運転が好き、クルマが好き、いかにもモリゾウさんらしい発想のLBX MORIZO RRだった。

日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員/2020-2021年日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。