試乗記

レクサスの新型「LBX MORIZO RR」、8速AT&6速MT仕様でサーキットを攻める

新型「LBX MORIZO RR」に初試乗

ベースモデルとは明らかに違うボリューム感あふれる仕上がり

 コンパクトサイズながらも妥協なき作り込みを行ない、カジュアルなラグジュアリーカーを提案してきたレクサス「LBX」に、「MORIZO RR」なるモデルが登場した。モリゾウこと豊田章男氏のような本物のクルマ好きが納得できるものをと開発が行なわれたというそれは、乱暴に言ってしまえば中身を「GRヤリス」としたことが本当のところだ。言葉にしてしまえば簡単に終わってしまうが、実はその開発の道のりは険しく、実のところはGRヤリスとかなり異なっている。まずは1つひとつ整理してその変貌ぶりを見ていこう。

 エクステリアはベースモデルとは明らかに違うボリューム感あふれる仕上がりだ。フェンダーまわりは膨らみ、全幅は15mm拡大となる1840mmとしている。そこに収まるタイヤサイズはなんと235/45R19。インセット35mmのホイールを装着する。ちなみにGRヤリスは全幅1805mmでタイヤサイズは225/40R18、インセットは45mm。これだけ見ても「MORIZO RR」がワイドで大きなタイヤを外側に出して履いているのが理解できるだろう。対して全高は-15mmとなる1535mm。だからこそドッシリとした安定感が感じられるのだ。このプロポーションを実現するために、ジオメトリーも変更。アップライトも違いキャスターを寝かせてホイールベースを20mmも延長している。これならタイヤを切ってもホイールハウスにタイヤが当たることはない。

今回試乗したのは7月18日に注文受付を開始した新型「LBX MORIZO RR」。価格は8速ATおよび6速MTともに650万円。ボディサイズは4190×1840×1535mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2580mm
新型LBX MORZO RRでは高い空力・冷却性能を実現するため、専用フロントバンパー・グリルを採用するとともに、19インチ鍛造ホイール(タイヤはコンチネンタル「SportContact 7」でサイズは235/45R19)、専用レッドキャリパー、ボディ同色の拡幅されたカラードアーチモール、カラードロッカーモールにより、トレッドアウトされたタイヤの張り出しと重心の低さを強調。また、リアまわりでは専用リアバンパーやデュアル化した大口径マフラーバッフルを採用する
2024年1月発表の「GRヤリス」向けに開発され、高トルク、高出力に進化した直列3気筒1.6リッターターボ「G16E-GTS」型エンジンを搭載。アルミダイカスト製シリンダブロック(浅底水ジャケット、細径ヘッドボルト)、高強度アルミ製シリンダヘッド、中空組立カムシャフトを採用し、特に運動部品であるピストンやクランクシャフトの徹底的な軽量化を行なった。さらに大型ターボ採用によるレスポンスの低下を防ぐため、ボールベアリングターボとアブレーダブルシール構造を採用。最高出力は224kW(304PS)/6500rpm、最大トルクは400Nm(40.8kgfm)/3250-4600rpmを発生し、0-100km/h加速は5.2秒とした
インテリアでは身体をしっかりサポートする専用フロントシートを採用。ステアリングにはディンブル本革を採用し、スポーツ走行における安心感のある握り心地を実現したという
こちらはMT仕様。MTモデルは手のひらのフィット感と高い質感にこだわり、シフト操作時の良好なフィーリングを追求。またアクセル、ブレーキ、クラッチの各ペダルにはスポーティなアルミパッドを採用し、ブレーキ・クラッチペダル踏面の形状や角度を徹底的に追及したという
MTモデルではトラクションコントロール、iMTのON/OFFボタンに加え、AWDのモードセレクトボタンも用意される
AT仕様のシフトまわり。シフトレバーでMポジションを選択後、パドルシフトスイッチの操作によりギヤ段の選択が可能なマニュアルモードを設定。エンジン最高回転数まで使い切ることを可能とするギヤ段ホールド制御のほか、クラッチ圧の油圧制御システムとパワートレーンマネジメントシステムを統合的に制御することで素早い変速を実現する高応答アップシフト制御・ブリッピングダウンシフト制御を採用する
試乗会場にはLBX MORIZO RRのチーフエンジニアを務める遠藤邦彦氏(左)とともに、開発担当ドライバーを担ったレーシングドライバー佐々木雅弘選手(右)も駆けつけた

 こうしたさまざまな仕様変更をした結果、キングピン軸よりもかなり外側にタイヤの回転軸がいることになる。タイヤを上から見たとすると極端な話、タイヤを切ればGRヤリスに対して前後に弧を描くように動くことになり、グリップが立ち上がるまでにラグが出る。その対策として誕生したのが特許取得済みのREDS(Response-Enhanching Damping Structure)というフロントのロアアームだ。熱硬化性樹脂をアームの隙間に流し込み焼き付けを行なうことで、操舵初期応答を改善しているという。

サスペンションは、フロントにHEVモデルで新開発した軽量高剛性なストラット式を採用しつつ、いかなる速度域・走行場面でも曲がる操舵と質感のさらなる向上のため、ロアアームへ熱硬化樹脂を塗布し焼き付けることによる、世界初のレスポンス向上減衰構造「REDS(Response-Enhancing Damping Structure)」を新開発した

「MORIZO RR」はクルマとの対話を楽しみやすいスイートスポットの広いセッティング

こちらはLBX MORIZO RR“Bespoke Build”(8速ATおよび6速MTともに720万円)。表皮色、シートベルト、ステッチの色替え、配色構成のバリエーション拡大などBespoke Build専用アイテムを含めた豊富なバリエーションを用意。キャリパーでは専用色のイエローも選択可能

 そんな「MORIZO RR」の主役となるであろうDirect Shift 8ATからまずは走らせてみる。進化型GRヤリスから投入されたこの2ペダルは、キャラクターを考えればこちらのほうがマッチするのかもしれない。ゆっくりと走り出せば、静粛性豊かになめらかに駆け抜けていく。乗り心地もGRヤリスほど硬質ではなく、引き締められてはいるがフラット感は高く懐は深い。車重もGRヤリスより200kg以上も重たくなっていることもあって、乗り味がゆったりとしており上質感もそこで生み出せているように感じる。

 けれどもスポーツ性は失われていない。ステアリングの切りはじめから素直な応答を見せ、パキパキじゃなく程よいキビキビさを展開していく。操作に対するリニアさも十分だ。これならハードに攻め立てても問題はなさそうだ。試乗当日はヘビーウエットということもあり、はじめはやや躊躇したが、VSCを完全にカットして本気で走り込んでみる。

 するとまず驚いたのはサウンドの演出が豹変したことだった。かなりの音量が車室内を包み込んでいる。これはのちに知ったのだが、たとえヘルメットを装着したとしても音が感じられるようにと、音量が最大にされていたのだ。設定次第で変化させられることにひと安心だが、最初からこの音を聞いたらかなり驚くだろう。それほどにインパクトは凄まじいものがある。

 スピーカーから聞かされることになるこの擬似音は、かなり作り込まれた感覚があり、バブリングをしているかのようなサウンドも与えられるところがおもしろい。アクセルの開け方や閉じ方に応じて変化するなど芸が細かいことも見どころだ。また、排気音は排気音らしくリアから聞かせるなど、リアハッチゲートに備わるスピーカーをフルに生かしていることもなかなか。これまでの擬似音とはひと味違う世界がそこにある。

LBX MORIZO RRでは車両の走行状態に応じた走行サウンドをオーディオスピーカーから鳴動することが可能な「アクティブサウンドコントロール」機能を搭載。AT車では「ノーマル」「スポーツ」「VSC・OFF/EXPERT」、MT車では「ノーマル」「VSC・OFF/EXPERT」が走行モードとして用意され、モードによって異なるスポーツサウンドが楽しめる。さらにプレミアムサウンドシステムと“マークレビンソン”プレミアムサラウンドサウンドシステムでもその音色は異なるという
モードによるサウンドの違いについて

 動力性能自体は重さもあってGRヤリスほどではないと感じるが、操る楽しみはこちらのほうが上かもしれない。速さやタイムを追求するのではなく、「MORIZO RR」はクルマとの対話を楽しみやすいスイートスポットの広いセッティングに感じる。ややピッチ方向の動きが大きく、ドリフトに持ち込むにはアクセルやブレーキの入れ方を考えなければならないが、振りまわす楽しみは十分。その気になればフルカウンターでコーナーに飛び込める安心感がある。

 すべり出しも穏やかで扱いやすい印象があった。欲を言えばフロントの伸び側の減衰力がもう少し引き締められていたらとも思うが、街乗りにおける乗り心地を考えると、この辺りがちょうどいいサジ加減なのかもしれない。将来的にはやはり可変ダンパーがほしくなるが、それは贅沢すぎるだろうか? けれども、4WDのトルク配分を50:50に固定するモードもあり、それを利用すればどんな状況でもリニアに動かせるからおもしろい。

レクサス初となるマニュアルトランスミッション、そして手引きサイドブレーキ

 そんなクルマとの対話をより濃くしてくれるのがレクサス初となるマニュアルトランスミッションの存在だ。まさかの3ペダルの存在をこの時代にレクサスが残すとは嬉しい悲鳴である。こちらのほうが軽いせいか、ノーズのキビキビとした応答性は一枚上手。さらに振りまわす楽しみが宿っていることは間違いない。

 さらに興味深いのはサイドブレーキを引いた時に警告音が鳴ることなく、リアタイヤをロックさせられることだった。GRヤリス同様、クラッチを踏まなくてもサイドブレーキが使える仕様だから、これはありがたい。サイドブレーキを引くたびにポーンと警告音がなるだけで、ドライバーとしては興醒めなのだから……。

MT車のサイドブレーキはGRヤリスからレバーブラケット形状を変更し、レバー比を大きくすることで必要な操作力を軽減したという

 このように隅々まで磨き抜かれていた「MORIZO RR」には、やはりクルマ好きの心を十分に揺さぶってくれる仕上がりがあった。いかにもスポーツなクルマには乗りたくないけれど、たまの休みにはサーキットで思いっきり楽しみたい。または、奥さまをうまく説得して普段は足車として与えつつ、休日は旦那がサーキットで使うマシンとして役立つ、なんていう使い方もよいかもしれない。さりげなく上質に、そして街乗りからサーキットまでオールマイティに使えるマルチな才能には、ただただ感心するばかりだった。

橋本洋平

学生時代は機械工学を専攻する一方、サーキットにおいてフォーミュラカーでドライビングテクニックの修業に励む。その後は自動車雑誌の編集部に就職し、2003年にフリーランスとして独立。2019年に「86/BRZ Race クラブマンEX」でシリーズチャンピオンを獲得するなどドライビング特化型なため、走りの評価はとにかく細かい。最近は先進運転支援システムの仕上がりにも興味を持っている。また、クルマ単体だけでなくタイヤにもうるさい一面を持ち、夏タイヤだけでなく、冬タイヤの乗り比べ経験も豊富。現在の愛車はユーノスロードスター(NA)、ジムニー(JB64W)、MINIクロスオーバー、フェアレディZ(RZ34・納車待ち)。AJAJ・日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:安田 剛